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マギクラフト・マイスター  作者: 秋ぎつね
17 魔族解決篇
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17-02 周波数

「食糧の問題、確かにそれは大きいと思います」

 中立派の一角、『侵食』の氏族との会談が始まった。

『侵食』側は氏族長ドメニコス、その息子で次の氏族長候補ジャラルドス、他に世話役、書記役の4名が参加。加えて、5名ほどが傍聴人として話を聞いている。


「それについては、ジン殿の尽力により、自給できる見通しも立っている」

 ベリアルスが説明する。

「現に、穏健派の主だった氏族では、年内にもう一度、クロムギ(=ソバ)の収穫が出来る見通しが立った」

「おお……」

 傍聴人達から声が漏れる。

 食糧調達という、人類に攻め入る理由の一つが崩れたのだ。

「それは、我々にも同じ事をしてくださると言うことですかな?」

 ドメニコスは仁の顔色を伺うようにして質問してきた。

「もちろん。但し、人類への侵攻をやめることと、多少の見返りをいただく事が条件ですが」

 仁の返答に、ドメニコスは少し渋い顔をする。

「見返りと仰っても、我々には大したものはお譲りできませんが?」

「いえ、そんなことはないと思います。ベリアルスに聞いたところでは、こちらには魔結晶(マギクリスタル)が多く産するとか」

「おお、なるほど。魔法工学師マギクラフト・マイスターの貴殿でしたら使い途は無限ですな」

「そうです」

 このようにして、最初の会談は概ねうまくまとまったのである。

 更に翌日、近隣の他氏族を呼ぶとまで約束してくれたのであった。


*   *   *


『今日の相手は中立派の中でも比較的穏健派に近い氏族でしたからうまくいきましたが、この先は厳しくなってくると思われます』

 蓬莱島では仁と老君が打ち合わせをしていた。

『明日、近隣に住む他の氏族の代表を呼ぶ、と言っていましたね』

 一気にこちらへ引き込む好機であるが、同時に難しい局面でもある。

「交渉には老君が当たってくれるか?」

 要するに、『ダブル』の操縦を老君に任せるという意味である。

『わかりました。謹んで承ります』

「交渉に必要なもので足りないものはないか?」

『そうですね。中立派相手の交渉ですので、実力を見せろ、という場面も考えられます。その場合に適当なものがあるとよろしいかと』

 ルカスもそんなことを言って突っかかってきたことを思い出す仁。実力主義的な面があることを考慮し、何か派手な演出めいたものはないか、考えてみる。

「プラズマソードなんてどうだ?」

『悪くはないと思いますが、あまりこちらの手の内を曝すのはまずいかと』

負の人形(ネガドール)001』の技術力がどの程度かはわからない以上、あまりこちらの手の内を見せたくない、と老君は言った。

「そうか……あと飛行船はどうかと思っていたんだが」

『航空戦力の誇示はまだやめておいた方がいいと思います』

 イスタリスとシオンたちは知っているが、言いふらしたりはしないだろうし、仁は別の物を考えることにする。

『ゴーレムを大勢送り込みましょうか?』

 考え込む仁を見て、老君が案を出してきた。

「そうか、それもいいな。ランド1がいるから、2から20まで送り込んでもらうか」

『わかりました』

 今回に関しては質より量で説得することにした。


「あとはもう無いかな?」

『はい、今現在、『負の人形(ネガドール)001』の拠点を探っている最中ですが、気取られないようにしているため、進捗が遅いのが難点です』

「うん、それで?」

『それでも、なんとか潜入には成功しました。それによると、御主人様(マイロード)の存在はどうやら嗅ぎつけられたようで、この先何か仕掛けてくる可能性を考慮に入れる必要があると思われます』

