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マギクラフト・マイスター  作者: 秋ぎつね
17 魔族解決篇
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17-28 もう一度700672号

 蓬莱島に帰る前に、約束通りに仁はもう一度『700672号』の元、『白い部屋』を訪れていた。

 700672号は相変わらずベッドの上だったが、仁をにこやかに迎えた。

「ようこそ、ジン殿」

「おかげで『負の人形(ネガドール)』に対抗することができましたよ」

 そう言いながら仁は、今回も回復薬を手渡した。

「助かる。これを飲むようになってから若干調子も良くなったようだ」

「それは良かったですね」

「うむ、感謝する」

 そばに控えているネージュも少し嬉しそうな顔をして仁を見上げていた。


「それでは……」

 一呼吸置いた仁は、『負の人形(ネガドール)』騒動の顛末を説明した。

「……ふむ、なるほど」

「ほう、そんなことが」

「面白い。さすがだ」

「……そうか、感謝してもしたりない」

 仁の説明を、相槌を打ちながら聞いていた700672号が仁に感謝の意を表明して、一連の不幸な出来事の説明は終わった。

「ジン・ニドー殿。貴殿の叡智と、英断と、そして行動に感謝を」

 いささか大袈裟とも思える口調と手振りで、700672号は仁に感謝の礼を行った。

「いえ、俺は自分のためにしただけですから」

「ふむ、それは当たり前のことだ。生き物は皆、自分のためだけに生きている。『自分のため』という動機が人によって違うだけだ」

「……」

 哲学的なセリフを言われた仁は、何と答えるべきか迷い、しばらくして口を開く。

「確かにその通りかもしれませんね……」

 正直、半分くらいはわかっていないのだが、そうでも言わないと話が続きそうもなかったのである。

「ふふ、貴殿はまだ若い。言葉は理解できても、意味を理解するにはまだ時間がかかるだろうな」

 700672号はそんな仁を見抜いたような目をしながら、呟くように言った。


「さて、われのすべき事を代わって仕上げてくれた報告だけではないのだろう? 何か聞きたいことがあるのではないか?」

 一段落ついたところで、700672号は仁の心を見透かしたようにそう言った。

 それに対し、仁の答えは。

「そうですね、昔の話を幾つか聞きたいのです」

「ほう、何が聞きたいのかな?」

「まずは、あなたの『ご主人』様がこの星に来た時、元から棲んでいたという原住種族について」

 魔族領にいたという『従者種族』のルーツについて、やはり仁は興味があったのである。

「ふむ、吾のご主人たちが来た時、か……」

 700672号は遠い目をし、昔のことを思い出しているようであった。

「……原住民と出会ったのはもっと南の地だった。彼等は砕いた石を使う程度の文化しか持たず、ようやく火の扱いを覚えたばかり、といったレベルであったな」

 打製石器時代、ということか、とそれを聞いた仁は考えた。

「小さな集落が点在していたのでな。離れたところにある集落をまるごとこちらの大陸に移動させ、従者としての教育を施した、と記憶している」

「その原住民と子供を成すこともあったのですか?」

「そうだ。大抵は原住民女性が相手だったがな」

「彼等の容姿は?」

「南方に適応していたせいか、浅黒い肌の者が多かったと思う」

 これで仁は、従者種族というのが原住種族であるという推測の裏付けを得たわけだ。

「わかりました。ありがとうございます」

 疑問が晴れ、すっきりした仁はお礼を口にした。

「他には無いのかな?」

「いえ、あるにはありますが、全てを聞いてしまっては面白くないでしょう。できるだけ自分の力で解明して見せますよ」

「ほう」

 仁の答えを聞いた700672号は愉快そうに笑った。

「……それはいい。貴殿ならできるだろう」

 そこで一息継いで、言葉を続ける700672号。

「ところで、余計な事かもしれぬが、貴殿の身体はどうしてそれほど不整合なのだ?」

「え?」

 意味が掴めず、首を傾げた仁に向かって、更に言葉が投げかけられる。

「何と言うかな、肉体の大半が作り物のように見えると言えばいいか……」

「そ……」

「それはお父さまが召喚されたからではないでしょうか?」

 今まで黙っていた礼子が口を挟んだ。

「召喚? どういうことだ?」

「実は……」

 そこで礼子は、先代魔法工学師マギクラフト・マイスター、アドリアナ・バルボラ・ツェツィの遺言に従って、1000年間後継者を捜し続けた果てに見つけた2代目である、という説明を行った。

「ほう、そんなことが……。だから貴殿はこの世界の枠に囚われぬのだな」

 特別驚くこともなく、700672号は礼子の説明を受け入れた。

「しかし召喚、か。興味深い。概念はわかるが、どのように行うものなのだ?」

「申し訳ないのですが、それについては、酷使したせいかわたくしの記憶が欠落していまして説明できません」

 仁に全てを託した後、一旦寿命で壊れてしまった礼子の前身である自動人形(オートマタ)。その制御核(コントロールコア)の当該部分は破損が酷く、新しい制御核(コントロールコア)に知識その他を転写する際に欠落してしまったのである。

