35 リルムの闇
しゅうぅううううう
『着陸完了』
シロナが空軍機を崖の下に着陸させた。
モニターで損傷がないことを確認している。
「すごい・・・・」
賢者たちが驚くのも当然だ。
七陣魔導団ゲヘナの空軍機は約250人がゆったりと生活できるほどの大きさだった。
現実世界を見ても、こんなに巨大な機体が飛んでいるのを見たことがない。
その分、乗組員の魔力の消耗も激しいけどな。
『魔力を省エネモードにします。窓はオープンにし、日の光を入れます。気温調節が必要でしたら声をかけてください』
「あ・・・あぁ、うん」
いきなり声をかけたシロナに、賢者たちがびくっとしていた。
シロナには、事前に空軍機の動作資料を学習させてある。
電子世界にいる限り、シロナは強い。
魔法少女が持つ、バトルフィールド展開の鍵は持っていないが・・・な。
如月タツキが連れていた魔法少女のアンドロイドは、他の魔法少女たちと同様に、神々と契約していたのだろうか。
「はぁ・・・・」
「ハルカ、大丈夫? これ、飲んで」
「ありがとう・・・・」
「ううん。何もできなくて込めんね」
魔法少女たちに、アーチャーの女性がハーブティーを配っていた。
「ケガ人がいれば手当てを・・・あとはなるべく休息を取ってくれ」
「かしこまりました」
戦士たちは比較的動けたが、賢者や魔導士、魔法少女の魔力が底をついていた。
機体には十分な食料も水もあるから、しばらくここで休ませるか。
「援軍呼ぶ?」
「そうだな。ティナに陸軍の第1部隊を転移させるように繋いでくれ」
「うん。無事に着陸できたことも伝えなきゃ。心配してるから」
「あぁ」
アクアがモニターを出して、セレーヌ城への接続画面を出していた。
「ん? リルムはどこだ?」
「あれ? さっきまでそこに居たと思うんだけど」
「ついさっき、外に出ていくところを見ました」
リルムのいた場所の窓が開いていた。
魔法少女の一人が外を指す。
「さんきゅ。アクア、俺、ちょっと外に行ってくるから」
「え? カイト? あ、ティナ・・・えっと、カイトは・・・」
戸惑うアクアを置いて、窓から外に飛び出た。
「リルム!!」
「・・・・・・・」
リルムが巨大な木の陰に座って、足を伸ばしていた。
空軍機を眺めながらぼうっとしている。
「何やってるんだよ。こんなところで」
「また死ねなかった・・・」
「またって・・・・・・」
「あたし、死ぬ場所探してるんだ。魔法少女戦争なんかどうでもいい。早く死にたくて仕方がない」
膝を立ててうずくまる。
「・・・双子の姉か?」
「!?」
リルムの表情がこわばる。
「どうしてそれを・・・・?」
「ラインハルトから聞いたんだよ。七陣魔導団ゲヘナの王として、魔法少女の様子はある程度把握しておかなきゃな」
「ラインハルト・・・よくも・・・」
「いや、俺が半ば強引に聞き出したんだ。ラインハルトは悪くない。他の魔法少女も隠そうとしていたからな」
リルムは七陣魔導団ゲヘナに入ったとき、双子の姉、ミルムと一緒だったのだという。
2人は故郷を離れて魔法少女になった。
いつも2人で行動して、七陣魔導団ゲヘナに入ったときはミルムが7人魔法少女の一人に選ばれていたらしい。
ほんの1週間だったが、ずっと笑い声が絶えなかったと話していた。
「姉は・・・ミルムは・・・・友達だった魔法少女に殺されたんだ。普通に戦えばミルムのほうが圧倒的に強かったのに!」
「・・・・・・」
「攻撃を仕掛けてくるなんて思ってなかった。小学校のときの友達だったから」
リルムが悲痛な声を上げる。
ミルムの最期はあっけなかったという。
不意を突かれて、リルムの目の前で後ろから刺された。
最期の言葉も残せず、消えていったらしい。
一緒にいた魔法少女は3人、全員リルムとミルムと面識があった。
リルムも殺されそうになっていたところを、ティナたちが引っ張って逃げたのだという。
3人の魔法少女の消息は掴めていない。
後から、ティナに聞いた話だ。
リルムはミルムを失ったときから、ほとんど誰とも会話していない。
七陣魔導団ゲヘナの5人の魔法少女でさえ、まともに話せないらしい。
「さっきので死ねると思ったのに・・・」
「ちょっといい?」
