第八章 西の国編 裏話2
毒にも薬にもならない、お話の裏話や伏線解説です。
西の国編の第百二十三話「交渉」~第百三十二話「ケイの帰国」までをここでは少し裏話を踏まえつつ、お話します。
※ネタバレを含みます。
ネタバレが大丈夫だよ! という方、すでに完結まで読んだよ! という方はこちらを読むと、よりお話が楽しめるかな、と思います。
*第百二十三話 交渉
シャルルがトーレスに、血族破棄を提案するお話。
西の国の思惑とか、トーレスの今までの待遇とか、そういったものを踏まえてシャルルは血族破棄が最も良い案だと提案するわけですが……。王族相手に「家族と縁を切れ」と命令しているようなものですから、相当すごいですね。
国を守るためなら自分の命も差し出せるシャルルだからこその提案でした。
トーレスがこれを受け入れるのは、今までの自分を変えたい、という思いと、両親や兄たちへの復讐心があるからです。西の国で王族から血族破棄をする人間が現れる、という前代未聞の行為は、民衆からの王族への不信感も高まり、権威の失墜につながります。そういう意味で、トーレスはここで復讐を果たそうとしています。
*第百二十四話 証言と全貌
ケイが本国に戻り、事件の全貌が明らかになる回。
ケイは人相書きだけでトーレス王子の逃亡という真実にたどりついた他、その裏にもっと大きな何かがある、と気づいているので、とっても優秀です。
この回では、全貌が見えたことで、シャルルとケイが解決に向けて動き出します。西の国民たちにこの事件を知らせる、というケイの任務は、この後、第百二十九話「正義の形」以降への伏線でした。
ラスト、パルフ・メリエでマリアが調香をしているシーンが少し出てきますが、こちらはディアーナ王女への調香をしています。こちらは、この後の、第百二十六話「内省」につながっていますね。
*第百二十五話 思い出す痛み
ケイが、ようやくトーレスと出会うお話。
ここで、トーレスはようやく自分は孤独で、辛かったのか、と気づくことになります。この気づきこそが、この後のトーレスの成長、心変わりを後押ししてくれております。
そして、マリアもまた、トーレスの過去を改めて認識することで、この人に何かしてあげたい、と思うのですが、こちらはこの後に出てくる「娼館の香」づくりへのつなぎになっています。
このお話で少しだけ書いているスラム街とトーレスのつながりについては、番外編でも少し触れておりますので、良ければぜひご覧ください。
*第百二十六話 内省
トーレス達が王城へ行く回ですね。マリアがディアーナと久しぶりに会う回でもあります。
王城への道中で、トーレスは、初めて自分の国との違いを知り、そして自分たちのしてきたことの愚かさみたいなものを痛感します。
もう一度やり直したい、と思う気持ちは、この後のディアーナとの対話や、騎士団として歩んでいくことへの伏線(?)というか、動機になっています。
ちなみに、ここでトーレスは、ようやくマリアがすごい調香師なんだ、と気づきます。マリアは自分がすごい調香師だとは思ってもいないので、認識の齟齬が起きてますね。(笑)
*第百二十七話 伝言
マリアがトーレスの気持ちを、ディアーナに伝えるお話。
伝言を聞いたディアーナはトーレスのもとへ向かいますが、このまっすぐな行動は、自分で思いを伝えられないトーレスとの対比になっています。
二人は同じ王族ですが、育ってきた環境が正反対なので、アクションの起こし方も正反対です。
ちなみに、ここでの調香はディアーナが収穫祭編のラストでマリアに頼んでいた、誕生日に向けての香りです。
成長するディアーナの様子を、さなぎが蝶になる様子に重ねて、そんなイメージの香りを作っていますが、これはカントスの影響。
マリアは今までそういったイメージをもとにした香りは作ってきませんでしたが、ここでそういう香りが作れるようになっていて、調香師としても成長していることが分かります。
*第百二十八話 秋の雪解け
ディアーナとトーレスが和解(?)をする回です。
ディアーナは、婚約を破棄した責任を感じて謝罪をしますが、この時は泣いてしまうほどパニックです。一方でトーレスは、こういった時に落ち着いて話ができるので、ここでも育ちの違いが現れています。
