20 魔法少女とセレーヌ城⑤
深呼吸をして、モニターを出す。
リリスがいなくなったことで七陣魔導団ゲヘナは混乱していた。
ベルナス、アモデウス、ラミュート司祭たちは魔神の声を伺っているらしい。
魔法少女たちは全く抵抗できず捕まったリリスを見て、怯えていた。
6人の魔法少女でさえ、震えながら他の魔法少女たちを宥めていた。
圧倒的な力の前に、死を身近に感じたようだ。
「リリスを連れ去ったのは『黄金の薔薇団』だ。天使、悪魔と契約する魔法少女たちが集められている。構成する人数は不明。あの男は魔力からして『黄金の薔薇団』のトップだろう」
「昔からあるのか?」
「僕が魔法少女戦争に入ったときにはもうあったね。彼らは錬金術と魔術を日常的に使える、今回の魔法少女戦争が電子世界で行われると聞いて準備していたのだろう」
ラインハルトが隣で話していた。
「リリスがさらわれること、勘づいてたのか?」
「いや、全く気付かなかったよ。どうしてそう思ったのかい?」
「直前にリリスに頼る状況は、長く続かないって言ってただろ?」
「あぁ・・・魔法少女戦争は一筋縄ではいかないから。じゃなきゃ、リリスも何回も魔法少女戦争に参加してないだろ?」
司祭でさえ慌てふためく中、ラインハルトだけは冷静だった。
ロストグリモワールに、『黄金の薔薇団』の名があったことを思い出した。
口伝で受け継がれる錬金術や召喚術の詳細が記載されていた。
モニターにコードを映して、如月タツキの魔力の痕跡から居場所を特定できないか、探していく。
アクセスブロック、キーが合わない。
すべてが暗号化されて消えていく。
クソが・・・。
「あれ、君の父親なの?」
「血縁上はね。ほぼ赤の他人だ」
「なるほど」
如月タツキは電子世界で始まった魔法少女戦争に、十分備えがあるのだろう。
あの魔法少女はアンドロイドだった。
俺はまだこの世界にアンドロイドを出現させる方法まで調べられていない。
奴のほうが何枚も上手だ。
魔法少女型のアンドロイドを制作していたのか?
そうなれば、『黄金の薔薇団』の総力は底知れない。
「おにい・・・・」
美憂が駆け寄って来て声をかけてくる。
「お父さんが、リリスをさらったって本当?」
「あぁ、『黄金の薔薇団』って組織にいるらしい。確かにあいつは如月タツキ、俺たちの血筋の親だったよ」
「そっか」
長い髪をいじりながら口をもごもごさせた。
「わ、私たちのこととか・・・・何か言ってたりしないかな? お母さんのこととか・・・ほぼ会うの初めてだったし、できれば私も・・・」
「何も言ってない。美憂、あいつは他人だ。情を持つ必要はない」
「・・・・うん」
美憂はどこかで父親が戻ってくるんじゃないかって期待しているようだった。
顔も覚えていないはずなのに・・・。
バタン
「ねぇ、おにい。私が・・・・」
「カイト、すぐに聖堂に集まってって。七陣魔導団ゲヘナの者たち全員が集められていて、カイトが来るのを待ってる」
「今行くよ」
ティナが廊下から顔をのぞかせて、息を切らしていた。
「美憂、どうした?」
「・・・ううん。何でもない」
「僕も行くよ。君は特別待遇でいいなぁ。ヴァンパイアももうちょっと丁寧に扱ってくれてもいいと思うんだけど」
ラインハルトがマントを羽織る。
モニターを消して部屋から出ると、美憂がゆっくりとついてきた。
光が差し込み、天井のステンドグラスがキラキラしている。
聖堂には七陣魔導団ゲヘナの剣士や魔導士、賢者、ランサー等、様々な職種の者たちが集まっていた。
前のほうには312人の魔法少女が立っている。
ティナがついてくるよう手招きする。
「如月カイト、待っておりました。上がってください」
「?」
ラミュート司祭が黒縁眼鏡をあげた。
なぜか緊張している面持ちだった。
祭壇に近づくと、中央の七つの星型の魔法陣から渦を巻くような闇の魔力を感じた。
ティナを含む魔法少女たちが、魔法陣に杖を向けている。
「リリスがどこに行ったかはまだ追跡できていない。リリスがさらわれたときのことは、数時間前話した通りだ」
