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魔法少女戦争 ~ロストグリモワールを俺は知っている~  作者: ゆき
第一章 魔法少女戦争のはじまり

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29 ファナ

「魔神とか、そうゆう神話のような話には興味がない。ましてや自分の知らない過去なんかどうでもいい」

『なるほどね。まぁ、知らなくてもいいか』

 リエルが顔を近づける。


『名前、カイト・・・だよね? 今は』

「?」


『今回は助けてくれてありがとう。あの子たちは苦しみから解放されて自由になれた。優しい子たちだったから、きっと天界に行っても多くの神々に愛される』

 目を細めてほほ笑む。


「助けたっていうのかはわからないけどな。ただ目の前の敵を殺しただけだ」


『変わらないね、そうゆうところ。でも、死が救いになることもある、特に契約者の魔力とずれてしまった魔法少女にとっては・・・ね』

 漆黒の翼が艶めいた。


『・・・リリスは魔神のこと、あまり説明しなかった? 書物に記載すると、消えてしまうから、七陣魔導団ゲヘナの魔法少女も知らないかな?』

「消える?」

『そう。どの時代でも、口伝でのみ伝えられるの』


 ロストグリモワールみたいだな。


「私は・・・魔神のことはあまり知らない」

 ノアが少し下がって呟く。


「願いは叶えてもらったけど・・・」


『ロンの槍の前の持ち主の意志で、この世界は決まる。今悪魔、堕天使、魔神だった者の中には、ある土地では神だったけど、ロンの槍の主により、悪魔や魔神と呼ばれることもある』

 ふわっと飛んで、聖堂の階段に座る。


『目に見えるものだけが、真実じゃない。神々は信仰によって力を得るから、ロトの樹の部分が全面的に強いだけだけだったり・・・』

 フィオーレがまだ少し警戒しているようだ。


『天使と堕天使の境目は曖昧なのにね。全てはロンの槍の・・・』

「難しい話はいいって。ロトの樹なんか知らないし、知る気も無い」

 手を上げて、リエルの話を遮った。


 フィオーレがこちらを見て、不安そうにしていた。

 魔法少女は魔神と契約しながら、どこか魔神を恐れているようだった。


 魔神について知ることも、な。


『ん? 聞いて損はない話だと思うけど。堕天したとはいえ、さっきまでセラフィムだったんだから嘘じゃないよ』

「疑ってないけど、興味ないってことだ。今は、リリスを探し出すことが先決だからな」


『そっか』

 リエルが魔法少女たちの様子を見て、何か勘づいたようだ。


『ねぇ、暇なときセレーヌ城に遊びに行っていい? 私、もう少し電子世界にいようと思うの』

「勝手にしろ」


『ありがと』

 リエルが荒廃した大きな建物を見つめながら言う。


「ん? どうして俺たちがセレーヌ城から来たこと知ってるんだ?」


『他のセラフィムの子から聞いたの。天使の情報網ってすごいんだから。じゃあね、電子世界はいろんなものを曇らせるから気をつけて。君たちが勝ち抜けることを陰ながら祈ってるよ』


