17-13 2回目
礼子の改造を開始した仁。
まず手始めに、魔素変換器と魔力炉を魔力反応炉に交換する。
無駄なスペースが無くなったため、より大型のものを積めたことと効率アップの相乗効果で、出力は60パーセントアップした。
次は魔導装置のシールド。
1層目は今まで通りのミスリル銀シールドケース。
2層目に、グランドラゴンの鱗で作ったシールドケースを被せた。
これで、これまで以上の防護力を誇るであろうが、さらに仁は駄目押しの機能を取り付ける。
極小型の『魔法無効器』である。
仁が作れる最小の大きさなので、有効半径は魔導装置をカバーする程度。せいぜい直径10センチの球形の範囲しかカバーできないが、魔素暴走の影響を防ぐには十分である。
それ以上大きいと、他の機能を阻害することになる。
「本格的な魔法無効器は腕輪にして携行させよう」
礼子に似合いそうな、ミスリル銀の腕輪に仕込む。デザインはあえてシンプルにした。
「よし、完了。……ついでにメンテナンスもしておこう」
耐久性に優れる素材で作られている礼子であるが、その働きを考えると、劣化が早まってもおかしくない。
仁は、魔法外皮、魔法筋肉などを自由魔力素含浸処理により更に耐久性を上げた素材と交換していく。
関節部分の摺り合わせも再度見直し、骨格の歪みもチェック。満足した仁は微笑んだ。
「礼子、起動」
「はい、お父さま」
全て終わり、更に完成度の増した礼子が目覚めた。
仁は礼子にそれぞれの機能を説明する。
「それでは、増えた出力の一部を魔法無効器に回せばいいのですね」
「そうだ。それと、本格的な魔法無効器は腕輪だ。取り付けられている魔結晶の向いている方向、おおよそ120度くらいの照射角がある」
「わかりました」
もう一つの魔法無効器はペガサス1に搭載することとし、ファルコン2と3に加え、支援に回す事となった。
ペガサス1には仁自身が乗りたかったのだが、老君と礼子に反対されて、結局代理としてデウス・エクス・マキナを乗せることになったのである。
* * *
一方、老君は魔族領内に派遣したランド隊に命じ、転移マーカーを虱潰しに回収させ続けていた。
その全てを一箇所に集めることで、『負の人形001』の逃げ場を無くそうとしていたのである。
そして老君の移動用端末である老子は『負の人形001』の動向を探り続けていた。
薄い天井板1枚を隔てて、老子は『負の人形001』の動向を追い続ける。
穴など開けて視覚的に観察もしたいのだが、万が一気付かれては拙いと、観察は密かに送り込んだフィンガーゴーレムの視界を使って行っている。
(半日……いや、4分の3日は休んでいるのですね。やはり体調が?)
そこで気が付いたこと。『負の人形001』はあまり活動的ではないということである。
(700672号も年月を経て弱っていましたがもしや……?)
