14 障害発生アラート
目を開けると、ガラスの箱のようなものの中に入っていた。
海に面した砂浜が広がっている。
「バトルフィールドね」
リリスが呟く。
「美憂!!」
「ごめんなさい! 私、はめられたの。まさか知世が魔法少女だなんて思っていなくて・・・」
「知世が?」
美憂が腕を縛られて、膝をついていた。
2人の魔法少女が美憂を押さえている。
後ろのほうで、他の魔法少女といるのが知世だ。
美憂が今日一緒に映画に行くはずだった友達・・・。
魔法少女になっていたのか・・・?
俺の顔を見ると、怯えたような顔をしていた。
「あらあら、こんな簡単な罠に引っかかっちゃうなんて。いくら三賢でも、その多重結界の張られた箱の中じゃどうにもできないでしょ?」
「さすがです、ティナ様」
「ここは私の毒で、動きを封じます」
「そうね。ルナリアーナは許さないかもしれないけど、私の部下、貴方が暴れたせいで消滅しちゃったの。みんな、いい子たちだったのに」
「へぇ・・・悪いけど覚えてないな」
「自分の力を使いこなせていないまま、魔法少女戦争に関わろうとすることに驚くわ」
ティナは、確か俺が捕まったときに、周りを取り囲んでいた七陣魔導団ゲヘナの一人だ。
2人の少女がティナの隣で杖と槍を構えている。
「シェリーの仇は絶対に討ちます!」
「そうね。さぁ、2人ともさっきみたいにやってみるのよ。慎重にね」
「はい!」
魔法少女の2人が前に出て、杖と槍をこちらに向けた。
「美憂ちゃん」
リリスが落ち着きながら言う。
美憂が前のめりになった。
「遅れてごめんね」
「え?」
パリンッ
リリスが杖を出すと、一瞬でガラスのような結界が割れた。
「なぜ、こんな簡単に!?」
「単純に疑問なんだけど、どうして私に勝てると思ったの?」
― 砂防御壁―
ティナが魔法陣を展開したが、リリスが触れるとすぐに黒くなって消えた。
「嘘・・・・・」
「きゃああぁぁぁぁぁぁぁ」
「アイカ! ミナ!」
魔法少女の悲鳴が上がる。
ザッ
リリスは背中を向けたまま、2人の魔法少女を赤黒い鎖で縛り上げていた。
詠唱の声も聞こえない。
ただ、ティナのほうを見ているだけで、次々に赤黒い鎖が地面を這っていく。
「なっ・・・・」
ドドドドドッドドドドド
「いやああぁあああ」
赤黒い鎖がうねるようにして、知世や他の魔法少女も捕らえていた。
両手両足を縛り、持ち上げられる。
「いますぐ助けるから!」
「はい、まずは、魔法禁止ね」
ドンッ
「ぐっ・・・」
重力のような魔法を使って、ティナを跪かせていた。
リリスの杖の宝玉が紫色輝きながら回っている。
「三賢の・・・リリス・・・」
「あまり三賢って言わないで。一応、秘密にしてあるの」
「何をいまさら。悪魔が!」
「悪魔じゃない。魔法少女よ」
リリスが口に指を当ててティナを見下ろした。
「私の部下に何をするつもり・・・・?」
「拘束して、魔法を封じてるだけだよ。まだね」
「!!」
リリスが冷たく笑う。
「あっ・・・」
縛りが外れた美憂に駆け寄っていった。
「何かされなかったか?」
「うん。ただ縛られていただけだったから、何もされてないの。すぐ、おにいたちが来てくれたから」
すぐに知世のほうを見ていた。
「知世が魔法少女だったなんて・・・」
「・・・仕方なかったの! 魔法少女になって生き残るには、こうするしかなくて・・・ごめんなさい。それに、私、美憂にも魔法少女になってほしくて」
知世が赤黒い鎖に繋がれたまま訴えていた。
「どうして? 魔法少女になってほしいの?」
「友達なら魔法少女になって、一緒に戦ってくれるでしょ?」
「美憂、耳を貸すな」
「っ・・・・」
知世を睨みつける。
「初めに仕掛けてきたのはそっちだからね」
杖を剣に変えて、ティナの首に突きつける。
くるんとした金色の巻き髪が少し切れていた。
「まだ出てこない・・・粘るのね、どこで私たちを狙ってるのか大体わかるわ。この場にいる全員を殺されたくなかったら、出てきなさい。10秒しか待たないから」
リリスがカウントダウンを始める。
