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第百二・五話 瓶立てゲーム

第七章 収穫祭編 番外 になります。

ネタバレはありません。

本編で語られなかった空白の時間を書いていますので、本編と合わせてぜひお楽しみください♪

(今回の第百二・五話は、第百二話のおまけ、作中に登場した瓶を立てるゲームのお話になります。)

 リンネとカントスは、とにかくゲームが好きなようだった。いや、というよりも、あまりこういうことをしてきた経験がないのか、どの屋台を見ても新鮮そうで、チャレンジできそうなものがあれば、やってみたい、というところだろうか。

 当然、それにはマリアとミュシャも付き合わされるわけで、次から次へといろんなゲームに参加していく二人の後ろを苦笑しながらも、追いかける。


「お、そこの兄ちゃんたち! これ、挑戦してみるかい?」

 特に、背の高いカントスはよく目立つらしい。そうでなくても、派手な格好をしているリンネとマリア、それに中性的な見目のミュシャと、目立つ要素ばかりだが。


「いったいこれは何だい?」

 カントス達の前には、木の板と、その上に寝かされているワインボトル。それに、わっかのようなものが先端についた、釣り竿のような棒。

「瓶立てゲームさ」

「瓶立てゲーム?」

 知っているかい? とカントスに(たず)ねられ、マリア達も、これは見たことがない、と首を振る。


「お、全員初めてか。どれ、それじゃ、俺が手本を見せてやろう」

 店主は、目の前に置かれていた棒を持ち上げ、器用に先端のわっかをワインボトルの口へひっかける。そして、そのまま体の方へそれを引っ張ると、ボトルはゆらゆらと揺れながらも、しっかりと立ちあがった。


「これのどこがゲームなの?」

 ミュシャが声に出せば、店主も、ふふん、と自慢げな顔で

「ま、やってみればわかるってことよ。さ、どうだい?」

 とミュシャを(あお)る。ミュシャは、はぁ、とため息をついて、コインを一枚、店主の方へ投げた。どうやら、マリアにいいところを見せたいらしい。


 ミュシャがやるとなれば、リンネとカントスも黙っているはずもなく。

「私もやる!」

「私も、ぜひ挑戦してみよう!」

 二人は(そろ)いで手をあげて、コインを店主に渡す。ミュシャの隣に並んで、さっそく棒を持ち上げた。

「ま、まずは何も言わねーからやってみな」

 マリアは、そんなに難しいのだろうか、と三人の様子を見守ることにした。


 数分後。

 瓶を一度も立てられないままのカントスとリンネ、そして、慎重に慎重を重ねてゆっくりといまだ瓶の重心をはかっているミュシャの姿がそこにはあった。

「これは、意外と難しい」

「ねぇ、おじさん! コツとかないの!?」

 リンネはそうそうにギブアップ、と言わんばかりに、店主の方へと助けを求める。


「いやいや、そこのお嬢ちゃんが諦めるまでだな」

 ミュシャのことを女性と勘違いしているらしい。ミュシャは

「僕は、男だ!」

 とその勢いで棒を引き上げ――ゴロン、とワインボトルは転がって倒れた。


 基本的に、いろんなことを器用にこなすミュシャが苦戦しているのは、珍しい。

 マリアは

「見るのとやるのでは、全然違うのね」

 とフォローのつもりで、ミュシャに微笑む。


 それで火が付いたのか、ミュシャはコインをもう一枚ポケットから取り出すと、

「コツは教えなくてもいいよ。おじさん、もう一回」

 と店主に放り投げた。

 どうやら、ミュシャの中の変なプライドが顔を出したようである。


 いつの間にか、マリア達の周りには観衆が集まっていた。

「これ、俺もやったけど結構難しいんだよ」

「私は、去年立てたわよ!」

「あの子、すっごく真剣」

「ねぇ、見てあれ! 何かしら」

 わらわらと集まっている観衆が、さらに多くの観衆を呼ぶ。


 ミュシャも、失敗するたびに、負けず嫌いなのかなんなのか、もう後にはひけない状況になっていて、当然それを見守るマリア達も、ミュシャの一挙手一投足にはごくりと固唾(かたず)を飲んで見守っていた。


「……これで、最後だ」

 感覚はつかめた、とミュシャは、ワインボトルの口にわっかを差し込む。そして、ゆっくりと糸を引き上げていく。

 ここまでは、誰でもできる。問題はこの後。


 ワインボトルの重心と、板のバランスを見極め――

「ここ!」

 持ち上げる!

 ミュシャは、糸を引き上げ、揺れるボトルの重心に合わせてわっかを操った。


「た、立ったー!!」

 リンネの声と、周りの観衆がわぁっと声を上げる。

「すごいじゃないか! ミュシャくん! おめでとう!」

「すごい、すごいわ! ミュシャ!」


 ミュシャの手を握って微笑むマリアに、ミュシャは何が得られたというわけでもないのに、満足げな笑みを見せた。


 だが、まさか、こんなに目立つことになろうとは思ってもみなかったし、ここまで熱くなるとも思っていなかったミュシャは、屋台を去り、次のゲームを始めるころにはすっかり恥ずかしくなっていて、しばらくは口も開かなかったという。

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