13 ナナキのルーツ
「私、友達と映画見に行く予定なんだけど、やっぱりやめたほうがいいかな?」
「大丈夫だよ。そのペンダントが必ず私を呼ぶから」
美憂が出かける用意をして、玄関で不安そうに立ち止まっていた。
ペンダントを握り締めてこちらを見上げる。
「おにい・・・」
「心配するな。リリスは三賢で最強の魔法少女だ。何かあれば、俺もリリスも絶対に駆けつける」
「うん・・・じゃあ、いってくるね。リリスよろしくね」
美憂が頷いて、外に出ていった。
「カイト、ありがとう。私を信じてくれて」
「あの俺を抑え込んだ魔力を見れば、な。圧倒的だろ」
「あはは、そっか」
リリスがほほ笑んで、花音のほうを見る。
「じゃ、花音、魔法少女のバトルフィールド展開から始めるよ。準備はいい?」
「あの・・・・」
花音が制服のリボンをいじる。
「私とリリスはいずれ敵になるんだよね? 敵にやり方を教えていいの?」
「貴女がロンの槍を狙っていないなら、別にいいわ。狙ってるなら敵だけど」
リリスがローブをふわっとさせて、花音に近づいた。
「先輩魔法少女に、新人魔法少女の戦い方を教えてもらうことはよくあることなんだ」
「そうなの?」
ナナキが口を出す。
「新人魔法少女はロンの槍を目的としていないしね。七陣魔導団ゲヘナを見たでしょう? あれは魔法少女が集団となって身を守りながら、一人の主だけがロンの槍を持てばいいと思ってるの」
茶色の髪を後ろにやって、首にかけていた鍵を出した。
「最初は集団で行動したほうが都合がいい。魔法少女人口は意外と多いからね」
リリスが花音の鍵を指さす。
「出して、その鍵」
「うん」
花音が深呼吸して鍵を出した。
リリスのシンプルな鍵とは違い、目のようなものがついている。
「目・・・なんだか不気味な鍵だな」
「私もちょっと魔法少女の鍵っぽくないなって・・・」
「なるほど。ナナキ・・・」
「はいはい、深く考えない。早くバトルフィールド展開してくれ」
ナナキが手で払ってリリスのほうを見た。
「まぁ、いいわ。花音、鍵を持って目を閉じてみて」
「・・・こう?」
「そう、今、魔力を引き出すから、鍵を回してね」
リリスが手袋をはめて、杖を出す。
花音の足元に魔法陣を展開した。
― XXXXXXXXXXX XXXXX XXXXX ―
ザアアアアアァァァ
風が巻き起こる。
リリスが杖を倒して、詠唱を始めた。
「な・・・何これ・・・・」
「回して」
「うん」
花音が頷いた。
鍵を回すと、周囲に真っ白な光が広がり、何も見えなくなる。
シュッ
「!?」
砂漠のような場所にいた。
目の前には、岩で創られた遺跡のような光景が広がっている。
「っと、これは想定外」
「えっ?」
リリスが杖を持たまま驚いていた。
花音が周りを見渡す。
「エジプト・・・なのか?」
「知らなかった」
「前に俺と契約した魔法少女は、相手のバトルフィールド展開で戦ってたからね」
ナナキが岩の上に座って足を生んだ。
「花音が初めてだよ。バトルフィールド展開できたの」
「そうなの? っと・・・・」
ふらっとしていた花音を支える。
「眩暈か?」
「うん。少し足元がふらついただけ」
花音をゆっくりと岩の上に座らせる。
「これなら、魔力消費もすごいね。エジプト神だったとは・・・その容姿で?」
リリスがナナキをまじまじと見る。
ナナキが服についた砂埃を払った。
「絶対、西洋神だと思った。見た目もなんとなく西洋っぽいし、クッキー好きだって言ってるし・・・」
「そもそも、自在に姿を変えられるからな」
「・・・なるほど」
緑の髪が風に揺れていた。
ガラスのような瞳で廃れた遺跡を見つめる。
「俺は自分がエジプトで祀られていたってことしか覚えていない。古代エジプトは神に対する信仰心も厚かった・・・その分、魔法少女が俺の魔力に耐えられないんだ」
後ろに手をついて、足をぶらぶらさせる。
