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マギクラフト・マイスター  作者: 秋ぎつね
03 港町ポトロック篇
63/4298

03-02 ゴーレムボートレース

「ここは安くておいしい店なんだよ」

 そう話し出したマルシアを仁はあらためて観察した。

 容姿は美人と言っていいだろうが、化粧っ気のない顔は、手足と同じく小麦色に日焼けしており、造船工(シップライト)の仕事のためか、爪の間も黒くなっている。

 してみると、造船工(シップライト)は魔法で材料を加工するのではなく、手で組み立てる職種らしい。

 普通に麻の上下を着て、汚れ避けのエプロン様のものを首から掛けている。

「えーっとね、何から話そうか」

 この地方の特産というクゥヘを飲みながら仁達はテーブルを囲んでいた。因みに人間のふりをするために礼子も飲んでいる。飲食の必要がないというだけで、飲食はできるのである。

 一口飲んで仁は、コーヒーに似た名前なのに味はココアに近いなと感じ、後で買いに行こうと思った。

 マルシアもそのクゥヘを一口飲んで、

「この国、エリアス王国は船が発達した国なんだ」

 男っぽい口調でそう切り出した。仁も、

「ああ、それはわかる」

「でね、毎年、あるいは一年おきとかに、いろいろな船の競技が開かれるんだ」

「へえ」

 やはり、レースのようなものがあるらしい。技術を磨く上では有効だ。

「で、5日後に、高速艇の競技があるわけでね」

「面白そうだな」

 何の気無しに仁がそう相槌を打つと、

「面白そうだろ? な?」

 身を乗り出してそう言うマルシア。そして、

「だから一緒に参加しよう! お金ならあたしに出来る限りのことするから」

「ちょ、ちょっと待て」

 興奮気味のマルシアを押し止める仁。

「話が飛んだぞ。高速艇の競技がある、ってところから説明をしてくれ」

 座り直したマルシアはカップに残ったクゥヘを飲み干すと、

「悪い悪い。で、その高速艇の競技にはいくつかの制限というか条件があってね」

「うん」

「大きさ、つまり長さや幅だね、とか、乗員数、とかは置いておいて、ゴーレムが動かすこと、という条件があるんだよ」

「ゴーレムが?」

「そう。もう少し詳しくいうと、操縦者は人間で、船を漕ぐのはゴーレム、というわけさ」

「ああ、なるほど」

 だんだんわかってきた。つまりはゴーレムを動力とした船のレースである。

「で、魔法工作士(マギクラフトマン)であるジンに、ゴーレムを作ってもらいたいんだよ! 是非頼む!」

 また興奮してきたマルシアをなだめた仁は、

「話はわかった。で、競技のメリット……利点は?」

「もちろん、名誉さ! 造船工(シップライト)にとって、1位になるというのはすごい名誉だろ? まあ賞金も貰えるけどさ」

 仁にもその気持ちはわかる。動く模型を作っていると、他者と競いたくなるものなのだ。

「で、なんで俺?」

 肝心な点である。初対面の仁になんでこだわるのか。

「フリーの魔法工作士(マギクラフトマン)って滅多にいないしね。それに何と言ってもあたしの作った船を見た時の反応、かな」

「ああ、あの双胴船か」

「そう、それ! 『双胴船』って言ったろう? ということは、ああいう形状の船が他にもあるってことだよね?」

「ま、まあな」

 他の世界に、だとは言えないが。

「つまり、ジンは、フリーで、しかも船の知識がある魔法工作士(マギクラフトマン)ってわけだ。だからこそ協力して欲しいんだよ」

 そう言ったマルシアは僅かに言い淀んだ後、言葉を続ける。

「……あたしの家は代々造船工(シップライト)だったんだけど、父親が博奕に入れ込んで、店を潰してさ。挙げ句の果てに他所に女作って行方不明ときたもんだ。でもあたしはもう一度店を構えたいんだ……」

