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魔法少女戦争 ~ロストグリモワールを俺は知っている~  作者: ゆき
第二章 電子世界

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33 遠い日の記憶

 5年前のことを、夢で見ていた。


 雪の降りしきる朝だった。

 病室で横になっていた母親が、俺に声をかけてくる。


『カイちゃん・・・来てくれたのね』

『は? その呼び方やめろって』


『ごめんごめん。ちょっと昔を思い出して』

 病室は薬の匂いで息苦しかった。

 差し入れのお菓子は、手つかずのまま棚に置かれていた。


『・・・・・・』

 もう、食事はできなくなっていた。


『小さなとき、薄く降り積もった雪で雪だるま作ったもんね。母さん、楽しかったな。今日、美憂は来てないのね?』

『あぁ、家にいるよ。昨日から風邪で熱出してるんだ。今は大分下がったけど、見舞いは来れない』

『そっか・・・ごほっごほっ・・・・』

 全身で咳をしていた。


『大丈夫か?』

『うん・・ありがとう』

 弱々しい声で言う。

 腕は何本も注射の針を刺した跡が残っていて、痛々しかった。


『・・・カイト、魔術には手を出したら駄目だから。魔術の世界は奥が深くて、使い方を間違えると孤立してしまうのよ』

『別にいい。母さんの病気が治るなら』


『・・・これは治らないの。寿命だから。ごめんね』

 母親が細くなった自分の手を見つめていた。


『・・・・・・』


 なんとなく、今日か明日死ぬのだとわかった。

 母親は長年原因不明の病気を患っていて、医者も成す術がない。


 俺も・・・結局、何もできなかった。


『美憂のこと・・・』

『ん?』


『あの子は特別な力を持ってる。今はまだわからないと思うけど、美憂に何かあったら・・・』

『美憂は俺が絶対に守る。だから心配しないでくれ』


『お兄ちゃん頼もしいね。でも、いつもお兄ちゃんさせてごめんね』


『いいよ。俺は美憂の兄になれてよかった。母さん・・・・ありがとう・・・』

 窓の外を見つめる。

 都会の窓を真っ白に染めていた。


 何も見えなくなるくらいに。


『・・・・あと、ひとつ伝えたかったの。お父さんはね・・・』

『父親のことはいいって』

 父親は母親がこんなに弱っているのに、顔一つ見せにこなかった。

 何をしてるのかも、どこにいるのかも、どんな奴なのかもわからない。


 名前を聞くだけで、頭に血が上りそうになった。


『カイト。落ち着いて、カイト・・・』

『・・・・・』

 母親がこちらを見て、ふっとほほ笑む。


『最期だから伝えておきたいの。お父さんはね・・・・・』





「カイト、カイト」

 ティナの声で目を覚ます。

 研究室で、モニターを見ながら寝てしまったのか。


 頭を押さえる。

 変な夢を見たな。なんで今更あの時のことなんか・・。


「こんなところで寝てたら風邪ひいちゃうよ。はい、これ、ハーブティー」

「あぁ、ありがとう」

 カップを受け取った。

 ティナが隣の椅子に座る。


「空軍第1部隊と第2部隊を休息に充ててる。第3部隊は戦闘回避して、少し離れてから休ませようと思ってる」

「そうだな。基本、空軍には戦わせないつもりだ。何かあったら」

「こっちに連絡するように言ってるから大丈夫」

 ティナの指示は的確で、今のところ空軍は誰も負傷することなくエリアマップを広げていた。


「カイトのほうはどう? モニターが重なってすごいことになってるけど」

「あぁ、いらないのは消すよ」

 指を動かして、表示していた10台のモニターを消した。

 壁際の本棚が見えるようになった。


「魔法少女アンドロイドが完成したんだ」

「え!? もう?」

「そう。見てて」


 ジジ・・・ジジジジ



 ― ルピス ―


「呼んでみるよ」

 剣を出して、コードを刻んだ。

 地面に降ろして、魔法陣を展開した。


 シュンッ


「!!」


『おはようございます。ご主人様』

 蒼い瞳を持ち、黒い服を着たアンドロイドの魔法少女が現れた。

 茶色の長い髪を2つに結んで、耳にはガーネットのピアスをつけていた。


