16-29 グランドラゴン一蹴
土煙を上げ疾走し迫り来るグランドラゴンに対し、礼子とアンが打って出ることにした。
『デモンストレーションの意味もありますから、できるだけ派手にお願いします』
「了解です」
魔法耐性の高い魔獣は、物理攻撃に比較的弱いという特性がある。
礼子は桃花を背中に背負い、手には魔力砲を。アンは超高速振動剣と魔力爆弾を携行することにした。
「行きますよ、アン」
「はい、おねえさま」
カプリコーン1の天窓から、2体は飛び出した。グランドラゴンとの距離はもう200メートルも無い。
『傀儡』の氏族も大半が出てきて、息を呑んで見つめていた。
「な、なんだ、あの2人は?」
「女が2人? 1人は少女ではないか!」
「無茶だ! 何を考えているんだ?」
だが、そんな疑問も数秒後には驚愕に変わる。
* * *
「魔力砲、鉛玉発射!」
礼子は、グランドラゴン3頭を止めるため、鉛玉3発を連続で打ち出した。
軟らかい鉛は破壊力こそ無いものの、運動エネルギーを余さず相手に与えるため、衝撃という点では有効だ。
時速200キロ近い速度で疾走してきた3頭のグランドラゴンは、胸部に鉛玉を受けたため、咆吼を上げてのけ反った。
速度も半分以下に落ちる。そして礼子は次弾を発射した。
速度が落ちたグランドラゴン、その頭部目掛け、今度は鋼球が3発打ち出されたのである。
があああ、という大地を振るわすほどの咆吼が響き渡る。それは苦痛の叫び。
頭部はかなり硬度があると見え、鋼の玉は大きく弾かれはしたが、ダメージは入ったようだ。
疾走してきた3頭のグランドラゴンはカプリコーン1の100メートル手前で停止した。
「アン、魔力爆弾を」
「はい、おねえさま」
礼子の指示に従い、アンは魔力爆弾を投げた。
魔力爆弾は、魔力爆発を応用した爆弾だ。爆発そのものは魔法によるが、効果は物理的である。
魔法に耐性があるというグランドラゴンであるが、物理的な破壊力には相応のダメージを受ける。
爆弾の破片による傷はさしたることもないが、爆発の衝撃波はグランドラゴンの大きくもない脳を揺さぶり、鈍い聴覚を完全に麻痺させた。
「徹甲弾、発射」
第3弾は貫通力に特化した徹甲弾。ハイパーアダマンタイトの先端を持つ砲弾型の弾である。それがマッハ20で打ち出された。
100メートルを切るような至近距離で打ち出された徹甲弾は、どかんという衝撃波と同時に着弾、そしてグランドラゴンの胴体を貫通してしまった。
3匹のグランドラゴンは更なる苦痛に咆吼を上げる。
礼子は追撃を掛けることにした。
「アン、直接攻撃を加えますよ!」
「はい、おねえさま」
* * *
固唾を呑んで見つめる『傀儡』の氏族。
彼等の目の前には信じがたい光景が展開されていた。
途轍もない速度で迫り来る3頭のグランドラゴン。あと数秒で居住地も蹂躙されるかと思ったその時。
耳を聾する音が響いたと思ったら、グランドラゴンが咆吼を上げてのけ反ったではないか。
耳を塞ぐ間もなく、続いて起きた轟音でグランドラゴンたちは動きを鈍らせ、更にその後の轟音が収まると完全に停止していたのだ。
そればかりではなく、その胴体には小さいが穴が開き、血を流して苦痛に身を捩らせる姿がそこにあった。
「い、いったい……何が?」
そんな彼等に、ベリアルスは誇らしげに語りかける。
「彼女らは魔法工学師、ジン殿の従者だ」
「魔法工学師!?」
「そうだ。ジン殿は我等を救いに来てくれたのだ」
そんな言葉を交わしているうちにも、事態は進んでいく。
「おおっ!」
礼子が、桃花を振るってグランドラゴンの前脚を斬り飛ばした。少し遅れてアンも同じく前脚を斬り飛ばす。それに留まらず、礼子はもう1頭の前脚も斬り飛ばした。
のたうち回るグランドラゴン。1頭の頭が地面付近まで下がった、その時。
礼子の拳が振るわれた。それを見た『傀儡』の氏族は一様に驚嘆の声をあげる。
「な、なんと……!」
「信じられん……!」
礼子の拳が、グランドラゴンを数十メートルも吹き飛ばしたのである。
そのグランドラゴンは腹を上に向け地面に伸び、動かなくなった。
同じ事を今度は青い髪の女性が行った。
同じようにグランドラゴンは吹き飛び、動かなくなる。残るは1頭。
「な、なんだ!?」
黒い髪と青い髪が交錯したかと思うと、グランドラゴンの脚が全て斬り飛ばされていた。
そして吹き飛ぶ巨体。礼子とアンが同時に蹴りつけたのである。
100メートル以上吹き飛んだグランドラゴンは地響きと共に地面にめり込み、2度と動き出すことはなかった。
* * *
「魔法工学師ジン様、歓迎いたします!」
「わが氏族をよくぞお救いくださいました!」
仁(の身代わり人形)は、礼子とアンを従え、『傀儡』の氏族達の前に立った。
「私は氏族長の『マクシムス』と申します。この度は何とお礼を申し上げたらよいやら」
氏族長マクシムスが頭を下げた。
こうして、仁たちは『傀儡』の氏族にも受け入れられた。
「ここも同じ系統の操縦針だったな」
ナース1、2により、半日がかりで25人の操縦針を抜き取ったのである。
アルシェル他4人、過激派寄りの氏族員が行方不明だとのこと。
その5人は操縦針無しで人類と敵対している可能性大だという。
「見つけ次第、説得する必要がありますね」
「うむ。ジン殿、しばらくベリアルスを同道していただけますかな?」
「そうですね。同じ氏族の人のほうが説得しやすいでしょうから」
次の行動指針を決めながら、仁はここでも農地改革を進めていった。
農業用ゴーレム『アグリー』101から120の20体を作り、霜害対策の結界発生器も10台。
氏族の人数と、狩猟系ということを考えればこれで何とかなるだろう。
持って来た小麦を200キロ置いていく。見返りは魔物素材だ。
雪虎の毛皮や氷原トカゲの革を多量に手に入れた仁。小群国で売れば幾らになるかちょっと見当が付かない。売る気もないが。
その他にも珍しい素材が多々手に入り、仁はご機嫌だった。
もちろん1番は礼子とアンが倒したグランドラゴンの鱗と革であるが。
「帰ったらじっくり特性を調べてみよう」
仁(の身代わり人形)はそう口にしているが、転移門を使って蓬莱島に送られ、仁本人は既に手にしていた。
* * *
「これからが難しいところだろうな」
身代わり人形を動かしながら仁は独りごちる。
『御主人様、負の人形001の動きが掴めました』
「おお、そうか。大変だったろう。報告を頼む」
『わかりました』
魔族の居住地に秋風が吹き始めた。
負の人形001との本格的な戦いはこれからである。
いつもお読みいただきありがとうございます。
20140823 12時57分 誤記修正
(誤)「わかりました」
(正)『わかりました』




