04-01 初飛行
新章開始です。
港町ポトロックの宿をとりあえず引き払い、仁は一旦蓬莱島へ戻ってきていた。
また10日したらポトロックへ出向き、ショウロ皇国の貴族、ラインハルトと共にショウロ皇国へ向かう予定だ。
ポトロックではいろいろ得る物があった。魚醤が見つかったのだが米が見つからなかったのは残念である。
「あー、やっぱり風呂はいいなあ」
ポトロックではシャワーもどきしか無かったので、久しぶりの朝風呂に仁はくつろいでいた。
「お父さま、お背中をお流しします」
傍らで控えるのは礼子。見かけは10歳にもならないような少女だが、中身は1国を相手取れる超・自動人形である。
「ああ、頼むよ」
礼子に背中を流してもらいながら、仁はこれから作るものを考えていた。
「高速艇を作りたいけど、まずは魔法型噴流推進機関を使った飛行機だよな」
風魔法を応用したジェットエンジンである。プロペラ機よりも先にジェット機が出来てしまうあたりは魔法世界ならではと言えよう。
風呂から上がった仁は、軽銀を大量に用意した。
軽銀は軽く、魔力伝導の良い金属である。その正体は原子番号22のチタン、その中性子26個のほとんどが魔力子に置き換わっているもの。
航空機の材料として仁が選んだのも無理はない。そして風防には水晶を使う事にした。
材料を決めるとさっそく制作開始である。
「えーと、最初だから主翼は普通のテーパー翼、後退角は無し」
最初から音速を超えるつもりはない。
「エンジンをどう取り付けるか、だな」
推進力が機体の重心を通るようにするのがバランスを取りやすくていいと考える仁。
「後ろに配置して、空気取り入れ口を前に付けて」
だんだんと形が出来てくる。
「問題は操縦系統だな」
模型飛行機は作ったことがあっても、実際の飛行機の操縦席は知らない。そういうゲームにも縁がなかった。
「まあ、操縦桿で昇降舵、方向舵、補助翼を動かすらしいから、と」
乏しい知識から操縦方法を決めていく。
「速度はアクセルとブレーキでいいや。で、ブレーキには高揚力装置も連動するように、と」
夢中で仕上げていく仁。軽銀の塊は今や銀色に輝く飛行機へと変わっていた。
「オートパイロットは無理でも、ある程度の自律性があると助かるよな」
こういう時こそゴーレム技術の出番とばかりに、以前作ったグライダーゴーレムの経験を元に魔結晶を用いて、航法補助システムを組み上げた。
こうして、技術のごった煮というような物と化していく試作機であった。
「出来た」
その日の午後、飛行機の試作1号機は完成した。滑走路も平行して5色ゴーレムの一、土地開発担当のトパズに命じて整備させてある。
「さて、初飛行といくか」
意気揚々と乗り込もうとした仁だったが、
「お父さま、お待ち下さい」
礼子がそれを止めた。
「お話によりますと、この魔導具は空を飛ぶんですよね?」
「ああ、そうだ」
「お父さまの技術を信じていますけれど、万が一、故障したり壊れたりした時はどうなさるのですか?」
「……」
それは考えていなかった。パラシュートとか用意していないし。
「お願いです、お父さま、最初は私にやらせて下さい」
超・自動人形である礼子なら、大抵のことに対応できるだろう。
「うーん、わかったよ、礼子。テスト飛行はお前に頼むとしよう」
「はい、承りました」
というわけで、急遽『知識転写』を用いて、操縦法を礼子に憶えさせた。そして、座席が礼子には低すぎたのでその辺も再調整し、いよいよ初飛行と相成ったのである。
「では、いってまいります」
風も弱く、フライトには絶好の午後、礼子は魔法型噴流推進機関に火を入れた。
空気を噴射する音が響き、試作機は滑走を始める。そして次第に速度を増していき、礼子が操縦桿を軽く引くと、
「やった! 飛んだぞ!」
試作機は軽々と浮き上がり、そのまま青空へと飛翔していった。
「成功だ!」
