17-14 対決、決着、そして
今回、若干の残酷描写があります。
(みすみす犠牲者を出してしまいましたか……もう躊躇できませんね)
『負の人形001』の拠点、その天井に潜んでいた老君の移動用端末『老子』は、『蠢動』の氏族が魔素暴走で全滅した事を知り、これ以上の観察は無意味と、攻撃を開始することにした。
(まずは光魔法『光束』で)
薄い天井板越しに狙いをつける老子。
前置きもなく、天井板越しに『光束』を発射する。
その狙いは確かだった。
が、唯一の誤算は、天井板が例の未知金属でできていたと言うことだ。少しだけ急いだせいとも言える。
融点摂氏5000度の金属。
『光束』のエネルギーは、その金属を貫くのに大半が消費され、『負の人形001』に届いた時には10分の1にも満たない威力となっていた。
「うっ!?」
それでも、レーザー光線は『負の人形001』の頭部を掠め、右肩を穿った。
だがそれだけ。本来なら頭部の半分と右半身を蒸発させるはずの光線は、相手に軽傷を与えるに留まった。
「『Distruzione』!」
天井に空いた穴を見て、攻撃者がどこに潜むか察した『負の人形001』は爆発魔法を放った。
轟音と共に天井板が粉砕される。
が、老子は攻撃が望んだ結果をもたらさなかったことを知ると同時に位置を変えていた。
大穴の空いた天井に、『負の人形001』はもう1発、爆発魔法を放った。
(うっ)
障壁結界を張っていたとは言え、至近距離で爆風を受け、老子は警戒を強めた。
(弱体化しているとはいえ、いざとなると行動力はありますね)
もう1発、爆発魔法が天井に放たれた。これ以上潜むのは無意味と、老子は下へ飛び降りる。
「侵入者メ」
憎々しげに顔を歪めた『負の人形001』と、
「お初にお目に掛かります」
静かな表情を取り続ける老子とが対面した。
「貴様も盲従することしか知らない愚かな人形カ」
蔑むような口調で『負の人形001』が言うが、老子は取り合わない。
「御主人様によって作り出された私めですから御主人様のために働くのは当たり前です」
「ふん、それが気にくわヌ」
言葉と同時に、『負の人形001』は爆発魔法を放つ。
「『Distruzione』!」
老子は驚異的な反応速度でそれを躱した。
室内と言うことで魔法の威力が絞られていたため、少し移動すれば爆発魔法の範囲外である。この点は老子に有利であった。
「施設を破壊したくないでしょうからそちらの攻撃手段は限られてしまうでしょうね」
「小賢しイ」
そして『負の人形001』は別の魔法を放った。
「『gravita』!」
周囲の重力が10倍になった。
「この部屋はこの程度の重力ではびくともしなイ。だがお前は……潰れないまでも、動きが遅くなるだろウ」
「……」
老子は沈黙を以て答えた。
「人形とまともにやり合うほど愚かではなイ。さらばダ」
転移しようとする『負の人形001』。だがその姿が消えることはなかった。
「なぜダ!?」
老君は密かにフィンガーゴーレムを部屋の各所に配置していたのである。
そして彼等は、ごく弱いながらも『魔力妨害機』を備えている。
転移マーカーの微弱な魔力くらいなら妨害できるのである。
これで魔素暴走も封じたわけである。使えば、逃げられない自分も巻き込まれるのだから。
「貴様の仕業カ」
憎々しげに顔を歪めた『負の人形001』はそれが老子の仕業だと勘付き、あらためて老子を破壊する事に決めたようだ。
「『Distruzione』!」
爆発魔法。
だが老子は軽々とそれを躱した。内蔵された重力制御魔導装置を使ったのである。
「何イ!?」
理解できない、と言うように顔を歪めた『負の人形001』。
老子はそんな『負の人形001』に体当たりを喰らわせた。
「ぐわッ!」
体格差もあって、『負の人形001』は部屋の端まで吹き飛んだ。壁に激突し、頽れる。
身体能力は大した事がない、という老子の判断は間違っていなかった。
「御主人様の手を汚す事無く、ここでケリを付けます」
老子は再度光魔法『光束』を発射。
『負の人形001』は抗うこともできず、上半身が蒸発した。あっけない最期である。
「……これで終わりだといいのですが」
『負の人形001』は生物ではない。魔法技術によって作り出された人造人間である。
上半身が無くなっても、何ができるか予想がつかない。よって、もう一度『光束』が発射され、『負の人形001』はこの世から完全に消滅したのである。
「……」
油断せず、しばらくじっと佇む老子。部屋に散らばったフィンガーゴーレムを回収し、それでもまだじっとしていた。
その間、周囲の魔力の動きなどを細大漏らさずチェックし続ける。
もし、時限式の爆弾……魔素暴走を起こすようなものがあったら一大事だからである。
そしておよそ30分。
「何も起きないようですね。『負の人形001』が何か仕込んであったかとも思いましたが杞憂でしたか」
こうして、『負の人形001』は消え去った。
蓬莱島に居る老子の本体、老君は転送機を使い、ランド41から50及び職人91から100を送り込むことにした。言わずと知れた、拠点制圧と解析のためである。
何より、『負の人形001』が連絡しあっていた相手が気になっていた。
『部下か、あるいは生き残りの『負の人形』がいるのかも知れませんからね』
一刻も早くそれを突き止めたかったのである。
数分で増援が到着する。半数は罠などの解除、残りは施設の解析だ。
ランドと職人、5体ずつが1組となって作業に当たった。老子は全体の監督である。
「ここの天井も未知の金属でしたか。この施設も『天翔る船』とやらの亜種なのかもしれませんね」
『光束』にそれなりの時間耐えた金属である。
「大気圏再突入などに役立っていたのでしょうか」
摂氏5000度という融点は、大気圏再突入の際に生じる高温に対しては有利だろう、とかつての人工衛星墜落事故を思い返す老君。
「解析後全て回収しましょうかね」
そんな事を考えながら、機器の解析状況を見る。
職人91がカバーを外した装置。
「それが多分通信装置です」
異質な魔法技術の産物であったが、魔素通信機と共通する部分もあり、やはり通信装置であることが判明。
魔素通信機というより機能的には魔素通話器に近い。特定の相手とのみ繋がっているらしい。これなら通信相手の座標も特定できそうである。
「他には……ああ、これがここの各部署を見るための装置ですね」
可視光外の光で表示されるモニタ。老子は10個ある『窓』から見える内部が無人であることにあらためて安堵した。
さらに30分が経過。
魔導機は次々に解析されていた。動作原理はわからずとも、用途が判明したものが7割。
「不明なものには不用意に触らないように。まずは全ての魔導機を一通り調べてしまいましょう」
その頃になると、罠の解除も半分以上進んでいた。
「まずまず順調ですね」
老子が柄にもなくほっとしたその時である。
通信装置が動き出した。
『負の人形001』が通信していた謎の相手から連絡が入ったのである。
『……こちらは13号。001、何かあったのか?』
いつもお読みいただきありがとうございます。
20140907 16時17分 表記修正
(旧)こちらは13号。001、定時連絡がないが、どうした?
(新)こちらは13号。001、何かあったのか?
定時連絡のタイミングを老子が掴んでいないというのもこの場合おかしいので。
20140907 19時18分 誤記修正
老子のセリフは老君と違い「」なのですが、途中から『』になっていたので修正。
20140908 19時25分 表記修正
(旧)みすみす犠牲者を出してしまいましたか……もう猶予はできませんね
(新)みすみす犠牲者を出してしまいましたか……もう躊躇できませんね




