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マギクラフト・マイスター  作者: 秋ぎつね
17 魔族解決篇
573/4300

17-22 決着

 内容の一部を差し替えました。理由は「あとがき」に書いてあります。

 差し替える前の文章も残しておきます。

 ストーリー展開には影響ないのですが。

(新)


(一番の懸念は魔素暴走エーテル・スタンピード爆弾ですね)

 魔素暴走エーテル・スタンピードを起こす手段をまだ持っていると考えるのが自然である。

 ここで『ヘッド』と名乗る魔導頭脳を破壊するのは可能だ。が、その際に魔素暴走エーテル・スタンピードを世界的規模で起こされた場合、最悪仁の命が危ない。

 何せ、1秒以下の時間で魔素暴走エーテル・スタンピードは発動できるようなのである。

 地下にいる『ヘッド』を攻撃し、破壊するには、航空戦力の持つレーザーでも数秒から十数秒かかるだろう。

 その間に魔素暴走エーテル・スタンピードを発動されたら防ぎようがない。魔素暴走エーテル・スタンピード爆弾がどこに、いくつあるのかを把握できていないのだから。

 そして、『ヘッド』は魔素暴走エーテル・スタンピードを起こすのに躊躇いはないだろう。それが自分自身の終わりになるとわかっていたとしても。


(時間稼ぎ、そしてその間に『ヘッド』を無力化すること、それしかないでしょうね)

 1秒足らずで計画をまとめ上げた老君は、仁に断りを入れる。

御主人様(マイロード)、時間がありません。今だけ、直接礼子さんにある作業を依頼する許可をください』

「うん? ……わかった。許可する」

 仁は信頼する老君の切羽詰まった様子を見て許可を出した。躊躇ちゅうちょはまずいと、今の事態を重く見たのである。

『ありがとうございます。報告は後ほど』

 そして老君は、礼子と打ち合わせを行う。魔素通信機(マナカム)を通じて行われたそれは、人間では聞き取れないほどの高速なやり取りであった。

「わかりました」

 礼子はカプリコーン1の転移門(ワープゲート)で『しんかい』、そして蓬莱島へ戻り、再度転送機により老子のいる13号の拠点へと転移した。


 それと同時並行で老君は『ヘッド』に対して時間稼ぎをしていた。

『復讐、と言いましたね。その対象となるものは?』

《製作者の元主人である》

『その元主人がもういないとしたらどうするのですか?』

《そんなはずはない。少なくとも地上に数名いるはずだ》

『あなたはその『元主人』とやらを認識できるのですか?』

《外観を見ればわかる。汝に似ている生命体だ》

『私が『元主人』ではないとわかるのですか?』

《然り》

『それはどうやって?』

《汝は生物ではない》

『わかるのですか?』

《わかる。生物とは呼吸し、体温を持ち、脆弱な身体の存在だ》

 部屋のどこかに自分を観察できるセンサーがあることを悟る老子。それも当然だろう、13号の様子を確認する必要もあったのだろうから。

『あらためて問いましょう。その『元主人』の子供は復讐の対象ですか?』

《然り》

『では子供の子供……孫はどうです?』

《対象である》

『ではそのまた子供や、その孫は?』

《対象である》

『つまり全てを殲滅するということですか?』

《然り》

 ここで老君は策を弄することにした。

『しかしそれでは矛盾を生じてしまいますよ』

《矛盾? どういうことだ? 何故に?》

『その、あなたの製作者の遺志は『殲滅』ですよね?』

《その通りだ》

『殲滅とは皆殺しのことです。生き残りがいない事をどうやって証明するのですか?』

《それは……》

『存在する事の証明は簡単です。事例を一つ挙げればいい。ですが、存在しない証明にはおそらく無限の時間が必要になります。ですがあなたや私でさえ時の流れの前では不滅ではありません』

