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マギクラフト・マイスター  作者: 秋ぎつね
02 ブルーランド篇(3457年)
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02-18 翳り

 ビーナは今、クズマ伯爵の馬車に揺られていた。所在なさそうなビーナを見て、伯爵が声を掛けた。

「ビーナ殿、実は、今日、あなたに会いに行ったのだよ」

「あたしに? ですか?」

「うむ。なんでも、露店で興味深い魔導具を売っている魔法工作士(マギクラフトマン)がいると聞いたのでな」

「えと……ライターのことでしょうか」

 伯爵は肯き、

「そうだ。そうしたらそなたは留守で、代わりにジンという助手の方が接待してくれた」

「ジンが? そうですか」

「ほら、これを買わせてもらった」

 そう言って伯爵は、座席の隅に置いてある冷蔵庫を指差した。

「あ、冷蔵庫ですね」

 伯爵は肯き、

「その際、彼と少し話をしたが、そなたは広く人々の役に立つ物を作る、ということをモットーにしているとのことだった」

「え、あ、はい、そうです」

「本当は、私の屋敷で、専属の魔法工作士(マギクラフトマン)になってもらおうと思っていたのだが、それを聞いて考えが変わった」

「え?」

「これは、あまり広めてはいけない事なのだがな」

 伯爵はそう前置くと、

「ここ半年くらい、セルロア王国方面から、ゴーレムや魔獣がやって来ているのだ」

「ええ!?」

 セルロア王国はブルーランドのあるエゲレア王国の北に国境を接する国である。そしてブルーランドはエゲレア王国の比較的南にある。なので伯爵が口にしたような情報は流れてきていなかった。

「さすがにこれは何かあると思う者が多くてな。それで、貴族達は、優秀な魔法工作士(マギクラフトマン)を囲って、事あればそれに乗じて勢力を伸ばそうと躍起になり始めている」

「……」

「まあ、力を持つことは、それを正しく使える限りは良いことだと思うんだが、なんというか、ほとんどの貴族共は、己の家に箔を付けるため、というのが見え見えでな」

 ビーナは何と相槌を打てばいいのかわからず、ただ黙って聞いていた。

「それに比べたら、ビーナ殿は、しっかりとした考えを持っている。税を納めている庶民は、国を支えているとも言える。その庶民のためになる魔導具を作ろうとしているそなたはえらい」

