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マギクラフト・マイスター  作者: 秋ぎつね
05 旅路その1 エリアス王国篇
99/4299

05-08 襲撃

「賊!?」

 まさか、こんな場所で襲われるとは思わなかった一行である。

「ここは、峠から急勾配で下りてきた場所。峠からは見えない。距離もあるし衛兵も気が付かない」

 エルザが冷静に分析する。

「普通は上から攻めるのが有利。だけど、こっちは武装していない。逃げ道は上。でも勾配がきつくて難しい」

「そうか、そういう場所と知って襲ってきたんだな」

「多分だけど。私が往復すると見越して、待ち伏せていた」

 ポトロックへ行ったならば、ほとんどの場合、同じ道の往復となる。それを狙われた、とエルザは言った。


「賊の人数は?」

 仁の問いに、礼子が窓を少し開けて外を見た。

 この馬車には簡単だが魔法結界の魔導式(マギフォーミュラ)が描かれているので、中からの気配察知は難しく、目視によることになる。

「10人、いえ、11人です」

 襲ってきているのが10人で、後1人は離れた場所に立っている、と礼子が報告した。

「そうか。あ、そうだ。こんな時で何だけど、エルザ、これをあげる」

 仁は身の回りの小物を入れている袋から指輪を取り出し、エルザに差し出した。

「……? ジン君?」

 怪訝そうな顔で仁が差し出す指輪を見つめるエルザ。

「あのな、この指輪は俺が作ったもので、保護指輪(プロテクトリング)と言うんだ」

 そう言って、エルザの手に押しつけるようにして渡す。

「とにかく、はめてみてくれ」

「ん」

 指輪がはまるちょうどいい指を探すと、左手の薬指だった。なぜかちょっと嬉しそうな顔で指輪をはめるエルザ。

「はめてみた」

「よし、1分もすれば魔力が馴染むから、発動の魔鍵語(キーワード)、『バリア』と唱えれば、大抵の攻撃は防ぐことが出来る」

「……え?」

「詳しく話している暇はない。礼子、『桃花(とうか)』はどうした?」

「はい、荷物の中です」

 さすがに刀を常時携帯しているわけにはいかないので、馬車の後部にある収納スペースにしまってあった。

「よし、出してこい。そして、賊を迎え撃て」

「はい」

「ジン君、あなたたちはここでじっとしてて。賊なら私たちで対処する」

 エルザがそう言うが、仁は首を振って、

「そういうわけにもいかないだろ。非常時なんだ、みんなで力を合わせて切り抜けなきゃ」

 そう言って、礼子と共に馬車の外へ出た。そこには乳母がいて、短いナイフを手に、馬車を守ろうと身構えていた。

「あなたたち?」

「俺たちも戦える。手伝いますよ」

 エルザも一緒に出ようとすると、

「お嬢様! いけません!」

 乳母は必死にそれを止めようとする。仁も、

「エルザは中に入っていてくれ。この馬車、魔法防御が施されてるんだろ?」

「……わかるの?」

「ああ。だから、中にいた方が安全だから」

 だが、エルザは言うことを聞かず、馬車を出て降り立った。

「お嬢様……」

 乳母はもう涙目である。エルザは平然として、

「力を合わせるなら、私は魔法が使える。だから私もやる」

 そう言って坂の下を見る。

 今、正に賊が護衛と接触するところだった。


「貴様等! ショウロ皇国子爵令嬢の馬車と知ってのことか!」

 執事が大声で怒鳴った。

「知らねえよ、誰の馬車かなんて、そんなこたぁどうでもいいんだ。金になりさえすりゃあなあ!」

 そう言って先頭の賊が、剣を大上段に振りかぶって斬り掛かってきた。

 それを受け止めたのは礼子を撫でたいと言っていた護衛の男。

「そうかい、それは残念だったな! 金ほしさに命落とすことになるぜ!」

 護衛の男は相手の剣を受け止めた後、滑らせるようにしてその刃筋を逸らし、賊の懐へと入り込む。そして剣の柄で鳩尾を一撃。

 斬り捨てない理由はただ一つ。エルザに血なまぐさい場面を見せたくないためだ。

「ぐぇっ」

 護衛としての腕は確かなようで、その一撃で賊は気を失った。

「お嬢様には指一本触れさせん!」

 その横では、執事が警棒のような杖を振るい、賊の剣を弾き飛ばし、脳天に一撃を喰らわせて昏倒させていた。

 だが、残った下男は、棒を持ってはいるものの及び腰で震えている。馬車を守るので精一杯なようだ。

 そんな3人を振り切って、エルザ達の方へ4人が駆けてきた。

「お嬢様! 何で外に出てらっしゃるんですかあ!」

 執事が叫んでいるが、エルザは気にせず、右手を水平に差し出す。そして、

風の弾丸(ウインドバレット)

 見えない弾丸を大量に発射した。

「ぐ、何の!」

 だが、1発1発は大した威力のない風の弾丸(ウインドバレット)、賊達は顔を庇いながら、じりじりと接近してくる。

「礼子、行け!」

「はい」

 エルザの矜恃を考え、初手を譲ったが、これ以上は危ない。仁は礼子に指示を出した。

「ん? ちびっこが何する気だ?」

 10歳くらいの女の子に何が出来る、と鼻で笑っていた賊達だったが、礼子が手にした『桃花(とうか)』を振るうとその顔色が変わった。

「な、何だ!?」

桃花(とうか)』の1振りで賊の持った剣が根本から無くなった。折られたのではない、『斬ら』れたのだ。

「う、うわあ!」

 2振りで2人の剣が、3振りすれば3人の剣が斬り飛ばされた。そして4人目は辛うじてその剣を振りかぶることが出来た、が。

「ひい!」

 賊の頭上をかすめるようにして跳んだ礼子に、その剣も斬り払われた。そこへ、

風の一撃(ウインドブロウ)

