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魔法少女戦争 ~ロストグリモワールを俺は知っている~  作者: ゆき
第一章 魔法少女戦争のはじまり

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8 魔神XXXX

 俺たちは電子空間に入っていた。

 おそらくまだプレイヤーのいない、オンラインゲームだろう。


 ロストグリモワールによれば、ここは水の女神が守っているといわれているフェカリナ城だ。


 一時的に、七陣魔導団ゲヘナの拠点になっているらしい。

 移動してすぐに俺の拘束は解かれた。


「美憂、美憂、大丈夫か?」

「おにい・・・どこ・・ここ・・・?」

 眠っていた美憂がうっすらと目を開けた。

 ほっとして、回復魔法を唱えながら美憂の額を撫でる。


「どうして、おにいは・・・魔法、使えるの?」

「おそらく・・・・・。そんなことはいい・・・・美憂がそんなこと気にする必要はない。早く元の場所に戻してやる」

 

「それはできないデスねぇ」

 おかっぱ頭の男と、数人の司祭の恰好をした者たちに囲まれていた。

 魔法陣から少し離れたところに、剣士が数人いるようだ。


 6人の魔法少女たちが魔法陣の後ろに並んでいる。

 中にはルナリアーナもいた。



「さぁ、魔神フールフール。貴方と契約する少女を連れてまいりました」

 おかっぱ頭のアモデウスが声高らかに言う。


「きっと、貴方様の魔法少女として相応しい者です」

 老婆のような腰の場がった者が、しわの多い目を見開いた。



『・・・・・・ここなら、目覚めがよいな』

「先ほどは場所を間違え、申し訳ございませんでした」

『よいよい』

 さっき、身体を現わせなかった、魔神フールフールが大きな体を起こす。

 ざらついた声を出していた。


 魔法少女たちは平然としている。


 魔神フールフールの皮膚は赤く、飛び出そうな目をしていた。

 牙は尖っていて、背中がボールのように丸く、異形の形をした悪魔神だ。


 おそらく、魔法少女と契約しなければ人の形にならないのだろう。


 魔法少女たちがこちらを見下ろす。


「ねぇ、その男の子は?」

「カイト様は私と契約するから、狙っちゃ駄目だからね!」

「ルナリアーナ以外は契約済だよ。契約するなら早くしなさい」

「惚れるのもいいけど、男なんてすぐ裏切るって。僕だったら女の子と契約するね。男は嫌いだ」

 短髪の青い服を着た魔法少女が、鼻息を荒くした。


「アクアは極端すぎ」

「フン・・・・」


「いいもん。カイト様なら裏切られてもいい。やっと出会えた、私の愛しい愛しい人。こんな気持ちになったのは初めて」

 ルナリアーナが胸を押さえながら言う。


「だからすぐエッチしようとしたの?」


「はぁ!?」

 4人が同時に声を上げていた。


「フィオーレは見てたの?」

「言葉だけ聞こえちゃった」

「何やってるの? マジで言ってるの?」

 アクアが信じられないといった表情で、ルナリアーナに詰め寄る。


「だって、エッチは女の最終兵器っていうじゃない」

「ふぅ・・・ルナリアーナはどこで覚えたのかしら。そんな品がないこと・・・」

 水色の服を着た少女、フォーレが、頬に手を当ててため息をついた。


「失礼ね。愛する者同士の営みは生命を生み出す神秘的なことなんだから」

 ルナリアーナがすぐに反論した。


「ねぇ、君、ここに来れたってことは、他に契約者がいるんでしょ?」

「二重契約って手もあるじゃない。私と契約しても問題ないもん」

「もう、ルナリアーナはわがままね」

「それじゃ、すーっと主が見つからずゲームオーバーになっちゃうよ?」

 赤い髪の長い少女が呆れながら言う。


「そ、それだけは避けなくちゃ」

 ルナリアーナがはっとして口に手を当てた。


「それより、7人目の魔法少女を」

 アクアが美憂のほうに視線を向ける。


 6人は組んで戦っているようだ。




 ゴオォオオオ


『お前か、私と契約しようとしている者は』

 魔法陣から、魔神フールフールが起き上がり、真っすぐ美憂を見た。


「さぁ・・・契約を、魔神フールフールは、君の願いを一つ叶えてくれる」

「願い・・・?」


「そうだ。なんでもいい、言ってみろ」

 アモデウスが美憂に近づく。


「言うな! 美憂、契約が成立してしまう」

 声を荒げる。

 すぐに剣士が俺の首に剣を突きつけた。


「おにい!!」

「お前・・・」

「どうして、美憂にこだわる!? 美憂は魔法少女になりたいなんて言ってないだろ?」


「おにい・・・わ・・・私・・・」

「兄を助ける、でもいいんだぞ?」


「やめろ!」

 契約はさせない。

 絶対に美憂を魔法少女になんかさせるものか。


 美憂は普通に学校に行って、たくさんの友達に囲まれて、幸せな恋愛をして・・・。

 そうゆう、俺と真逆の世界が合ってるんだ。


 美憂だけは・・・。


「さぁ、魔神フールフール、彼女と契約を」

「願いを言え」

「おにい・・・私、どうしたら・・・」


「さぁ、早く!」

 剣士のような恰好をした青年が美憂に近づいてきた。


