第六章 調香師との出会い クリスティ編 裏話
毒にも薬にもならない、お話の裏話や伏線解説です。
調香師との出会い クリスティ編の第八十五話「クリスティ」~第九十六話「マリアの日記」までをここでは少し裏話を踏まえつつ、お話します。
※ネタバレを含みます。
ネタバレが大丈夫だよ! という方、すでに完結まで読んだよ! という方はこちらを読むと、よりお話が楽しめるかな、と思います。
*第八十五話 クリスティ
王妃様の調香試験を受けた三人目の調香師、クリスティ登場回です。
カントス編からのつなぎもあって、珍しく、章の最初から新キャラとして登場しています。
クリスティの家がある、古いレンガ造りの町は、アイラの実家である商店もある地域です。特に何かつながりがあるわけではないですが……クリスティとアイラにももしかしたら接点があるのかな、と自由に想像して楽しんでいただけたら嬉しいです♪
薬師として……という話がここで出てくるのは、この後のお話の仕込みですね。(ちょっと悲しいですが)
*第八十六話 クリスティの一日
クリスティが病院へ行ったり、カフェへ行ったりする話。
胸の痛みが、という話がここで出てきますが、これは完全に伏線ですね。クリスティの場合は、肺ではなく、心臓がやられているのですが、お医者様はそのことに気づけておりません。
ちなみにここでレントゲンが出てきますが、一応史実上は、レントゲンはこの時代には存在しているのですが、一介の町医者が持てるような代物・技術としてはまだまだ確立されていないはずなので……ここは、お話の都合上、という感じです。
そして、ここでクリスティが立ち寄ったカフェは、この後、第九十一話「薬師と調香師」でも登場します。ぜひ、チェックしてみてください!
*第八十七話 イニュラの香り
クリスティが「イニュラの香り」を調香する回。
カントス編でも少し触れましたが、フランキンセンスが再び登場。
カントスがクリスティから調香について影響を受けていることがよくわかります。
ここで登場するイニュラは、あまりなじみのないお花かもしれませんが、薬用ハーブとして使われていたりすることの多いお花です。呼吸器官を整えてくれる役割を持っています。
体に作用する効果から考えて調香をするのは、クリスティの薬師としてのバックボーンを意識しています。
*第八十八話 中庭
マリアがクリスティの家の中庭でお話をきく回。
この前のお話、第八十七話「イニュラの香り」でも登場していますが、セイボリーというお花の花言葉は「興味」
マリアが、今まで以上に興味を持って、植物や調香について勉強している姿を現しています。
この回は、ラストで暗雲立ち込める感じになっているのですが、クリスティ編の最後に持っていくために、こういう感じで少しずつ嫌な予感を漂わせていました……。
*第八十九話 マリアの夏休み
マリア達がディアーナの別荘へ遊びに行くお話。
クリスティ編があまりにも暗いので、少しだけ持ち上げようと、ここに閑話休題的な意味もこめつつ、これからのお話に備えるために入れたお話になります。(一応、カントス編の最後、第八十四話「夏休みの予定」からの伏線回収?的なお話です)
港町は、前々から出したかった町の一つで、お気に入りの町でもあるので、最後のそれから編でもロマンチックな感じで登場させています。
*第九十話 港町の夜
港町での、マリアとケイ、そしてシャルルの三人のお話です。
久しぶりに恋愛要素の絡むお話になりまして、ここで三角関係に当事者たち(ケイとシャルル)が気づいています。
ちなみに、ここで「また来ましょうね」とマリアが言うのに対し、ケイが「必ず」と言っているのですが、こちらは、無事にそれから編の夏旅で約束が果たされました。
よくよく考えると、ここで「必ず」と言い切るケイが、気持ちの上ではシャルルよりもリードしていますね。
*第九十一話 薬師と調香師
マリアが、クリスティの調香に触れるお話。
この回で、イニュラの香りをマリアが見つけるですが、これはもちろん、この後のお話の伏線です。
ちなみに、ここの回では、ガーデン・パレス編の第二十九話「調香師の役割」の伏線(?)も回収しています。(調香は、薬ではない、という感じの話ですね)
