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第五十九・五話 陰の立役者

第三章 王城編 番外 になります。

ネタバレはありません。

本編で語られなかった空白の時間を書いていますので、本編と合わせてぜひお楽しみください♪

(今回の第五十九・五話は、五十九話の後のお話。六十話の補足も兼ねています)

 マリアは、新聞の一面に笑みを浮かべた。

『ディアーナ王女、婚約。お相手は、騎士団一の注目株、エトワール』

 見出しとともに、満面の笑みを浮かべた二人の写真が掲載されており、それはもう素晴らしい記事である。

「二人とも、本当に素敵だわ」

 マリアはティーカップに口をつけながら、その記事をゆっくりと読み上げた。


 特に、エトワールについては情報もあまり多くなかったせいだろうか。もはや、特集のように取り上げられている。

「エトワールさんも大変ね」

 マリアが苦笑を浮かべてしまうほどには、記者たちの取材に熱がこもっていることが記事からわかる。

 まじめなエトワールのことだ。すべて丁寧に対応したのだろう。


 エトワールの経歴はもちろん、出自や、婚約者候補に選ばれたときの様子、これからのことなど……。本人を知っているマリアでさえ、ついついその文字を追いかけてしまう。

 これほどまでに騒がれているのは、シャルルが騎士団長に就任した時以来だろうか。

 ディアーナ王女の婚約者としても、騎士団の青年としても、今後ますます注目されていくに違いない。


 マリアは、記事の最後、締めの文章を読み、新聞をたたむ。

 ――まさか、その記事の裏側に、『王女婚約の裏側、陰の立役者』などという記事が載っているとは知らずに。


◇◇◇


 時を同じくして、騎士団本拠地では……。

 連日の取材のせいか、疲労の色が隠しきれいていないエトワールと、そしてその上司ケイ、第六部隊の面々に、シャルルという、なんとも不思議なメンバーが事務室に一堂に会していた。


 口を開いたのは経理担当の青年である。

「とりあえず、この手紙の山をなんとかしてもらえませんか」

 彼が指さした先には、事務机の上からあふれてしまうのではないか、と思わしき量の手紙。


 続けざまに、人事担当の青年たちも声を上げる。

「今朝から問い合わせもすごくて!」

 電話のベルが鳴り響き、言い終わると同時に彼は受話器を取り上げた。緊急の連絡の場合もあるので、無視することもできないのである。

「団長! なんとかしてくださいよ!」


 そう。騎士団の庶務を一手に引き受ける第六部隊は、騎士団宛に届いた手紙の整理から、電話対応なども行う。

 そんなわけで、事務室には婚約発表でエトワールの姿を見た人間からの手紙(これには、祝福する声もあれば、とてもエトワール本人に見せられるような内容でないものもある)や、新聞記事を見た記者たちからの電話が次から次へと押し寄せていたのだった。


「すみません……。まさか、こんなことになるとは」

 エトワールが平謝りする隣で、ケイは眉間にしわを寄せた。第六部隊の面々は、そんなケイの表情にごくりとつばを飲むが、黙っていられるほどの状況でもない。

「えぇっと……できれば、一緒にお手伝いをお願いしたく……」

 いつもはシャルルに強気な経理担当の青年でさえ、ケイにはこの程度だが。


 どうすべきか、とケイも考えていたがいい案は思い浮かばない。

「いや、すまない。第三部隊でほかに手が空いているものにも手伝ってもらうしかないな。エトワールのせいではないとはいえ……迷惑をかけてすまなかった」

 ケイが頭を下げれば、

「そ、そんな! 隊長殿にみすみすお手を(わずら)わせるなんて、こちらこそ!」

 電話を終えたばかりの人事の青年が頭を下げる。エトワールも

「いえ! もともとは僕が!」

 深々と頭を下げれば、もはや、収集もつかなくなった。


 そんな彼らの様子を、シャルルはクスクスと笑みを浮かべる。

「まぁまぁ。人の噂も七十五日、というし。僕も手伝おう。どうせ、この手紙と電話の中には、僕と、ケイ宛のものも含まれているさ」

「は?」

 どうして自分が、とケイが言いかけたところでシャルルは机の上に山積みになった手紙から、一枚封筒を取り出した。


「ほらね」

 シャルルが差し出した封筒。確かにそこには、宛名のところに、ケイの名前がしっかりと書かれていた。


「な……!?」

 ケイが目を丸くすると、シャルルはニコリと微笑んで、

「ケイ宛だよ」

 とその手紙をケイの方へと差し出す。

「なんとなく予想はしてたけど。まったく、おしゃべりな人には困ったものだね」

 今度は手紙の奥に埋もれた新聞をそっと抜き出して、シャルルはそれを開いた。


 この騒動の元凶である新聞記事。

もう、見飽きた、といわんばかりにエトワールが苦笑するも、シャルルがケイたちに見せたのは、その裏側の記事であった。

「王女婚約の裏側、陰の立役者。これ、なんだかわかる?」

 ケイは、はて、と首をかしげる。第六部隊の面々も、そこまでは記事を読んでいなかった、とばかりに顔をそろえて、新聞記事を見つめた。


「えぇっと……。王家の別荘が爆発……?」

「ハザートの悪事を見事に解決」

「シャルル騎士団長、ケイ第三部隊隊長のお手柄!!」

 続く記事を交代で読み上げて、シャルル以外の全員が「え」と声を上げる。


「誰だか知らないけど、こういうのは公表しない方がかっこいいのにねぇ」

 のんびりと、まるで他人事のように笑うシャルルは、新聞を片手に、手紙を丁寧に仕分けていく。

 その場にいた全員が、合点がいった、とばかりにうなずいた瞬間であった。

それから全員で、あきらめたようにゆっくりと手紙の山へと手を伸ばす。


「とりあえず、何人か手の空いている人間を集めてくるよ」

 シャルルは、全員がそれぞれに手を動かし始めたのを見て、新聞を折りたたむ。

「電話については、僕の方に回してくれ。すべて対処する」

 新聞をケイの方に手渡して、それじゃ、とシャルルは事務室を後にした。


 ケイとすれ違う瞬間、

「ま、陰の立役者は僕らだけじゃないけどね」

 シャルルがそういった気がして、ケイは首をかしげる。


 ケイは、その新聞を受け取り、どういう意味だ、と先ほどのページを開く。

 嫌な予感がする、と思った矢先――


「ディアーナ王女も絶賛……調香師、マリア!?」

 いつの間に、そして一体誰が。

 ケイの驚いたような表情に、第六部隊の面々はつられて驚き、エトワールはその名前に、どこか懐かしそうに微笑んだ。


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