 エルザが魔法の一撃を放った。

「がはっ」

 風の中級魔法をもろにくらい、賊は吹き飛ばされ、そのまま起き上がってくることはなかった。

「あと3人」

 エルザが目を転じると、残った3人は既に礼子が峰打ちで気絶させていた。

「これでこちらは大丈夫だ」

 仁がそう言うと、

「お嬢様、魔法が使えるからといって、無茶なさらないで下さい。ミーネの寿命が縮まってしまいます」

 と乳母。エルザはそんなミーネを言葉少なになだめていた。


「そろそろむこうもけりが付きそうだな」

 仁が呟く。その声にエルザも坂の下に目をやる。


 執事と護衛の活躍で、賊4人が地に伏せており、今5人目が執事の足元に倒れるところであった。

「執事さんも強いんだな」

「うん。アドバーグは格闘技の達人」

「そうなのか」

「そしてヘルマンは騎士級の剣の使い手」

 護衛はヘルマンというらしい。今、6人目の賊が倒されたところである。

 これで残るは遠くで眺めている1人を残すのみ。


 そう思った矢先のことであった。

「ひゃはあ! 油断したなあ!」

 そう叫んで2人の賊が坂の上から飛び出してきたのだ。

「きゃあ!」

 賊の剣にミーネの短剣が弾かれ、血が飛沫く。肩から斜めに切られ、ミーネは倒れた。

「ミーネ!」

「……える……にげ……」

 そしてもう1人の賊はエルザに襲いかかった。

 慌てたエルザは保護指輪(プロテクトリング)を使う事も忘れ、頭を抱えてしゃがみ込んでしまう。

「バリア」

 仁がしゃがみ込んだエルザに覆い被さるようにして庇い、魔鍵語(キーワード)を唱える。

 次の瞬間、賊の振り下ろす剣が仁を襲う。が、その剣は見えない障壁に阻まれ、仁に届くことはなかった。

「な、何で?」

 信じられない、という顔で一瞬固まる賊、その次の瞬間には礼子の刀で峰打ちに叩きのめされていた。もう1人の賊も既に気絶している。

 だが、ミーネは賊に斬りつけられ、深い傷を負ってしまっていた。

「ミーネ、大丈夫? しっかりして! 『治せ(ビハントラン)』」

 駆け寄るエルザ。即座に治癒魔法をかける。が、傷は深く、なかなか血が止まらない。

「お嬢様……ありがとうございます……もうよして下さい……」

 青い顔で治療を断るミーネ、無駄だと思っているのだろうか。

「だめ。あきらめない。『治せ(ビハントラン)』」

 少しは傷が塞がるのだが、傷はあまりにも大きく、焼け石に水。

 見かねた仁は、礼子に周囲の警戒を解かないよう命じてから、

「エルザ、ちょっと俺にやらせてくれ」

 そう言ってミーネのそばに寄り、

「『快癒(リカバー)』」

 腕輪の魔法を発動させた。

 中級の治癒魔法だが、腕輪と仁の大きな魔力に支えられたそれは、上級魔法並の効果をもたらす。

 見る間に血が止まり、傷口が塞がった。

「もう大丈夫だ」

 仁の言葉を聞き、涙目で見ていたエルザはミーネに縋り付き、

「ミーネ、よかった……」

「お嬢様……」

 そんな2人を見て仁もほっとし、

「傷は治ったけど、大分血を流したから、無理はしないほうがいい」

 そう言って顔を上げる。


 最後に残った賊が動いた。

 固まって襲ってこなかったので、礼子といえども1振りで3人4人の剣を斬り飛ばせなかったのです。桃花は50センチくらいしかありませんしね。

 護衛さんもやっと名前が出て来ましたね。


 お読みいただきありがとうございます。


 20130522 20時15分修正

(旧)仁が魔鍵語(キーワード)を唱え、しゃがみ込んだエルザに覆い被さるようにして庇った。

(新)仁がしゃがみ込んだエルザに覆い被さるようにして庇い、魔鍵語(キーワード)を唱える。


 庇ってからバリア張らないと。逆でしたね。


 20130617 16時33分

 表記の統一

「お嬢さま」を特に理由のない限り「お嬢様」に統一します。


 20140508 誤記修正

(誤)エルザ、これを上げる

(正)エルザ、これをあげる


 20150626 修正

(誤)3振りすれは3人の剣が斬り飛ばされた

(正)3振りすれば3人の剣が斬り飛ばされた


(誤)即座に『治療(ビハントラン)』をかける

(正)即座に治癒魔法をかける


(旧)「ミーネ、大丈夫? しっかりして!」

 駆け寄るエルザ。即座に『治療(ビハントラン)』をかける。

(新)「ミーネ、大丈夫? しっかりして! 『治せ(ビハントラン)』」

 駆け寄るエルザ。即座に治癒魔法をかける。

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― 新着の感想 ―
指輪を渡してキーワードを教えた時に腕輪が誤爆しなかったのは、腕輪の方にはキーワード以外にも何らかの発動条件があったのか、発動はしていたけど弾くものがなかっただけなのか…腕輪のバリアに押されてむぎゅっと…
[一言] お嬢様を筆頭に頭の悪い奴は自殺志願者なのな(笑)
2020/02/08 15:44 退会済み
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