32 外の世界の動き
『お、やっと繋がったな。如月。何かあったのか?』
「通信機器が全滅してしまって。納品物は先々週に納めました。メールした通り、しばらくはバイトできないですよ。葛城さん」
背もたれに寄りかかって息をつく。
『わかってるよ。如月がいないとかなりキツいんだけどね』
「高校生の俺にそこまでやらせるのが間違ってるんですよ」
『痛いとこつくなぁ』
モニター越しに会話していた。
『如月みたいに賢い奴ってなかなかいないからね。高校卒業したら、うちに入ってくれない?』
「まだ自分の進路なんて決めていませんって」
『はは、そうだよなー』
葛城さんは30人程の従業員のいるゲーム関連会社の代表だった。
無精ひげを生やし、髪はぼさぼさで煙草をくわえている。
会社は数年前に設立したベンチャー企業だ。
主にテスターと開発を請け負っていて、自社開発のゲームは持っていない。
葛城さんはある程度企業として安定したら、自社のゲーム開発に移行したいと話していた。
『で? 如月が送って来たファイル見てたんだけどさ』
頬杖をついて、煙草を置く。
『『エターナルファイル』ってゲームはリリースされたばかりだ。オンラインゲームで特にVR化されるとは聞いていない』
「そうですか。ちなみに、どうゆうストーリーでしたっけ?」
『覚えてないのか?』
「基本、与えられた項目のテストしかしないんで」
『そりゃそうだよな』
葛城さんがゲームの内容を淡々と読み上げる。
『エターナルファイル』はプレイヤーがあらゆる街に赴き、受けた依頼を仲間とこなしていくアクション系RPGだ。
特に引っ掛かるところはなかった。
「・・・・・ありがとうございます」
『ん? ほしかった回答と違ったのか?』
「まぁ・・・そうですね。あと一つはどうですか?」
『『RAID5』ってゲームの話か? 業界関係者に聞いてみたけど、誰一人知っている者はいなかった。このゲームはそもそも存在しないってのが俺の結論だ。PVもフェイク動画だと思ったけど、もし万が一実際に存在しているなら・・・』
煙草をくわえて一呼吸つく。
『AIが自分で学習し、自動生成したゲームだな』
葛城さんは、そう言い切って、いくつか俺の送った画像と映像からAIが生成する特徴を上げていた。
葛城さんの話には信憑性があった。
素人が作ったような作りだったが、リエルの魔法少女の主たちが『エターナルファイル』のキャラ、ディズを移行できたこととも繋がる。
人間が関わっていないなら、ハードルは低いからな。
AIがこのゲームの中に、人間以外の者を増やすことを許可してるってことだ。
葛城さんの話を聞きながら、アンドロイドを生成する方法を考えていた。
「おにい」
屋根に座って遠くを眺めていると、美憂が話しかけてきた。
月明かりが眩しく、夜風が心地よくて、深呼吸していると、ここがゲームの世界だと忘れてしまうくらいだ。
「美憂か」
「みんなの部屋にも、聖堂にも図書室にも、研究室にも、どこにもいないから・・・ティナに聞いたらここじゃないかって」
美憂がスカートを直して隣に座る。
「おにいがここにいるの珍しいね」
「久しぶりに頭を使って、疲れたんだ。本でも読んで、息抜きしようと思ってね」
本に栞を挟む。
「ファナって子も、おにいが七陣魔導団に入れたんでしょ? あーあ、おにいがこんなに人気者になるなんて、妹としてはゾゾっとしてるよ」
「からかうなって。利害関係が一致しただけだ」
「ふうん・・・まぁ、せいぜいボロが出ないようにね。おにい、バイトと勉強のこと以外は抜けまくってるんだから」
「はいはい」
美憂が軽く笑っていた。
「美憂はどうした? ここに居るのが辛いか?」
「ううん。だんだん慣れてきたかなって思ってる・・・。陸軍の魔法少女たちが戻ってきたときに、色々話してたの。魔法少女の中には高校生パティシエで1位とった子もいてね、今まで作ったことない料理とかたくさん教えてもらったよ。今度帰ってきたらね、私がみんなに料理を振舞おうと思ってるの」
「そうか、よかったな」
楽しそうにしていて、ほっとした。
ファナとリルムを除く5人の魔法少女とも、少しずつ話すようになっていた。
特に、ノアとも気が合うらしい。
2人で図書室に行くのを何度か見かけていた。
「あと・・・おにい、配信サイトとか見てる?」
「いや・・・時間が無くてあまり見てなかったな」
靴に小石を遠くへ投げる。
「花音ちゃん、配信サイトでずっと1位なんだよ?」
