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マギクラフト・マイスター  作者: 秋ぎつね
16 魔族黒幕篇
540/4300

16-19 そして、帰還

「……300年、眠っていたと言ったわね、あの700672号」

 ヴィヴィアンがぽつりぽつりと話し出した。

「魔導大戦と時期が一致するわ。もしかすると……いえ、かなりの確率で、人類と魔族を仲違いさせたのは『負の人形(ネガドール)』ね」

「ああ、それはいえるわね」

 700672号もそれらしいことを言っていたし、とステアリーナも賛成した。

「と、すると、『負の人形(ネガドール)』をやっつけたら、魔族と人間の争いは収まるのかしら?」

 これに答えたのはラインハルト。

「その事が証明できて、尚かつあの『700672号』の言うことを信じることができたら、だな」

 そして、憎しみという感情はなかなか無くならないものだ、と言った。


「……わざとぼかしているのか、それとも無意識なのかはわからない、けど」

 エルザが疑問を口にする。

「あの人の『主人』という人の像が、浮かんでこない」

 単数なのか複数なのかもわからない、と言った。

『それを質問してみましょう』

 老君はそう告げて、アンを通じて質問することにした。


*   *   *


「……吾の主人、のことか……」

 700672号は目を閉じ、懐かしさに浸るようにしていたが、やがて再び目を開け、話し出した。

「この星の暦で5000年くらい前か、主人と我等が降り立ったのは……。その頃、主人たちは1000人くらいいた筈だ」

 主人たちは一人一人が従者を一人か二人持っていたのだ、という。

「故に、吾が『主人』と単数形でいう時は、吾だけの主人を指している。『主人たち』と言ったなら、主人の仲間全部を指しているのだ」

 蓬莱島にいる仁たちもこの答えに納得がいった。

「つまり、『負の人形(ネガドール)』を作ったのは『主人たち』で、『操縦針(アグッハ)』を作ったのは『主人』ということになるな」

「わかりました。貴方のご主人様のお名前は何と仰るのですか?」

「それを口にする権限は吾には……いや、全てのサーバントにはない。主人たちにとって名前というものは神聖なものだったらしい」

 再度700672号は疲れたように目を閉じた。

 ネージュは無言でその身体に布団を掛けている。


 礼子、アン、アレクタスはベッドから一旦距離を取った。

「とりあえず知りたいことは大体わかりましたね」

 礼子が言うとアンも頷いた。

「ええ。ごしゅじんさまは興味がおありでしょうけれど、それはまた後日でも大丈夫でしょう。今はまず『負の人形(ネガドール)』が問題です」

「うむ。そうするとあと一つ、針……いや、『操縦針(アグッハ)』をどうしたら無効化できるか、聞いたらここを一旦離れよう」

「それがいいですね」


 少し間を置き、アレクタスはゆっくりとベッドに近寄った。ネージュが顔を上げる。

「済まない。あと一つ、教えて欲しい」

「……わかっている。『操縦針(アグッハ)』の無力化だな。聞こえていたよ」

「ならば話が早い。頼む、教えてくれ」

「もちろんだ。少なくとも、吾が作ったものの操作部はここにある。隣の部屋だ。ネージュに案内させよう。だが、それ以外に『デキソコナイ』が作っていたら……それはわからぬ」

『デキソコナイ』……つまり『負の人形(ネガドール)001』にも『操縦針(アグッハ)』を作ることができると言うことだ。

「かまわない。まずは我々の氏族を解放し、順次他の氏族も解放していくつもりだからな」

「ふむ、なるほどな。……ネージュ、教えてやりなさい。*?$&D#番だ」

 理解できない単語が混じったが、ネージュは迷わず歩いて行く。そして無言でとある魔導装置(マギデバイス)を指差した。先程礼子たちが無力化したものとはまた別の装置である。

「なるほど、これか」

 大きな窓が3つ、小さい窓が8つ付いている。

「ここを、こうするの」

 ネージュが小さなレバーを2つ、小さなボタンを4つ操作すると、3つある大きな窓は暗くなった。止まったらしい。

「これで、だいじょうぶ」

 そう告げたネージュは小走りに小部屋へ戻り、700672号のそばに張り付くようにして腰を下ろした。

「感謝します、『始まりの一族』サーバント700672号」

 少し離れた場所からアレクタスはお辞儀をした。

「いや、こちらの不手際故、気にすることはない。……気を付けるがいい、『デキソコナイ』を甘く見るな。吾に言えることはそれだけだ。できることなら『デキソコナイ』を滅ぼして欲しいが……無理だろうな」