 少し言い淀んだ後、更にマルシアは言葉を続ける。

「……正直、後がもう無いんだ。今回の競技で名を売らないと、親父の店が完全に他人の手に渡ってしまうんだよ」

 その辺の事情は深く聞くつもりはない仁。

「なるほどな。でも初対面の俺をどうしてそこまで信用する?」

「これでも小さい時から苦労してきたからね。少し会って話をすれば、その相手のことは大体わかる。ジン、あんたは信用出来る」

 仁は苦笑して、

「そこまで見込まれちゃ断れないな」

 隣で礼子はやっぱり、といった表情をしていた。

 仁が承知したのでマルシアは、

「そうこなくっちゃ! よし、決まりだ。競技当日まで、ジンとあたしはチームを組む。報酬は……そうだ、ジン、あんたの宿は?」

「『海鳴亭』ってところだ」

「ああ、あたしもそこだよ。奇遇だね。あたしの部屋は3階の『ヘリン』って部屋」

「俺たちは2階の『ボニート』だ」

「同じ宿なら打ち合わせも楽だね。なら残りの話はそこでしようか」

「そうだな」

 そこで、そこから先は『海鳴亭』で行う事にした。


『海鳴亭』の食堂で昼食を食べながら話をする。魚中心のメニューで、仁の好物だった。

「それじゃあ報酬だけど、希望はあるかい?」

 そう言われた仁は考えた後、

「優勝賞金の半分というのは?」

 そう言ったらマルシアが絶句した。顔も引き攣っている。

「出来る限りのことするとは言ったけど……ジン、意外とがめついのかい?」

「え、なんで?」

「だって、優勝賞金って100万トールだよ?」

 約1000万円である。

 適当に優勝賞金の半分、と言ったら、最下位でもそれだけ寄越せと言ったと思われたらしい。なので慌てて誤魔化す。

「いや、優勝した場合、だ。優勝できなかった場合は別だよ」

「へえ? 自信ありそうだね」

「ああ、出るからには優勝を狙うのが当たり前、だろ?」

 内心の焦りを悟られないよう笑いながら仁がそう言うとマルシアも笑って、

「ああ、いいね! 目指せ、優勝! 優勝したら半分、喜んで渡すよ! ……で、実際のところは?」

「そうだなあ、マルシアが俺の仕事を見て決めてくれ」

「それでいいのかい?」

「ああ。今のところ食うに困ってるわけじゃないからな」

 そう言うとマルシアも表情を和らげて、

「ふうん、変わってるな、ジンって。でもそれでいいならそうさせてもらうよ」

 それで契約の話は終了となった。後で文書化する予定、とマルシアは付け加えた後、礼子の方を見て、

「ところでレーコちゃん、無口なんだね」

 マルシアがそんな事を言い出した。

「いえ、おと……お兄さまが楽しければ私はそれでいいのです」

 一応、人前では兄妹という設定はまだ有効である。

「ふうん、出来た妹さんだね。でもさ、話が面白くなければ、どこか遊びに行っててもいいよ?」

「いえ、お気づかいなく」

 まだ何か言いたそうなマルシアに向かって仁は、

「一応、礼子は俺の助手もしてくれているから、話は一緒に聞いてもらうよ」

 そう言った。マルシアは驚き、

「へえ、そうなんだ。兄妹で魔法工作士(マギクラフトマン)と言うのも珍しいね。まあそう言うならいいよ。話を続けようか」

 そう言って、競技の事を説明しだした。

「全長は4メートル以内、幅も4メートル以内。まあ、普通は幅が増えれば船は遅くなるからね、でも……」

「双胴船なら幅が増えても遅くならないよな。で、安定もいいし」

「そういうこと。それで、乗員は操船者とゴーレムに限る。操船者は女限定。まああたしが乗るんだけどね。そして船を漕ぐのはゴーレム」

 そこで仁が質問を入れる。

「ちょっといいか? ゴーレムはどうやって船を動かす?」

「オールかパドル、だね」

「それ以外の駆動方法はいけないのか?」

 質問の意味が一瞬わからなかったマルシアだったが、すぐにそれを悟ったと見え、

「何か、いい方法があるのかい?」

「ああ。だけど、規定に引っかかるんじゃまずいけどな」

 だがマルシアは、

「それはないな。たとえばゴーレムを泳がせてそれに引っぱらせる、とかでも大丈夫なはずだ」

 それを聞いた仁は、

「そりゃあいい。で、ゴーレムについての規制は?」

「ああ、身長2メートル以内。体重は制限無し。重ければ不利なんだから当然だね」

「材料とかには?」

「何も無かったはずだよ」

 そう聞いた仁はさっそく頭の中で設計図を組み始めていた。

 20130419 8時

 報酬の話で、仁の要求とマルシアの反応がわかりにくかったので加筆修正。


「適当に優勝賞金の半分、と言ったら、最下位でもそれだけ寄越せと言ったと思われたらしい」等を追加。


 ここでは一応、オールは船に支点があるもの、パドルは支点が無く、両側に水を捉えるブレードがある「ダブルブレードパドル」と言うことにします。

 さて、仁はどんなゴーレムを作り、どんな推進方法を用いるでしょう。

 お読みいただきありがとうございます。


 参考資料のページを作ってみました。ヒロインのイメージが壊れるのがお嫌な方はご遠慮下さい。見てみたいという方はどうぞ見てやって下さい。


 20171206 修正

(誤)それで契約の話は終了となった。後で文章化する予定、とマルシアは付け加えた後

(正)それで契約の話は終了となった。後で文書化する予定、とマルシアは付け加えた後

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― 新着の感想 ―
(見つけたから) 汚れ避けのエプロン様のものを首から掛けている。 汚れ避けのエプロンの様なものを首から掛けている。
[気になる点] 3段落目の書き始め切れていませんか? 「してみれば」 ではなく 「話してみれば」 だと思ったのですが?
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