「花音が・・・?」
体を起こす。
「やっぱり見てなかったのね。忙しかったから仕方ないけど・・・」
美憂が目の前にモニターを出して、指で画面を切り替えた。
配信者ランキングに花音せりかの文字と、花音の白い猫耳Vtuberアバターが映っている。
「・・・うまくやれてるのか?」
「そうみたい。魔法少女戦争っていうゲームってことで、花音ちゃんが今いる場所を映しながら戦闘してるの」
「今、いる場所って・・・あの猫耳アバターで?」
「ううん、配信には花音ちゃんが映っていた。魔法少女戦争に参加するために、魔法少女に転生したっていう設定なんだって」
「なんだ? そのガバガバな設定・・・」
頭を押さえる。
「あいつ、マジで大丈夫なのか? 探そうと思えば探せるかもしれないな。すぐにでも探し出して、こっちに入れたほうが・・・」
「配信を見たほうが早いから・・・」
「?」
美憂が俺の声を遮って、配信履歴に切り替えていった。
もう24回も配信している。
他の魔法少女に目をつけられるし、かなり危険な行為に思えた。
「これが最新かな」
『みんな、元気? 今日も魔法少女花音が今日も突き進んでいきまーす。魔法少女が現れたら、戦闘になっちゃうから、応援してね。あ、投げ銭は無理しなくていいからね!』
花音が画面越しに、明るい口調で手を振る。
「どこだ? 見たことがない場所だな」
『ここはね、前の街から200メートルくらいにある小さな村。魔法少女とか、化け物みたいなのは、今のところ出てきていないかな』
花音がふわっと飛んで、低い木造の小屋が並ぶ道を歩いていた。
周囲に人はいないようだ。
『今回はガルーダの街から配信中。えーっとコメントが早くて読めないけど、うん! こっちの食べ物は美味しいよ。今まで食べた中だと、スパイスの効いたカレーが一番好きかな?』
コメントを読みながら、他愛もない話をしていた。
黄金に輝く杖をくるくる回している。
「とりあえず、無事でよかったよ。ナナキは映らないんだな。戦闘はどうなんだ? 花音は怖がりだからな・・・うまく逃げ回れる魔法とか覚えてるのか?」
「13分43秒くらいから戦闘がはじまるよ。見てみて」
「ん?」
美憂が動画を早送りをする。
3人の魔法少女が花音を囲んでいた。
『配信しながら魔法少女戦争に関わるなんて、馬鹿じゃないの?』
『アイドル気取り? ファンには悪いけど、容赦しないから』
笑いながら花音を馬鹿にしていた。
「3人相手って? マジで大丈夫なのか?」
「大丈夫だよ。花音ちゃんの圧勝だから」
「は・・・?」
美憂が画面を見ながら淡々と呟いた。
― 葬送 ―
魔法少女たちが動く前に花音が魔法陣を展開していた。
カッ
『!?』
眩い光が降り注ぎ、魔法少女たちが一瞬で消えていった。
何が起こったのかわからない。
魔法少女たちが声を上げる暇も無かった。
迷いは一切ない。
リリスの戦闘に、どこか似ている気がした。
「嘘だろ・・・」
小さく呟く。
花音だとは思えなかった。
別人じゃないかと疑うほどに・・・。
『初めて私の配信見に来た人はびっくりしたよね? でも大丈夫。私の魔法は、楽に魔法少女を殺せるから』
花音が杖を回して、魔法少女たちのいた場所に歩いていった。
一つ一つ回って、小さな花を、地面に置いていく。
『魔法少女同士が戦うのって、すごく辛いことだよね。だから、魔法少女戦争を終わらせて、二度と魔法少女が出ない世界にしたい。全ての魔法少女を救いたいの。私が絶対に、魔法少女戦争の勝者になる』
花音が小さく呟いていた。
コメント欄が花音への応援で盛り上がっている。
「マジか・・・・」
ジジ・・・
美憂がモニターを閉じる。
「ねぇ、おにい・・・花音ちゃん、敵になっちゃうのかな?」
「・・・できれば、そう思いたくないな」
「・・・・・・」
美憂が俯いたまま、こくんと頷いた。
屋根に置いていた本を取って、栞を抜く。
「おにい、私、もう少しここにいていい?」
「あぁ、別にいいよ」
「ありがと」
花音の主が誰なのかも、どうしてあんなに強くなったのかもわからない。
花音が急に遠くに行ってしまったような感覚だった。
いや、幼馴染だったけど、元々あまり知らなかったか・・・。
『全ての魔法少女を救いたい』
息をついて、本のページをめくる。
リリスがいたら、なんて言うんだろうな。
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