「いや、魔神がカイトをここにと」
ベルナス司祭が天を仰ぎながら言う。
「ん?」
アモデウスが俺の顔を覗き込んでくる。
「剣を持っていると話しておりましたねぇ?」
「あぁ、リリスから貰った」
「ここに出してもらえませんかぁぁぁ?」
アモデウスがおかっぱを押さえながら頭を揺らしていた。
左目が血走っている。
「いいよ」
― ルピス ―
目の前に剣が現れる。
握り締めると黒い刃がじんわりと赤くなったり青くなったりしていた。
魔法陣に反応しているのか・・・。
蛇の模様が熱くなっていた。
「これが俺の剣だ」
「!!」
3人の司祭が急に膝をついて、こちらを見上げた。
「おおぉおおお、なんと・・・」
「カイト、貴方が七陣魔導団ゲヘナの指揮を執り、戦闘に赴くようにと」
「魔神たちが申しております。その剣を持てる者を待っていた、と」
ベルナスが微かに額に汗を滲ませていた。
「へぇ・・・・」
剣を見つめる。
姿も声もわからないが、ここに居る魔神たちは俺の部下だった者たちのような気がした。
不思議な懐かしさがある。
七芒星の魔法陣からは、俺を畏怖するような感覚が伝わってきた。
「了解。引き受けるよ」
剣を宙に浮かせた。
祭壇の前に出ていく。
「まずは電子世界だということを、存分に利用する」
モニターを3つ出して、セレーヌ城、地図、カメラを表示する。
「こ・・・こんなことを、いつの間に・・・・」
「電子世界に来て、まだ数週間しか経っていないのに」
「当然だ。主と魔法少女は網羅している」
ベルナスが画面を見ながら呟いた。
しばらく、聖堂は俺の足音だけが響いていた。
「『黄金の薔薇団』を潰して、リリスを取り返す。電子世界は、俺のほうが得意だ。魔法少女戦争に関わる者たちに、王が誰かを思い知らせてやる」
「カイト・・・」
ティナがこちらを見て呟く。
怒りと高揚感があった。
魔神の魔力を感じるほど、自分の力が増していくのがわかった。
確かにな。
本来の俺は、おそらくリリスよりも戦闘を好んでいる。
「中央のモニターをよく見るように。今から指示を出す。まずは陸軍と、魔法少女からだ。空軍の者たちは待っててくれ」
「は、はい」
一つの画面を大きくして、陸軍に所属するメンバーの名前を表示する。
魔法少女の情報は完全に網羅したわけではない。
でも、大体の特性はデータベースにしている魔法石に落とし込んでいた。
― さすが、XXXX様です。光栄に思います ―
― カイト様、我の契約した魔法少女をお使いください ―
― 電子世界であろうと、どこであろうと、貴方様が王となるように ―
「!!」
突然、頭に直接言葉が入ってくる。
魔神は徹底的に戦いたいようだ。
「どうされましたか?」
「なんでもない」
笑みが漏れる。
ラミュートを横切って、312人の魔法少女に近づいた。
「魔法少女は脆い。基本的に魔法少女1人につき、陸軍の戦士5人、回復役2人、賢者1人で構成するように。主と魔法少女はセットだ、その他はランダムに構成する」
「承知しました」
「あと・・・そうだな。陸軍は少数で行動する者たちと、軍で乗り込む者たちに分けたいな。とりあえず、画面に自分の名前が出たら前に整列しろ」
「はい」
モニターを動かしながら指示する。
「賢者は後で俺のところに集まるように。電子世界で使用しているモニターを使えるようにする。情報は常に共有できるように心がけろ」
「かしこまりました」
「モニターの使い方、表示方法は後で説明する。大した魔力消費は無い。基本的にゲームと同じだと思ってくれ」
「・・・・・・」
「あの、陸軍は三部隊に構成されているのですが・・・」
若い戦士が手を上げた。
「軍の構成はどうなっていたか知らないが、新しく俺が決めるものに従え。いいな?」
「はい!」
モニターにランダムに当てた構成員の名前を表示する。
魔法少女と主が静かに移動していた。
七陣魔導団ゲヘナは誰一人として、ざわつくことも無く、整列を始めていた。
部屋の端のほうで不安そうにこちらを見る、美憂が視界に入った。
目が合うと、すぐに聖堂から出ていくのが見えた。