「適性がある者を見つけるのも面倒だし、魔法少女戦争に関しては傍観者ってのが一番いい立ち位置なんだけどね」
「バトルフィールドって契約した神に関係するのか?」
「そう。水の神と契約すれば水の地、炎の神と契約すれば炎の地になる。ここは電子世界だけど、契約神の力が影響するのは変わらないのね」
リリスが手袋を脱いで、興味深く周りを見渡していた。
「エジプト神と契約した魔法少女はあまり見かけないかな」
花音に近づいて、額に手を当てる。
「リリス?」
「花音は元々魔力があるけど、最初はバトルフィールドを展開するのでやっとかな? すぐに慣れるよ」
「武器・・・とか出してみたいんだけど」
花音が額に汗をにじませながら言う。
「無理はさせられない。武器を出すのは次ね。バトルフィールド展開ができただけでも上出来よ・・・焦らなくていい。少し休んで」
「あ・・・」
回復魔法を唱えて、花音の背中に当てた。
「ありがと。私・・・回復魔法も使えるようになりたい」
「回復魔法は簡単だから、すぐに使えるようになるから大丈夫。ちゃんと休むときは休んでね」
「うん」
花音が胸に手を当てて、深く息を吐いていた。
「リリス、俺も力を制御できるようになりたいんだ。せめて剣くらいは使いこなせるようにならないとな」
「力の制御には、適切な武器が必要なのよね」
リリスが軽く飛んで、俺の前に降りる。
「たぶん、カイトはゲームのやりすぎ」
「え?」
髪を耳にかけて、こちらを見上げる。
「炎はこう、とか、氷はこう、とか決めつけて武器を出すの。最近の魔法少女にも、主にもよくあることなんだけど、武器を型にはめると力を発揮できないから。使うのはあくまで自分の魔力」
「っ・・・・・」
一歩下がる。
痛いところを突いてくるな。
「自分の魔力って言われても、よくわからないんだよな」
「んー、それもそうね。人間って大抵、魔法使わないから」
リリスが空中で手を動かした。
水の波紋のようになって、魔法陣が浮かび上がる。
― XXXXXX XXXX XXXXX ―
聞きなれない言葉で詠唱して、魔法陣に指を置く。
「この魔法陣の真ん中に手を入れて、武器を想像して引き抜いてみて?」
「武器を引き抜く?」
「これは『真実の口』を元にした、自分の魔力を具現化する魔法陣。深呼吸ながら目を閉じて、本来、カイトが持つべき剣を出してみて」
「・・・持つべきって・・・まぁ、いいけど」
いわれるがまま、魔法陣の中に手を突っ込む。
ズズ・・・
「!!」
剣を持つ感触はあったが、手が何かに包まれた。
「なんだ!? これ!」
「抜けないの?」
「いや、向こうが引っ張ってくるんだよ! クソっ・・・・・・」
力を入れたが、剣の柄がくっついて、俺を魔法陣の中に引きずり込もうとしていた。
踵に力を入れる。
「ぐっ・・・リリス、これ、どうすればいいんだ?」
すぐに肩まで入りそうになっていた。
「待って、すぐに解くから」
真剣な眼差しで呟く。
俺の肩を押さえてから、指をパチンと鳴らした。
「っ!!」
ドサッ
魔法陣が閉じて、反動でその場に座り込んだ。
「カイト!」
「ごめんごめん。ちょっと、手見せてもらうよ」
リリスが屈んで俺の右手を取る。
「大丈夫?」
「あぁ、特になんともないよ」
花音が心配そうにこちらを見ていた。
横でナナキがあくびをして伸びをしている。
「まだ、魔力が残ってる・・・」
「ん?」
「死の匂いがする・・・あと、蛇の毒ね。やっぱり、私の主はカイトしかいない。契約したのが他の魔法少女じゃなくてよかった。剣は私が持ってるから・・・」
「どうゆうことだ?」
「・・・・・・・」
リリスが俺の手を両手で包んで、長い瞬きをしていた。
キィンッ
「!?」
突然、リリスの鍵が光線のような光を放った。
「リリス! これって・・・」
「移動する」
シュンッ
俺が言う間もなく、リリスが転移魔方陣を展開していた。
瞬きする寸前、花音の声が聞こえた気がした。