クリスティは、リラと同じく、薬のように体を癒すことは出来ない、とはしつつも、香りは心を癒す薬だ、と言います。
ここは、薬師としてのクリスティ独自の考え方で、マリアはそれに影響を受け、クリスティ編以降は、体のことを考えたり、心に作用することを考えたり、と状況に応じて色々考えながら調香しております。
ここの会話も、ほとんど、この後のお話の伏線として使われておりますね。読み返すと、自分でも悲しいです。
*第九十二話 カントスと教授
再びカントス登場回。
クリスティのもとに、カントスがやってくるこの回ですが、実はここでカントスが訪れるのはクリスティから「手紙をもらった」から。(カントスのセリフで「この間、手紙をいただきましたよね」とあります)
実は、ここでカントスが受け取った手紙は、この後の第九十五話「親愛なる調香師たちへ」で、クリスティが、あなたに会いたいと「手紙を出したことを後悔している」とある、まさにその手紙のことです。
死を覚悟したクリスティが、最後の最後で、今まで出してこなかった手紙を、カントスに会いたい、という気持ちを綴って送っていたという裏話がありました。
*第九十三話 曇天と雷鳴
クリスティとのお別れ回です。
ここは、今までの伏線(?)を全部回収しているのですが、正直、書き終えた後も投稿した後も、これでよかったんだろうか、と不安と葛藤いっぱいなお話でした。
(今でも、たまに思うことがあるくらい、強烈な回です)
この回では、クリスティの体調とともに、作中で天気が変化していきます。最後の雷鳴だけは、クリスティの死を嘆く、マリアとカントスの二人の慟哭みたいなものをイメージしています。
*第九十四話 別れと祈り
クリスティのお別れ回そのに、ですね。
ここで登場するホワイトセージは、古くから神聖なものとして扱われてきました。浄化を司るので、マリアもカントスも、クリスティの魂が正しい場所に導かれるように、という祈りを込めてホワイトセージの煙を空へとあげています。煙が、魂を導く道しるべ、みたいな感じですね。
ホワイトセージの花言葉は「家族愛」と「尊敬」
二人の、クリスティへの気持ちも表しています。
カントスの花束についても、裏話をご紹介します。
リボンのエメラルドグリーンは、クリスティの瞳と同じ色。
そして、白いユリ、カラー、勿忘草はそれぞれ、「純潔」「清浄」「私を忘れないで」の意味。
「純潔」や「清浄」はクリスティのイメージそのもの。「私を忘れないで」は、クリスティが天に昇ってしまっても、自分を見守っていてほしい、というカントスの願いが込められています。
また、クリスティ自身も、私を忘れないで、と心の中では寂しく思っています。
*第九十五話 親愛なる調香師たちへ
クリスティからお手紙が届く回。
クリスティのお手紙で、カントスは、教え子から画家、彫刻家、調香師とクリスティから見た時に印象が変わっていってますが、それだけ時間の経過があることを意味しています。
手紙を書くのは好きだけど、出すのが苦手、というクリスティの性格が良く表れていますね。
ちなみにここのラスト一文は、本編の最終章「調香師は時を売る」の伏線になります。
最終章「調香師は時を売る」で、マリアのことを綴ったお話を書こうと考えている男が登場しますが、それこそまさに、ここの回の伏線回収になっています。
*第九十六話 マリアの日記
マリアが日記を通して、今までを振り返るお話。
(ここで登場する日記は、はじまり編の第十一話「夜のお茶会」で登場する日記です)
この次の収穫祭編へのつなぎであり、ケイへの気持ちを少しばかり意識するお話であり、今までの総集編みたいなお話になっています。
お話全体を通して、二部の山場はこの次の収穫祭編なのですが、本編が完結した今振り返ると、ちょうどお話全体の半分くらいのところにあるので(本編全体で二百三十二話)、そういう意味でもちょうどよかったかな、と思います。
クリスティ編は、とにかく全体的に暗い、悲しい雰囲気だったので、皆様がどんな反応なのか、本当に不安な毎日だったのですが(苦笑)、いまだに、この章が好きだと言ってくださる方もいらっしゃって、本当にうれしく思います。




