第五章 調香師との出会い カントス編 裏話
毒にも薬にもならない、お話の裏話や伏線解説です。
調香師との出会い カントス編の第七十話「いざ、北の町へ」~第八十四話「夏休みの予定」までをここでは少し裏話を踏まえつつ、お話します。
※ネタバレを含みます。
ネタバレが大丈夫だよ! という方、すでに完結まで読んだよ! という方はこちらを読むと、よりお話が楽しめるかな、と思います。
*第七十話 いざ、北の町へ
マリアとミュシャが北の町へと向かうお話。
王城編に出てきたメックが、ぜひお礼をしたいから、とマリアは北の町へ行くことになりますが、いわずもがな、王妃様の調香試験に登場した二人目の調香師カントスとの出会いの伏線(?)です。
北の町が登場しますが、こちらはカントスが「調香を依頼通りにしてくれない」という前評判の理由と関係しています。
香りに芸術性という付加価値をつけるカントスには、植物の生育に偏りがあり、満足な調香が出来ないから、という理由があるのですが(裏話)、それを考えた時に、寒い地域かな、と北の町にしました。
*第七十一話 ティエンダ商店
メックのお店、ティエンダ商店でのお話です。
前半に登場するパンは、スウェーデンの「セムラ」がモチーフ。(カルダモンパウダー入りのパンに、アーモンドペーストのクリームが使われています)
北の町は全体的に北欧な雰囲気のものを取り入れています。
そして、メックのお店、ティエンダ商店は、王城編裏話でも書いた通り、王家に認められたお店として、青色の看板を出しています。
*第七十二話 カントス
カントス登場回ですね。
思えば、ここから彼に振り回される日々でした。忘れられません……。(笑)
ここで登場するブルンキュラというお花は、北欧の方では割とメジャーなお花です。バニラ蘭というお名前で、日本では紹介されることが多いです。
昔は、チョコレートの香りづけなんかにも使われていたりしたそうで、北の町にぴったりなお土産になりました。
実はここに、少しだけこの後の章で登場するクリスティとの関わりがある記載があります。
カントスのセリフで、マリアのことは以前から「聞いていた」、「おばあさまのことも」とあります。
クリスティ編で、クリスティがマリアの祖母に憧れていることや、クリスティがカントスの教師であったことを踏まえていただくと、カントスは「クリスティからマリアの祖母のことを聞いていた」となります。
一応、伏線とはいかないですが、こういう細かなつながりを色々と持たせています。
*第七十三話 海の香り
カントスの作った「海の香り」にマリアが思いを馳せる回。
カントス編、そして続くクリスティ編で、結構使われている「フランキンセンス」ですが、こちらは昔から薬としての一面もあります。クリスティとカントスの師弟関係を調香から感じていただければ、と思います。
ちなみに、フランキンセンスは神聖な香りとして扱われていて、教会で育ったカントスを表すイメージになっています。
*第七十四話 北からの来訪者
カントスがマリアのところへ訪れる回。
前半はアイラが久しぶりに登場して、シャルルとの恋の結末と、そして新たな恋への一歩が書かれている回になっています。
意外とこの前半が大切で、アイラのお見合いは、開花祭編への伏線になっています。ここで、冒頭にジュークボックスの描写があるのも、そのためです。(わかりにくい)
裏話として、カントスを連れてきたエトワールがマリアのすすめた焼き菓子を「勤務中だから」と断るのですが、実際は、甘いものが苦手だからです。(笑)
*第七十五話 衝撃の連続
カントスとのギャップをマリアが実感するお話。
マリアとの調香の違いを楽しんでいただきつつ、違うからこそ、そこにマリアの伸びしろがある、という感じのお話にしようと書いた記憶があります。
ここで登場するシーバックソーンという植物は、日本だと、シーベリーと呼ばれるスーパーフルーツ。お薬的な意味合いがあるので、こちらもこの後登場するクリスティの影響が色濃く出ております。
ちなみに、北欧の方では割と一般的なフルーツ。カントスが北の町出身なので、このフルーツを選びました。
ちなみに、カントスがしょっちゅうマリアの手の甲にキスをする描写が出てくるのですが、これは「尊敬」の意味です。一応、カントスの名誉のために補足でした……。
*第七十六話 カントスと雨の日
タイトル通り、雨の日のカントスのお話。
この回は、カントスが「朝に森へ出かけている」ことが分かる回であり、カントスがようやく絵を描く気になった回です。
朝に森へ出かけているのは、第八十二話「朝の香り」への伏線になります。
縁の深いクリスティがなくなるのも、どういうわけか雨の日。
カントスは、雨の香りで、楽しいマリアとの思い出と、悲しいクリスティとのお別れを思い出すことになります。
*第七十七話 ナイトクイーン
「夜の香り」に使うお花「ナイトクイーン」のお話です。
ナイトクイーンは「月下美人」の別名で、まさに夜にぴったりなお花です。
一応、このお話の舞台は洋風なので、ヨーロッパで香水として使われる香りを使ってみました。
