第二百三十二話 結婚式
第十三章 それから編 番外 になります。
ネタバレはありません。
本編で語られなかった空白の時間を書いていますので、本編と合わせてぜひお楽しみください♪
(今回の第二百三十二話は、最終話の前のお話になります。)
城下町へと移り住んで半年。
旅から戻ると同時に店には客が殺到するようになり、マリアも人を雇わねばならなくなったし、何より多くの人に来てもらうために、と城下町へ店を出すことを選んだのである。
城下町へ店を出してからは、メックのおかげもあって良い人を雇うことが出来たし、マリアも調香師としてさらに成長を遂げていた。
そして、今日――。
「ミス・マリア」
静かな北の教会に、カントスの声が響く。ステンドグラスの色鮮やかな光が教会の床を彩り、たくさんの花やリボンに飾られた教会をより華やかに仕立てていた。
マリアは、カントスを見つめる。
「あなたは、良き妻として、夫と共に人生の苦楽を分かち合うことを誓いますか?」
「誓います」
マリアの美しい瞳が、キラキラと輝いている。カントスは琥珀色の瞳を柔らかに細めて続ける。
「では、二人は……永遠の愛を、誓いますか?」
「「誓います」」
カントスの問いに重なった二つの声。
一つは、マリアのもの。もう一つは、ケイのものだ。
「それでは、誓いのキスを」
カントスはニコリと微笑んで、二人を見つめた。
マリアとケイの薬指に輝くダイヤモンドのきらめきが、チラリと瞬く。
マリアは、目の前のケイを見つめた。
ミュシャがこの日のために徹夜までして仕立てたケイのためのタキシードが、良く似合っている。最初は緊張でしわを寄せていた眉間も、今はずいぶんと穏やかだ。
ケイの瞳に、自らの姿が映りこみ、初めて出会った日のことを思い出して、ふっとマリアは微笑んだ。
ケイも、目の前のマリアを見つめる。
ミュシャが徹夜で仕立てた純白のウェディングドレスを見事に着こなし、いつもよりも少しだけ派手な化粧も、マリアの美しさをより一層引き立てているような気がした。
マリアがふわりと微笑んだのを見て、ケイは初めて出会った日のことを思い出す。
互いの瞳が閉じられると、それから数瞬のうちに、唇に柔らかな感触。
ふわりとカモミールの香りがして、マリアとケイはゆっくりと目を開ける。
「おめでとう! 二人とも!!」
カントスの声が響き渡り、わぁっと歓声が続けば、マリアとケイは目を合わせて笑った。
教会を出れば、待ってました、と言わんばかりにたくさんの人から花びらの雨。二人への祝福の声もあちらこちらから聞こえ、マリアとケイはそれにこたえるように手を振った。
エトワールの制止を振り切ってマリアに抱き着くディアーナには、マリアも、周囲の人も驚いたが。エトワールが方々に頭を下げて回れば、それはそれでみんなの笑いを誘う。
マリアとケイを祝福する教会の鐘がカントスの手によって数度鳴らされ、青空を鳥が駆けていった。
さて、素晴らしい結婚式ももうすぐ終わり。
マリアは、カントスと共に、調香師としての知識を存分に生かして作ったブーケを握りしめる。
「よし、行くぞ!」
ケイの掛け声に、騎士団の青年たちはもちろん、祝福に駆け付けた女性陣の歓声が上がる。男女混合のブーケトスに、性別も年齢も関係ない。ブーケを取った者が、次の結婚を、というのは言うまでもなく、そんな幸せを掴みたい人達がひしめき合う。
マリアはそんな人たちに背を向けて、
「せーのっ!」
と力いっぱいにブーケを天高く放り上げた。
たくさんの花びらが人々の頭上に降り注ぎ――
「とった!!」
ひときわ明るい声が空に響く。
マリアは、その聞き覚えのある声に思わず振り返り、ケイもまた、その花束の行方を目で追いかけた。
これまたミュシャが仕立てた爽やかな色合いのドレスで、騎士団の男たちをも抑えてブーケを掲げるのはリンネで、マリアはその光景に目を疑う。ケイも、まさか騎士団の人間を、普通の女性が押しのけるなどとは思っておらず、目を見開いてリンネの姿を見つめた。
「マリアちゃん! 私、絶対幸せになるから!!」
リンネの明るい声に、マリアとケイが顔を見合わせる。遠くにいたミュシャが顔に手を当てて天を仰ぐ姿が見えて、ケイは思わず笑った。
「リンネちゃん! 絶対幸せになってね!!」
マリアがリンネに大きく手を振れば、ミュシャのオリーブの瞳がマリアをとらえる。
余計なことは言わなくていいから、とその瞳が訴えていたが、マリアはただ笑みを返しただけだった。




