8 魔神XXXX
俺たちは電子空間に入っていた。
おそらくまだプレイヤーのいない、オンラインゲームだろう。
ロストグリモワールによれば、ここは水の女神が守っているといわれているフェカリナ城だ。
一時的に、七陣魔導団ゲヘナの拠点になっているらしい。
移動してすぐに俺の拘束は解かれた。
「美憂、美憂、大丈夫か?」
「おにい・・・どこ・・ここ・・・?」
眠っていた美憂がうっすらと目を開けた。
ほっとして、回復魔法を唱えながら美憂の額を撫でる。
「どうして、おにいは・・・魔法、使えるの?」
「おそらく・・・・・。そんなことはいい・・・・美憂がそんなこと気にする必要はない。早く元の場所に戻してやる」
「それはできないデスねぇ」
おかっぱ頭の男と、数人の司祭の恰好をした者たちに囲まれていた。
魔法陣から少し離れたところに、剣士が数人いるようだ。
6人の魔法少女たちが魔法陣の後ろに並んでいる。
中にはルナリアーナもいた。
「さぁ、魔神フールフール。貴方と契約する少女を連れてまいりました」
おかっぱ頭のアモデウスが声高らかに言う。
「きっと、貴方様の魔法少女として相応しい者です」
老婆のような腰の場がった者が、しわの多い目を見開いた。
『・・・・・・ここなら、目覚めがよいな』
「先ほどは場所を間違え、申し訳ございませんでした」
『よいよい』
さっき、身体を現わせなかった、魔神フールフールが大きな体を起こす。
ざらついた声を出していた。
魔法少女たちは平然としている。
魔神フールフールの皮膚は赤く、飛び出そうな目をしていた。
牙は尖っていて、背中がボールのように丸く、異形の形をした悪魔神だ。
おそらく、魔法少女と契約しなければ人の形にならないのだろう。
魔法少女たちがこちらを見下ろす。
「ねぇ、その男の子は?」
「カイト様は私と契約するから、狙っちゃ駄目だからね!」
「ルナリアーナ以外は契約済だよ。契約するなら早くしなさい」
「惚れるのもいいけど、男なんてすぐ裏切るって。僕だったら女の子と契約するね。男は嫌いだ」
短髪の青い服を着た魔法少女が、鼻息を荒くした。
「アクアは極端すぎ」
「フン・・・・」
「いいもん。カイト様なら裏切られてもいい。やっと出会えた、私の愛しい愛しい人。こんな気持ちになったのは初めて」
ルナリアーナが胸を押さえながら言う。
「だからすぐエッチしようとしたの?」
「はぁ!?」
4人が同時に声を上げていた。
「フィオーレは見てたの?」
「言葉だけ聞こえちゃった」
「何やってるの? マジで言ってるの?」
アクアが信じられないといった表情で、ルナリアーナに詰め寄る。
「だって、エッチは女の最終兵器っていうじゃない」
「ふぅ・・・ルナリアーナはどこで覚えたのかしら。そんな品がないこと・・・」
水色の服を着た少女、フォーレが、頬に手を当ててため息をついた。
「失礼ね。愛する者同士の営みは生命を生み出す神秘的なことなんだから」
ルナリアーナがすぐに反論した。
「ねぇ、君、ここに来れたってことは、他に契約者がいるんでしょ?」
「二重契約って手もあるじゃない。私と契約しても問題ないもん」
「もう、ルナリアーナはわがままね」
「それじゃ、すーっと主が見つからずゲームオーバーになっちゃうよ?」
赤い髪の長い少女が呆れながら言う。
「そ、それだけは避けなくちゃ」
ルナリアーナがはっとして口に手を当てた。
「それより、7人目の魔法少女を」
アクアが美憂のほうに視線を向ける。
6人は組んで戦っているようだ。
ゴオォオオオ
『お前か、私と契約しようとしている者は』
魔法陣から、魔神フールフールが起き上がり、真っすぐ美憂を見た。
「さぁ・・・契約を、魔神フールフールは、君の願いを一つ叶えてくれる」
「願い・・・?」
「そうだ。なんでもいい、言ってみろ」
アモデウスが美憂に近づく。
「言うな! 美憂、契約が成立してしまう」
声を荒げる。
すぐに剣士が俺の首に剣を突きつけた。
「おにい!!」
「お前・・・」
「どうして、美憂にこだわる!? 美憂は魔法少女になりたいなんて言ってないだろ?」
「おにい・・・わ・・・私・・・」
「兄を助ける、でもいいんだぞ?」
「やめろ!」
契約はさせない。
絶対に美憂を魔法少女になんかさせるものか。
美憂は普通に学校に行って、たくさんの友達に囲まれて、幸せな恋愛をして・・・。
そうゆう、俺と真逆の世界が合ってるんだ。
美憂だけは・・・。
「さぁ、魔神フールフール、彼女と契約を」
「願いを言え」
「おにい・・・私、どうしたら・・・」
「さぁ、早く!」
剣士のような恰好をした青年が美憂に近づいてきた。