「なるほど。で、対策には何が必要だ?」

 ここで老君は、『負の人形(ネガドール)001』が取る可能性のある行動を推測して見せた。

『これまで『操縦針(アグッハ)』を取り出してきたことで、御主人様(マイロード)がいわゆる『目の上のコブ』になっているはずです。と、すると……』

 間違いなく、仁の『ダブル』を狙ってくる、と老君は言った。

『その方法として1番あり得るのが転移による奇襲攻撃です』

 転移してきて何らかの攻撃を加え、転移で逃げる。この可能性が最も高いという。

 今のところ転移を防ぐには魔法障壁(マジックバリア)が有効なことはわかっているのだが、カプリコーン1にいる間はともかく、魔族の居住地にいる時は解除する事が多い。

『重力爆弾を送り込まれたら防ぎきれません』

 と老君が結論づけた。

「確かにな」

 というか、重力爆弾を無効化する方法は今のところ、反対方向の重力魔法をぶつけて相殺するくらいしか手がない。

『あとは、転送機で別の場所へ送り込むくらいですが……』

 転送機は持ち運べるほど小型ではないのである。

「いや、送り先固定なら」

 仁がアイデアを出した。

 転送機が大型化してしまうのは、送り先を把握するための機能がその大半を占めるからである。

『なるほど、さすが御主人様(マイロード)です』

「瞬間的に対処可能な超小型転送機を作れるかどうか、だな」

 転送に必要なのは、送り先の情報だけではない。被転送物をしっかりと把握する必要がある。そうでないと、周囲の物も巻き込んで転送するおそれがあるからだ。

「人間の反応速度では無理だな。礼子なら」

 仁が手掛けた自動人形(オートマタ)やゴーレムであれば、人間の数倍〜数十倍の反応速度を有する。

『銃の形にできればいいですね』

「ああ」

 この線で、仁と老君は重力爆弾対策として、簡易転送機の開発に着手することにした。重力爆弾以外の無力化にも応用が利きそうなので、最優先で行うつもりだ。


*   *   *


「ジン、いるかい?」

 夕食後、工房で構想を練っているとサキがやってきた。トアと一緒ではなく、1人である。

「ん? どうした?」

「やあ、ちょっと思いついたことがあってね、ジンの意見を聞きたくてさ」

「何だい?」

 仁も、少し考えあぐねていたところなので、ちょうどいい気分転換になると、サキの話を聞く事にした。

「ありがとう。いやね、この前から、『魔力線』についていろいろと考察しているんだが、幾つか立てた仮説に対してジンの意見を聞かせて欲しいんだ」

 仁も昼間、転移魔法の妨害という目的で似たような事を考えていたことを思いだした。

「ああ、いいとも。サキの仮説って奴を是非聞かせてくれ」

「くふ、そう構えられるとなんだか恥ずかしいね。……ええとだね、まずは……」

 サキが話し始めた内容は、仁が考えていたことと酷似していた。

「魔力(線)は波である。ゆえに周波数と波長、波形がある。……というのが前提になるんだ」

「ああ、それには全面的に賛成だ」

「ふふ、嬉しいね。……それでだね、ボクの考えというのは、魔法の属性というのは周波数で決まるんじゃないかということなんだよ」

「え?」

 サキは説明を始める。

 土、水、風、火という4つの属性。最も周波数が低いのが土属性で、最も周波数が高いものが火だ、という。

「例えば、水属性の中で周波数が低いものは氷属性になるんだ」

 氷は固体である。ゆえに土属性に近しい、とサキは考えたようだ。

「ふうん、興味深い」

「だろう? 水属性の中で周波数が高いものは、『蒸気』を扱うもの、ということになる」

「うん、わかる。でも、その考え方で言うと風と火は?」

「くふふ、そこで、仁から分けてもらった知識の出番さ。固体、液体、気体。土は固体。水は、固体の時は氷、普通は液体、熱すると気体。で、火は?」

 火とは何か、というと幾つか解釈があるだろうが、熱せられた気体が光を放つ状態、という見方もできる。

 サキは仁にそう説明した。

「ふうむ……すごいじゃないか」

「ありがとう。で、だ。風は気体。火も気体。だが、もっと熱したら?」

 答えはプラズマ、である。

「雷、と言っていいかもしれないと思うんだが、ジンの意見を聞きたいんだよ」

 プラズマは電離した気体であるし、雷も一種のプラズマ現象といえるからその考えでいいだろう、と仁は頷いた。

「そうか! そうすると、その上が光、そして……闇、でいいのだろうか……?」

 サキの声が尻すぼみになる。自信が無くなってきたらしい。だが、仁の返答でその顔が明るくなる。

「現象としては単純に周波数だけじゃないのかもしれないが、俺はその説に賛成するね」

「そうか! いやあ、ジンに相談してよかった! ……だが、光の上が闇、というのは常識を覆すことなんだがね」

 光は闇を打ち払う、というイメージから、光属性が全ての頂点にあるというイメージが一般的なのだ。

「うーん、しかし、光も脱出できないブラックホールはやっぱり『闇』だよなあ。それにしても周波数帯、か……」

 その時、仁の脳裏に、あるアイデアが閃いたのである。

 いつもお読みいただきありがとうございます。


 20140826 13時18分 表記修正

(旧)水は固体は氷

(新)水は、固体の時は氷

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― 新着の感想 ―
よく考えたら蛍光灯やネオンランプ(最近はアルゴンですが)もプラズマを利用しているものなので、やはりプラズマの方が関わりがありますね。プラズマ溶接なるものもあるようで、近距離であれば結構な火力も得られそ…
知名度ではプラズマよりマイナーな超臨界流体ですが、たぶん一般人への関わりは超臨界流体の方が大きいです。コーヒー豆からカフェイン抜いたりするのに使われます。 私がよく見るプラズマは、減圧容器の中ににうっ…
[一言] サキの父親のトアが仲間になった経緯が軽すぎて。 侯爵の長女という地位を捨ててまで自分と一緒になった亡き妻の忘れ形見のサキをほっぽって自分の趣味に生きてきたのに偶々家に帰ったら自分の好みの女性…
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