そこで、その前提で観察してみると、やはりそれを裏付ける事実が幾つか判明した。
動作が鈍いのである。必要無いからといえばそれまでであるが、礼子たちと出会った時に比べても遅い。
(700672号よりも不完全な人造人間だとすれば、より早く寿命が来てもおかしくはないですね)
このまま動作しなくなってくれれば手間いらずなのだが、そうもいかないようである。
そして、最大の懸念事項があった。
『負の人形001』が、時々、誰か、もしくは何かに連絡を入れているのである。
それは取りも直さず『負の人形001』には他に仲間がいるということ。
老子が『負の人形001』に攻撃すれば全て終わるならとっくに行っているのだが、そうしない理由がこれであった。
謎の仲間。もしくは部下かも知れない。その正体は不明。
というのも、言葉をほとんど使わず、シンボルのようなもので連絡を取り合っているからなのだ。
辛うじて『13号』と呼ばれていることがわかったのみ。
その相手がどんな技術を持つのかもわからない。『負の人形001』を倒したとして、どう出てくるかも不明。
あまりにも不確定要素が多すぎて、老子としても『負の人形001』を直接攻撃することができずにいたのである。
『負の人形001』を倒しても、事態をより悪くしてしまったのでは本末転倒。
ゆえに老子は、『負の人形001』の向こうにいる謎の相手を見極めようとしていたのだった。
そうやっていて、わかったことがまた一つ。
やはり『負の人形001』は弱体化しているようだ。
それでも、この拠点にある数々の魔導機の正体が掴み切れていないため、侮れない。
(完璧を期するのは無理かも知れませんね)
老子は、機会を見つけ次第、『負の人形001』を攻撃することに決めた。
そんな時、『負の人形001』が転移で姿を消したことがあった。
逃がしたか、と思ったのも束の間、数秒で『負の人形001』は戻って来た。
(どうやら、どこかを攻撃してきたらしいですね)
本体である老君も把握していないことから、未知の氏族を攻撃してきた可能性が高い、と判断した。
攻撃であると断定した理由は、不在時間が短かったからである。それはすなわち、爆弾のようなものを投げ込んでまた戻って来たということ。
そして『負の人形001』が使う爆弾といえば……魔素暴走である。
(みすみす犠牲者を出してしまいましたか……もう躊躇できませんね)
* * *
『諧謔』の氏族長、バフロスクはどす黒い怒りを裡に秘めていた。
そして、他の氏族とも連絡を取っていたのである。
中でも『灰燼』の氏族は、氏族同士も交流があり、彼自身の娘であるベミアルーシェを氏族長の息子であるドグマラウドの嫁に出していたため、一番頼れる相手である。
「うむ、魔素暴走だと? それを起こせる相手だというのか……」
相手は『灰燼』の氏族長、フロロドルス。かつて礼子と対峙したこともあるドグマラウドの父親であった。
『灰燼』は過激派の中で『諧謔』と並ぶ強大な氏族で、構成員は約150名。爆発魔法を得意とし、重力魔法・転移魔法も使える者が多い。
よって、バフロスクが頼るのも当然であった。
更に『狂乱』の氏族は、氏族長が殺されたと言うことで、その息子であるライドロスが新氏族長となり、いきり立つ氏族をまとめていたのだが、そのライドロスもバフロスクに賛同し、協力を申し出ていた。
『狂乱』の氏族80名、『灰燼』の氏族80名、そして『諧謔』の氏族生き残り20名が力を合わせ、『負の人形』に戦いを仕掛けようとしていたのである。
「それで相手は、『負の人形』というのだな? 何奴だ、そいつは?」
「聞いたところによると、我等の遠い祖先が作り出した魔法生物で、我等を憎んでいるのだそうだ」
「ふむ、俄には信じがたいな」
「それはわかる。だが、何者であれ、我が氏族の9割を殺戮したことに変わりはない」
「確かにな」
「あれで終わるとも思えぬ。次の標的は『灰燼』なのかも知れぬぞ」
そんな話をしていた矢先である。
突然転移して来た者がいた。
「親父!」
「何だ、ドグマラウド」
会談中に割り込まれたフロロドルスは少し不機嫌そうに言った。
「『蠢動』の氏族が全滅した!」
「何だと!」
『蠢動』の氏族は50名ほどの過激派中堅氏族である。
「協力を取り付けに訪れたら……」
ドグマラウドは転移魔法が使えるため、他の氏族への使者として出向いていたのである。
様子を聞くと、やはり魔素暴走によるものと考えられた。
「うぬう……同胞をよくも……」
氏族内での繋がりは強いものの、氏族間の繋がりはさほどでもないのが魔族である。が、今はそんなことを言っていられない様な事態となっていた。
さすがに過激派の氏族長たちにもそれが嫌と言うほど理解できたのである。
いつもお読みいただきありがとうございます。
20140907 09時30分 表記修正
(旧)今はそんなことを言えない様な事態となっていた
(新)今はそんなことを言っていられない様な事態となっていた
20140908 19時24分 表記修正
(旧)みすみす犠牲者を出してしまいましたか……もう猶予はできませんね
(新)みすみす犠牲者を出してしまいましたか……もう躊躇できませんね