ティナが額に汗をかきながら目を瞑っていた。
「やめろ! やめろ!」
アモデウスと司祭たちが慌てて飛び出てきた。
「ティナ!」
「ごめん、みんな・・・」
七陣魔導団ゲヘナのティナを除く、5人の魔法少女たちも集まってくる。
「なんてことを・・・」
「ティナ、今、その拘束を」
「動かないで!」
アクアがティナに近づこうとすると、リリスが叫んだ。
「っ・・・・」
「そうよね。今、七陣魔導団ゲヘナには時間が無いものね」
リリスがティナの首に剣を向けたまま、手を離した。
剣が回りながら、空中に浮いている。
「時間?」
「魔法少女戦争が始まって1週間以内に魔神と契約する力のある魔法少女を7人揃えないと、七陣魔導団ゲヘナに関わる者全て、魔神たちに消滅させられるの」
「・・・・・・・」
魔法少女たちに緊張感が走っていた。
「どうしてそんなことを知ってる?」
おかっぱ頭の司祭アモデウスが睨みつける。
背のすらっとした青年の司祭が杖を構えていた。
「魔法少女戦争には詳しいからね」
リリスが淡々と言う。
「三賢のリリス・・・」
「でも、駄目。美憂ちゃんは私の主の大切な妹なの。魔法少女なんかにならせるわけにはいかない」
「魔法少女なんかって・・・。私は魔法少女に誇りを持ってるわ」
ティナが額に汗を滲ませながら言う。
「全ては聖槍ロンギヌスの槍のため。世界のためなんだから!」
「ふうん・・・」
「貴様・・・」
「やめて! ジーク!」
知世の近くにいた青年が、一気に距離を詰めてリリスに剣で斬りかかろうとする。
シュルルルルルル
一瞬で赤黒い鎖で足を縛られていた。
「な・・・!! 何も見えなかった・・・」
「すぐ楽にしてあげる」
ザッ
リリスが俺と美憂の傍に来て、両手を広げたときだった。
ジジジジ ジジジジ
『あーあー。障害発生アラート』
「え・・・?」
魔法少女たちの前に、3Dホログラムで映し出されたような、手のひらサイズの中性的な女が現れた。
青い光に包まれていて、体のラインが強調される近代的な服を着ている。
目はゴーグルのようなものがかかっていた。
リリスの前にいる者も、他の魔法少女の前にいる者も、皆、同じ顔をしているように見える。
『テスト、テスト、この姿は見えていると判断しました。私はAIのポロ。魔法少女への伝達係として遣わされました』
「っ・・・・・・」
リリスが動きを止めた。
「なんだ? アンドロイドか?」
「おにい、静かに。聞こえないよ」
美憂に口を塞がれる。
『魔法少女の皆様。大変申し訳ございません。我々と繋がっているゲームの本番リリースに伴い、外部接続に障害が発生。今バトルフィールドにいる者たちは、一時的に元の世界に戻ることができません』
「え・・・・」
『ゲートが塞がれたため、転移魔方陣は封じられております』
「本当に一時的なの?」
『復旧に全力を尽くしております。復旧見込みは立っておりません。ロンの槍を巡る魔法少女戦争は、ロンの槍の意志により続行するとのことです』
「・・・・・・」
リリスが口に手を当てて、顔をしかめる。
魔法少女、周りにいた司祭や剣士、魔導士たちが無言のまま硬直していた。
『以上となります。ご質問がある場合、私、ポロに話しかけてください。魔法少女の皆さんに呼ばれたら、現れるような仕様となっております。パスコードは鍵に刻印されています。ご確認を』
3Dホログラムの少女が繰り返していたが、誰も何も言わなかった。
「ど・・・どうなっちゃうの? 魔法少女って・・・」
「とにかく、美憂は魔法少女にならないことだけを考えてろ」
「・・・・本当に・・・いいのかな・・・?」
美憂が服の裾をぎゅっとつまんでいた。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
全員が沈黙していた。
明らかに、リリスを含むここに居る者たちの想定外としていることが起こっているのがわかった。
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