第八章 西の国編 裏話3
毒にも薬にもならない、お話の裏話や伏線解説です。
西の国編の第百三十三話「最大のヒント」~第百四十話「二通の手紙」までをここでは少し裏話を踏まえつつ、お話します。
※ネタバレを含みます。
ネタバレが大丈夫だよ! という方、すでに完結まで読んだよ! という方はこちらを読むと、よりお話が楽しめるかな、と思います。
*第百三十三話 最大のヒント
ケイが娼館の香づくりをお手伝いするお話。
娼館の香づくりが、ここで一気にゴールへ近づきます。ヒントとなるタバコの香りについては、実はパーキン編や、その後の収穫祭編 第九十九話「パーキンとキャンドル作り」が伏線になっておりました。
次の第百三十四話「タバコの葉」でも、パーキンが登場しますね。
また、香りづくりと合わせて、マリアとケイの距離感がぐっと近づく回になっていました。
*第百三十四話 タバコの葉
マリアがパーキンのところへタバコの葉をもらいにいくお話。
パーキンの奥様が登場する回でもあります。
ここで登場するタバコの葉は、実際に香水の材料としてもつかわれたりすることがあるんだそうです。スモーキーで甘い、大人っぽいセクシーな香りだと言われます。
タバコにも実は花言葉があります。
「困難を乗り越える」と「孤独な愛」の二つを、この西の国編に当てはめています。
「困難を乗り越える」は、まさに娼館の香づくり、という困難をマリアがこのタバコの葉を使って乗り越える姿に当てはめています。
「孤独な愛」は、娼館のイメージそのものであり、トーレスの西の国への思い、みたいなものも少し含まれています。
トーレスが故郷とのつながりを絶ち、一人、西の国を思う気持ちはまさに「孤独の愛」がふさわしいかな、と思います。
*第百三十五話 ケイの土産、マリアの香
ケイがマリアにお土産をプレゼントする回であり、マリアが娼館の香を完成させる回です。
ケイがマリアにプレゼントした赤いワンピースは、第百十九話「足取り」でケイが購入したもの。この後、何度かマリアが着ていて、作中でもたびたび登場するお洋服となりました。
そして、娼館の香が完成し、ケイが「調香師は時を売る」の意味が分かった、という感じの描写がラストにあります。
香りで過去を思い出す、まさに「時を売る」マリアの技量をケイが垣間見る瞬間です。
*第百三十六話 娼館の香
マリアが完成させた娼館の香を、トーレスに贈る回。
マリアが、自分の知らない香りを、人から聞いた情報を頼りに調香する、というマリア自身の調香師としての成長が描かれています。
それと同時に、故郷への思いを、トーレス自身が自覚するお話になっていて、結構個人的には印象深いお話になりました。
それぞれがいろんなことに思いを馳せる香りというか……マリアとケイとトーレス、三者三葉の思いの詰まった香りになりました。
*第百三十七話 トーレスの思い出
マリアが無事に調香師としての責務を果たすお話ですね。
一言で言い表すのが難しい、なんとも言えない回ですが……トーレスとマリアの成長がここで描かれています。
マリアは、調香師は時を売る仕事だ、とリラから聞かされてきて育っていますし、そういう調香師になりたい、と頑張って仕事をしてきていますが、実際にそれを感じる瞬間はそう多くはありません。
娼館の香では、トーレスの喜びを目の前で見て、マリア自身もそういう調香師に近づけているのだ、と実感することが出来ました。
トーレスが「手紙を書くから」と言っているのですが、こちらは西の国編の最後、第百四十話「二通の手紙」に登場します。
*第百三十八話 祖母を身近に
マリアが久しぶりに実家へ戻るお話。
この後の、祖母の墓参りへのつなぎになっております。
祖母も昔、香りの強いものを調香していた、というエピソードがあり、マリアも祖母に親近感がわく、というか……憧れとして、遠い存在のように思っていた祖母に、自分が近づけているんだな、と思うお話です。
ここで、ミュシャがいつかマリアが店に一人くらいお金の管理ができる人を雇ってくれないか、と考えているのは、それから編のマリアの旅立ちの伏線になっています。また、最終的にケイと結婚し、ケイにお店を手伝ってもらっていたりするので、そういう意味でも伏線ですね。(笑)
*第百三十九話 成長と寂寞
祖母リラのお墓参りへ家族みんなで行く回です。
両親が、マリアやミュシャの成長を感じ、ちょっとだけセンチメンタルな感じになる回でもあります。
収穫祭編でミュシャがマリアにプレゼントしたキモノが、ここでも登場します。マリアと色違いのカーディガンを羽織っているミュシャのお話は、番外編で書いていますので良ければぜひ、そちらも合わせてお楽しみください♪
また、ここではマリアがリラのお墓にライラックのアロマキャンドルを添えるのですが、こちらはマリアがはじまり編で抽出したライラックの精油を使ったものになります。ライラックのお花は、春先にしか咲かないので、お花の代わりにアロマキャンドルを添えています。
ここの最後で、ケイと遭遇し(本当に遭遇率が高いですね)キモノ姿を褒められて、マリアが、リラが唯一教えてくれなかったこと「恋」について思いを馳せますが、これはもちろん、この後の展開に備えての描写でした。
*第百四十話 二通の手紙
マリアのもとに、シャルルとトーレスから手紙が届くお話。
トーレスのお手紙から、トーレスが西の国での出来事は悪いことばかりでなかった、と前向きに感じられるようになっていることが分かります。
トーレスにとっては、マリアが一番人生に変化を与えてくれた人物かもしれません。
そして、もう一通、シャルルからのお手紙は、この後の「思い出の香り」編のつなぎになります。
トーレスにマリアがプレゼントした「娼館の香」から、シャルルは「ある依頼」をマリアに頼もうと決意します。
その依頼が何なのか……というところで次の章へ移るわけですが、第三部の終わりとしてはちょっとずるい感じの終わり方でしたね。(笑)
お話全体を通して、この西の国編はまるまる一つで、第三部、という位置づけだったので、割と話数の多い章になりました。
序盤のドキドキから、終盤のほっこりまで色々と詰め込んだつもりなので、色々と知ったうえでもう一度読み返すと、また違った楽しみ方が出来るかも(?)しれません!
良ければ、ぜひ、何度でもお楽しみください。(笑)
次回は、いよいよシャルルさんがメインな「思い出の香り編」! お楽しみに。




