第百三十一・五話 新しい居場所
第八章 西の国編 番外 になります。
ネタバレはありません。
本編で語られなかった空白の時間を書いていますので、本編と合わせてぜひお楽しみください♪
(今回の第百三十一・五話は、第百三十一話から第百三十二話の間に起こったお話になります。)
入団テストの結果に、シャルルはふむ、とトーレスを見やる。
「ふん、大したことないな」
血族破棄をし、ただの一庶民となったトーレス。だが、立場を自覚するような出来事があるわけでもなく、性格がそうそう改まるわけでもない。ゆえに、横柄な態度は王族のころのままだ。
シャルルはそのうち嫌でも矯正される、と気に留める様子もなく、どうすべきか、とトーレスの配置に思考を巡らせた。
さすがは王族。
愛情を注がれてはいなかったようだが、教育だけはしっかりと施されている。そのおかげか、トーレスには確かな剣術の腕もあり、銃の腕もある。馬にも乗れるし、難関と呼ばれる筆記試験の成績もよい。
なんでもこなせる、ということはそれだけ騎士団での仕事の選択肢が多いということ。
「エトワールが抜ける分、第三部隊に配置しても良いけど……」
ケイならば、このトーレスにもしっかりと教育をつけてくれるだろう。おそらく、お互いに嫌悪するだろうが、悪い話ではない。
しかし、とシャルルは組織表を見つめる。
昨年、経理担当の人間が年齢を理由に退職し、この半年は青年一人でなんとかやりくりをしていたところである。優秀なのでここまではなんとかなっているが、そろそろ悲鳴も聞こえてきたところだ。
人事や事務を担当している人間がカバーしてくれてはいるものの、それもいつまでもつか。
トーレスは立場もある。いくら第三王子で、社交場以外にはほとんど姿を見せることはないとはいえ、隣国の王族だった人間だ。
それも、かなり汚いやり口で色々としでかしてきた、という噂もある。
この王国には、当然、西の国からやってきた人も大勢いる。外回りの仕事に就かせて、何かあってからでは遅い。
「第六部隊、だな」
シャルルは、決めた、とトーレスの名前を第六部隊の名簿に加えた。
「第六部隊?」
「あぁ。騎士団の経理を君には担ってもらうことにしたよ。金勘定は得意なようだしね」
トーレスは、シャルルの物言いに目を見開く。皮肉もいいところだ。
「思っていたよりも、ずいぶんと性格が悪いな」
トーレスが素直にそう言えば、
「それは褒め言葉として受け取っておくよ」
とシャルルは笑った。
◇◇◇
「……というわけで、今日から第六部隊で経理担当をしてもらうトーレスだ」
シャルルが第六部隊の部屋――事務室でトーレスを紹介すれば、第六部隊の面々は目をパチパチと瞬かせた。人手が足りない、人を増やしてほしい、と散々シャルルには伝えてきたが、それを実現してもらえるのは来年だと思っていたのだ。冬の入団テストが終わるまでの辛抱だ、と全員でそんな話をしていたのである。
「おや? 必要なかったかい?」
シャルルの問いに、全員が顔を見合わせ、慌てて頭をブンブンと横に振る。
「いえ! その、まさかこんな時期に、ここへ入れていただけるとは思ってもおらず」
「そうですね、自分も人事担当として彼の試験には付き添いましたが……てっきり、第三部隊へ入れるかと」
エトワールがじきにいなくなることを考えれば、そこへ補充するのが普通だ。第六部隊は裏方で、後回しにされてもおかしくはない。
「でも、いきなり経理担当なんて……できんのか?」
事務担当の男は、トーレスのことを疑っているわけではないが、経理の仕事量を考えれば当然のことだった。特にトーレスは、見た目がいいせいか、それとも元王族としての威厳か、どうにも厳しい仕事には耐えられなさそうな――いかにも、おぼっちゃま、という雰囲気である。
「大丈夫だよ。こう見えて、トーレスはもともと国の財務を担当していたくらいだからね」
シャルルの言葉に、その場にいた全員が目を見開いた。もちろん、当の本人であるトーレスも。
「な!?」
トーレスがシャルルの方へ慌てて視線を向ければ、シャルルはいつもの爽やかな笑みを浮かべる。
「嘘はいってないよ」
「それとも……やっぱり、自信がないのかい? トーレス」
「なんだと!? そんなわけあるか! やってやるよ、経理でもなんでも!」
シャルルが人を動かすのがうまいのか、トーレスがチョロいのか。
第六部隊の面々は、そんな二人の掛け合いに、思わず笑みを浮かべる。
「それじゃぁ、まぁ……」
「改めて、第六部隊へようこそ! トーレス!」
経理担当の青年たちにあたたかく迎えられ、トーレスはこの日、晴れて王国直轄、騎士団、第六部隊の人間となったのだった。