礼子はそのまま蓬莱島の周囲を回るように飛び、ある程度慣れたところで、最高速、急上昇、急降下、急旋回、などの限界テストを始めた。
速度計が無いので目測であるが、速度は時速400から500キロ。急上昇、急降下、急旋回などの操縦性、安定性は問題なし。このあたりは超々ジュラルミンと同等の重量で5倍以上の強度を持つ軽銀によるところが大きい。加えて、航法補助システムが学習し、サポートしてくれている。
「あー、通信装置が欲しいな」
映像装置はポトロックでの競技の時に魔導監視眼と魔導投影窓を見ていたので再現できよう。
「魔導耳と魔導口とでも言える物を作ればいいのか」
名称は仮称である、あくまでも。
日が傾き、薄暗くなってきたので、仁は降りてこいと礼子を手招きした。
それを察して高度を下げた礼子は真っ直ぐに滑走路を目指して戻ってきた、その時である。
「鳥!?」
夕暮れになってねぐらに帰る鳥の群れが飛行機の前を横切った。
機体にぶつかる鳥。風防は潰れた鳥の血で曇り、魔法型噴流推進機関は空気と一緒に鳥をも吸い込んでしまう。『バードストライク』と呼ばれる事故だ。
多数の鳥を吸い込んでしまった魔法型噴流推進機関は停止。鳥によって視界を塞がれ、機体のバランスも崩れる。
結果は失速、墜落だ。
「礼子!」
50メートルほどの高度から墜落した試作機は原型を留めないほどの全壊であった。火が出ないのが魔法工学の製品と言えよう。
墜落地点に駆け寄る仁。両側には礼子のアシスタントゴーレム、ソレイユとルーナが付いている。
「はっ、はっ」
息を切らして墜落現場に辿り着いた仁を待っていたものは。
「申し訳ございません、お父さま」
深々と頭を下げる礼子だった。
「れ、礼子、無事か? 身体は何ともないか?」
仁のその問いに、
「はい。お父さまにいただいたこの身体、どこにも異常はありません。ですが、おまかせ下さった飛行機を壊してしまいました……」
仁はそんな礼子を抱きしめ、
「バカ、飛行機はまた作ればいい。だけど礼子、お前は1人しかいないんだぞ」
「お父さま、私は自動人形です。お父さまでしたら何度でも作る事がお出来になるはずです。それに私は人ではありませんから1人ではなく1体とお呼びになるのが正しいかと」
そう言った礼子の頭を、仁はごつん、と叩いて、
「バカ。お前はお前だ、生まれてから今日までの経験、一緒に過ごした思い出、それはお前だけのものだ。良く似た自動人形は作れても、礼子はお前1人だけだ」
「お父さま……」
礼子は仁の胸に顔を埋めた。
「……ありがとうございます」
そして更に小さな声で、
「礼子は幸せ者です」
と言った。
「さあ、帰ろう。もう2度とあんな事故が起きないよう、2号機はもっと改良するぞ」
「はい、精一杯お手伝いします」
そして壊れた機体はソレイユとルーナに運ばせ、仁達は研究所へと帰って行った。
* * *
礼子の頭を殴った手がものすごく痛かったが顔には出せない仁であった。
魔法で加工していく描写はある程度省略しました。変形とか融合とかの繰り返しですので。
試作1号機は壊れてしまいました。乗っているのが仁でなくて良かったです。
バードストライクは実際、離着陸時に多いそうです。ようつべで動画見るとすごいですね。
軽銀をチタンにしたのは、アルミニウムが実際にそう呼ばれていたのでひねっただけです。
お読みいただきありがとうございます。
20181224 修正
(旧)港町ポトロックをとりあえず引き払い、仁は一旦蓬莱島へ戻ってきていた。
(新)港町ポトロックの宿をとりあえず引き払い、仁は一旦蓬莱島へ戻ってきていた。
20190825 修正
(誤)滑走路も平行して5色ゴーレムの1、土地開発担当のトパズに命じて整備させてある。
(正)滑走路も平行して5色ゴーレムの一、土地開発担当のトパズに命じて整備させてある。
この場合の『一』は名詞で、いくらか存在するもののうちの一部、という意味です。




