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魔法少女戦争 ~ロストグリモワールを俺は知っている~  作者: ゆき
第一章 魔法少女戦争のはじまり

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21 魔法少女とセレーヌ城⑥

 空軍は浮遊魔法が得意な魔法少女を中心に組んでいた。


 魔導飛行戦闘機というものを使用し、エリアマップを完成させるため、4部隊に分かれて、東西南北を飛行するように指示していた。

 陸軍は少数精鋭部隊と1軍2軍3軍に分け、エリア内の魔法少女の動向、および戦闘を目的に構成していた。


 今はまだ、出発したばかりで目立つ情報は入って来ていない。

 賢者を通し、何かあれば随時連絡するようにしている。


 魔法少女にはバトルフィールド展開を禁じていた。

 電子世界に閉じ込められている以上、転移することが安全だとは思えない。


 部屋には大きなモニターを2つ表示して、魔道飛行戦闘機に設置したカメラから、エリアを見られるようにしていた。


 図書室から持ってきた本のページをめくる。

 『黄金の薔薇団』の記載はまだ、どこにも見当たらなかった。


「どうして私たちは居残り組なの?」

 ティナが不満そうに隣に立つ。


「7人の魔法少女が必要なのに、1人欠けた。魔神の魔法陣が力を保っていられるのは、リリスが不死身だから私たちはもっと慎重にならないと」


「フィオーレの言う通りだ。リリスまではいかなくても、君らは十分強いから。他の魔法少女ではどうにもならない敵が出てきたら、俺と一緒に転移してもらう」

「はーい」

 ノアがにこっとして手を上げた。

 ティナが頬を膨らませて、ノアの隣に座った。


「カイトたちは学校とかいいの? 心配しない?」

「良くないけどな。戻れないんだから仕方ない。俺はともかく美憂はある程度優秀だから、気にしてるのは出席日数くらいだ」


「私も学校行ってたときは優秀だったんだよ」


「私も私も! 学年で1番とったの。算数だけだけど、あと音楽も得意だった!」

「私だっていつも上位だったわ。ピアノのコンクールで優勝したこともあるのよ」

「わ、私だってかけっこは一番早かったもん」

 フィオーレとノアが競うように言っていた。


「・・・・・・」

「・・・・・・」

「・・・って、学校の話したって仕方ないね」

 フィオーレが苦笑いする。


「こうやって魔法少女たちと仲間になれたから今は今で楽しいわ」

「うん!」


「私は学校って、そんなにいい思い出ないから。自由でいられる今が最高かな」

 ティナが力なく言って足を伸ばしていた。


 6人はどうして魔法少女になったのか聞いたことなかった。

 まぁ、言いたくなさそうだし、聞く必要もないか。


「はぁ・・・・あ、カイト様!!」

「は!?」


 ルナリアーナがかなり露出が多い服で、抱きついてきた。

 短いスカートからは下着が見えそうになっている。


「的確に指示するお姿、とても素敵でした。さすが私のカイト様です」

「つか、その恰好どうした!?」

「ルナリアーナ! もうっ・・・・」

「あっ・・・」

 ティナがすぐにルナリアーナを引き剥がした。


「どうしてそんな格好してるの?」

「これ? 似合うでしょ?見えそうで見えない、えちえちモード」

 胸の谷間が強調される服だった。


「カイト様なら・・・」


「すごい下着だねぇ」

「わっ、ラインハルトは見ないで!」

 ラインハルトが現れると近くにあった布で体を隠した。

 

「そもそも僕は女の身体に興味はないよ。見てても何も思わない。とにかく若い子の血にしか興味ないね」

 冷めた口調で言う。


「この服・・・主の命令でしょ?」

 フィオーレがルナリアーナにマントをかけた。


「大丈夫なの? 今の主」

「・・・うん。私の契約した来栖まりなは配信者だから。会員制シークレットメンバー向け配信にはこの格好で出てくるように言われてるの」

「魔法少女は基本、人間から見えないわけじゃないのか?」


「電子世界を通すとなぜか見れるようになってる。私もどうしてなのかわからない。でも、私が出てから主がバズったから、また出てって言われて」

「バズったって・・・・・」

「主探しって難しいのよね。ラインハルトは主の血を貰うタイプのヴァンパイアじゃなくてよかった」

 フィオーレが頬に手を当てる。


「血は命令して捧げられても興奮しない。やっぱり自分の手で捕まえて吸わないと。僕も戦闘の最前線に行きたくて仕方ないな」

 ラインハルトがにやっとしながら言った。


「あれ、みんなが思ってるほどいやじゃないよ。触られるわけじゃないし。まぁ、恥ずかしいけど、主の命令は絶対だから。それに、配信に出るとなんだから力を貰えるような気がするの」

