23 王の出陣
『空軍第1部隊、賢者ルパートだ。今通ってるところは、魔法少女カナリアのバトルフィールドとなっていた場所と酷似しているようです』
「了解、そのまま飛行を続けてくれ」
『承知しました』
プツン
モニターを切り替える。
北へ行った第1部隊の映像を映しながら、マップを表示した。
「これで魔法少女のバトルフィールドは12か所見つかったのね」
「全ての魔法少女のバトルフィールドが今いる電子世界で展開されているという確証はないが、繋がってることは確かだな」
少しずつ、閉じ込められた電子世界を掴もうとしていた。
この映像のようなゲームが無いかネットを探していたが、まだ見つかっていない。
SNSも入れて検索するべきか。
「さすが、カイト様です。あの、魔法少女の服新調したんです。似合います?」
「・・・変わってないように見えるんだが」
「前よりもスカートがふわっとしてるんです。防御力もアップしました」
ルナリアーナがくるっと回って見せた。
「カイトは忙しいんだから」
「ティナも本当はカイト様に構ってほしいんじゃないの? すっとカイト様の傍にいるし」
「あ、主だから仕方なくいるだけよ。別に構ってほしくているわけじゃないもの」
ティナがむきになって言う。
「第2第3第4部隊も順調みたいだな」
「他の魔法少女が現れないね」
「空軍が捉える映像は、地上から離れてるから見えないんだろう。エリアマップの全体が見えてきたら低空飛行してもらうよ」
空軍の情報で作成するエリアマップはどんどん確実なものになっていた。
少数精鋭部隊のA隊はエリアマップから、人影がある国に行くように指示していた。
住んでいる者が、プレイヤーなのか、ただの魔法少女なのか、ゲームの住人なのか、探りを入れるつもりだ。
陸軍の3軍はセレーヌ城近くの街で待機させていた。
状況により、いつでも出撃できる準備を整えている。
「うんうん。でもなんかすごい気がする」
ノアがクッキーを食べながらまったりという。
「全然、敵が現れないし、このままじゃ太っちゃうよ」
「魔法少女は太らない!」
「・・・太ると思うよ」
ティナが冷静に言って、腕を伸ばしていた。
「僕も早く戦闘に出たいな。杖も新しくしたし」
「アクアの杖、使い心地どうなの?」
「かなり使いやすいよ。これなら、負けなしだね」
アクアが白い杖を磨きながら、自慢げに話していた。
6人の武器には、魔力と馴染むよう、プログラム言語を埋め込んである。
「焼きあがったよ」
「あー、僕もマカロン食べる!」
「はいはい、一人5個ずつね」
「フィオーレの作るお菓子美味しいんだもん。止まらないよ」
「ふふ、ありがと」
フィオーレがマカロンをテーブルに並べる。
アクアは屋上に現れた化け物の話はしなかったが、大分精神的な余裕が見られるようになった。
「僕も早く新鮮な魔法少女の血を吸いに行きたいな。お腹が空いたんだけど」
「私の血吸う?」
ノアが腕を出した。
「いいよ、僕は逃げ惑う魔法少女の血を吸いたいんだ」
「わがままだなぁ」
ラインハルトがため息をついて拒否していた。
少数精鋭部隊が映している映像を眺める。
「そろそろ動きがあるようだ」
「え?」
『カイト様、こちら少数精鋭部隊A隊、賢者のライムです。セラフィムと契約した魔法少女たちが5人見つかりました。なんという国かはわかりませんが、近代的な国で監視カメラがあり、中には入れません』
ライムがフードを深々と被りながらこそこそ話していた。
2人の魔法少女たちが結界の中で武器を持って警戒しているのが見える。
「ありがとう。十分だ。その国からなるべく離れたところにいてくれ」
『承知しました。転移魔方陣は・・・』
「そうだな。移動先に展開しておいてくれ。後で行く」
『かしこまりました』
プツッ
転移魔方陣は魔法少女たちが使える古から続くものだ。
魔法少女ならバトルフィールド展開同様、誰でも使えるらしい。