「あ、ありがとうございます」

 貴族である伯爵に誉められて、ようやくビーナはそれだけを口にした。

「さて。そろそろ城門だ」

 来た時と逆の手順で外に出る馬車。

 ビーナの家の前に来ると、そこには仁が待ち構えていた。

「ほう、そなたが心配でずっと待っていたようだ」

「じ、ジン!?」

「おかえり、ビーナ」

「た、ただいま」

 馬車を降りながら少し赤面するビーナであった。実は礼子が馬車を感知したので今さっき外に出てきたのだが、そんなことはビーナにはわからないし仁も言わない。

 伯爵は窓を開けて、

「ジン殿、頼み事は果たしたぞ」

 そう言うと、馬車を巡らせ、再び城塞へと戻っていったのである。

 仁とビーナは家の中に入り、何があったかをお互いに説明する。ポップコーン製造器を売ったという話をすると、ビーナは済まなそうに頭を下げた。

「事後だけど、ごめんなさい。あれはジンの物なのに勝手に売ったりして。正直なところ、金貨10枚に思わず……」

 それを聞いた仁は笑って、

「はは、もういいよ。正直に言ってくれたしな。それに、貴族からの頼み事、というのはほとんど命令みたいなもんだからな」

「そう言って貰えると気が楽になるわ。ほんとにごめんなさい。それで、はいこれ」

 金貨10枚を仁に差し出すビーナ。

「うん、そうか」

 一応受け取っておく仁。そうしないとビーナの罪悪感を拭えないだろう。

 仁も、冷蔵庫を売った代金をビーナに差し出した。ビーナはそこから半分、金貨5枚を仁に差し出す。それも受け取っておく仁。

 それから後の話をする際、ビーナはガラナ伯爵に襲われ掛けたことは伏せて、半ば無理矢理泊まらせられた、とだけ話した。クズマ伯爵のおかげで助かった、とも。

「そう、か。クズマ伯爵に借りが出来ちまったな」

 仁がそう言うと、ビーナも、

「ええ。いい方よね」

 そう言ってわずかに頬を染めた。仁はそれを見ておや、と思ったが口には出さず、

「それじゃあ、ビーナも帰ってきたことだし、俺もそろそろおいとまするよ」

「え? もう遅いわよ。泊まって行きなさいよ」

「いや、やめとく。それじゃあおやすみ」

 そう言って、仁はビーナが止める間もなく部屋を出ていった。

「なによ、もう……」

 残されたビーナは少し膨れながらも、弟妹達の様子を見に行き、よく寝ているのを見て、自分も寝床にもぐり込んだのである。


 一方、仁。

「どう思う?」

 蓬莱島に戻った仁は、礼子に相談していた。

「その伯爵が言っていた、セルロア王国ですか? そこが何らかの魔法実験をしている可能性がありますね」

「魔法実験?」

「はい。お父さまが出会ったというゴーレム、あの国を襲ったとかいうゴーレム。それに私が出会った百手巨人(ヘカトンケイル)。そして伯爵の話。人為の臭いがします」

「うーむ……」

 腕組みをして考え込む仁に、

「お父さま、そろそろブルーランドに行くのは止めにしませんか?」

「え?」

「もうビーナさんも一人前ですし、あそこで手に入る穀物類はもう買い付け済ですし。別の場所へ行ってみるのがいいのではないかと」

 確かに、ビーナに頼まれたことはもう済んだ、と言っていいだろう。冷蔵庫も、伯爵が口コミで広めてくれれば、貴族達が買ってくれるだろう。そうなれば、借金もじきに返せるに違いない。弟妹達の病気も、置いてきた果物でほとんど良くなっている。

「いつまでも通えるわけでもないし、確かにお前の言うとおりだな。それじゃあ、あと2、3回顔を出したらビーナに話して引き上げることにしよう」

「はい」


 翌日、仁はそれとなく、そろそろ自分の事に専念したいとビーナに話してみよう、と思いつつ、ビーナの家へ向かった。礼子は、蓬莱島でゴーレムメイド達に指示を出してから合流する予定だ。

 と、家の前に、一台の馬車が停まっている。

「あれは……」

 近づいてみると、昨日見たばかりの紋章。クズマ伯爵の物であった。

 ビーナの家のドア、一応ノックしてみると、

「ジン!」

 中からビーナがすごい勢いで出てきたのである。

「よかった! あのね、伯爵様がお見えになっててね、いろいろと注文してくれてね、それでね、」

 仁はビーナの肩に手を置き、

「わかったから少し落ち着け」

 そう言うとビーナは少し顔を赤らめ、

「そ、そうね、ごめん」

 そう言って仁を家に招き入れた。

「おお、ジン殿」

 そこにはクズマ伯爵が座っていた。

「早速来てしまったよ。あの冷蔵庫という物は便利だな! 朝食のフルーツを冷やして食べたらいつもより美味かったぞ」

「それはようございました」

「さあ、そなたも座ってくれ。いろいろ話が聞きたい」

「では、失礼します」

 ビーナも座り、伯爵が口を開く。

「まずはあの冷蔵庫だがな、倍くらいの大きさの物を作ってもらいたい。費用がいるなら、前金で渡しても良い」

「あ、ありがとうございます」

 冷蔵庫が売れればまとまった収入が望める。ビーナにとっては願ってもない事だ。

「それからな、今見せてもらっていたのだが、この『温水器』なる魔導具、とりあえず10台、作ってくれ」

「10台、ですか」

 気前の良い話に、仁も引き込まれ、どうやって数を揃えようかと考えているのであった。

 仁が冷蔵庫の代金をビーナに渡すシーンを追加しました。


 この先仁はどうするでしょうか。そして不穏な影は?

 お読みいただきありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
今回はドアで顔面強打せずに済んで何より。 ビーナが落ち着いたようには思えないので、ノックからのバックステップ回避でしょうか。
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