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マギクラフト・マイスター  作者: 秋ぎつね
16 魔族黒幕篇
538/4300

16-17 700672号

「父さま!」

 うっすらと目を開けた『父さま』に、ネージュが飛び付いた。

「父さま、父さま……!」

「ネー、ジュ、か」

 その口からは辿々しいながらも言葉が発せられた。アンはもう1本、回復薬を取り出し、差し出す。

「飲めますか? 飲んでみて下さい」

「私が飲ませます!」

 アンプルをそっと受け取ったネージュは、慎重に『父さま』の口に当て、中身を流し込んだ。

「……」

 ゆっくりと回復薬を飲み込んだ『父さま』は、大きく息を吸い込んだ。

「……感謝する」

 その声はかなり力強くなっていた。回復薬が効いたようだ。

「ネージュ、起こしてくれ」

「はい、父さま」

 ネージュに支えられながら、ネージュの『父さま』はベッドに上体を起こした。

 そしてアン、礼子、アレクタスの順に見回すと、視線をアレクタスのところで止める。

 たっぷり1分間、無言でアレクタスを見つめていたネージュの『父さま』は、ふ、と表情を和らげた。

「見事。ここまでやってきたのか、『堕ちた者たち(フォールナー)』の子孫よ。ここを発見したことは褒めてやろう」

 その言葉に、今まで展開に付いていけず無言だったアレクタスが口を開いた。

「お、お前……いや、貴方が……『始まりの一族』なのですか?」

「然り。吾はサーバント700672号。お前たちが『始まりの一族』と呼ぶ1人である」

「ここは……いえ、この施設は、いったい何なのですか?」

 今度は礼子が尋ねた。

「ほう、意志を持つ自動人形(オートマタ)か。素晴らしい。……答えよう。ここはかつて『天翔る船』の一部だった場所。そしてこの部屋は私の永眠すべき場所だ」

『天翔る船』。その単語には聞き覚えがあった。

「あなたはその『天翔る船』でここにやってきた1人なのですか?」

「然り。吾は、吾の主人と共にこの地へやって来た」

「その、あなたのご主人は今どこに?」

「もう、どこにもいない。我等に比べて主人達の寿命は短い」

「そ、その『堕ちた者たち(フォールナー)』というのは?」

 今度の質問はアレクタス。

「『堕ちた者たち(フォールナー)』というのは、この星に来てから産まれた、主人達の子供のことである」

「すると『堕ちた者たち(フォールナー)』の子孫というのは……」

「然り。主人達の子供、その遠い遠い子孫である」


*   *   *


 今、人類と魔族のルーツが明かされようとしていることを、蓬莱島にいる仁は察していた。


 蓬莱島にいる仁は、老君に命じて『ファミリー』を緊急招集する。

「ジン兄……興味深い」

 エルザは既に横で聞いている。

「ジン、何だい?」

 続いてサキが。

「何かあったのかね?」

「ジン君、どうしたの?」

「ジン君、いったい何があったの?」

「ジン様、お呼びですか?」

 トアが、ステアリーナが、ヴィヴィアンが、そしてミーネが。

「ジン、一体何ごとだい?」

「ジン様、一体どうしたんですの?」

 最後にラインハルトとベルチェがやって来た。

 仁はとりあえず画面を指さし、様子を見ているように、と指示を出した。


*   *   *


「吾の主人達は、資源が枯渇したヘールをあとにし、このアルスへとやってきた。ここには豊富な資源と自由魔力素(エーテル)があり、それにより主人達は元気を取り戻した」

 ヘールというのが彼等の母星で、アルスというのが仁たちがいる星なのだろう。

「主人達の一部はこの星の原住民と交わり、子を為すようになった。主人の血が薄まった彼等を『堕ちた者たち(フォールナー)』と呼ぶのだ」

「……」

「理解したか? 先程のお前の質問の答えがこれだ。『吾の主人』はもう何処にもいない。ただその血を受け継ぐお前たち『堕ちた者たち(フォールナー)』がいるだけなのだ」


*   *   *


