22 魔法少女とセレーヌ城⑦
「嘘!結界を破って入って来たの!?」
「アクアに怪我はない!?」
「あぁ、膝に擦り傷があったから、美憂に手当てしてもらってる。魔道具があるから回復が早いらしいな。でも、疲れてるから休むように伝えてあるよ」
「よかった・・・」
ルナリアーナが胸に手を当てて、ほっとしていた。
「ありがとう、カイト。主の僕からも礼を言わせてもらうよ」
「仲間を助けるのは当然だ。あまり固くならないでくれ」
「僕じゃ助けられなかっただろう・・・」
ラインハルトが丁寧に頭を下げてきた。
アクアは泣きはらした顔は誰にも見られたくないと話していた。
心が落ち着くまで、医務室にいるように伝えた。
手当は美憂に任せているから大丈夫だろう。
「でも・・・アクアの魔法が効かないなんて信じられない」
「うんうん。アクアは魔力も高いし、攻撃速度も速い。回避能力もあるのに・・・どうして?」
ノアが不安そうに言う。
端にいたリルムだけは全く動じずに、こちらを振り向かなかった。
「ここは電子世界だ。誰が生成した奴らだったかわからないが、ただの魔法だけじゃ効かないんだよ」
― ルピス ―
剣を出す。
刀は光の角度によって赤くも見えた。
「プログラム言語で命令する必要がある。C++かPythonかjavaあたりだろうな。奴らは魔法と言語を融合させた力しか効かなかった」
「・・・・・・・・」
「剣や杖に言語を刻む。多重ロック解除と情報Insert、対象Update、さらにDeleteだな。簡単な構文でいけるようだ」
武器にプログラム言語を埋め込む方法を説明しながら、自分の頭でも整理していた。
プレイヤーが入って来たということは、この世界はリリースされたゲームなのか?
ただのテスターだったのか?
もしくは、如月タツキのように元から用意していた者なのか・・・。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
ティナ、ルナリアーナ、ノア、フィオーレが固まっていた。
「・・・・理解できたか?」
「む、難しい」
「なんか、よくわからなくなってきた」
ノアがぐるぐると目を回していた。
「?」
かなりかみ砕いて説明したつもりだった。
説明が苦手なんだよな。
「カイトって頭いいんだね?」
「いや・・・特に・・・・」
ラインハルトがこちらを覗き込んでくる。
「まぁ、僕は今ので大体わかったよ」
「え!? ラインハルトが?」
「ラインハルトでもわかることが、私たちわからないってこと?」
「嘘! 私、学校で覚えが早いって言われてたもん」
フィオーレとノアがむきになって言い合っていた。
「魔法少女戦争の経験値の差だ。つか、僕はそもそも頭がいいから。何百年も生きてるし」
「・・・・・・」
ラインハルトが息をついて立ち上がった。
「カイトはアクアの様子を見てきてくれ。ティナたちには俺が説明するよ」
「あぁ・・・でも、いいのか?」
「言語を組み込む方法は知ってる。海底で行われた魔法少女戦争で、沈んだ大陸の言語を組み込まなきゃいけない時があったからね。C++とかも、なんとなく今の世界でうろうろしてたときに、聞いたことあるからさ」
剣を消した。
「じゃあ、頼むよ」
「了解」
「あー、私はカイト様から教わりたかったのに」
「はいはい。ちゃんと僕が一から説明するから」
モニターを確認してから、部屋を出ていく。
ルナリアーナの不満の声が聞こえていた。
セレーヌ城の螺旋階段を降りていく。
シンプルだったが、天井が窓になっていて月明かりが入るからか神秘的に感じられる。
確かリリスがセレーヌ城にはセレーヌという女神がいるって言ってたけど、まだ見かけなかった。
ほぼ誰もいなくなった城内は、静かに感じられた。
聖堂の隣にある医務室のドアをノックして開ける。
「アクア・・・」
「しーっ、今寝たところなの」
美憂が口に指を当てる。
アクアがベッドに横になっていた。
「アクアの様子はどうだ?」
「うん。私は魔法使えないから、ただ、ここにある魔法道具で手当てするだけなんだけどね。ずっと泣いてたけど、私、何も言ってあげられなかった・・・」
「今のアクアにはそれでいい」
痣は無くなり、肌は綺麗になっていた。
