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マギクラフト・マイスター  作者: 秋ぎつね
16 魔族黒幕篇
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16-21 現状分析

「ジン殿、いや、ジン様、この度はまことに申し訳ない事をしてしまい、お詫びのしようもございませぬ!」

 応接室で、『福音』の氏族族長ファビウスは文字通り平身低頭、仁(の身代わり人形(ダブル))に詫びていた。

「いや、もういいですよ」

 言葉でいくら謝られても時間の無駄である。今現在、身代わり人形(ダブル)を操っている老君はそう考えていた。

「もっと前向きなことを相談しましょう」

 まずは、『針』……『操縦針(アグッハ)』を抜き取ることから始める、と仁は言った。

「しかし、どうやって?」

「専門家を呼びますよ」

 仁がそう言ったのと同時に、礼子が部屋に入ってきた。

「お父さま、連れてきました」

「お、ご苦労」

 礼子が連れてきたのは2体の自動人形(オートマタ)、ナース1と2。蓬莱島の工房で仁が作っていたのである。

 ナースアルファ〜ガンマのデータを生かし、最も最適化した触覚制御を持たせ、分析・解析能力を強化し、治癒魔法を最上級まで使えるようにしたもの。

 一部から不評(?)だった外見も一新。わかりやすく言うと、エルザとサリィとアンを足して3で割ったような外見である。

 清潔さを示すようにベリーショートに整えられたプラチナブロンドの髪。成熟した女性の包容力を湛えた表情を持つ顔。中肉中背、きびきびした動きを見せるボディ。

 純白のナース服は汚れのつきにくい地底蜘蛛(グランドスパイダー)の糸で織られており、熱湯消毒どころか炎に通しても大丈夫。

 20人力を備え、暴れる患者も押さえつけることができ、『麻痺(パラライズ)』『催眠(ヒュプノ)』も使える。

 極めつけは、ミニ職人(スミス)……いや、ミニナースを1体ずつ助手に持ち、細かい治療にも対応できることである。

 ミニナースは身長10センチ、等身大では不可能な細かい作業を担当することになっている。

 因みにミニナースは、普段は頭のナースキャップの中に待機している。

「ジン様、彼女は?」

 戸惑うファビウスに仁は微笑みかけた。

「医療……治癒に特化した自動人形(オートマタ)ですよ」


*   *   *


 エルザが行った『操縦針(アグッハ)』除去の手順を『知識転写(トランスインフォ)』により記憶しているため、10人の処置も1時間掛からずに終了した。

 アレクタスは済んでいるので『福音』の氏族実質9人だが、捕虜になっている『傀儡くぐつ』のベリアルスを含めると10人になるのだ。


「ジン様、重ね重ね感謝致します」

 再度平身低頭するファビウス。

「ああ、もういいですから頭を上げてください……」

 今『身代わり人形(ダブル)』を操縦しているのは仁。ベリアルスの結果を知りたくて自ら操縦しているのである。

「『福音』の皆さんについては結果は想像できますが、ベリアルスはどうなりましたか?」

「劇的に変わりましたよ。今、連れてきましょう」

 ファビウスが、隣に控えていたアレクタスに命じた。アレクタスは応接室を出て行くと、2分ほどで戻って来た。もちろんベリアルスを伴って、である。

「ジン殿、この度は助けていただいて感謝の言葉もない」

 ベリアルスも仁に向かって深々と頭を下げた。

「それは良かった。……で、俺は魔族の救援と言うだけじゃなく、人類との戦争を回避するのが目的なんだが、協力してもらえるだろうか?」

 仁は単刀直入に申し入れる。『操縦針(アグッハ)』の被害に遭っていた者なら、言うことが理解できるだろう、と信じて。そしてそれはその通りになる。

「もちろんです。私にできることなら何でも協力しますよ」

 同時にファビウスも宣言する。

「ジン様、『福音』の氏族も、微力ながら全員、ジン様の目的に協力させていただきます」

「それはありがたい。まずは現状を整理したいですね。イスタリスたちも呼んできてもらえますか」

 イスタリスとシオン、それにネトロスとルカスは別室で寛いでいた……わけではなく、『福音』と『森羅』の氏族それぞれに伝わる口伝や伝説などの情報交換をしていたのである。

 とはいえ、やはり氏族間の隔意は残っており、イスタリスたちは終始格下に見られていたようだ。

 だが雰囲気自体は悪くなかったので仁は何も口を挟まず、アンを立ち会わせ、情報を老君へと送っていた。


「ジン様、お呼びですか?」

「ジン、お祖父様たちも助けてくれるのよね?」

 イスタリスとシオンがやって来た。ネトロスとルカスは無言で続いている。アンが最後にやって来て、メンバーが揃ったことになる。

「今からそのための打ち合わせを行うんだ」

 仁に言われ、イスタリスとシオンの顔が少し明るくなった。

「まずは、現状整理だ」

 仁は、『福音』の氏族長ファビウスに、『操縦針(アグッハ)』をいつどうやって埋め込まれたのかを簡単に話してくれるよう頼んだ。

「わかりました。……我々が『福音』の氏族名を名乗っているのは、『始まりの一族』からの助言が時々得られるからなのです」

 文字通り『福音』を得られるがゆえの氏族名だということである。

「その助言は、居住地であるこの洞窟の最も奥に安置されている魔導具……もはや古代遺物(アーティファクト)と言っていいかもしれないそれによりもたらされるのです」

 ファビウスは記憶を辿るように一旦言葉を切り、数秒考えをまとめてから話を再開した。

「助言がもたらされる前には前兆がありましてな、その魔導具に付いている『窓』の1つが赤く光るのですよ。半年ほど前でしたか。『窓』が赤く光ったので、私は奥の部屋で助言を待っていたのです」