ファナが軽く飛んでリルムに近づいてきた。
ザッ
「って、おい!」
「!!」
ファナが杖を出して、先をリルムに向ける。
魔力を渦のように溜めていた。
「何、甘いこと言ってるの?」
「・・・ファナにはわからないでしょ。元々強いんだから・・・」
「もちろん、わからない。わかりたくもないわ。貴女みたいな半端な魔法少女のことなんか」
パァンッ
ファナが光線を放つと、リルムが杖で攻撃を避けた。
2人が睨み合う。
「半端?」
「だって、魔法少女になったときから、死と隣り合わせになる。わかりきったことじゃない。それとも、ただ単純に魔法が使えるようになりたくて、魔法少女になったの?」
ファナが鼻で笑う。
「今、魔法少女は世界を救うヒロインみたいにアニメや漫画、小説でも描かれちゃってるもんね。勘違いしちゃった?」
「そうじゃない!」
リルムを構える。
「そんなに死にたいなら、私が殺してあげるよ」
「ありがとう。じゃあ、せっかくだし最期に思いっきり戦って死のうかな」
詠唱しようとした瞬間・・・。
― ルピス ―
バチバチバチバチ・・・
剣に電流を走らせて、二人の間に入った。
「お前ら、いい加減にしろよ。まとめて殺すぞ」
「・・・!!」
ファナとリルムがぴたりと動きを止めた。
木々が大きく揺れて、葉がさらさらと落ちてきていた。
「リルム、軽率な行動はとるな。お前がいなくなると、ティナたちに怒られる。リルムは何考えてるんだか知らないけど、あいつらにとって、リルムは大切な仲間なんだ」
「そんな・・・綺麗ごとでもよく言えるよ・・・だって、あたし7人の魔法少女のひとりなのに、戦闘をずっと避けてきて・・・みんな、ほとんど知り合ったばかりなのに・・・」
「想いに時間は関係ないんだろ」
リルムがはっとした表情を浮かべて、俯いた。
「あはは・・・みんないい人過ぎる。あたしがいつも死にたいって本当はわかってるのに。ミルムの代わりに私が死ねばよかった。ミルムだったらうまくやれたよ」
崩れるようにその場に座り込んで、杖を置いた。
「ミルムは底なしに明るいから、ミルムがいれば魔法少女たちも明るくなる」
「・・・・・」
「あたし・・・・本当に、本当に死にたいの。目を瞑るとあの時の光景を思い出してしまう。友達だったんだよ? 小さい頃、一緒に公園で遊んだりしていた普通の友達だったのに、いきなり裏切るなんて」
「魔法少女戦争ってそうゆうものなんだよ」
ファナが冷たく言う。
「死ぬなら、死ねばいい。死ねるなら、ね」
「ファナは神様っていると思う?」
「・・・・・・」
リルムから戦意が無くなったのを見て、剣を消して息をつく。
「いるわ。リルムだって、魔神と契約したんでしょ?」
「・・・そう、魔法少女は神様と契約して魔法少女になる。じゃあ、魔法少女戦争は、神様の代理戦争じゃないの?」
リルムが両手を握り締める。
「この戦いは神々が望んでるの?」
「・・・そう考える魔法少女がいることも確かよ」
ファナが杖を消して、鍵を握り締めた。
「でも、私はそう思わない。少なくとも、前回の魔法少女戦争の勝者として・・・いろんな魔法少女の最期を見てきた自分としてはね」
「じゃあ、何のために・・・・」
ファナと一瞬目が合った。
「魔法少女は、神に選ばれてなるものよ。自分で見つけなさい。主と一緒に」
「そういや、ファナの主って誰なんだ?」
「カイト」
「マジで?」
「マジマジ。神との契約のときに、主との契約もしてるの。このまま知らないのもアリかなって思ったんだけど、主に嘘は付けないから」
鍵を見せながら、ほほ笑む。
主が気づかない状態での契約なんてありえるのかよ。
「カイトー!! ティナが怒ってる! 早く!」
アクアがこっちを見て叫んでいた。
「なんでいちいち怒ってるんだ?」
「やきもちじゃない? ちゃんと、主は魔法少女を大事にしなきゃ」
「冷やかすなって。これでも大事にしてるつもりなんだけどな」
頭を搔く。
「ふうん・・・・」
ファナがこちらを見上げて、にやっとした。
「リルム、戻るぞ。戻らないなら、他の戦士にお前を見張らせる。勝手に死なれたら困るからな」
「・・・いいよ。自分でいく」
リルムがぼうっとしながら立ち上がって、砂を払っていた。