「陸軍と空軍のみんなはどう?」
「指示通り動いてくれてるよ。まだ目立った敵は現れていない」
「そっか・・・」
美憂が水色の小瓶と布を棚に戻す。
「司祭たちとは何か話したのか?」
「うん。医務室と手当の方法を一通り説明してもらったよ。あとは、図書室は聖堂に近いから安全だから、そこにいるようにって。おにいの読んでた本、モニターに読み込ませて、訳して読もうと思ったけど全然わからなかった」
「俺もところどころしか理解できなかったって」
「おにいが読めないなら、私はもっとわからないよ。ファンタジー系の本あったら読もうかな?」
「そうしたらいい。しばらくは、電子世界から出られないだろうからな」
美憂も、モニターを表示できるようにしていた。
操作方法は教えていないが、うまく使いこなせているようだ。
できれば、ティナたちと同じ部屋にいてくれたほうが安心できるんだが、自分は魔法少女じゃないから、と距離を置いていた。
「・・・・おにい、ちょっとついてきてくれる?」
「ん? あぁ、医務室の結界を確認してからな」
「・・・うん・・・」
美憂が医務室から出ていく。
アクアは俺たちの声や、物音に気付かないほど、深い眠りについていた。
指で弾いて、結界が機能していることを確認してから、ドアを閉める。
美憂が連れてきたのは、聖堂だった。
赤いカーペットの上を歩いていく。
魔法陣の傍には3人の司祭がいて、こちらに気づくとすぐにベルナスが近づいてきた。
「アクアが襲われたのには驚きました。カイト様がいてよかったですね」
「ベルナス司祭が手当ての方法を教えてくれたの」
「・・・あぁ、どうも」
「いえいえ、我々は魔法少女たちの補佐、魔神に仕えるのが役目ですから」
3人の司祭は魔神から何を言われたのか、いきなり俺と美憂を丁重に扱うようになった。
気持ち悪いくらいにな。
「おにい」
美憂が手を後ろに組んでこちらを見上げる。
「やっぱり私、魔法少女になりたいんだ」
「は?」
「ほら、七陣魔導団ゲヘナにいるのに、魔法少女になっていないの、申し訳なく感じるの。ベルナス司祭はね、私には素質があるって」
嬉しそうに言う。
「美憂様はカイト様の妹、魔神との相性もいいデス。きっとぉぉ、歴代にも名を遺すような最強の魔法少女になることができるでしょう」
アモデウスがおかっぱ頭を振りながら両手を上げた。
「魔神はいつでも美憂様と契約して、魔法少女にすることができると。どんな願いも叶えることができる、と話しております」
「おにい、リリスに戻ってきてほしいでしょ? 私なら、その願い叶えられるよ!」
「!?」
ガッ
「うわっ・・・」
瞬時に剣を出して、ラミュートの胸ぐらを掴んだ。
刃先を首元に突きつける。
「美憂に魔法少女になるように、促したのか?」
「と、とんでもない。私は事実を伝えただけで・・・」
「カイト様、魔神も申しておらえるのです。彼女は魔法少女の器として素晴らしい素質があると」
「リリスにも劣らない魔法少女になることだってあるのデスよぉぉぉ」
「近づくな!! 殺すぞ!」
「!!」
ベルナスとアモデウスが慌てて立ち止まる。
「そうやって魔法少女たちを増やしてきたのか? お前らは」
「少女のほうから魔法少女になりたいと契約を求めたのです!」
「普通の人間に戻れなくなることを、ちゃんと話したのか!?」
叫ぶように言う。
美憂がびくっとしていた。
「・・・・・・・」
魔神の気配のする魔法陣を睨みつける。
魔神たちが委縮しているのを感じた。
「おにい・・・」
「いいな? 二度と美憂に魔法少女の契約を持ちかけるな!」
吐き捨てるように言って、ラミュートから剣を離す。
「し・・・承知しました」
「おにい・・・」
「美憂も絶対に魔法少女になる話には乗るなよ」
「でも・・・」
「願いが叶う代償は、重いんだ。リリスも・・・アクアも見ただろ? あいつらはもう、学校にも行けない。普通の女の子には戻れないんだよ」
「!!」
剣を握り締めながら言った。
美憂の表情が歪む。
深く息を吐く。
「七陣魔導団ゲヘナの魔法少女は、俺が絶対に守る。リリスがそうしたように。いつか・・・・そうだな・・・。美憂は今の自分で、できることを頼む」
「・・・・・・」
美憂が少し俯いてから、首を縦に振った。