 700672号は力なく言った。

「『デキソコナイ』の拠点を教えてやりたいが……おそらく、吾の知るところにはおるまい。その点では役に立てぬ」

「そうですか、残念です。……あ、そうだ」

 帰ろうとして、ふと思いついたことを追加で聞いてみるアン。

「ここまでの道に罠がたくさんあったのですが、解除することはできるのですか?」

「罠?」

 700672号は首を傾げた。アンはここまでの道のことを説明する。

「なるほど。聞いた限りにおいては、『デキソコナイ』が設置したものがほとんどだな。奴は転移で出入りするから罠の有無は関係ないのだろう」

「ああ、なるほど……」

 塩素などという、この世界で初めて見るような罠から、落とし穴という単純なもの、果てはゴーレムまで。

 ちぐはぐ感が拭えなかったのだが、その理由がはっきりした。

「出入り無視で後付けした罠でしたか」

「おそらくはな。しかも、時間をおいて付け足していったのだろう。元からあったものと言えば隔壁くらいのものだから」

 礼子もアンも、老君も仁も得心がいった。

「ああ、それから」

 思い出したように700672号が付け足した。

「外に出るなら、その『窓の部屋』を出た通路の天井を探すといい。地上へ直結する縦穴シャフトがあるはずだ。堕ちた者たち(フォールナー)がいればおそらく通れるだろう」

 との助言をくれたのである。そして、

「『堕ちた者たち(フォールナー)』の行く末に幸あれ」

 その言葉を最後に、700672号はまた目を閉じたのである。


「またきっと来ますよ」

 礼子はネージュの頭をそっと撫でて部屋を出た。もしかするとネージュの方が年上かも知れないがそんなことは気にしていない。

 3人が『白の部屋』を出ると、扉は音もなく閉じたのである。

人造人間(ホムンクルス)というのは食事を必要としないのでしょうね」

 ぽつりと礼子が呟いた。

「ええ、おねえさま。おそらくは。自由魔力素(エーテル)だけで存在可能なのでしょうね」

「だとすると、魔素暴走エーテル・スタンピード人造人間(ホムンクルス)にも多大な影響があったのかも。目覚めなくなった理由も……」

 そんな会話をしながら、来た道を戻ろうとして、アンが立ち止まった。

「……『負の人形(ネガドール)001』がここに戻ってくる可能性もあります。他の拠点は700672号も知らないとのことでしたし、何らかの手を打っておく必要があるでしょう」

「確かに。でも、どうすれば?」

 その時、老君から連絡が入った。

「……ああ、なるほど。……はい。……わかりました」

 老君は、この後、転送機でランド10体と職人(スミス)10体を送り込むと言ってきたのである。

 職人(スミス)の役割は、もちろんここの魔導具・魔導装置(マギデバイス)の解析だ。

 アレクタスには礼子やアンがそんな通信をしていることなどわからないから訝しむような顔をしていたのだが、まだ知らせる段階でもなく、一行はそのまま窓の部屋をあとにしたのであった。


「縦穴……『音響探査(ソナー)』……なるほど、あそこですね」

 当てずっぽうに探すのではなく、礼子が『音響探査(ソナー)』で空洞を探したところ通路を5メートルほど行った場所の天井に空洞が見つかった。

 壁側には手すりやステップらしき窪みが刻まれており、間違いないだろう。

追跡(トレース)』で魔力の流れを確認したが、特に罠などが仕掛けられている様子は無い。

「では行ってみるとするか」

 アレクタスが手すりを伝い、天井付近まで登る。そしてハッチらしき部分に手を触れてみると、『白の部屋』の扉と同様に開いたのである。

「『堕ちた者たち(フォールナー)』……いえ、始祖の血を引く者だけが使える通路ですか」

 直径1メートルほどの丸い縦穴シャフトの壁には螺旋状に階段が付いていた。幅は50センチほどだが、身体を横にすればなんとか登っていける。

 20メートルほど登ると、3メートル四方ほどの小さな部屋となった。3人が部屋に立つと、縦穴シャフトのハッチが閉まる。

 この小部屋はいわゆるエアロックなのだろう、と仁の知識を参照した礼子とアンは推測していた。

「おそらくこの扉の向こうはもう外です」

 一旦外に出たら、次に訪れることはできるだろうか、との思いにアレクタスは後ろを振り返る。

 がらんとした何も無い部屋だが、何故か名残惜しい気がした。

「アレクタスさん、お願いします」

 アンの声に我に帰ったアレクタスは扉に触れる。

 ここの扉もそれだけで開いた。

 外の冷気が流れ込む。アレクタスは服の襟を合わせる。息が白い。気温は氷点下のようだ。

 今は夜のようで、真っ暗だった。

「カプリコーン1は向こうです」

 暗闇を透かして見ていた礼子が1方向を指差した。

 3人はそちらへ向けて歩いて行く。

 来る時に手こずった結界はもう消えており、3人は問題なくカプリコーン1に戻ることができたのだった。

 いつもお読みいただきありがとうございます。


 20140813 12時51分 誤記修正

(誤)700672号もそれらしいことを行っていたし、とステアリーナも

(正)700672号もそれらしいことを言っていたし、とステアリーナも


 20171010 修正

 サブタイトルが10-28とダブっていたので修正しました。


 20220615 修正

(誤)700672号のそばに貼り付くようにして腰を下ろした。

(正)700672号のそばに張り付くようにして腰を下ろした。

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― 新着の感想 ―
これは身体を横にして登らせることで片足にダメージを与える罠です。 20mとなれば7階くらいになりますので、相当なダメージになるはずです。 最後の最後に狡猾な罠を仕掛けてきましたね。
[気になる点] 700672号のそばに貼り付くようにして腰を下ろした 700672号のそばに張り付くようにして腰を下ろした
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