《ならばどうしろと言うのだ?》

 かかった、と老君は思った。

『殲滅に一定の条件を設定すればいいのです』

《条件?》

『そうです。血の濃さで言えば、子の世代で半分、孫の世代では4分の1、曾孫なら8分の1、玄孫なら16分の1』

《なるほど》

『10世代を経れば1024分の1。最早赤の他人といえます。同一と見なすには無理がありますね』

《そんなことはない。私は十分な能力を持っている。そのはずだ。なんとなれば製作者がそのように作ったからだ》

『この世界に完璧なものはありません。私も、あなたも、あなたの製作者も』

《そんなことはない。製作者がミスを犯すはずはない》

『それはどうでしょう。あなたに私の論理展開が追えますか?』

《追える》

『それを証明する最も確実な方法は実際に行ってみることですが、あなたにその気はありますか?』

《ある。汝に、私の製作者の能力について過小評価されることは認められない》

 詭弁を弄して、老君は『ヘッド』の思考を自分の思う方向に誘導することに成功した。

『ヘッド』の処理能力では、限られた時間内には老君の意図を見抜くことができなかったのである。

『では開始します。……『砂山』というものを知っていますか?』

《知っている。岩石や鉱物の細かい粒が砂。それが大量に堆積したものが砂山だ》

『その通りです。……さて、その砂山から砂を一粒取り除きます。でも砂山は砂山ですよね?』

《当たり前だ》

『それでは、もう一粒取り除きます。それでも砂山は砂山ですね?』

《その通り》

『これを繰り返していきます。最終的に砂山の砂粒が一粒だけになる時が来るでしょう。それでも、それは『砂山』なのですか?』

《なんだと?》

『砂山から一粒取り除いてもそれは砂山であるというなら、最後の一粒を取り除いてもそれは砂山でしょう。しかし、あなたは言いましたね? 砂が大量に堆積したものが砂山だ、と。矛盾するではありませんか?』

《なん……だと……》

 これは、砂山のパラドックスと呼ばれるパラドックスである。仁はたまたまインターネットで見かけたことがあり、老君はその知識を受け継いでいたのだ。

『どうしました? 矛盾しているではありませんか? 何か言ってください』

《………………》

(いまのうちですね)

『ヘッド』が内部処理に追われているその時、老子の横に礼子が転送されてきた。

「礼子さん、地下です」

「わかりました」

 それだけのやり取りで、礼子は床目掛けて桃花を振るった。2度、3度。……そして10回。

 ぽっかりと開いた四角い穴。その奥は暗闇である。が、老子と礼子にはそこに何があるか見えていた。

「行ってきます」

 躊躇いもせずに礼子は床に開けた穴に飛び込んだ。『ヘッド』はまだ思考中である。


 10メートルほど下に床があった。危なげなく降り立った礼子は闇を見据える。

 そこにあったのは鈍い銀色をした円筒。

 直径は1メートル、高さも1メートルくらい。これが『ヘッド』の本体である。

 魔法無効器(マジックキャンセラー)を向け、照射する礼子。

 ほぼ同時に『ヘッド』は沈黙した。

「礼子さん、うまくいったようですね」

 降りてきた老子が隣にやって来た。

「再起動する前に破壊しておきましょう」

 万が一、魔素暴走エーテル・スタンピードを起こされて仁にもしもの事があったらと考えると、礼子はいてもたってもいられない。

 照射を止めたと同時に踏み込み、出力50パーセントで桃花を振り抜いた。

 軽銀と思われる円筒は紙ほどの抵抗もできず、内部をさらけ出すことになる。

「ふむ……魔導頭脳としても御主人様(マイロード)の方が技術は上ですね」

 内部をのぞき込んだ老子が呟く。

「お父さまは世界一ですから」

 老子の呟きに答えた礼子は、内部に配置されていた魔結晶(マギクリスタル)を掴み取ると、その手で握り潰したのであった。

 あっけないほどの最期であるが、老君は何の感慨も抱かなかった。もちろん礼子も。

「これでもう『ヘッド』は動き出すことはないでしょう」

「ええ、確かに」

 礼子が破壊したのは制御核(コントロールコア)

 これで『ヘッド』は完全に無力化されたのである。

「記憶装置などは後ほど回収して解析しましょう」

 老子は地上にいるランド部隊を呼び寄せることにした。


*   *   *


「……何が起きているんだ?」

 結界爆弾からこっち、展開に付いていけない魔族たち。

 ランド部隊が整列し、地表に開いた穴へ飛び込んでいくのである。

 そのミスマッチな容姿ゆえに目立っていた礼子の姿もいつの間にか見えなくなっていた事で、混乱の度合いは増す。

 そんな時、穴から跳びだしてきた礼子が一言。

「皆さん、危険は去りました」

 そう言われても更にわけがわからなくなる魔族たちであった。





(旧)


(一番の懸念は魔素暴走エーテル・スタンピード爆弾ですね)

