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魔法少女戦争 ~ロストグリモワールを俺は知っている~  作者: ゆき
第二章 電子世界

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35 リルムの闇

 しゅうぅううううう


『着陸完了』

 シロナが空軍機を崖の下に着陸させた。

 モニターで損傷がないことを確認している。


「すごい・・・・」

 賢者たちが驚くのも当然だ。

 七陣魔導団ゲヘナの空軍機は約250人がゆったりと生活できるほどの大きさだった。

 現実世界を見ても、こんなに巨大な機体が飛んでいるのを見たことがない。

 

 その分、乗組員の魔力の消耗も激しいけどな。


『魔力を省エネモードにします。窓はオープンにし、日の光を入れます。気温調節が必要でしたら声をかけてください』

「あ・・・あぁ、うん」

 いきなり声をかけたシロナに、賢者たちがびくっとしていた。

 

 シロナには、事前に空軍機の動作資料を学習させてある。

 電子世界にいる限り、シロナは強い。

 魔法少女が持つ、バトルフィールド展開の鍵は持っていないが・・・な。


 如月タツキが連れていた魔法少女のアンドロイドは、他の魔法少女たちと同様に、神々と契約していたのだろうか。


「はぁ・・・・」

「ハルカ、大丈夫? これ、飲んで」

「ありがとう・・・・」

「ううん。何もできなくて込めんね」

 魔法少女たちに、アーチャーの女性がハーブティーを配っていた。 


「ケガ人がいれば手当てを・・・あとはなるべく休息を取ってくれ」

「かしこまりました」

 戦士たちは比較的動けたが、賢者や魔導士、魔法少女の魔力が底をついていた。

 機体には十分な食料も水もあるから、しばらくここで休ませるか。


「援軍呼ぶ?」

「そうだな。ティナに陸軍の第1部隊を転移させるように繋いでくれ」

「うん。無事に着陸できたことも伝えなきゃ。心配してるから」

「あぁ」

 アクアがモニターを出して、セレーヌ城への接続画面を出していた。


「ん? リルムはどこだ?」

「あれ? さっきまでそこに居たと思うんだけど」

「ついさっき、外に出ていくところを見ました」

 リルムのいた場所の窓が開いていた。

 魔法少女の一人が外を指す。


「さんきゅ。アクア、俺、ちょっと外に行ってくるから」

「え? カイト? あ、ティナ・・・えっと、カイトは・・・」

 戸惑うアクアを置いて、窓から外に飛び出た。




「リルム!!」

「・・・・・・・」

 リルムが巨大な木の陰に座って、足を伸ばしていた。

 空軍機を眺めながらぼうっとしている。


「何やってるんだよ。こんなところで」

「また死ねなかった・・・」


「またって・・・・・・」


「あたし、死ぬ場所探してるんだ。魔法少女戦争なんかどうでもいい。早く死にたくて仕方がない」

 膝を立ててうずくまる。


「・・・双子の姉か?」

「!?」

 リルムの表情がこわばる。


「どうしてそれを・・・・?」

「ラインハルトから聞いたんだよ。七陣魔導団ゲヘナの王として、魔法少女の様子はある程度把握しておかなきゃな」

「ラインハルト・・・よくも・・・」

「いや、俺が半ば強引に聞き出したんだ。ラインハルトは悪くない。他の魔法少女も隠そうとしていたからな」


 リルムは七陣魔導団ゲヘナに入ったとき、双子の姉、ミルムと一緒だったのだという。

 2人は故郷を離れて魔法少女になった。

 いつも2人で行動して、七陣魔導団ゲヘナに入ったときはミルムが7人魔法少女の一人に選ばれていたらしい。


 ほんの1週間だったが、ずっと笑い声が絶えなかったと話していた。


「姉は・・・ミルムは・・・・友達だった魔法少女に殺されたんだ。普通に戦えばミルムのほうが圧倒的に強かったのに!」

「・・・・・・」

「攻撃を仕掛けてくるなんて思ってなかった。小学校のときの友達だったから」

 リルムが悲痛な声を上げる。


 ミルムの最期はあっけなかったという。

 不意を突かれて、リルムの目の前で後ろから刺された。

 最期の言葉も残せず、消えていったらしい。


 一緒にいた魔法少女は3人、全員リルムとミルムと面識があった。

 リルムも殺されそうになっていたところを、ティナたちが引っ張って逃げたのだという。

 3人の魔法少女の消息は掴めていない。


 後から、ティナに聞いた話だ。


 リルムはミルムを失ったときから、ほとんど誰とも会話していない。

 七陣魔導団ゲヘナの5人の魔法少女でさえ、まともに話せないらしい。


「さっきので死ねると思ったのに・・・」


「ちょっといい?」

 ファナが軽く飛んでリルムに近づいてきた。


 ザッ


