15 忠誠を
「昔は使い魔は猫やカラスだったの。ここまで現代的になるなんてね」
リリスがAIのポロを消して呟いた。
「電子世界での戦闘は初めてだから、驚くことが多いよ」
「リリス、どうするんだ?」
「我が主、カイト様」
リリスが急にかしこまって、俺の足元に跪いた。
「は? 急にどうした?」
「七陣魔導団ゲヘナに入ることを許していただけますか?」
「・・・・・・」
「え・・・? だって彼女たちは魔神と契約しなきゃいけないんじゃ・・・」
美憂が魔法少女たちのほうを見て、言いよどむ。
リリスの赤黒い鎖に繋がれたまま、こちらを気にしている様子は無かった。
AIのポロが消えていくのを呆然と見つめていた。
「いいよ。リリスに任せる」
「・・・?」
「ありがとうございます」
リリスが黒いローブをなびかせて、アモデウスら司祭らしき者たち、魔法少女たちを縛っていた鎖を解いた。
ゆっくりと歩いて、6人の魔法少女たちの前に立つ。
「私を七陣魔導団ゲヘナに入れて」
「はぁ!? 何言ってるんだ、こいつ」
我に返ったアクアがリリスを睨みつけた。
「アクア、まぁまぁ」
「ノアは甘すぎるんだ」
「決めるのは、魔神でしょ?」
たれ目の魔法少女が、アクアの腕を掴んでいた。
「認めない! 三賢のリリスが私たちと共に戦う? 冗談じゃないわ」
ティナが腕を押さえながら、リリスを睨みつけた。
「あ、アモデウス様・・・」
「そうですねぇ。ただの魔法少女ならまだしもぉぉ、七陣魔導団ゲヘナの7人の魔法少女は、魔神と契約していなければいけないー。少なくとも72柱の魔神に心臓を捧げる契約でなければいけないのデス!」
「三賢のリリス、いくら三賢であっても魔神の許可なしに入れることはできない。どんなに脅したって・・・」
「それなら問題ないわ。真名をいう許可は出てる」
「!」
司祭の言葉を遮る。
「私の契約した魔神は・・・・・」
「!?」
リリスがちらっと俺のほうを見た。
「・・・彼との契約を守り続けているの。生きてる限り、ね」
「ん? なんて言ったんだ?」
司祭と魔法少女たちが絶句していた。
アモデウスがみるみる青ざめていく。
他の者たちは首を傾げている。
「ベルナス司祭様、彼女はなんと?」
「・・・・・・」
「私も聞こえなかった」
「発音がこの世界の言葉と違うから、多分、普通は聞き取れないよ」
リリスが軽い口調で言う。
「へぇ、そっか」
「・・・・・」
俺ははっきりと聞き取れた。
リリスの話した魔神の名を・・・。
「ん? おにい?」
「・・・・・・」
「私が7人目の魔法少女になることに、異論はない?」
「・・・・その魔神の名前を・・・本当かい?」
アモデウスが唇をわなわなさせながら言った。
「そ。真名を何度も言うことは、きっと魔神は求めないけど。もう一度聞く?」
リリスが手袋をはめた。
目が赤く光っていた。
「わ、わかった。認める、認める!」
「ベルナス司祭様っ」
「仕方ない。その神の名は・・・・そうか、三賢が強い所以だな。でも、どれだけの願いを叶え、どれだけの犠牲を・・・」
「契約した神の情報は言えない」
3人の司祭たちが口をつぐんだ。
剣士や魔導士たちに、下がるよう手を上げた。
「あの・・・・」
ルナリアーナがちらちらこちらを見る。
「彼女が入るということは、主であるカイト様も一緒に行動するということでしょうか?」
「そうだな」
「やったー!」
ルナリアーナが飛び跳ねる。
「嬉しいなぁ。カイト様と一緒にいられるなんて」
「げ・・・・最悪だ」
「最悪なわけない。みんなはカイト様の魅力を知らないだけ」
「フン・・・私は認めてないから。あれだけの犠牲を払っておいて、今更ともに戦う? 冗談じゃないわ」
「まぁまぁ、ティナ、感情的にならずに」
「そうよ。リリス、魔神が貴女を認めるなら、私たちも認めざるを得ないわ。それに彼女は強いし・・・」
