30 呪いの連鎖
― ルピス ―
剣を出して、ファナに突きつける。
ファナも同時に、杖をこちらに向けていた。
「禍々しい剣ね」
「よく言われるよ」
ピリついた空気が流れる。
「別に君と敵対するつもりは無い。でも、そっちが本気なら私もやるしかない」
「どうしてリリスを殺そうとしてる?」
「その前に質問よ。リリスはどこ?」
ファナが立ち上がって、目じりを吊り上げた。
「言っとくけど、情報機器出すためなら拷問でもなんでもするから!」
ファナが杖に魔力を溜めて、俺の目の前に魔法陣を展開した。
― 拷問器具、魔女の・・・―
サァッ
「!!」
剣を振り下ろして、発動する前の魔法陣を斬った。
糸のように浮いて、ゆっくりと消えていく。
「は・・・・?」
ファナが目を大きく見開く。
「前回の勝者だかなんだか知らないが、電子世界では俺のほうが強いみたいだな」
「っ・・・そんなはずはない」
ファナが杖を強く握りしめて、奥歯を噛んだ。
「今のは久しぶりで手が滑っただけ、もう一度!」
「ファナ」
ラインハルトがファナの後ろに回って腕を掴んだ。
「ラインハルト!」
「君はカイトに敵わないよ」
「馬鹿にしないで! 早くリリスを出しなさい!」
「リリスは捕まった。『黄金の薔薇団』が今の俺と同じように、電子世界のコードを使って、捕らえたんだ。殺せないから永遠の眠りにつかせた、と・・・」
「永遠の眠り?」
「そうだよ。リリスは眠ったまま閉じ込められている」
話すだけで頭に血が上りそうだった。
深く息を吐く。
剣を消して、ソファーに座った。
ファナが顔を真っ赤にして怒っているのが伝わってきた。
「ありえない! 私を騙そうとしても無駄。リリスは三賢よ! 私以外、どんな魔法少女が彼女を捕まえることなんかできるの!?」
「魔法少女のアンドロイドだ」
「魔法少女のアンドロイドって・・・・」
ファナが混乱しながら、杖を降ろす。
「電子世界の戦闘が今までの魔法少女戦争と大きく違うのはわかってるだろ? リリスは確かに強かった。でも、アンドロイドに魔法で抵抗できなかったんだ」
拳を握り締める。
「だから、今ここにリリスはいない。ファナがどう暴れたって無駄だ」
「・・・・・・」
「用が済んだなら出ていけ。ファナは魔法少女じゃないんだろ?」
「・・・・・そんな・・・」
ファナがその場に座り込んだ。
ファナに背を向けて、テーブルに置いてある本を手に取る。
落ちそうになった栞を挟み直した。
「つか、ラインハルトはファナと知り合いなのか?」
「そうそう。僕は前回の魔法少女戦争にもいたからね。ファナは前回のときとほとんど同じ姿だけど、歳取らないんだった? 魔法少女じゃないんだよね?」
「全てはリリスの魔法のせいでね・・・」
木でできた杖は、宝石がいくつか埋め込まれていた。
深い緑の翡翠に触れながら、杖を消す。
「前回の魔法少女戦争は、最後、リリスと私の一騎打ちになったの」
「・・・・・・」
「私がリリスの主に剣を向けたとき、主を庇おうとしたリリスの鍵を壊した。次の瞬間、鍵から闇が溢れて出して、この刻印が手首に刻まれた。魔法少女戦争に勝利しても、刻印は消えなかった」
「リリスはどうなったんだ?」
「主は瀕死だったからね。主を連れてどこかへ逃げたみたい、戻ってこなかった。ロンの槍は私の主、私の兄を持ち主として選んだ」
ファナの手首には、シジルのような模様が描かれていた。
すっと撫でると皮膚にしみ込むように消えていった。
「魔法少女戦争が終わったのに、なぜか今もリリスは生きてると聞いたの。嘘だと思っていたけど、ここに来て確信した。三賢のリリス、よくも私におぞましい呪いを・・・」
「ファナ・・・・・」
ファナが自分の皮膚に爪を立てる。
ルナリアーナも、ティナも・・・ここにいる魔法少女たち全員が、警戒していた。
「呪い?」
ラインハルトが眉をぴくっとさせる。