「・・・・・・・」

 金色の指輪に口をつける。


 ― XXXXXX XXXXXX

dhia XXXX jjjXXXX duaXXXXXXXX XXXXXXXXkoiXXXXX XXXXXXX ― 


「!?」

 魔力がほとばしる。


「な、なんの魔法だ?」

「魔力が急激に高まった!!」

 魔法少女たちが一斉に武器を構えた。


「おにい?」

「安心しろ」

 額に汗が滲んだ。


「絶対に守る。美憂だけは絶対に、だから心配するな」

 ロストグリモワールに書かれていた魔法を唱える。


 自分を本来の姿に戻す方法だ。

 強制的に、力を解放する。



「なっ・・・お前、人間じゃないのか!?」



 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ


 俺の身体が巨大化していき、全身が黒い毛で覆われていく。

 背中には悪魔のような、大きな翼が生えた。

 牙をむき出しにし、鋭い爪の生えた獣に変わっていった。


「な・・・・・」

「カイト・・・様?」

「危ないって」

 近づこうとしたルナリアーナを、魔法少女の一人が無理やり引き剥がした。



 グアアァァァァァアアアア


 天に向かって咆哮を上げる。


 城の窓ガラスは割れて、砕けていった。

 召喚された魔神が俺を見上げている。


 意識のあるうちに、美憂を・・・。


「お、おにい・・・その姿・・・」

 美憂をつまんで、そっと城の2階の端のほうに降ろした。

 今にも泣きそうな顔をして、俺の爪を両手で包む。


 ごめんな、美憂。


 月が足りない。

 魔力を集めなければ・・・・。


 ― 星降るシューティング


 魔法少女が魔法を撃ってきたが、小石にでもあたったような感覚だった。

 美憂からできるだけ遠くまで離れる。


 グアアァァアアア


 咆哮を上げた。


 魔法少女たちが、何か話している声が聞こえる。


 思い出していた・・・なんでもない、あの日を・・・。


---------------------------------


 この世界では、神と呼ばれる者が、ただのゲームのキャラとして召喚される。

 おそらく俺も、人間じゃない何かだった。


 真名は覚えていない。

 ロストグリモワールは俺の真名が書かれているページを開いた瞬間、燃えて消えたのだ。


 10歳頃までは、魔法も使えたし、前世のことも覚えていた。

 どんなに魔法を使っても、マジックと同じものとされたけどな。


 元々異質な者なのだから、中学のときいじめられていても、何も感じなかった。


 人間と根本が違うのだと思っていた。


「おにい」

 光のような声が、遠くから聞こえる。


 神としての力を全て失った俺を、純粋に慕ってくれたのが美憂だ。

 まだ俺について歩いていた、小さなころの美憂を思い出していた。


「美憂はどうして俺を慕うんだ?」

「あたしのたった一人のお兄ちゃんだからだよ。ねぇ、だっこして。お兄ちゃんのだっこ温かくて好き」

 たどたどしい言葉で、よく抱っこをせがまれた。


 父親はもういなかったから、俺が父親代わりのようなものだった。


「お兄ちゃんは、何か怖いものがあるの?」

「・・・・別に、ないよ。どうした?」

 美憂の頭を撫でる。

 小さくても、確かな命だった。


「あったらね、お兄ちゃんのことはあたしが守ってあげる。この魔法のステッキで」

「アニメでも見たのか?」

「うん。魔法を使う女の子がえいってするの」

 おもちゃのステッキを振り回しながら駆けまわっていた。


「・・・・・・・」

 優しい木漏れ日のような、穏やかで尊い日々だった。

 自分が人間でいることに、感動したのを覚えている。


----------------------------

 

 美憂だけは守る。

 美憂だけは絶対に、危険な目には合わせない。


  ガッシャーン


 壁が崩れていったようだ。

 柱はそこら中に倒れて、司祭のような男たちも逃げられないようだ。


 魔法少女たちの攻撃をかいくぐり、魔法陣を引っ掻き潰していく。


 きゃああぁぁあああああ


 大きく息を吸いこみ、業炎を吐く。


 人間の悲鳴が広がっていった。

 遠くのほうで司祭たちが、互いに治癒魔法をかけていた。

 魔法少女の一人が必死に、遠くにいた魔法少女たちに訴えているのが見える。


 魔法少女? 

 そんなのどうでもいい。


 翼を広げて、辺り一面に炎をまき散らす。



 きゃああああぁぁぁぁ


 一人、また一人、魔法少女が消えていくのが見えた。


 これが俺だ。

 人間の皮を被った何かだ。


 俺はどうあったって、完全な人間にはなれないのだから。

少しでも続きが気になったらブクマしていただけると嬉しいです。

明日も22時にアップします。よろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
ええ、もちろん凄く気になったからブクマさせていただきましたよ。この回もドラマチックで続きが、気になります!
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