未来を見つめるディアーナは、トーレスに友達になろうと提案し、過去を振り返るトーレスは、また遊びに来て、というディアーナには答えません。
二人は王族として似ている部分もありますが、それと同じくらい正反対な部分があるので、この後、二人が一緒に友達として登場するシーンがないのは、そういうことです……。
(とはいえ、良い関係を築けることは間違いないですし、トーレスはシャルルやエトワールとも知り合いなので、この後、ディアーナと関わることがあってもおかしくはないですね)
*第百二十九話 正義の形
ケイが再び西の国へ戻る回。
第百二十四話「証言と全貌」で指示された任務を遂行しております。
ここでたびたび登場する、ルビーは、情報屋の愛称です。赤い瞳だからです。(笑)
ルビーは勝利をもたらす石として昔から重宝されてきた歴史がありますが、ある意味この章で勝利を導いてくれてる人という感じですね。
ここで、ケイが正義と何だろう、と考えています。最初のころに「騎士団の仕事がかっこいいものではない」ことを嘆いていたり……ケイは結構、理想主義的なところがあります。
シャルルはどちらかというと、現実主義で冷酷非道なタイプなので、相変わらず正反対な二人です。
ちなみに、すごくどうでもいい裏話としては、ゴシップ記者のいるバー、ペテゴレッゾは、イタリア語でゴシップの意味を持つ「pettegolezzo」をそのままカタカナにしました。(笑)
*第百三十話 甘い残り香
マリアが娼館の香を作り始める回であり、トーレスとのお別れ回でもあります。
娼館の香は、マリアが知らない香りを作る、という調香師としての成長を遂げるための大事な香りです。
この後の「思い出の香り編」へ向けた成長でもあり、実は結構重要です。
このお話のラストで、トーレスとお別れをしますが、ここでもチョコレートコスモスが登場します。
最後に描写されている甘い香りは、娼館の香か、それともチョコレートコスモスの香りか、というところは、皆様の好きな方で想像してお楽しみいただければ、幸いです。
*第百三十一話 血族破棄
トーレスが血族破棄をするお話。
ただ「血族破棄をします」というだけでは西の国の王族も「はい、そうですか」とはならないので、ここではトーレスの命と引き換えに、お金を支払っています。
だから、トーレスのお父さんは「最後の最後で役に立つとはな」と言うわけですね。
このお金は、トーレスがこの後、一生をかけて騎士団として働いたお給金で返していく借金なのですが、当然一生払い続けても返しきれない金額で、これについては、シャルルだったり、騎士団そのものだったりが肩代わりして払っていくことになるという裏話があります。(一応、シャルルが血族破棄を言い出したので、その責任があります。国を守る、という意味では一番の選択肢だったので、シャルルは迷わず選んだわけですが)
この辺を書くと、あまりにも重くなってしまうので、本編からカットしました……。
また、こちらも本編で書いてないですが、この後しばらく、トーレスはシャルルのもとでお世話になっています。騎士団入団後は、騎士団の寮で暮らしますが、数日は、アーサーやソティと一緒に暮らしていたという裏話があります。
*第百三十二話 ケイの帰国
ケイが本国に戻り、マリアのもとを訪れる回。
トーレスが騎士団に入団したことも、ここで明かされていますね。トーレス逃亡事件は、ここで落ち着いた形になります。
癒しを求めて、ケイはマリアの店に向かいますが、これは、娼館の香づくりにケイを巻き込むための仕込みです。
娼館の香を知っている人物が、マリアをサポートする必要があったので、ケイには再び頑張ってもらうことにしました。(笑)
最終的に、マリアとケイにはくっついてもらう予定があったので、隙あらば、ケイとマリアを何とか接近させようとしている、というのもあります……。
ここまでが、西の国編の二部目(?)、トーレスの血族破棄編でした。
これ以降は、マリアの娼館の香づくりを中心に、西の国編がラストに向かって進んでいきます。