「ティナの言う通り、受け入れられない・・・私は部下を失ったのに・・・」
ティナが怒りに満ちた目を向けてくる。
魔法少女たちががやがや話していた。
リリスが魔法少女たちを無視して、俺たちのほうへ飛んできた。
赤くなっていた瞳は元の色に戻っていた。
「リリス、美憂が狙われないようにこの決断をしたのか?」
「それもあるけど、私、電子世界で戦うの初めてだから、カイトを守り切れるか自信なくなっちゃって」
こちらを見上げて腕を伸ばす。
「七陣魔導団ゲヘナが、強いかはともかく、人数は多いから」
「裏切らないのか? あいつら・・・・」
「それはないね。魔神との契約がある限り」
「そんな・・・ラミュート司祭様、私の刻印がっ・・・・」
ティナが袖をまくって、ラミュートに見せる。
「・・・これは・・・」
「私に移ったみたいだよ」
リリスが腕をまくって天に掲げた。
星のような模様の魔法陣がリリスの腕に描かれていた。
「見て、魔神が私を選んだ」
「・・・どこまで想定内だ?」
「全部」
リリスが手を降ろしてほほ笑む。
「悪魔みたいな魔法少女だな」
ラミュートがセンター分けの髪を押さえながら息をついた。
「悪魔のほうがまだ可愛いだろ」
「ベルナス、ラミュート、魔神のご意志だ」
「はい」
ベルナスが服についた砂を払って、魔法少女たちの前に立つ。
アモデウスがキリ揃った髪を整えて、咳払いをする。
「七陣魔道団ゲヘナを率いる者はリリスとする。皆に伝えよ」
「・・・かしこまりました」
潮風が吹く。
波の音が遠くに聞こえた。
「そして、ロンギヌスの主、七陣魔導団ゲヘナの王となる者はリリスの主、如月カイトとする」
「は? 王?」
「えー、おにいが王? ど・・・どちらかと言えば陰の人間なのに・・・いきなり表舞台で大丈夫なの?」
「変な心配するなよ」
美憂が俺よりも信じられないといった表情をしていた。
「あはは、だって全員の魔法少女の主がロンの槍を持ちたかったら、七陣魔導団が成り立たないでしょ。魔神たちの意志に従い、リーダーとなる魔法少女が決まるの」
リリスが笑いながら髪を耳にかける。
「・・・その主は、王と呼ばれる。ずっと昔から、そうだった」
「?」
小さく呟いて、目を細めた。
「・・・・・・・」
魔法少女や剣士、賢者、魔導士らしき者たちがざわついたが、司祭たちが睨みつけると黙った。
「お待ちください。アモデウス様」
ティナが声を上げる。
「わ、我が主にはどのように伝えればいいのでしょう・・・?」
「目の前で起こっている通りだ。七陣魔導団ゲヘナの魔神の合意のもと、王が移ったと伝えろ」
「でも・・・そ、そんなこと言ったら、私、何されるか・・・」
「ティナ、大丈夫だよ」
「ど・・・ど・・・どうしたらいいの? あの・・・あの方にそんなことを言ったら・・・・私・・・」
「落ち着いて、ティナ」
がくがくと震えだすティナに、魔法少女の一人が抱きしめていた。
「今は、ほら・・・。魔神の声が聞こえるでしょ? 問われてる」
「ティナ、早くしてくれ。ティナの主のことは・・・あとで考えればいい。答えなければ、力を失うぞ」
アクアが強い口調で言う。
「う・・うん・・・・」
ティナが顔色の悪いまま杖を出す。
「誓いを」
6人の魔法少女が膝をついて、杖を天に掲げた。
「私たちの契約した魔神の、御心の通りに尽くすことを誓います」
魔法少女たちの頭上に魔法陣が浮かび上がった。
ロストグリモワールにあった、魔神の印章が重なったものだ。
数秒後に弾けるようにして消えていった。
一番小柄な魔法少女ノアが、ふわっと飛んでリリスの前に降りた。
杖を降ろして、跪く。
「リリス、貴女を私たち七陣魔導団ゲヘナの7人目の魔法少女に入ることを認める。力を尽くしてね」
「もちろん」
魔法少女たちの杖の宝玉が大きく輝いている。
リリスがふぅっと息をついて、服の上から腕の刻印を押さえていた。