普通は今まで行ったことのある場所しか転移できないが、リリスが改良して、魔法少女同士暗号となる言葉を詠唱することで繋がるようになっていた。
「やっと動ける! 体伸ばしておかないと」
「ティナ、お前はここに残って、各軍に指示してくれ。ラインハルト、ティナの補佐を頼む」
「えー! カイトはどうするの?」
ティナがあからさまに不満を顔に出す。
「俺は少数精鋭部隊のいる場所に行く。ノア、フィオーレ、準備しろ」
「はーい!」
「カイト様! 私は? 私は?」
ルナリアーナが前のめりになる。
「留守番だ。アクア、リルム、セレーヌ城を頼んだ」
「りょーかーい」
「・・・・・」
リルムはちらっとこちらを見て頷くだけだった。
アクアが手を上げて、マカロンを口に放り込む。
「待ってくれ」
立ち上がると、ラインハルトが足を組み直した。
「どうして王である君が行くんだ?」
「・・・・・・」
「チェスなら、キングは動かないだろ。敵陣に行けば、即チェックメイトだ」
「・・・『黄金の薔薇団』の手がかりは俺にしかわからない。如月タツキは・・・一刻も早くリリスを見つけなければ、奴はリリスを利用する」
「賛成できないね。君が死ねば、リリスは・・・」
「ラインハルトのいうことはもっともだ。王が軍に指示せず、自ら出向くなんてありえない。でも・・・」
ラインハルトの目を見る。
「悪い。俺が行かなきゃいけないんだ」
強い口調で言う。
手を握り締めると、自分の魔力が高まっていくのを感じた。
「わかったよ、そこまで決意が固いなら仕方ないね。ティナは元々リリスが来る前はこの七陣魔導団ゲヘナを率いてたんだから問題ないよね」
「はぁ・・・主の命令は絶対。了解。私が指令を出して、問題があればカイトに連絡すればいいんでしょ?」
「あぁ、よろしくな」
ティナが残念そうにしながら、俺の椅子に座った。
モニターを切用に動かして、各軍の動きを真剣に見つめている。
「準備ができたら転移魔方陣を展開するから」
「了解」
フィオーレが花のような装飾の施された槍を持っていた。
ノアが服の中から鍵を出す。
ジジジジ ジジジジ
「着いたよ」
目を開けると、谷間の岩場の近くにいた。
正面には、高い建物が並んでいる。
「いえ・・・あのあたり、建物のほうから5人の魔法少女がバラバラに入っていくのが見えました。魔力からセラフィムと契約していると判断しました」
ライムがフードを取って、はきはきと話した。
「なるほどな。ありがとう、ライム」
「いえ・・・」
近代的な街並みが寂れたように、建物の壁には植物の蔦が伸びていた。
街の中心を流れる川は清らかで、時折ひんやりとした風の吹く場所だ。
「2人ともありがとう。魔力は大丈夫?」
フィオーレが柔らかい声で、魔法少女たちに話しかける。
「あの・・・」
「私たちが中に入って偵察してきましょうか?」
魔法少女の一人が胸に手を当てた。
「私、戦えます!」
「わ・・・私も!」
「いや、この中には俺たちが乗り込む」
「そうそう。あとは私たちに任せて。ね」
フィオーレが2人の魔法少女に、にこっと笑いかけた。
剣士と賢者、魔導士たちには魔法少女を一度セレーヌ城で休憩させるように指示する。
セラフィムの魔力は、魔神と契約した魔法少女には毒らしい。
ただでさえ、6人の魔法少女に比べたら弱い2人だ。
本人は気づいていないかもしれないが、魔力がすり減っているのがわかった。
「ねぇ、カイト、ここって国なのかな?」
「入ってみないとわからないな」
ロストグリモワールを思い出していた。
地形、建物、どこを見ても、ロストグリモワールには書かれていなかった。
おそらく、電子世界独自に創られた場所だ。
AIが生成する『荒廃した近未来都市』のイメージが強かった。
「ふわぁ・・・すごい・・・本当にゲームの中みたいだね」
ノアが鍵をしまう。
街並みを見上げて、楽しそうにしていた。