 ところが、とファビウスは言った。

「助言はもたらされず、代わりに侏儒しゅじゅ(背の低い人の意)がいきなり現れたのです」

 転移してきたのでしょう、とファビウスは推測を述べた。

「その侏儒しゅじゅは、筒のようなものを私に向けました。すると一瞬で気が遠くなってしまったのです。……そして気が付いた私は、『何者か』の言いなりにならざるを得ない身体になっていました」

「『操縦針(アグッハ)』を埋め込まれたのですね?」

「そうです。気が付くと侏儒しゅじゅはいませんでした。ですが、頭の中、といいますか耳の後ろあたりに謎の声が響くのです。『氏族に針を埋め込め』と」

 ファビウスは未だにその声が聞こえるかのように、耳の後ろに手をやった。

「初めは私もそんな馬鹿な命令には従えない、と言いました。……『言いました』、というのは、その謎の声は、私の声を聞き取ることができるようなのです。頭の中で考えていることまでは読めないようでしたが」

「耳の後ろに埋められた『操縦針(アグッハ)』の機能ですね」

「そうらしいですね。……で、拒否した途端、胸が苦しくなりまして。それはもう、耐えられないほどに。呼吸もままならず、床に倒れて脂汗を流しました。

 意識が遠くなりかけた頃、ようやく苦しさが引きまして、ほっとした途端、あの声がまた命令するのです」

 もう逆らう気力は残っていませんでした、とファビウスは肩を落として言った。ファビウスの年齢を考えると無理からぬことだろう。

「『操縦針(アグッハ)』を打ち出す筒はポケットに入っていました。同時に、対象者を麻痺させる筒も。……最初はアレクタスを呼び出し、麻痺させたあと、声の指示に従って、戸惑いながらも『操縦針(アグッハ)』を埋め込んだのです」

 仲間が増えるとあとはどんどん楽になっていきました、とファビウスは俯きながら話した。

 氏族全員に『操縦針(アグッハ)』を埋め込むのには1日も掛からなかった、と言う。

「そして謎の声はいつでも聞こえてくるわけでもないのです。5日くらい何も聞こえてこないときもあったほどです。ジン様たちが来られた時はちょうど声が聞こえない時だったのですが、夜になって声がまた聞こえてきて……」

 あらいざらい話してしまった、というのである。

「ジン様を『扱いやすそうだ』とか、『処分もやむなし』などと話してしまいました」

 それを聞いた礼子は顔をわずか引き攣らせ、一方の仁は笑った。ファビウスの正直さと、自分の評価に。

「そう言えば、使った『薬』というのはどんなものだったのですか?」

 あの時は流してしまったが、聞けるときに聞いておきたい、と仁は思った。

「『薬』は、それも『操縦針(アグッハ)』と一緒に与えられたものです。まだ残っていますのでよろしかったら全部差し上げます」

「それはいいですね。分析してみたいです」

 ファビウスは、アレクタスに耳打ちした。部屋を出たアレクタスは1分もしないうちに戻ってくる。その手には薬瓶を持っていた。

「これです。一さじで十分効くとのことでした。使ったのはジン様が初めてなので、どうなるのか、と言う前例はないのですが」

 薬瓶を受け取った仁は、それを礼子に預ける。この薬は後ほど、転移門(ワープゲート)を使って老君に届けることになる。

侏儒しゅじゅによりますと、意志を希薄にして、言うことを聞かせる薬だと言うことですが」

 麻薬に近いものか、と仁は推測した。同時に、こんな薬が世の中に蔓延したらえらいことだった、とも。


「『福音』の氏族についてはわかりました。で、人類との敵対はしない、ということでいいのですね?」

 念を押すように仁が言った。氏族長ファビウスは大きく頷く。

「もちろんですとも! 侏儒しゅじゅ……負の人形(ネガドール)の掌で踊らされるなんてまっぴらです」

「それを聞いて安心しました。俺もできる限りのことはしますよ」

 ようやく魔族の地に来た目的、その第一歩を踏み出すことができた。


「さて、『森羅』の氏族の話をする前に」

 イスタリスとシオンの方をちら、と見てから仁はベリアルスの方を見やった。

「先に『傀儡くぐつ』の氏族の話を聞かせてもらいたい」

「承知した。ジン殿、我々の氏族も救って欲しい」

 ベリアルスは仁に一礼し、語り出したのである。

 いつもお読みいただきありがとうございます。


 20140823 19時11分 表記追加

 侏儒しゅじゅと言う語の初出時に「背の低い人の意」と説明追加。


 20150317 修正

(旧)福音』と『森羅』の氏族それぞれに伝わる口伝や伝説などの情報交換をしていたのである。

 仁はアンをそれに立ち会わせ、情報を老君へと送っていた。

(新)『福音』と『森羅』の氏族それぞれに伝わる口伝や伝説などの情報交換をしていたのである。

 とはいえ、やはり氏族間の隔意は残っており、イスタリスたちは終始格下に見られていたようだ。

 だが雰囲気自体は悪くなかったので仁は何も口を挟まず、アンを立ち会わせ、情報を老君へと送っていた。


 申し訳ない事ですが、22-16、22-17での記述(シオンが福音の氏族になじめない)との辻褄を合わせます。

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