「あの時と同様、時間さえ掛ければ再現できるかも知れませんが……」

 数十年、あるいは数百年掛かるかもしれない、と礼子は結んだ。

「そう、か。少々残念だが、吾としても考えてみたいテーマではあるな……」

 と、そこで700672号は思い直したように仁の方を向いた。

「そうすると、貴殿は、貴殿の世界で肉体を焼かれたということだな? そして召喚された際に、魔原子(マギアトム)からなる肉体を得たと」

「え、ええ。正確には補完された、のでしょう」

 それを聞いた700672号は俯き、考える様子を見せた。が、すぐに顔を上げ、

「それが原因だな。溶けた鉄の中に落ちたと言ったな? そのためか、下半身と内臓の大部分が不活性状態だ」

「不活性状態?」

 オウム返しに仁が聞き返した。

「そうだ。魔原子(マギアトム)が仮に肉体を構成する振りをしている、と言えばいいか。とにかく、貴殿の元々あった肉体に馴染みきっていないのだよ」

「……」

「その状態ではいくつか不具合というか、身体の不調があるのではないか? 例えば、鍛えても筋力が向上しない、とか」

 思い当たる節がありすぎる仁は大きく頷いた。

「あります。ありすぎます」

「やはりな。おそらく、病気などにかかることもないだろうが、成長もない。それに今のままでは子孫も残せないのではないかな?」

「え……」

「……」

 仁だけではなく、礼子も愕然としているようだ。

「どうすればいいのですか? 教えて下さい!」

 そう言って700672号に詰め寄ったのは礼子だった。

「……慌てるな、主人思いの自動人形(オートマタ)よ」

 700672号は礼子をやんわりと押し止め、対処法を説明しだした。

「似たような方法で、大怪我をした者を救う技術があった。欠損した身体の部位を、錬成した仮初めの肉体で補っておき、ゆっくりと身体に馴染ませる、というな」

「そ、それで?」

 まだ礼子は焦りを見せている。事が仁の身体についてであるから無理もない。

「数日から数ヵ月の周期で身体を構成する細胞は更新されているのは知っているか? もっとも、脳細胞など特殊な細胞はその限りではないようだが」

 仁は黙って頷いて見せた。

「よろしい。……貴殿の肉体の大部分はその更新が行われていない状態なのだ。これを活性化してやることで、身体全体のバランスが取れるようになる筈だ」

「要するに、今は超精密な義手や義足を付けている状態、ということでしょうか」

「おお、そうだな。その例えはかなり近いぞ。で、活性化の方法だが」

 仁はごくり、と唾を飲み込んだ。

「治癒系の魔法はどういうものが使えるかな? 細胞活性系のものが使えないと難しいのだが」

「それでしたら、『全快(フェリーゲネーゼン)』まで使えます」

 礼子が答える。エルザが使う、ショウロ皇国式の詠唱だが、外科系最上級の治癒魔法である。

「ふむ、察するに、傷や肉体損傷に効果のある魔法だな? それでよい。それを数回から数十回、ジン殿に掛ければよい」

 そうすることで、元々の肉体を構成していた細胞が活性化し、魔原子(マギアトム)で構成された仮の肉体も呼応して活性化するだろう、というのである。

「置き換わる際に、多少の痛みもしくは肉体の疼きを感じるかもしれんが……」

 仁は基本的に大怪我をしたことがなかったため、『全快(フェリーゲネーゼン)』を全身に掛けられたことはなかった。それで今日まで気付かずに来たという面もある。

 ギガースを追って山を登った際、帰り道で転び、手を擦りむいたくらいであったからわからなかったのも無理はない。

「試しに、ここで一度やってみるがいい、主人思いの自動人形(オートマタ)よ」

 自分が仁の肉体をモニタリングしているから、と700672号が言うと、礼子も賛成した。

「お父さま、よろしいですか?」

 仁にも否やはない。

「『全快(フェリーゲネーゼン)』!」

「……ううっ!?……あうっ……」

 仁の全身に鈍い痛みが走った。自分で自分の体を抱き、脂汗を流す仁。痛みに顔は顰められている。

「お父さま!?」

 顔色を変えられるものなら真っ青になっているかもしれないほど心配そうな顔の礼子。仁はそんな礼子を安心させようと声を絞り出した。

「……大丈夫、だ」

 その痛みも十数秒で引き、仁はほっと息を吐いた。

「ふむ、間違いなく改善されているな。今の処置で5パーセントほどが活性化した」

 ということは、あと19回、痛みに耐える必要があるということである。正直少々うんざりする仁。

「いや、連続してやらなくてもいいと思う。むしろ時間をおいた方が、更に馴染みが良くなると言われているしな」

 それなら、1日1回か2回、少しずつ行っていた方がいいということで、その日はそれでやめることにした仁であった。

 いつもお読みいただきありがとうございます。


 20140921 13時15分 誤記修正

(誤)疑問が晴れ、すっりした仁はお礼を口にした

(正)疑問が晴れ、すっきりした仁はお礼を口にした


 20140921 16時28分 誤記修正

(誤)そんな仁を見抜いたような目しながら

(正)そんな仁を見抜いたような目をしながら


 20150714 修正

(旧)尤も

(新)もっとも

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