ナイトクイーンの花言葉は「はかない恋」
このお話のメインキャラクターとなるカントスは、自分の育ての親である、教会のシスターを唯一愛する女性として扱っています。シスターはすでにこの世にはいないので、そんなカントスの愛情のちょっと切ない感じを表しています。
裏話をすると、この後、シャルルが「夜の香り」を第八十四話「夏休みの予定」で購入。こちらもマリアとの恋愛がうまくいかないので……「はかない恋」にかかっていますね。
*第七十八話 騎士団本拠地
マリアとカントスが騎士団の本拠地へと訪れるお話。
ガーデン・パレス編の最後に、ケイに看病をしてもらったお礼と、王城編で、シャルルがマリアを助けたお礼がここにようやく登場します。
一応、ここで補足しておくと、命を助けたお礼が北の町のお土産でいいのか、って感じなのですが、シャルルに関してはこの後「思い出の香り編」での出来事もあるので、それでつり合いをとってる感じになります。
(一応、シャルルも騎士団長としての務めを果たしたまで、という感じなので、あまり高価なものは受け取らない主義です)
*第七十九話 旧友と昔ばなし
シャルルとカントスが知り合いだった!? なお話です。
ここでようやく、教授の存在が明かされます。クリスティ編の伏線です。(実際には、第八十一話で教授に手紙を書いておこう、というセリフがあるので、そこへの仕込みみたいな感じですが)
裏話ですが、マリアがこの回でシャルルに対して「先見の明を持っている」と思っている記載。実は、第二百二十九話「マリアの秋旅」でシャルルの口から語られています。
伏線回収(?)というほどのものではないですが、この回では、こういうちょっとした仕掛けがありました。
ちなみに、この回でカントスはケイとシャルルの気持ちに気づいていますが、収穫祭編でもミュシャのお手伝いをしているので(詳細は収穫祭編裏話にて)マリアの恋路を一番よく知る人物になっています。
*第八十話 インディゴ
マリアとカントスが藍染めをするお話。
マリアの「夜の香り」の香水瓶を飾るインディゴのリボンを、ここで作っています。
インディゴ(藍)の花言葉は「美しい装い」
見た目から調香をする、というか……香水の見た目にもこだわる芸術家なカントスにぴったりの植物です。
カントスから調香に対して新しい見方を学んだマリアが、初めて作った香り。その香水瓶を着飾ってくれるのにもぴったりですね。
*第八十一話 芸術家と調香師
カントスの絵が完成する回。
パーキン編でもお話しましたが、ここのタイトルは調香師との出会い編が一つの章だった時の名残です。
マリアの「夜の香り」の調香シーンが少しと、カントスの絵が完成したシーンのバランス的にも、このお話にぴったりなタイトルになったかな、と思っています。
ラストで、カントスが「教授に手紙を書こう」といっていますが、こちらが決定的な三人目の調香師、クリスティのお話へのつなぎになっています。
*第八十二話 朝の香り
カントスが「朝の香り」を完成させる回。
ここで登場するゼラニウムというお花の花言葉は「尊敬」
カントスの、マリアに対する気持ちがよく表れている調香です。
また、ペパーミントやハチミツがここで初めて調香の材料として登場し、マリアとはまた少し違った調香をカントスがしていることが分かります。
ハチミツは、この後、「クレプス・コーロ編」でマリアも使用していますが、これはカントスの影響を受けている証です。
この後、第八十三話のタイトルであり、マリアの作る「夜の香り」との対比にもご注目ください。
*第八十三話 夜の香り
マリアが「夜の香り」を完成させる回。
夜の香りにも、フランキンセンスが登場します。あくまでもメインキャラクターがカントスなので、カントスと結びつけていますね。
最後のナイトクイーンの香りが漂う描写は、実際にナイトクイーンの香りが、ベランダに置いていても家の中まで香ってくる、ということから着想を得て書いたものです。
ちなみに、カントスが「朝の香り」を完成させ、マリアにプレゼントしたのが夜。マリアが「夜の香り」を完成させ、カントスにプレゼントしたのが朝、というどこまでもちぐはぐな感じになっています。(笑)
第八十二話「朝の香り」と合わせてお楽しみいただければ幸いです。
*第八十四話 夏休みの予定
クリスティ編へのつなぎであり、閑話休題的なお話。
夏休みの予定をシャルルから聞かれていますが、これはクリスティ編で港町へ行く伏線になっています。
まさか、王女様の別荘にお招きされるとは、という感じですね。
ここで、マリアが秋にどんな植物を植えようか、と最後の方で思案していますが、収穫祭編のあたりでこの辺のお話は少しだけ出てきます。
スノードロップは、開花祭編でハラルドがアイラに贈る香りに使われるので、ここではその仕込みもしています。
カントス編は、本当にカントスに振り回された章で、今までにないくらいはちゃめちゃだったな、と思います。(笑)
そして、そんなカントスのはちゃめちゃっぷりからの落差がすごいクリスティ編がこの後に続きます……。まだまだお付き合いのほど、よろしくお願いいたします。