 リエルが吹っ切れたような表情で、高い建物の手すりに触れながら飛んでいった。


「天使だとか堕天使だとか、よくわからない奴だったな」


「ねぇ、私たちが殺した魔法少女たち・・・敵だったけど、5人とも天国に行けたかな?」

「リエルが言ってたから、行けたんじゃない?」


「うん・・・・」

 ノアが魔法少女たちが消えていった場所に、5つの小さな花を置いていた。

 背中についた、ピンクのリボンが揺れる。


 あいつらも、主に惑わされなければ、今頃穏やかに過ごせていたのかもな。

 電子世界は人の欲が浮き出る分、穢れが多いのだろう。


 セラフィムには不利かもな。


「私・・・確かに願いを叶えてもらったけど、彼女たちみたいな清らかな願いじゃなかったから」

「・・・ノア?」


「あ、えっと、そうそう。お腹が空いたー。早く帰りたいな。お菓子いっぱい食べたい!」

 ノアが表情を切り替えて、フィオーレのほうへ走っていった。


「2人とも傷はどうだ? 動けそうか?」

「はい」

 リシュウとフウカが頷く。


 フウカは俺の上着、リシュウはフィオーレのマントで体を隠していたが、破れた服が痛々しかった。

 優秀な賢者や戦士を失ったことは、痛手だな。


「私が魔法陣展開するね。みんな準備ができたら乗って」

 フィオーレが足元に魔法陣を展開していた。


「・・・・・・」

 ふと、街のほうを見下ろす。

 何事も無かったように、子供たちは走り回っていた。


「カイト、もしかしてこの街にいる者たちを観察たいとか言わないよね?」

「言わないよ。あまり遅くなるとティナに怒られる」

「ふふ、確かに」

 フィオーレがいたずらっぽく笑った。




 シュンッ


「カイト様!!!」

 セレーヌ城に着くと同時にルナリアーナが抱きついてくる。


「お待ちしておりました。カイト様がいなくて、寂しくて寂しくて」

「はいはい。ティナに怒られるわよ」

「あー、カイト様・・・」

 フィオーレがすっと俺とルナリアーナの間に入って、ルナリアーナを引き剥がした。


「報告ありがとう」

 ティナは3つのモニターに賢者を映して、会話していた。


「陸軍1軍は休んでて。2軍も魔法少女がいないことを確認して、休息を取っていいから。3軍は引き続ぎ待機でお願い。何かあったらすぐに連絡して」

『かしこまりました』


 ティナがモニター越しに指示して、画面をエリアマップに切り替えた。

 ふぅっと背もたれに寄りかかる。


「カイト! カイトがいない間大変だったんだからね!」

「攻められたのか?」


「そうよ。七陣魔導団ゲヘナの本拠地はここに移ったって情報が流れてるみたいで、結構強い魔法少女や周囲の者たちが攻めてくるのよね。今のところ全て返り討ちにしてるけど」

 ティナが金色の髪を後ろにやって指を動かす。


「エリアマップも大分広がってるわ。空軍の4部隊はそれぞれ交代で休息を取らせながら進んでるの」

「すごいな・・・マップに詳細情報を入ってるのか」


「一部だけどね。みんなが優秀なおかげよ」


 東西南北のエリアマップは地形や属性なども細かく描かれている箇所があった。


「ははは、ティナは元々リリスと君が来るまで七陣魔導団ゲヘナを統制してたんだ。当然、指示もスムーズだよ」

 ラインハルトが本を読みながら、ソファーでくつろいでいた。


「もう、ラインハルトってば全部私に押し付けて。ずっとゴロゴロしてるんだから」

「ティナだけで十分じゃん。僕は魔法少女の血を吸えるのを待ってるよ」


「助かったよ。ありがとな、ティナ」

「べっ別にカイトのためじゃないし。仕方なくやってるだけよ」

 ティナがツンとして、視線を逸らした。


「ティナ、顔赤い」

「赤くない!」

 ノアが言うと、むきになって髪で頬を隠した。


「リシュウ、フウカ、どうしたの? その恰好・・・服が破れてる・・・」

 アクアが駆け寄ってくる。


「あ・・・・あの・・・」

「まずは着替えを。僕についてきて」

「は、はい」

 アクアが強引にリシュウとフウカを隣の部屋に連れて行った。


「苦戦したみたいね・・・」

「共有したいことがたくさんあるの。少数精鋭部隊のこともそうだけど・・・セラフィムと契約した魔法少女の能力、人工知能のアンドロイドのこととか・・・ね、カイト」

 フィオーレがこちらを、ちらちら見ながら言う。



「あぁ。それより、誰だ? お前は・・・」

「・・・・・・」

 ルナリアーナが口を閉ざす。

 部屋の端のほうの椅子に座って、ハーブティーを飲んでいる見慣れない少女がいた。


「気配は完全に消してたんだけどな」

 白銀の長い髪を持つ、16歳くらいの色白の子だ。

 魔法少女のように鍵は持っていなかったが、高い魔力を感じる。


「彼女は・・・・」


「私はファナ。元魔法少女」

 ティナの言葉を遮って、ファナが答える。


「・・・・・」

「・・・・・・」

 魔法少女たちが口を堅く閉ざして、ファナのほうに視線を向けていた。


「ロンの槍に選ばれた主の魔法少女。前回の魔法少女戦争の勝者ってことになるね」


「!?」

 ゆっくりと警戒しながら近づいていく。


「・・・ここに何の用だ?」

「リリスと契約している主は君? だよね?」

「そうだ」

 部屋が静まり返っている。

 ファナがカップを置いて、無表情でこちらを見上げていた。


「私、三賢のリリスを殺しに来たの」

 ひんやりと刺すような口調で言った。

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