表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
34/88

第百三十一・五話 新しい居場所

第八章 西の国編 番外 になります。

ネタバレはありません。

本編で語られなかった空白の時間を書いていますので、本編と合わせてぜひお楽しみください♪

(今回の第百三十一・五話は、第百三十一話から第百三十二話の間に起こったお話になります。)

 入団テストの結果に、シャルルはふむ、とトーレスを見やる。

「ふん、大したことないな」

 血族破棄をし、ただの一庶民となったトーレス。だが、立場を自覚するような出来事があるわけでもなく、性格がそうそう改まるわけでもない。ゆえに、横柄(おうへい)な態度は王族のころのままだ。

 シャルルはそのうち嫌でも矯正(きょうせい)される、と気に留める様子もなく、どうすべきか、とトーレスの配置に思考を巡らせた。


 さすがは王族。

 愛情を注がれてはいなかったようだが、教育だけはしっかりと(ほどこ)されている。そのおかげか、トーレスには確かな剣術の腕もあり、銃の腕もある。馬にも乗れるし、難関と呼ばれる筆記試験の成績もよい。


 なんでもこなせる、ということはそれだけ騎士団での仕事の選択肢が多いということ。

「エトワールが抜ける分、第三部隊に配置しても良いけど……」

 ケイならば、このトーレスにもしっかりと教育をつけてくれるだろう。おそらく、お互いに嫌悪するだろうが、悪い話ではない。


 しかし、とシャルルは組織表を見つめる。

 昨年、経理担当の人間が年齢を理由に退職し、この半年は青年一人でなんとかやりくりをしていたところである。優秀なのでここまではなんとかなっているが、そろそろ悲鳴も聞こえてきたところだ。

 人事や事務を担当している人間がカバーしてくれてはいるものの、それもいつまでもつか。


 トーレスは立場もある。いくら第三王子で、社交場以外にはほとんど姿を見せることはないとはいえ、隣国の王族だった人間だ。

 それも、かなり汚いやり口で色々としでかしてきた、という噂もある。

 この王国には、当然、西の国からやってきた人も大勢いる。外回りの仕事に()かせて、何かあってからでは遅い。


「第六部隊、だな」

 シャルルは、決めた、とトーレスの名前を第六部隊の名簿に加えた。

「第六部隊?」

「あぁ。騎士団の経理を君には(にな)ってもらうことにしたよ。金勘定(かねかんじょう)は得意なようだしね」


 トーレスは、シャルルの物言いに目を見開く。皮肉もいいところだ。

「思っていたよりも、ずいぶんと性格が悪いな」

 トーレスが素直にそう言えば、

「それは()め言葉として受け取っておくよ」

 とシャルルは笑った。


 ◇◇◇


「……というわけで、今日から第六部隊で経理担当をしてもらうトーレスだ」

 シャルルが第六部隊の部屋――事務室でトーレスを紹介すれば、第六部隊の面々は目をパチパチと(またた)かせた。人手が足りない、人を増やしてほしい、と散々シャルルには伝えてきたが、それを実現してもらえるのは来年だと思っていたのだ。冬の入団テストが終わるまでの辛抱だ、と全員でそんな話をしていたのである。


「おや? 必要なかったかい?」

 シャルルの問いに、全員が顔を見合わせ、(あわ)てて頭をブンブンと横に振る。

「いえ! その、まさかこんな時期に、ここへ入れていただけるとは思ってもおらず」

「そうですね、自分も人事担当として彼の試験には付き添いましたが……てっきり、第三部隊へ入れるかと」

 エトワールがじきにいなくなることを考えれば、そこへ補充するのが普通だ。第六部隊は裏方で、後回しにされてもおかしくはない。


「でも、いきなり経理担当なんて……できんのか?」

 事務担当の男は、トーレスのことを疑っているわけではないが、経理の仕事量を考えれば当然のことだった。特にトーレスは、見た目がいいせいか、それとも元王族としての威厳(いげん)か、どうにも厳しい仕事には耐えられなさそうな――いかにも、おぼっちゃま、という雰囲気である。


「大丈夫だよ。こう見えて、トーレスはもともと国の財務を担当していたくらいだからね」

 シャルルの言葉に、その場にいた全員が目を見開いた。もちろん、当の本人であるトーレスも。

「な!?」

 トーレスがシャルルの方へ(あわ)てて視線を向ければ、シャルルはいつもの爽やかな笑みを浮かべる。

「嘘はいってないよ」


「それとも……やっぱり、自信がないのかい? トーレス」

「なんだと!? そんなわけあるか! やってやるよ、経理でもなんでも!」

 シャルルが人を動かすのがうまいのか、トーレスがチョロいのか。

 第六部隊の面々は、そんな二人の掛け合いに、思わず笑みを浮かべる。


「それじゃぁ、まぁ……」

「改めて、第六部隊へようこそ! トーレス!」


 経理担当の青年たちにあたたかく迎えられ、トーレスはこの日、晴れて王国直轄(ちょっかつ)、騎士団、第六部隊の人間となったのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