「確かに・・・ルナリアーナの魔力が上昇してる?」


「ほらほら。すごいでしょ? 戦闘しないのに上昇してる!」

「えー、そんなことあるの?」


「今なら戦闘機壊せそうだよ!」

 ルナリアーナがマントを押さえながら興奮気味に話していた。


「それにしても、ルナリアーナに痴女としての素質があったとは」

「違う! 私はカイト様だけだもん!」


「・・・・・・」

 口に手を当てる。


 魔法少女はゲームのキャラみたいな感覚だな。

 神々と契約したときに、特異な体質になるのか。


 配信と魔力上昇に、本当に繋がりがあるとすれば・・・。


「とにかく早く着替えて。そんな格好でどこにも行けないでしょ?」

「じゃあ、ここで着替えようかな。あ、ラインハルトは向こう向いてて」

「駄ー目! カイトの前でも駄目だからね!」

 ティナが指差しして怒る。


「カイト様なら私の全部、見られてもいいのに」

 相変わらず騒がしい。


 ぎゃーぎゃー騒いでいた。

 リルムだけが端のほうで本を読んで黙っている。

 リルムとはまだ話したことがない。

 避けられているわけではなく、人形のように頷いてついてくるだけだった。


「だから、そんなことをしたらアクアが・・・・ってアクアは?」


「ん?」

 ティナ、フィオーレ、ルナリアーナ、リルム、ノアの5人とラインハルトしか部屋にいなかった。


「さっきまでいたのに」

「軍についていったとか?」


「いや、アクアの位置情報は城の中だ」

 パッと小さなモニターを出して確認していた。


「探してくるよ。みんなはここに居てくれ。絶対にラインハルトの傍を離れるなよ」

「カイト」

「カイト様!」

「あー! そんな格好で出ちゃ駄目だって。ルナリアーナ」

 外部からのログイン信号がある。

 セレーヌ城に結界を張っても入ってくるか。


 アクアのいる場所を拡大しながら、セレーヌ城内を駆けていった。

 



 ゴオォオオオオ


「?」

 屋上に近づくと、匂いが変わった。


 変な魔力を感じる。


「アクア!」


「う、うわっ」


 顔が半分だけで、緑の肉体をした者2体が、腕を長くしてアクアの肉体を縛っていた。

 一体の目はただれていて、ゾンビのようにも見える。

 2体が少し離れながら、アクアのなめまわすように眺めていた。


「いやぁぁ、やめて、やめて!」


 魔法が使えないのか?


 俺には全く気付いていないようだった。


『可愛いなぁ、食べちゃいたいなぁ』

「うわぁああ・・・・・・来るな来るな!」


 ― ルピス ―

 

 ザッ


 黒い剣を出して、緑の肉体の者の腕を斬った。

 電子のような色が飛び散る。


「カイト・・・」

 アクアの前に立って、剣を持ち直す。


『あれ? 切れた?』

『どうしてだろう? 絶対に斬れないって書いてあったのに。バグったか?』

『男? 萎えるな』


 書いてあった? バグ?

 どう見ても人間ではないのに、人間の言葉を話していた。


 中身はプレイヤーか?


『いいよいいよ。俺はあの魔法少女が一番可愛いと思ってたんだ』

『もっともっと、壊したいね。そして、俺らのモノにするんだ。幼い顔して、おっぱいでかいし、ボーイッシュで文句なしの美少女だ』


 一体が半分の顔を押さえると、顔が生成されていった。

 緑色の皮膚からは骨が見えている。


『気持ちよかったなー。あの感覚、感じたか?』

『もちろん。俺は正当に手に入れたかったけど、強情だから仕方ない』


「ひぃっ」

 アクアががくがくして杖を落としそうになった。


『魔法少女戦争は・・・』


 剣にプログラム言語を組み込んで、地面を蹴った。

 一瞬で、化け物2体を切り裂く。



 サァァアアアア

 

『!!』

 言葉を発する間も与えずに消えていった。


「・・・・・・」


 今の攻撃が効いたということは、勝機はある。


 やっぱり電子世界の戦いは、魔法少女だけが敵ではない。

 今みたいな誰かが生成した化け物も敵になるってことだな。


 でも、こいつらは一体どこから・・・・。


「うわぁああああああん」

 アクアが座り込んで堰を切ったように泣きだした。


「僕の・・・魔法が・・・魔法が・・・」

「アクア、もうこんな目には合わせない。落ち着け」


「怖かった。僕の魔法・・・効かないんだ。全然効かなくて一方的に」

「もう大丈夫だって」

 アクアがぎゅっとしがみついてきた。

 白い足に痣ができているのが見えた。

 

「怖い、怖い、本当は怖いんだ。怖くてもう辞めたいんだ。7人の魔法少女に選ばれて、魔法少女戦争なんて、魔法少女戦争なんて、僕らもうこんな・・・」

 服を握り締めながら叫びたいのを必死にこらえているようだった。


「何も言わなくていい。今あったことは忘れろ」


「僕が、僕が泣いたってことも言わないで。絶対に言わないで!」

「わかったから、な?」

 青い髪を撫でる。

 さらさらと柔らかい綿毛のようだった。


「誰か来るかもしれない。この顔じゃ・・・僕、弱いって思われたくないんだ。弱くないって思わなきゃ・・・だって、7人の魔法少女の一人なんだから」

「みんなには待ってるように、言ってるから来ないよ」


「・・・・・・」

 パニック状態になっていたアクアが少しずつ落ちついてきた。


「もう一人になるなよ。七陣魔導団ゲヘナの王は俺だ。何が起こっても必ず守る」


「・・・・・う・・・ん」

 しゃくりを上げながら頷く。

 アクアはしばらく泣いていて、ずっと俺の背中に手を回して震えていた。

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