第九章 思い出の香り編 裏話3
毒にも薬にもならない、お話の裏話や伏線解説です。
思い出の香り編の第百五十六話「頑固な人」~第百六十二話「恋の迷宮」までをここでは少し裏話を踏まえつつ、お話します。
※ネタバレを含みます。
ネタバレが大丈夫だよ! という方、すでに完結まで読んだよ! という方はこちらを読むと、よりお話が楽しめるかな、と思います。
*第百五十六話 頑固な人
マリアが、完全に記憶を取り戻す香りを作りたい、と決心するお話。
最初は、記憶を取り戻す香りなんて……と思っていたマリアが、自ら進んで、その香りを作らなくては、とここで心改めるというか、決心するのですが、そういうちょっとした心の変化に、マリアの成長を感じていただけていたら幸いです。
ちなみに、アーサーは少しでも記憶が戻ったなら、と思っていたので、マリアの頑固さに、シャルルを重ねております。
「シャルルが気に入るわけだ」というアーサーのセリフは、今まで騎士団長として一人頑張ってきた弟の姿を見てきたからこそ。シャルルと同じくらい頑固なマリアの姿を見て、なぜシャルルがマリアに熱を入れるのか、納得できた、という感じになっています。
ラストで、シャルルが「写真の場所へ行こう」と言いますが、こちらは次の第百五十七話「写真の風景」につながっています。
*第百五十七話 写真の風景
マリアとシャルルが、ソティの故郷の村へと行く回ですね。
ここは、今までの謎が解ける、ある意味伏線回収的なお話になっているので、裏話的なものもないのですが……。
この村は、イタリアのトスカーナ地方、オルチャ渓谷と呼ばれているような場所をイメージしております。(実際のオルチャ渓谷はブドウ畑が広がっています)
小麦は秋に種をまいて、春~夏にかけて青々とした穂になり、収穫されます。秋を過ぎて訪れたマリア達が小麦の芽を見ることになったのはそんな理由です。
ちなみに、小麦の花言葉は「思い出」「清らかな愛情」
これはストレートにそのまま。どちらも、ソティのお話にかかっております。
*第百五十八話 憧れの人
思い出の穀物倉庫から、記憶を取り戻す香りのヒントをもらう回。
シャルルとマリアの、それぞれの憧れの人についてもここでお話として登場しますね。
穀物倉庫は、いわゆる「サイロ」です。
ここで、シャルルのお父さんが建築、デザインした「植物を模したフレーム」の特徴が出てきますが、ソティがおうちの植物の手すりのデザインを好きだ、と言ったのはそういう理由です。
中に、穀物を保存する倉庫なので、当然ですが草木の香りがします。
ソティと夫は、この穀物倉庫を建設している間、ずっとここで一緒に過ごしていたので、ソティにとっては、そんな干し草の香りが、夫との大切な思い出の香りです。
ここで、サイプレスが登場しますが、サイプレス(糸杉)は、キリストが磔にされた十字架に使われた木だとされていて、死と関連の深い植物だとされてきました。
その反面、常緑樹なので、作中でマリアが言うように「永遠に生きる」という意味も持ちます。
夫の死と、それに対するソティの「哀悼」を表すとともに、思い出がずっと心の中で残り続けるように、という意味を込めて、ここではサイプレスを登場させました。
*第百五十九話 干し草と太陽
マリアが、ソティの思い出の香りを調香、完成させるお話。
ここで登場する香りは、ゲランの「ジッキー」という香りを参考にさせていただいた経緯があります。
こちらの香水も、素敵な裏話があるので、ぜひぜひご興味ありましたら、調べてみてください♪
ちなみに、シャルルの父をミュシャに紹介していたかも、という描写が出てくるのですが、後々、ミュシャの独立したお店の看板に、シャルルの父親が作ったものが使われていて、こことつながっております。(相当わかりにくいですね。笑)
*第百六十話 思い出の香り
マリアの香りによって、ソティの記憶が戻る回です。
ソティの過去の回想と合わせて、この章の山場、お楽しみいただけておりましたら幸いです。
二人が、村を出るときにとった写真は、ソティにとっても自分の生まれ育った村と決別する最後の写真となりました。
夫がこの写真を生涯大切に持っていたのは、ソティと最初に出会った場所だから、という理由もありますが……駆け落ち同然で村を出たソティを必ず幸せにしようという覚悟を忘れないようにするためかもしれませんね。
ちなみに、ソティは村の領主の娘なので、土地持ちの上流貴族です。シャルルの父は、建築家として名をはせ、名実ともに貴族となりますが、それもソティのためにがむしゃらに働いていたからです。
シャルルは(アーサーも)そんな父の姿を見て育っているので、仕事には人一倍熱心ですね。
*第百六十一話 祝杯
記憶が戻ったことをお祝いする回であり……シャルルの告白回でもあります。
本編全体を通して最大の裏話になりますが(笑)、実は、ここでシャルルに告白させるつもりは微塵もありませんでした。
当初は、シャルルは告白をせずに身を引くか、もう少し後の話で(それこそ、開花祭編とか、ラスト直前、なんならケイとマリアが付き合った後に)告白をさせようと考えていました。
それが、書き始めたところなぜかこういうことになり、どうすればいいのか分からず、かなり長い期間、ここで筆をおいた記憶があります。
大体、お話を書くぞ! というときには、割としっかりめにプロットを書くタイプの人間なので、この章が終わった後には、ミュシャの独立の話を書くつもりでした。
それが、こういうことになり、かといって書き直してもなんだかうまく収まらず……急遽プロットの方を改訂することになったのを覚えています。(苦笑)
結果、クレプス・コーロ編(最初の構想には全くなかった章です)を追加することになったのですが、グィファンやヴァイオレットのおかげで楽しくマリアと恋愛について考えることが出来たので、結果オーライ(?)と思うことにしております。(笑)
*第百六十二話 恋の迷宮
マリアが、恋を意識するようになる回ですね。
思い出の香り編の最終話であり、この次のクレプス・コーロ編のつなぎになっている回です。
急遽クレプス・コーロ編を書くことになったので、ここでこういうお話を入れて帳尻を合わせました、というお話です。(苦笑)
マリアというより、私が、迷宮に陥っている感じの内容ですね……。反省しております。
駅舎がシャルルの父親が建設したものだという裏話を、シャルルの過去のお話に合わせてここで登場させております。
シャルルのことを考えると胸が苦しい、というのは、私の悩みです……。
新キャラがラスト、急に登場しますが、これは急遽クレプス・コーロ編を入れることになったからです!!(笑)
自分への戒めとして何度も書かせていただきます。(猛省しております)
そんなわけで、お話全体を通して第四部の、思い出の香り編は、こうして幕を閉じました。
次のクレプス・コーロ編は、開花祭編へのつなぎとして、またある程度四部の締めとしてのお話になっています。
急遽追加したとはいえ、お話として成立するように、今までに書いたお話を読み返し、回収できる伏線や、お話のつながりになりそうなところはすべて使っていこう、という気持ちでプロットを起こしました。
クレプス・コーロ編もきっちり、この次から裏話をお話させていただきます!
ぜひ、お楽しみに。




