03-08 マギジェットエンジン
シグナスが完成した翌日。
前日同様、マルシアは漁のアルバイトへ行き、仁は蓬莱島へ戻っていた。
「さて、俺の考えが正しいかどうか、だな」
昨夜、『海鳴亭』のベッドの中で思いついたアイデア。
「圧力風」
風魔法の初歩を使う仁。通常、ゴミを吹き飛ばすのに使う魔法である。掌から強風が発生、5秒ほどで止む。
「ふん、やっぱり反動がないな」
仁は、大抵の魔法に反動がないことに気が付いたのである。通常『作用反作用の法則』と呼ばれるそれは、異世界であっても有効である。
だが、魔法に関しては成り立っていない。仁はその理由を解析しようとしていた。
「じゃあ礼子、俺が合図したら圧力風を使って見てくれ」
「はい」
超・自動人形の礼子は、主人を守るため、全部の属性の攻撃魔法を、その主人でさえ使えないような高レベルで使えるようプログラムされている。
「3、2、1、今だ!」
「圧力風」
「追跡」
礼子の手から強風が吹き荒れる、その時の魔力の流れを仁は追った。
「今度は強風を頼む。3、2、1、今だ!」
「強風」
「精査」
今度は、魔力と魔法の働きを調べる仁。
これを3度繰り返した後、
「わかった! 思った通りだ」
「お父さま?」
躍り上がらんばかりにしている仁が珍しく、礼子が首をかしげた。
「礼子、ありがとうな。風魔法で、どうして相手だけが吹き飛ばされるのかがやっとわかったよ」
そうして仁は礼子に説明していく。
「例えば、圧力風の魔法だが、掌から風が出ているように見えて、その実は周囲の空気を集めて発射しているんだ」
比較的弱い魔法なのでこのような構成で成り立っているのだろうと仁は推測している。
「その発射する際には、反動というものがある筈なんだが、術者はそれを感じることはない。それは、反動を打ち消す魔法が同時に発動しているからさ」
「そうなのですか?」
「ああ。間違いない。空気の流れ、魔力の流れ、魔法の構造、それらを調べた結果だ」
だが、と仁は一息入れて、
「術式として圧力風や強風から、反動を打ち消す部分だけ無くせばいいんだよな」
仁が理解している範囲において、魔法とは、発動の手順を世界に記録する、という行為が始まりにあって、言霊である詠唱の存在、そして魔力素の発動と続く。
魔導具で言えば、魔導基板に書き込むように、『世界』に手順を記録もしくは記憶させ、それを言霊と魔力素によって発動させるのが魔法である。
この手順を新たに世界に記憶させること、それが新しく魔法を創る、ということ。
この記憶させるという行為は誰にでも出来るものではなく、それが各魔導士の差となって現れている。
それはさておき、仁は話を続ける。
「だから、そういう魔導具も出来るはずなんだ」
「お話は理解できました。でも、その最後におっしゃった魔導具、それは何の役に立つのですか?」
そう言われた仁はいたずらっ子のような笑みを浮かべ、
「まあ見ていろ」
そうして、倉庫から軽銀を持ってきて、何やら作り始めた。
さすがの仁も、初めて作ると言うことで若干時間が掛かったが、それはやがて完成した。
「出来た」
それは、直径10センチ、長さ30センチほどの筒状の物体である。
「お父さま、これは?」
すると仁はごく小さな魔石をその筒上部にある蓋を開け、中へ押し込んだ後、蓋を閉めた。そして、
「礼子、この筒を潰さないように気をつけてしっかり持っていろ」
「? はい」
そして礼子が筒を抱えるようにして持つと、
「起動」
仁は作動させた。瞬間、礼子が手にした筒からは風が吹き出し、かなりの力で礼子を引き摺ろうとする。
「お父さま、これは?」
「ああ、大成功だな。魔法型噴流推進機関だ」
工学的な命名は比較的まともな仁。
「そのまま、魔石の魔力が無くなるまで持っていてくれ」
それは約20分間動き続けていた。
「うんうん、これも思った通りだ」
「どういう事ですか? お父さま」
1人肯く仁に礼子が尋ねる。
「うん、強風の魔法では、さっき話した反動を防ぐ魔法の部分が魔力の半分以上を消費しているということさ」
「それは、つまり、反動を防がなければ、ずっと少ない魔力しか必要としない、ということでしょうか」
嬉しそうに仁は肯き、
「そうそう、そういうことさ。さあ、これで空を飛ぶ目処も立ったし、高速艇も作れるぞ」
プロペラ機より先にジェット機が出来そうな予感を憶える仁であった。
「あっと、そろそろ昼か。とりあえずポトロックに戻ろう」
* * *
海蝕洞窟から出て、ポトロックへ向かった仁は、なんかきな臭いな、と思った。
「お父さま! 火事です!」
ほぼ同時に礼子が指摘。黒い煙が港方面から立ち上っていた。
「あれは、ドックがある方じゃないか?」
嫌な予感がした仁は走り出した。礼子も続く。
「ああ、ドックが!」
遠目にもわかる。火元はマルシアの借りているドックだった。中から真っ赤な炎がのぞいており、煙を噴き上げて手が付けられない状態である。
「礼子、消せるか?」
仁がそう言った直後、海水が巻き上がってドックへ殺到した。白い湯気が上がり、大量の海水によってたちまち火は消えていく。
「あれは?」
「水の奔流ですね」
「ラインハルト、か」
その魔法を使っているのは昨日出会ったショウロ皇国の魔法技術者、ラインハルトであった。
ドックが火事に! はたして『シグナス』は? そして犯人は?
お読みいただきありがとうございます。
20130822 20時37分 表記修正
(旧)以前出会ったショウロ皇国の
(新)昨日であったショウロ皇国の
前の日ですからね、ラインハルトと出会ったのは。
20190901 修正
(旧)魔導具で言えば、魔導基板に書き込むように
(新)魔導具でいえば、魔導基板に書き込むように
(旧)この記憶させると言う行為は誰にでも出来るものではなく、それが各魔導士の差となって現れている。
(新)この記憶させるという行為は誰にでも出来るものではなく、それが各魔導士の差となって現れている。