「私は魔法少女じゃなくなったのに、16歳のまま歳を取らなくなってしまったの。きっと、リリスを殺さないとかけられた呪いは解けない」
杖を回して消す。
髪をぐしゃっと搔いて、取り乱していた。
「兄は最期まで、お爺さんになって息を引き取るまで、私のことを心配してくれた。でも、ロンの槍を持っていても、不老不死は解けなかった」
目に涙を溜めながら言う。
「愛する者はもういない世界で、このまま悠久の時を生きてしまう。だから、リリスを殺すの! 絶対に殺す!」
「・・・・・・・・・」
「こんなに探してやっと辿り着いた! なのにいないなんて・・・」
リリスが受けた呪いの一部が、ファナに移ったのか。
ファナの刻印からは、石化したメイリアに残る魔力を似たものを感じた。
聞く限り、ファナは三賢が受けた呪いのことは知らないようだな。
他の魔法少女に緊張感が走っている。
ファナが前回魔法少女戦争の勝者ということもあるのだろう。
俺たちの一挙一動を逃さないように見ていた。
反対にファナは、周りの魔法少女に対して少しも敵意は感じないんだけどな。
「ファナ、ちょっとこっちに来い」
「えっ、ちょっ・・・」
ファナの腕を引っ張る。
「えっえっ、二人きりでどこへ・・・カイト様! 私も行きます!」
「カイト、私もカイトと話したいんだけど」
ルナリアーナとティナが同時に言った。
「ティナまで・・・もしかしてカイト様を誘惑?」
「そ、そんなわけないでしょ! こ、今後の戦術についてよ」
ティナが戸惑いながら早口で言った。
「なるべく早く戻る。みんなはここで待っててくれ。前回の魔法少女戦争について、少し聞きたいだけだ。自室で調べたいこともあるしな。フィオーレ、みんなに今回の戦闘について説明を頼めるか?」
「わかった。任せて」
「カイト、私は? 私は? 私もよく見てたよ」
ノアがぴょんぴょん跳ねる。
「ノアの説明だとわかりにくいだろうが」
「むぅ・・・そうだけど、あ!!」
「ノアもほら、私のフォローよろしくね」
「うん」
しばらく騒がしかったが、ファナを連れて廊下に出ていった。
「どうして私だけ連れてきたの? どんなに脅したって、拷問したって、絶対にリリスを殺すんだから。私はどうせ死ねない・・・」
俯きながら言う。
「何度でも挑戦してリリスを確実に・・・」
「三賢のリリスは、不死の呪いを負っている。ファナが受けたのは、おそらくリリスが受けた呪いだ。魔法少女の鍵は魔法少女の分霊となるんだろ?」
「!!」
「そんなに驚くなよ。リリスがまだ生きてる時点でなんとなく想像はできただろ?」
振り返ると、リリスが視線を逸らした。
「・・・よく知ってるね。魔法少女だって知らないのに」
「まぁ、色々あってな」
ロストグリモワールに書いてあったことだった。
『魔法少女は神との契約が成立し、バトルフィールド展開の鍵を持った時点で、人間の魂とは異なる』
七陣魔導団ゲヘナの魔法少女の前では口に出したくなかったけどな。
「俺にも妹がいるんだ。魔法少女の契約は絶対に結ばせないけどな。だから、なんとなくファナを放っておけない」
「なっ・・・?」
ファナの手を離した。
「ファナはいつから電子世界にいるんだ?」
「・・・兄が亡くなってから。ロンの槍に触れると、電子世界への転移魔方陣が展開された」
歩きながら話す。
「ロンの槍は電子世界での魔法少女戦争を望んでいると、はっきりわかった」
「そうか・・・」
手すりに手を置く。
壁の彫刻には薔薇が描かれていて、上のほうのステンドグラスからは七色の光りが差し込んでいた。
「どこに連れて行くつもり?」
「俺の研究室だよ。見ていてくれ。電子世界がどうゆうものか・・・」
階段を上って、すぐのところにある倉庫のほうへ向かっていった。
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