03-05 妨害?
そのローレライというゴーレムを見た仁は、その素材と発想に感心した。
「へえ、魔獣の革が材料のゴーレムなんて初めて見たよ」
仁がそう言うと、ラインハルトの目が丸く見開かれた。
「すごい! 一目でローレライの素材を見抜くなんて!」
「しなやかな動きをさせるためにしなやかな素材を使う、理にかなってるよな」
ラインハルトはそんな仁の手を取って、
「そうとも! 君はわかってくれるなあ。で、君のところはレーコ嬢が、……出るわけ無いか。ゴーレムじゃあないもんな」
ゴーレムと自動人形の大きな違いは、自動人形は人間に似せて作られているということがある。服を着ているというのもその1つ。
まあ突き詰めていくとその境界は曖昧になるのだが。とりあえず、自動人形は人間に似せることが第1で、ゴーレムは用途優先ということだ。礼子には当てはまらないが。
それはともかく、ラインハルトにそう言われた仁は苦笑しつつ、
「ああ。実はまだ造ってないんだ」
「え? そうなのかい?」
「実は誘われたのが昨日で、参加登録したのが昨日の午後だったもんでね」
ラインハルトは驚いたように、
「そりゃあ大変だね。僕を初め、参加者達はもうとっくに準備を済ませて、調整に入ってるというのに」
だが仁はにやりと笑って、
「まあ、見ていてくれ」
と自信たっぷりに言い切った。
「そうだな! ジン、君は只者じゃ無さそうだ。競技の日を楽しみにしてるよ!」
そう言ったラインハルトは、
「ローレライ、行くぞ」
そう言って人魚ゴーレムの背に跨ると、
「じゃあな、ジン」
泳ぎ去っていったのである。それを見送った仁は、
「そうか、ゴーレムが動かす、というだけで、船の上に乗っていなきゃいけない、というわけじゃなかったんだな」
と呟いた。そしてにやりと笑い、
「まあ、競争相手がいるというのはやる気が出るよな」
誰にともなくそう言った仁は、太陽の位置を見てそろそろ昼近いと知り、
「それじゃあ礼子、俺たちも戻るとするか」
「はい、お父さま」
海から上がり、海鳴亭へと戻っていった。
* * *
「それじゃあ材料調達に行こう」
海鳴亭で合流し、一緒に昼食を済ませたマルシアと共に仁と礼子は町へと出掛けた。
「ゴーレムの材料は何を使うんだ?」
そう尋ねるマルシアに、
「軽銀がいいんだが、無理なら青銅でかまわない」
そう答えた。するとマルシアは、
「うーん、軽銀は予算的に無理だね。悪いけど青銅でやってもらえるかい?」
「ああ、もちろんだ」
そう言って肯く仁。そして一行は、材料屋の倉庫が建ち並ぶ場所へとやってきた。
「ここだな」
「いらっしゃい」
出迎えた店員に、
「ゴーレム用に青銅のインゴット50キロ。それと魔石」
だが、
「あい済みません、青銅はありますが、魔石は品切れ中です」
「何だって!?」
マルシアの声が大きくなる。魔石が無ければ、ゴーレムはただの木偶の坊である。それくらいは造船工である彼女も知っていた。
「そ、それで、入荷予定は?」
「次の予定は1週間後ですね」
「それじゃ競技に間に合わないじゃないか! いいさ、別の店行くから」
憤慨したマルシアがそう言うと、
「あー、多分どこ行っても無駄ですよ」
と店員が言うではないか。
「何でさ?」
マルシアが尋ねると店員は、
「昨日の夜、ここら辺の魔石を買い占めた人がいてね」
「……」
マルシアは真っ青だった。このままではゴーレムが完成しない。そしてそれは競技を棄権すると言うこと。
そんなマルシアの肩を叩いたのは仁であった。
「ジン?」
「マルシア、それじゃあ青銅だけ買って帰ろう。魔石については俺が持ってる」
仁がそう言ったので、ほっとしたマルシアは肯き、
「それじゃあ青銅だけ買って帰るよ」
そう言うと店員は、
「まいど。3万トールになります」
その言葉にもマルシアは仰天した。
「何だって!? 相場の倍じゃないか?」
「ええ。ここのところ品薄でしてね」
「それにしたって倍……」
「2万トールにまからない?」
駄目元で聞いてみるが、
「それでしたら30キロちょっとですねえ」
がっくりするマルシア、だが仁は、
「30キロあればいいよ」
そう言ったのである。
「ほんとかい!?」
「ああ。俺に任せてくれ」
自信たっぷりな仁を見て、マルシアも少しだけ安心し、
「それじゃあ青銅30キロおくれ」
そう言って18000トールを支払った。店員はえっちらおっちら青銅の塊を運んできて、仁達の前に置く。
「で、運んでくれるかい?」
そう言ったマルシアであるが、店員は、
「今忙しいんで、ご自分で運んで下さい」
と断る。
「何言ってんだい! 他に客いないじゃないか!」
だが店員は話は無用とばかりに奥へと引っ込んでしまった。残されたマルシアは、
「まったく! なんて店だい!」
だが仁は、
「マルシア、時間の無駄だ。帰ろう」
そう言うと、礼子をかえりみて、
「礼子、済まないが頼む」
「はい、お兄さま」
そして礼子は30キロのインゴットを軽々と持ち上げた。
「な、な……」
それを見たマルシアは開いた口がふさがらない。そしてそれは、陰から見ていた店員も同様だった。
身長130センチ、10歳くらいにしか見えない女の子が軽々と自分と同じくらいの重さの金属塊を持ち上げているのである。
「言ったろう、礼子は俺の助手だって」
「それにしたってこれほどとは思わないよ!」
そう言い合っている間にも、礼子はインゴットを持って歩いて行ったのだった。
礼子は出力1パーセントで年相応、5パーセントなら大人顔負け、10パーセントで超人、20パーセントで人外の体力を発揮します。100だと…?
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