「って、おい!」

「!!」

 ファナが杖を出して、先をリルムに向ける。

 魔力を渦のように溜めていた。


「何、甘いこと言ってるの?」

「・・・ファナにはわからないでしょ。元々強いんだから・・・」

「もちろん、わからない。わかりたくもないわ。貴女みたいな半端な魔法少女のことなんか」


 パァンッ


 ファナが光線を放つと、リルムが杖で攻撃を避けた。

 2人が睨み合う。


「半端?」

「だって、魔法少女になったときから、死と隣り合わせになる。わかりきったことじゃない。それとも、ただ単純に魔法が使えるようになりたくて、魔法少女になったの?」

 ファナが鼻で笑う。 


「今、魔法少女は世界を救うヒロインみたいにアニメや漫画、小説でも描かれちゃってるもんね。勘違いしちゃった?」

「そうじゃない!」

 リルムを構える。


「そんなに死にたいなら、私が殺してあげるよ」

「ありがとう。じゃあ、せっかくだし最期に思いっきり戦って死のうかな」

 詠唱しようとした瞬間・・・。


 ― ルピス ―


 バチバチバチバチ・・・


 剣に電流を走らせて、二人の間に入った。


「お前ら、いい加減にしろよ。まとめて殺すぞ」


「・・・!!」

 ファナとリルムがぴたりと動きを止めた。

 木々が大きく揺れて、葉がさらさらと落ちてきていた。


「リルム、軽率な行動はとるな。お前がいなくなると、ティナたちに怒られる。リルムは何考えてるんだか知らないけど、あいつらにとって、リルムは大切な仲間なんだ」


「そんな・・・綺麗ごとでもよく言えるよ・・・だって、あたし7人の魔法少女のひとりなのに、戦闘をずっと避けてきて・・・みんな、ほとんど知り合ったばかりなのに・・・」


「想いに時間は関係ないんだろ」

 リルムがはっとした表情を浮かべて、俯いた。


「あはは・・・みんないい人過ぎる。あたしがいつも死にたいって本当はわかってるのに。ミルムの代わりに私が死ねばよかった。ミルムだったらうまくやれたよ」

 崩れるようにその場に座り込んで、杖を置いた。


「ミルムは底なしに明るいから、ミルムがいれば魔法少女たちも明るくなる」

「・・・・・」


「あたし・・・・本当に、本当に死にたいの。目を瞑るとあの時の光景を思い出してしまう。友達だったんだよ? 小さい頃、一緒に公園で遊んだりしていた普通の友達だったのに、いきなり裏切るなんて」


「魔法少女戦争ってそうゆうものなんだよ」

 ファナが冷たく言う。


「死ぬなら、死ねばいい。死ねるなら、ね」

「ファナは神様っていると思う?」


「・・・・・・」

 リルムから戦意が無くなったのを見て、剣を消して息をつく。


「いるわ。リルムだって、魔神と契約したんでしょ?」

「・・・そう、魔法少女は神様と契約して魔法少女になる。じゃあ、魔法少女戦争は、神様の代理戦争じゃないの?」

 リルムが両手を握り締める。


「この戦いは神々が望んでるの?」

「・・・そう考える魔法少女がいることも確かよ」

 ファナが杖を消して、鍵を握り締めた。


「でも、私はそう思わない。少なくとも、前回の魔法少女戦争の勝者として・・・いろんな魔法少女の最期を見てきた自分としてはね」

「じゃあ、何のために・・・・」

 ファナと一瞬目が合った。


「魔法少女は、神に選ばれてなるものよ。自分で見つけなさい。主と一緒に」


「そういや、ファナの主って誰なんだ?」

「カイト」


「マジで?」

「マジマジ。神との契約のときに、主との契約もしてるの。このまま知らないのもアリかなって思ったんだけど、主に嘘は付けないから」

 鍵を見せながら、ほほ笑む。


 主が気づかない状態での契約なんてありえるのかよ。

 

「カイトー!! ティナが怒ってる! 早く!」

 アクアがこっちを見て叫んでいた。


「なんでいちいち怒ってるんだ?」

「やきもちじゃない? ちゃんと、主は魔法少女を大事にしなきゃ」

「冷やかすなって。これでも大事にしてるつもりなんだけどな」

 頭を搔く。


「ふうん・・・・」

 ファナがこちらを見上げて、にやっとした。


「リルム、戻るぞ。戻らないなら、他の戦士にお前を見張らせる。勝手に死なれたら困るからな」

「・・・いいよ。自分でいく」

 リルムがぼうっとしながら立ち上がって、砂を払っていた。

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― 新着の感想 ―
ここまで一気読みしてしまいました。 カイトが魔人?!リリスが不老不死??! と驚いていたら、今度はリルムにフォーカスが当たってもう〜っと悶えてしまいました。 無口でカイト側に関わってこなかった彼女にこ…
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