28 清らかな④
― タイショウブツ に照準を・・・ ―
― 地獄の電炎 ―
ドン
斜めに剣を突き立てる。
ゴオオォオオオオオオオオ
勢いよく燃え広がって、アンドロイド軍隊を囲んだ。
逃げる間も無く炎の海に呑まれていく。
「カイト! 上から来るよ!!」
ノアが大剣に力を入れる。
アンドロイド軍隊が束になって、こちらに物理攻撃を仕掛けようと剣を持ってこちらに突っ込んでくる。
「ノア、手を出さなくていいからな」
「へ?」
手をかざして巨大な魔法陣を展開する。
魔法陣の周囲には、剣に刻んだのと同じコードを描いていた。
魔神のシジルが輝く。
― ビュフーマ ―
空を飛んでいたアンドロイド軍隊目掛けて、炎を放った。
ジュウウゥウウウウウウウ
1体1体の魔法陣を無効化し、焼き切っていく。
「すごっ・・・・2つ同時に極大魔法? あ、ありえない」
ノアが大剣を落としそうになりながら、天を仰いでいた。
ゴオォオオオオオオオオ
― エラーエラーエラーエラーエラー ―
― エラーエラーエラーエラーエラー ―
― エラーエラーエラーエラーエラー ―
― 完全停止と・・・ ―
― 例外処理を・・・ ―
― 処理負荷により、停止 ―
声が消えていく。
アンドロイドが次々に消滅していった。
10秒数えない内に、200体以上は消えている。
空を飛んでいたアンドロイド軍隊も、炎をまとったまま見えなくなった。
「どうして・・・・?」
「ん?」
「こんなに大勢のアンドロイドたちが消滅しているのに、どうして、まだ・・・魔力が残ってるの?」
ノアが冷や汗をかいて、前に出る。
「あぁ、想定内だよ」
ゲーム『エターナルファイル』にいたディズは炎では死なない。
呪いは炎で消せないからだ。
コピーした奴らを消滅させて、残った1体は直接殺すしかなかった。
「カイト!」
「ノアはここにいろよ」
「あ!」
地面を蹴って空を飛ぶ。
消滅していくアンドロイドの真ん中に1体だけ留まっている者がいた。
指を鳴らして炎を消した。
しゅうぅうううううううううう
全てが消滅しているのを確認して、地上に降りていく。
「ディズ」
― 誰だ? 誰だ? 誰だ? 誰だ? ―
アンドロイド軍隊で、唯一生き残った1体。
こいつが、コピー元のディズだった。
振り下ろしてきた剣を、飛んで受け流す。
すぐに正面で低い体勢を取った。
― 殺す、命令だ。命令を確実に、この命が尽きようが・・・ ―
ザッ
剣で胸を貫いた。
鎧が崩れて、額に紋章の刻まれた顔立ちの整った青年が現れる。
「世界が違うんだよ。やるなら他でやってくれ」
『ぐっ・・・・』
ディズが大きく目を見開いてから、胸を押さえた。
ふらふらとしながら、片膝をつく。
ゲームのキャラは、本当に人のように動いた。
『・・・レオナ姫・・・じゃない。君は、誰だ?』
剣を地面に突き立てて、どうにか立とうとしながら、こちらを見上げる。
俺の剣にはこいつらにとって毒であるウイルスが仕込んである。
セキュリティも万全ではなかったようだな。
胸に穴が空いて、電子の粒になっていた。
『君は・・・・?』
「俺は魔神だよ・・・・」
小さい声で言う。
『魔神・・・だと? 僕は、誰だったんだ・・・? レオナ姫はどこにいる?』
「ディズ、レオナ姫に会えるといいな」
その場に屈んだ。
「ここを離れて、別の電子世界に向かえば、きっと会えるよ」
『ん? あぁ・・・・そうだ、僕はディズだ。レオナ姫に・・・」
ディズが足元から静かに消滅していく。
サアアァアア
こいつをAIで生成した奴も、まさかゲームの設定をここまで引き摺って作られているとは思っていなかったのだろう。
ディズはどちらにしろこの世界では生きられない。
彼の求める姫は、この世界に存在しないんだからな。
魔法少女の主たちは気づいていないだろうが、ディズをベースにしたアンドロイド軍隊には、コードに曖昧な部分が多くあった。
