03-18 迎撃!
「炎の槍。炎の槍。炎の槍」
小手調べに炎の槍を連続で放つ礼子。
その1発目が着弾すると、海面を割って巨大な凶魔海蛇が鎌首をもたげた。
「炎の一撃」
その瞬間に繰り出された炎の上級魔法は、凶魔海蛇の頭部を吹き飛ばした。
「1匹」
先頭がやられたことを感づいたのか、更に3匹の凶魔海蛇が海面から姿を現した。
「炎の一撃。炎の一撃。炎の一撃」
その3匹目掛けて連続で炎魔法を放つ礼子。更に2匹が頭部を吹き飛ばされ、波間に骸を曝す。
「これで3匹」
だが、もう1匹は感づき、水に潜ったので3発目の炎の一撃は空振りに終わった。
それを見ていた仁は、
「水に潜ったな。見てろ、あぶり出してやる」
考えていた戦法を実施する。
「音響探査!」
それは、超音波で対象物の内部欠陥などを調べる工学魔法であるが、超音波の強度を上げれば、水中の生き物に影響を与えることが出来る。
仁は最大強度で超音波を前方の海中に向けて放った。
その直後、凶魔海蛇10匹以上が海中から逃げるように姿を現した。その周辺には余波で気絶した大小の魚も浮かんでいる。
「今だ、礼子!」
「炎の一撃。炎の一撃。炎の一撃。炎の一撃。炎の一撃」
連続で放たれた炎魔法に、5匹の凶魔海蛇が海の藻屑と消えた。
「これで8匹」
が、逃れた凶魔海蛇はまた海中に潜ってしまう。
そこで仁は、
「礼子、もう一度あぶり出してやるから、今度は雷属性魔法で攻撃してみろ」
「はい、わかりました」
「いいか、いくぞ……音響探査!」
再度の超音波衝撃に、たまらず海中から浮かび上がる凶魔海蛇目掛け、
「雷の洗礼」
礼子は雷系の上位魔法を浴びせた。
それをくらった凶魔海蛇はのたうち回ったかと思うと気絶したらしく腹を見せて海に浮かんだ。
「よし、とどめは後だ。もう一度!」
仁が音響探査を最大出力で放射。浮かんできた凶魔海蛇目掛け、礼子が雷の洗礼を浴びせる。
更に多くの凶魔海蛇が気絶して浮かんだ。
「これで半分」
「しかし、数が多いな。一旦後退だ!」
近づかれると礼子はともかく仁が危ない。礼子は急いで後退する。
目の前の小船が危険の元凶だと気づいた凶魔海蛇が2匹いた。
瞬発力では凶魔海蛇の方が上、瞬時に距離が詰まる。
礼子は外輪に掛かりきりで、迎撃が遅れた。
目の前に1匹の凶魔海蛇の顎が迫った時。
「水流の刃」
迫り来る凶魔海蛇目掛け、仁が魔法を放った。音速を超える水の刃はあやまたず凶魔海蛇の頭部を切断した。
「うわっ! こりゃひでえ」
噴き出した血を浴びてしまう仁達。だがその間にも、もう1匹の凶魔海蛇が迫って来た。
「水流の刃!」
もう一度、水流の刃を振るう仁。今度はやや距離があったため血飛沫を浴びずに済んだ。
「お父さま、今のは?」
驚いた礼子が尋ねる。
「ああ、工学魔法『水流の刃』だ。アダマンタイトだって切れるぞ」
「さすが、お父さまです!」
こんな時にも嬉しそうな礼子。
そうこうするうち、凶魔海蛇の群れと距離を取ることが出来た。今動いているのは15匹ほど。
「この距離からだと効果薄いか? 水流の刃!」
仁渾身の水流の刃は、2匹の凶魔海蛇の胴体を切り裂き、真っ二つにしたが、残った13匹は水の幕を作り出し、それを防いだのである。
「ちっ、やっぱり水属性には強いか」
水流の刃の水流は、凶魔海蛇が作り出した水の幕を突き抜けることは抜けるのだが、かなり威力が弱められてしまい、凶魔海蛇の鱗を傷付けられずに跳ね返されてしまう。
残った13匹は猛り狂い、仁達を目指して襲いかかろうと身を縮めた。そのため、動きが一瞬止まる。そこへ、
「魔力爆発」
礼子の最大級の攻撃魔法が炸裂した。この魔法は魔力を持った相手だけを消滅させることが出来るのだが、威力を押さえるために魔力核をピンポイントで狙う必要がある。
さもないと、周囲の魔力が誘爆を起こし、とんでもないことになるからだ。
それはさておき、魔力爆発1発で8匹の凶魔海蛇が吹き飛んだ。
気絶して浮いていた奴も巻き込まれたので併せて17匹が吹き飛んだ勘定になる。これで生きて動いているのはあと5匹である。
「うおっ! 揺れるなあ」
さすがに余波で小さなボートは揺さぶられた。
「もう一度……はちょっと近すぎますね」
再度の魔力爆発は控える礼子。
仁の安全を考えて大事を取った。そこへ残った凶魔海蛇が近づいてくる。
「光束」
今度は仁の魔法が放たれた。
強烈な赤い光が凶魔海蛇の頭部を貫く。水の幕に当たれば、それを瞬時に蒸発させ、空いた穴から凶魔海蛇を貫いていった。
瞬く間に5匹の凶魔海蛇は全て退治された。それを見た礼子は、
「お父さま、あれも工学魔法ですか?」
「ああ、ぶっつけ本番だったがうまくいったな。あれは元は単なる『明かり』の魔法の応用だよ」
明かり。手元を照らしたり、暗い場所で物を探すのに使われる魔法だ。
「ただ、光をものすごく強烈に増幅して、その波を揃えただけだ」
魔法だからこそ出来るが、現実には大きな装置を必要とする。だが仁には現代地球の知識と、魔法工学師としての知識が同居していた。
科学と魔法の融合。それは先代魔法工学師、アドリアナ・バルボラ・ツェツィが目指した場所よりもさらに高みへと到る道である。
「さすがです、お父さま」
気絶して浮いた凶魔海蛇に止めを刺しながら礼子が言った。
「ん、まあ、やっぱり止めは刺さなきゃまずいよな」
襲ってくる相手を倒すのは抵抗なくても、一方的な蹂躙はやはり抵抗がある仁であったが、そういう感情のない礼子は淡々と作業するが如く、始末していった。
「終わったか」
「はい、もう魔力は感じられません」
静かになった海上で、仁は返り血を水魔法で洗い流した。礼子同様、魔法素材の服なのでじきに綺麗になる。
「さてと、戻るとするか」
「はい、お父さま」
来た時よりはゆっくりと、仁達は戻り始めた。
以前の百手巨人は動きがのろいので魔力核を狙いやすかったのですが、今回は礼子、やや苦労しました。余波で大波が起きたら仁が溺れる可能性がありますからね。
そしてついに出しちゃいました、レーザー。原理としてはそう難しくないので、魔法をいじれる仁には可能ということで。
人間以外というか、罪にならないなら礼子は容赦無くなります。
お読みいただきありがとうございます。
20140530 07時56分
ライトを光束に変更。
20181224 修正
(旧)「ただ、光をものすごく強烈に増幅して、その波を揃えただけだ」
(新)「ただ、光をものすごく強烈に増幅して、その波を揃えただけだ」




