17-12 加速
時間短縮のため礼子の持つ転送銃を使い、『しんかい』経由で蓬莱島に戻った仁。
そこには仁ファミリーが揃っており、仁を出迎えたのである。
「ジン兄、お疲れ様。聞いていたけど、半分くらいしか理解できなかった」
エルザには700672号の話の全てを理解することはできなかったようだ。
「ジン! 理解には程遠いが、素晴らしく深遠な理論が語られたことはわかったよ!」
「ジン君、これはじっくり取り組んでみたいテーマだね」
サキとトアは新たな世界への扉が開かれたことを察知し、理解出来ないなりに興奮気味。
「ジン、僕には理解しきれなかった。だが、君は違うんだろう? いつの日か、我々にもわかりやすく説明してくれると信じてるよ」
「ジン君、わたくしもその日を待ってるわ」
ラインハルトとステアリーナは素直にわからないことを認めると共に、騒動が終わったなら仁からの教示を期待する発言を口にした。
「ジン様、頑張って下さい。私は私にできることで精一杯協力させていただきます」
「私もですわ」
ミーネとベルチェは素直に協力を申し出てくれた。
頼りになるファミリーに囲まれて、仁はそのありがたさを実感した。
その日は夜遅くまで、皆との話し合いを続けたのであった。
翌日早朝から、仁は早速行動を開始した。
まずは、『魔力反応炉』の開発だ。
『負の人形001』も持っているはずの技術であり、魔素暴走を防ぐためにも、より効率のいい動力源が必要だった。
「うーん、魔素変換器と魔力炉を1つにするわけだが……」
考え込む仁。1つの魔結晶にその2つの機能を持たせるというのはさすがに無理である。
必然的に、魔導接続基板に配置して構成する事になるが、接続や同期などでどうしてもロスが発生する。
仁や先代魔法工学師、アドリアナの作ったものは信じられないほどの効率を誇るが、それでもロスはある。
かつて、礼子がギガースに捕まった際、過剰な魔力素の供給でギガースの魔力核を破壊したことがある。その際、ロス分の魔力で周囲が眩しいほどに発光した。
それを見ても、仁と言えどもロスをゼロにはできていないのがわかる。
「うーん、『融合』じゃあ不十分だよなあ」
頭を捻っている仁の所に、ステアリーナが顔を出した。
「ジン君、今いいかしら?」
ちょうど行き詰まっていたところなので、仁はむしろ歓迎した。
「何かあったんですか?」
「いえ、面白いものを入手したので見てもらおうと思ったのよ」
そう言いながらステアリーナは、右手を差し出して掌を開いた。
「これは……」
「ね、面白いでしょう? 水晶をいろいろ探していたら、偶然見つけたのよ」
それは、平べったい水晶が2つくっついている結晶だった。
『双晶』と呼ばれるもので、2つの結晶が同時に成長したものである。単に2つの結晶がくっついているものとは違い、幾何学的な規則性がある。
中学の理科室で標本を見た記憶が蘇った。
水晶のそれは『日本式双晶』というもので、蝶が羽を広げたような平べったい形をしていて、印象に残っていたのである。
「……ジン君?」
結晶を見つめたまま黙り込んでしまった仁を、ステアリーナが訝しく思いだした頃、仁は再起動した。
「そうか! この手があった! ……ステアリーナ、ありがとう!」
「……何だかよくわからないけど、お役に立てたならうれしいわ。で、この結晶だけど」
「ああ、それは『双晶』と言って、単に結晶がくっついているんじゃないんだ。……」
双晶について知っている限りの事を説明する仁であった。
お礼を言ってステアリーナは自分の研究室に戻っていった。
仁は仁で、早速アイデアを形にすべく、魔法を練り上げる。
「……『融合』と『結晶化』を組み合わせたらどうだ?」
用意した水晶で試しに行ってみる。2個の水晶が融け合い、再度結晶になる。
「うーん、上手くいかない」
単に2つの結晶がくっついた物ができてしまった。
「もう一つ組み合わせる必要があるか……『融合』『結晶化』『変形』……これじゃ駄目だ」
形の歪な結晶ができただけである。
「『融合』『結晶化』……『構造変形』!」
『分析』で結晶構造を把握しつつ、その構造を変えるという職人芸とも言える魔法を開発した仁。
そして目の前には、見事な日本式双晶ができあがっていた。
「やったぞ! これでまずは魔力反応炉の見通しが立った」