「すごい・・・まさかこんな短期間でできるなんて」

「ヒントは色々あったからな。AIに生成させて、魔力で実体化させた」


『はい。私はコードNO201の魔法少女アンドロイドです』

 深々と頭を下げる。


「しゃべった!」

「当然だ。NO201、その辺のモノに触ってみろ。この世界との接触に問題がないか確認したい。3Dホログラムみたいに透けたら、修正するよ」

『その辺のもの・・・かしこまりました』


「え? え? 何? きゃっ・・・」

『失礼します』

「なななななななな!!!!!」

 NO201がティナに近づいていき、真っ先に両手で胸を揉んでいた。


『ふわふわ、柔らかい・・・大きい』

「止めろって!」

 NO201とティナの間に入って、引き離す。


「モノだよ。モノ!」

『失礼しました。あまりに大きかったもので咄嗟に』

 NO201が無表情のまま両手を動かしていた。


『触覚検査も問題ないかと。対象物に接触し、感覚を与えることに成功しました』

「そうだな」


「うぅっ・・・カイトの変態!」


『いやいや、俺じゃないって』

 ティナが胸を押さえて、顔を真っ赤にしていた。


「今のはカイトの願望が反映されたんでしょ! そうに決まってる!」

「んなわけないだろ。そもそも、俺はお前らにそうゆう感情持たないから安心しろ。おそらく、NO201はネットでの学習してきたことだろうな。常識は徐々にこっちで学んでいってもらうしかない」


『かしこまりました』


「そうゆう感情持たないって・・・余計に失礼よ! もう! 知らないんだから!」

「え・・・?」

 ティナが怒って、勢いよく出て行ってしまった。


 頭を搔く。


「・・・どうしてだと思う?」


『私はまだここへ来たばかりなのでわかりません』

「だよな」 

 魔法少女の考えることはよくわからない。

 時折、地雷を踏んでしまうんだよな。


 いつも通り、明日になったら忘れてるだろうけど。



「あーあ、また何かやらかしたの?」

 ファナがにやにやしながら入ってきた。


「ティナ、耳まで真っ赤になってたけど? まさか、オオカミみたく襲っちゃったり?」

「何もしてないって。どうしてお前らはそう、ぶっ飛んだ方向に持っていこうとするんだよ」


「信用できないなぁ」

『私がもみもみしました。もみもみ』

 NO201が空中で手を動かした。


「あれ? へぇ・・・魔法少女のアンドロイド完成したんだ。こんなに早くできるなんて、さすがだね」


「前の戦闘の記録がかなり役に立ったんだ。AIで生成して、こっちに転移させた。もちろん、コードは組み直してるから、セキュリティ面での心配もいらない。魔法少女戦争の対アンドロイド戦では活躍できるはずだ」


『お任せください。コードNO201です。貴女はファナですね。よろしくお願いします』

 NO201が深々と頭を下げた。 


「コードNO201って名前なの?」

『はい』

「・・・名前つけてあげたら?」


「そうゆうのセンスないらしくてさ・・・色々提案したんだけど・・・」

 ため息交じりに言う。


「例えば?」

「NO201、ゾウとかキリンは? ライオンとか、強い動物だし、神話にも出てくるしかっこいいと思うけど?」


『嫌です。それなら、NO201と呼んでください』


「ほら・・・」

「そりゃ・・・・私がつけるよ。NO201なんてあんまりじゃん。どれどれ?」

 ファナがNO201をまじまじと見つめていた。


「・・・なんか、リリスに似てない?」


「ん? そうか?」

「・・・ま、いいけど」


『?』

 NO201が首を傾げる。


「貴女の名前はシロナ。ケルト神の女神の名前よ」

『シロナ・・・』


「うん! シロナね。NO201はナシ」



 ガタンッ


「カイト、ティナ、空軍第4部隊が敵との戦闘に巻き込まれたの! 至急、指令室に来て!」

「わかった」

 フィオーレがシロナのことも目に入らないくらい慌てていた。

 ファナと顔を合わせて、すぐに指令室に向かう。

読んでくださりありがとうございます。★やブクマで応援いただけると大変うれしいです。

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