AI生成は諸刃の剣だ。
魔力で無理やり動かされていたが、少しの不具合で自滅する可能性も高くなることを知らなかったのだろう。
砂埃を払って、ノアのほうへ戻っていく。
「お・・・終わったの?」
「あぁ、武器を解除してもいいよ」
「ふわぁ・・・・緊張して疲れた」
ノアが大剣を消して、その場に座り込む。
「ねぇ、カイト。さっきの男の人は?」
「元々『エターナルファイル』ってゲームのキャラだ」
「えぇっ!? ゲームのキャラ?」
「正確にはAIがゲームのキャラをベースに生成したアンドロイドだ。作りが粗いよな。俺ならもっと手を加えるのに」
剣に浮き出たコードをなぞってから消した。
今戦ったキャラは作りが甘かったから、コードと魔法を組み合わせることで簡単に勝つことができた。
次はわからない。
自立型人工知能のアンドロイドを生成する方法は検討したほうがいいかもしれないな。
如月タツキもやっていたことだ。
「作りが・・・粗い? え? どこが? 強かったよ。ぞくっとしたもん」
「ノアに説明するのは難しい。戻るぞ」
「うっ・・・私を馬鹿みたいに思ってない? なんでもわかってるからね! あ、カイト、置いていかないで!」
ノアがぶつぶつ言いながらついてきた。
『ミイナ、セナ、ごめんね・・・』
「リエル・・・様・・・・」
「私たち・・・勝てなかった・・・・」
「主にも報告しなきゃ・・・いけないのに・・・もう力が・・・」
『もういいの。ごめんね』
草むらにミイナとセナを寝かせて、リエルが隣に座っていた。
ミイナの口は綺麗に拭かれて、元の白い肌になっていた。
フィオーレがリシュウとフウカに回復魔法を唱えている。
服が破れてしまったこと以外は、大分回復に向かっているようだ。
『貴女たちの願いを叶えたかった。でも、こんな・・・魔法少女戦争に巻き込んで、戦いに身を置かせてしまって』
リエルが長い瞬きをする。
「リエル様・・・私たちは・・・地獄にいってしまいますよね・・・?」
「私たちが地獄に堕ちても・・・・どうか、私の街のみんなのことは・・・・」
『安心して眠って。戦争で街が壊されることも無い。貴女たちは奇跡を叶えるために魔法少女になったんだから、願いはちゃんと永遠に続くわ』
「よかった・・・・」
ミイナとセナが同時に言う。
『じきに死の天使が貴女たちを天国に連れて行くから』
「・・リエル様・・・・」
「・・・ごめんなさ・・・」
『ううん。私を信じてくれて、ありがとう。どこにいても、大好きよ』
リエルが柔らかくほほ笑んで、2人の額を撫でた。
瞼を閉じて永遠の眠りにつくと、電子の粒のように輝きながら消えていった。
「死の天使なんて本当にいるのか?」
『いるよ』
「電子世界にいる魔法少女でも、迎えに来てくれるの?」
ノアが遠くを見つめながら言う。
『もちろん、死の天使はどんな者であろうとちゃんと迎えに来る。死者が道を間違えないようにね』
リエルが立ち上がる。
サアァァァアアアア
風が街の看板を揺らした。
リエルの純白だった翼は、漆黒に染まっていく。
「!!」
『あーあ、やっぱり堕天使しちゃった。でも、あの子たちの傍にいる間だけは、セラフィムでいられたからよかった』
「・・・・・」
『きっと、あの子たちは優しいから、自分を責めちゃう。遅かれ早かれ、私は堕天してた』
リエルが自分の翼から、黒い羽根をとってくるくる回す。
服まで真っ黒になっていた。
「セラフィムでも堕天するのか?」
『するよ。だって、君だってそうだったじゃない』
「・・・・・・・・」
『人間にいるのが長くて忘れちゃった?』
軽い口調で言う。
リエルの透き通った瞳が、真っすぐこちらを見ていた。
「えっ? えっ?」
ノアが俺とリエルを見比べていた。
崩れた聖堂から、ガラスの落ちる音が聞こえた。