魔結晶は、通常は球形に加工されている。それは、成形のしやすさ、形状の美しさ、扱いやすさ、そして、球という立体は体積に比べて表面積が最も小さくなると言う理由から経験的に選ばれた形状である。
表面積が小さいほど、含まれる魔力を有効に使えると考えられてきたのである。理由は不明。
仁は今、この経験則に敢えて逆らおうとしていた。
元々の魔結晶結晶は水晶と良く似た結晶をしている。つまり、六角柱だ。それを削り出したものが一般に流通している魔結晶である。
が、仁は、敢えて結晶の形を生かせないか、と考えた。つまり、平面部分を生かすつもりなのである。
「ここに魔導式を書き込めば、魔導接続基板もいらないし、制御しやすくなるじゃないか!」
結晶の形そのものを魔導接続基板に見立てることで、球の時にはできなかったほどの精密制御ができそうな事に気がつく仁。
日本式双晶が作れなければ意味のない技法であるが、今の仁には大いに意味があった。
更なる試行錯誤をすること1時間。
「できたぞ!」
ついに、効率99パーセント以上という魔力反応炉が完成した。
今までの魔素変換器と魔力炉の組み合わせでは、正確に測ったことはないが、おそらく80パーセント止まりと思われる。
それでも驚異的な数字ではあるのだが、今完成した魔力反応炉は99パーセント以上。とんでもない効率である。
「礼子をはじめとするみんなにこれを搭載して、それから……」
早速用途を考え出す仁。
「いずれにせよ量産しないと駄目だな」
そして仁は次の課題に取り組むことにする。
言わずと知れた、『負の人形001』対策だ。
「まずは魔素暴走対策からだな」
自由魔力素の完全支配。そのために高出力な魔力反応炉を開発していたのだから。
「魔力素を自由魔力素に戻してしまう魔法、ということか」
ふと、仁は思う。欠陥品ではあるが、対魔族用の決戦兵器であった『ギガース』。あれも周囲の魔力素を己のものにしてしまう機能を持っていた。全て破壊してしまったため、その方法はついにわからなかったが。
「あれも『負の人形001』が人類側に与えたものだったかも知れないな……」
一度起動すると敵味方の区別無く襲いかかるというその性質からいってあり得そうなことであった。
「……と、今はこっちの開発だ」
仁は、自由魔力素を支配する魔力波を発生させるための魔結晶を生成することにした。
ベースは光属性の魔結晶。透明な水晶に良く似た結晶だ。
「これに、もらった『精神触媒』を添加する、と」
箱を開けると、一つまみの黒い粉末が入っていた。
教わった通りに、魔結晶100に対し、1の割合(重量比)で添加する仁。
「『添加』」
透明な魔結晶がくすんだようになった。ちょっと煙水晶にも見える。
「これを発生装置に使えば、自由魔力素に大きな影響を及ぼせるわけか」
以前考えていた『魔法無効化』の魔法を放つことができるはず。
名付けて『魔法無効器』だ。
魔力素を強制的に自由魔力素に戻してしまうことで、ごく一部の魔法を除き、相手の魔法を掻き消してしまうことができる。
例外は、『石を飛ばしてぶつける』ような、純粋物理系の攻撃は一度発動してしまったらもう魔力素の供給は必要無いので効果が無いわけだ。
それ以外、例えば炎系なら炎は消えるし、風系でも霧散してしまう。重力魔法でも『キャンセル』することができるはずだし、転移魔法も妨害することができるはずだ。
粉末の量を考え、作るのは2つに留めた。
1つは礼子が使う分、もう一つは空からの援護用に使うことにする。
「あとは礼子の魔素暴走対策で無くなるか」
切り札である礼子も今のままでは魔素暴走で動けなくなる公算が大である。また、『負の人形001』が超強力な『隷属魔法』を使える可能性を考慮し、より強力なシールドを施そうと仁は考えていた。
魔素通信機で連絡すれば、礼子はすぐにやってくる。
「お父さま、お呼びですか」
「ああ、礼子。お前をより一層強化するために呼び戻したんだ」
仁は礼子に改造の内容と目的を説明した。一も二もなく礼子は頷く。
「はい、お願いします」
そして仁は全力で礼子の改造に取りかかった。
礼子はどこまで強くなるのでしょう……。
いつもお読みいただきありがとうございます。
20140905 13時22分 表記修正
(旧)面白いものを入手したんで見てもらおうと思ったのよ
(新)面白いものを入手したので見てもらおうと思ったのよ