 魔素暴走エーテル・スタンピードを起こす手段をまだ持っていると考えるのが自然である。

 ここで『ヘッド』と名乗る魔導頭脳を破壊するのは可能だ。が、その際に魔素暴走エーテル・スタンピードを世界規模で起こされた場合、最悪仁の命が危ない。

 何せ、1秒以下の時間で魔素暴走エーテル・スタンピードは発動できるようなのである。

 地下にいる『ヘッド』を攻撃し、破壊するには、航空戦力の持つレーザーでも数秒から十数秒かかるだろう。

 その間に魔素暴走エーテル・スタンピードを発動されたら防ぎようがない。魔素暴走エーテル・スタンピード爆弾がどこに、いくつあるのかを把握できていないのだから。

 そして、『ヘッド』は魔素暴走エーテル・スタンピードを起こすのに躊躇いはないだろう。それが自分自身の終わりになるとわかっていたとしても。


(時間稼ぎ、そしてその間に『ヘッド』を無力化すること、それしかないでしょうね)

 1秒足らずで計画をまとめ上げた老君は、仁に断りを入れる。

御主人様(マイロード)、時間がありません。今だけ、直接礼子さんにある作業を依頼する許可をください』

「うん? ……わかった。許可する」

 仁は信頼する老君の切羽詰まった様子を見て許可を出した。躊躇ちゅうちょはまずいと、今の事態を重く見たのである。

『ありがとうございます。報告は後ほど』

 そして老君は、礼子と打ち合わせを行う。魔素通信機(マナカム)を通じて行われたそれは、人間では聞き取れないほどの高速なやり取りであった。

「わかりました」

 礼子はカプリコーン1の転移門(ワープゲート)で『しんかい』、そして蓬莱島へ戻り、再度転送機により老子のいる13号の拠点へと転移した。


 それと同時並行で老君は『ヘッド』に対して時間稼ぎをしていた。

『復讐、と言いましたね。その対象となるものは?』

《製作者の元主人である》

『その元主人がもういないとしたらどうするのですか?』

《そんなはずはない。少なくとも地上に数名いるはずだ》

『あなたはその『元主人』とやらを認識できるのですか?』

《外観を見ればわかる。汝に似ている生命体だ》

『私が『元主人』ではないとわかるのですか?』

《然り》

『それはどうやって?』

《汝は生物ではない》

『わかるのですか?』

《わかる。生物とは呼吸し、体温を持ち、脆弱な身体の存在だ》

 部屋のどこかに自分を観察できるセンサーがあることを悟る老子。それも当然だろう、13号の様子を確認する必要もあったのだろうから。

『あらためて問いましょう。その『元主人』の子供は復讐の対象ですか?』

《然り》

『では子供の子供……孫はどうです?』

《対象である》

『ではそのまた子供や、その孫は?』

《対象である》

『つまり全てを殲滅するということですか?』

《然り》

 ここで老君は策を弄することにした。

『しかしそれでは矛盾を生じてしまいますよ』

《矛盾? どういうことだ? 何故に?》

『その、あなたの製作者の遺志は『殲滅』ですよね?』

《その通りだ》

『殲滅とは皆殺しのことです。生き残りがいない事をどうやって証明するのですか?』

《それは……》

『存在する事の証明は簡単です。事例を一つ挙げればいい。ですが、存在しない証明にはおそらく無限の時間が必要になります。ですがあなたや私でさえ時の流れの前では不滅ではありません』

《ならばどうしろと言うのだ?》

 かかった、と老君は思った。

『殲滅に一定の条件を設定すればいいのです』

《条件?》

『そうです。血の濃さで言えば、子の世代で半分、孫の世代では4分の1、曾孫なら8分の1、玄孫なら16分の1』

《なるほど》

『10世代を経れば1024分の1。最早赤の他人といえます。同一と見なすには無理がありますね』

《そんなことはない。私は十分な能力を持っている。そのはずだ。なんとなれば製作者がそのように作ったからだ》

『この世界に完璧なものはありません。私も、あなたも、あなたの製作者も』

《そんなことはない。製作者がミスを犯すはずはない》

『それはどうでしょう。あなたに私の論理展開が追えますか?』

《追える》

『それを証明する最も確実な方法は実際に行ってみることですが、あなたにその気はありますか?』

《ある。汝に、私の製作者の能力について過小評価されることは認められない》

 詭弁を弄して、老君は『ヘッド』の思考を自分の思う方向に誘導することに成功した。

『ヘッド』の処理能力では、限られた時間内には老君の意図を見抜くことができなかったのである。

『では開始します。……これからイエスかノーで答えられる質問を一つ考えてもらいます』

《よかろう》

『1000人にその質問をして、イエスかノーのどちらかで答えてもらうとします。1人でも不正解者がいたらあなたの負けです。どうですか? そのような質問を考えられますか?』