「・・・・・・・」
金色の指輪に口をつける。
― XXXXXX XXXXXX
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「!?」
魔力がほとばしる。
「な、なんの魔法だ?」
「魔力が急激に高まった!!」
魔法少女たちが一斉に武器を構えた。
「おにい?」
「安心しろ」
額に汗が滲んだ。
「絶対に守る。美憂だけは絶対に、だから心配するな」
ロストグリモワールに書かれていた魔法を唱える。
自分を本来の姿に戻す方法だ。
強制的に、力を解放する。
「なっ・・・お前、人間じゃないのか!?」
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ
俺の身体が巨大化していき、全身が黒い毛で覆われていく。
背中には悪魔のような、大きな翼が生えた。
牙をむき出しにし、鋭い爪の生えた獣に変わっていった。
「な・・・・・」
「カイト・・・様?」
「危ないって」
近づこうとしたルナリアーナを、魔法少女の一人が無理やり引き剥がした。
グアアァァァァァアアアア
天に向かって咆哮を上げる。
城の窓ガラスは割れて、砕けていった。
召喚された魔神が俺を見上げている。
意識のあるうちに、美憂を・・・。
「お、おにい・・・その姿・・・」
美憂をつまんで、そっと城の2階の端のほうに降ろした。
今にも泣きそうな顔をして、俺の爪を両手で包む。
ごめんな、美憂。
月が足りない。
魔力を集めなければ・・・・。
― 星降る夜―
魔法少女が魔法を撃ってきたが、小石にでもあたったような感覚だった。
美憂からできるだけ遠くまで離れる。
グアアァァアアア
咆哮を上げた。
魔法少女たちが、何か話している声が聞こえる。
思い出していた・・・なんでもない、あの日を・・・。
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この世界では、神と呼ばれる者が、ただのゲームのキャラとして召喚される。
おそらく俺も、人間じゃない何かだった。
真名は覚えていない。
ロストグリモワールは俺の真名が書かれているページを開いた瞬間、燃えて消えたのだ。
10歳頃までは、魔法も使えたし、前世のことも覚えていた。
どんなに魔法を使っても、マジックと同じものとされたけどな。
元々異質な者なのだから、中学のときいじめられていても、何も感じなかった。
人間と根本が違うのだと思っていた。
「おにい」
光のような声が、遠くから聞こえる。
神としての力を全て失った俺を、純粋に慕ってくれたのが美憂だ。
まだ俺について歩いていた、小さなころの美憂を思い出していた。
「美憂はどうして俺を慕うんだ?」
「あたしのたった一人のお兄ちゃんだからだよ。ねぇ、だっこして。お兄ちゃんのだっこ温かくて好き」
たどたどしい言葉で、よく抱っこをせがまれた。
父親はもういなかったから、俺が父親代わりのようなものだった。
「お兄ちゃんは、何か怖いものがあるの?」
「・・・・別に、ないよ。どうした?」
美憂の頭を撫でる。
小さくても、確かな命だった。
「あったらね、お兄ちゃんのことはあたしが守ってあげる。この魔法のステッキで」
「アニメでも見たのか?」
「うん。魔法を使う女の子がえいってするの」
おもちゃのステッキを振り回しながら駆けまわっていた。
「・・・・・・・」
優しい木漏れ日のような、穏やかで尊い日々だった。
自分が人間でいることに、感動したのを覚えている。
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美憂だけは守る。
美憂だけは絶対に、危険な目には合わせない。
ガッシャーン
壁が崩れていったようだ。
柱はそこら中に倒れて、司祭のような男たちも逃げられないようだ。
魔法少女たちの攻撃をかいくぐり、魔法陣を引っ掻き潰していく。
きゃああぁぁあああああ
大きく息を吸いこみ、業炎を吐く。
人間の悲鳴が広がっていった。
遠くのほうで司祭たちが、互いに治癒魔法をかけていた。
魔法少女の一人が必死に、遠くにいた魔法少女たちに訴えているのが見える。
魔法少女?
そんなのどうでもいい。
翼を広げて、辺り一面に炎をまき散らす。
きゃああああぁぁぁぁ
一人、また一人、魔法少女が消えていくのが見えた。
これが俺だ。
人間の皮を被った何かだ。
俺はどうあったって、完全な人間にはなれないのだから。
少しでも続きが気になったらブクマしていただけると嬉しいです。
明日も22時にアップします。よろしくお願いします。