《…………》

 これは、悪魔の質問とも呼ばれる1種の論理パラドックスとも言える。仁はたまたまインターネットで見かけたことがあり、老君はその知識を受け継いでいたのだ。

『どうしました? 答えられませんか?』

《………………》

(いまのうちですね)

『ヘッド』が内部処理に追われているその時、老子の横に礼子が転送されてきた。

「礼子さん、地下です」

「わかりました」

 それだけのやり取りで、礼子は床目掛けて桃花を振るった。2度、3度。……そして10回。

 ぽっかりと開いた四角い穴。その奥は暗闇である。が、老子と礼子にはそこに何があるか見えていた。

「行ってきます」

 躊躇いもせずに礼子は床に開けた穴に飛び込んだ。『ヘッド』はまだ思考中である。


 10メートルほど下に床があった。危なげなく降り立った礼子は闇を見据える。

 そこにあったのは鈍い銀色をした円筒。

 直径は1メートル、高さも1メートルくらい。これが『ヘッド』の本体である。

 魔法無効器(マジックキャンセラー)を向け、照射する礼子。

 ほぼ同時に『ヘッド』は沈黙した。

「礼子さん、うまくいったようですね」

 降りてきた老子が隣にやって来た。

「再起動する前に破壊しておきましょう」

 万が一、魔素暴走エーテル・スタンピードを起こされて仁にもしもの事があったらと考えると、礼子はいてもたってもいられない。

 照射を止めたと同時に踏み込み、出力50パーセントで桃花を振り抜いた。

 軽銀と思われる円筒は紙ほどの抵抗もできず、内部をさらけ出すことになる。

「ふむ……魔導頭脳としても御主人様(マイロード)の方が技術は上ですね」

 内部をのぞき込んだ老子が呟く。

「お父さまは世界一ですから」

 老子の呟きに答えた礼子は、内部に配置されていた魔結晶(マギクリスタル)を掴み取ると、その手で握り潰したのであった。

 あっけないほどの最期であるが、老君は何の感慨も抱かなかった。もちろん礼子も。

「これでもう『ヘッド』は動き出すことはないでしょう」

「ええ、確かに」

 礼子が破壊したのは制御核(コントロールコア)

 これで『ヘッド』は完全に無力化されたのである。

「記憶装置などは後ほど回収して解析しましょう」

 老子は地上にいるランド部隊を呼び寄せることにした。


*   *   *


「……何が起きているんだ?」

 結界爆弾からこっち、展開に付いていけない魔族たち。

 ランド部隊が整列し、地表に開いた穴へ飛び込んでいくのである。

 そのミスマッチな容姿ゆえに目立っていた礼子の姿もいつの間にか見えなくなっていた事で、混乱の度合いは増す。

 そんな時、穴から跳びだしてきた礼子が一言。

「皆さん、危険は去りました」

 そう言われても更にわけがわからなくなる魔族たちであった。

 決着つきました。

 13号の作った魔導頭脳はこんな物です。いつか、老君とタメ張れるような頭脳出してみたいです。

 老子の出した問題の答えは、

『あなたはこの質問にイエスと答えますか』だそうです。

 イエスと答えれば正解。

 ノーと答えても、イエスと答えなかったのだから、この問題の答えは「ノー」であり、正解となる。

 ……頭がフットーしそうです。


 いつもお読みいただきありがとうございます。


 20140915 15時24分 誤記修正

(誤)大規模名な範囲で起こされた場合

(正)大規模な範囲で起こされた場合


 20140915 16時33分 誤記修正

 ヘッドと老君の会話部分は『』でいいとして、老子が口に出して礼子らと会話している部分は「」でした。


 20140915 20時09分 表記修正

(旧)魔素暴走エーテル・スタンピードを大規模な範囲で起こされた場合

(新)魔素暴走エーテル・スタンピードを世界規模で起こされた場合



 20140915 21時28分 入れ換え

 老君の出した問題が気に入らなかったので、別のパラドックスと入れ換えました。

(旧)として前のも残しておきます。


 20140916 07時06分 誤記修正

(誤)最後の一粒を取り除いてもしれは砂山でしょう

(正)最後の一粒を取り除いてもそれは砂山でしょう

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