 彼の言う『主人』の血を色濃く受け継ぐ者が魔法を使え、そうでない者は魔法を使えない、ということになるのだろうか、と、蓬莱島にいる仁は考えていた。

「ジン君、これって……」

「ああ、そうよね、ね、ヴィー。昔々のそのまた昔のお話よ!」

「貴重な真実が今、語られているんだね……」


*   *   *


「では、あなたはここでずっと何をしているのですか?」

 アンが次の質問を発した。

「答えよう。吾は最後のサーバント、700672号。主人達の眠るこの地で朽ち果てるのを待っているだけだ」

「……いったい、あなたは何歳なのですか?」

「吾は主人の被造物。故に何歳かという問いは意味をなさない。それに最も近い概念で回答するなら、吾は作られてから、この星の暦に換算して5000年以上経っている」

「5000年!?」

 礼子も、アンも、アレクタスも、そして蓬莱島で聞いている面々も、その答えには度肝を抜かれた。

「然り。吾は人造人間(ホムンクルス)。偽りの生命。故に死の概念は無い。ただ老朽化し、停止し、朽ち果てるだけである」

「そ、それでは、何故我等に『針』を打ち込んで支配しようとしたのです?」

「針、だと?」

 心当たりが無さそうな顔をした700672号はそのまましばし考えていたが、ようやく回答を見出したようだ。

「長さ2センチ、太さ1ミリほどの魔導具のことか?」

「そうです! 答えてください! 何故我等を支配しようとするんですか!?」

 感情が高ぶったらしいアレクタスは次第に大声になっていった。が、700672号は理解できない、といった顔。

「支配? 何のことだ?」

「しらばっくれないでくれ!」

「だめ!」

 興奮したアレクタスをネージュが遮った。

「よい、ネージュ。かの者にも事情があるのだろう」

 アレクタスとは対照的に、700672号は淡々と答えていく

「吾は先程、お前たちがこの部屋に入ってくるまで、長い眠りに就いていた。……お前たちの時間でおよそ300年くらいになろうか」

 壁の一つにある窓を眺めた700672号が言う。

「故にお前たちの言う騒動は吾の知らぬところである」

「300年……」

 アレクタスは、そして蓬莱島で聞いている面々もその長さに、半ば呆れ、半ば驚いていた。

「だが、もしかしたらと思うところはある。事情を話してみよ」

「わ、わかった。実は……」

 もはや敬語を使うことも忘れ、アレクタスは己の氏族の事を説明していく。そして礼子とアンが他の氏族のことを補足説明した。

「ふむ。おそらく、それは『デキソコナイ』の仕業だろう」

「『デキソコナイ』?」

「主人たちが作った最後のサーバントだ。だが、この星には主人たちが必要とする何かが無かったらしく、不完全なものにしかならなかった。言うことを聞かなかったのだ」

「そ、それも人造人間(ホムンクルス)なのか?」

「然り。主人たちが作った人造人間(ホムンクルス)の失敗作、それが『デキソコナイ』だ」

「……」

 アレクタスは言葉がなかった。まがりなりとは言え、人間を作り出す技術があることを、そして目の前の存在もその一つだということが、今更ながら信じられなかったのである。

「吾はもう400年ほど前から身体が満足に動かせなくなったのでな。ここから外に出てはいない。故に外の出来事を知らなかったのだ」

 700672号の言では、『デキソコナイ』は13体作られ、全て廃棄されたはずだった、と言うのである。

「だが、もしかして消却を免れた『デキソコナイ』がいたのかもしれぬな」

「あの『負の人形(ネガドール)』と自らを呼んでいた存在、あれが『デキソコナイ』なのでしょうか」

 礼子が口を挟んだ。

「『負の人形(ネガドール)』? そう名乗っていたのか?」

「ええ。ここに来る直前、この部屋の外で出会いました。転移で逃げられてしまいましたけれど」

「なるほど、大体事情はわかった。……少し考えさせて欲しい」

 700672号はそう言って、疲れたのか、再びベッドに横になったのである。

 いつもお読みいただきありがとうございます。


 20140811 15時27分 表記修正

(旧)豊富な資源と自由魔力素(エーテル)があり、主人達は元気を取り戻した

(新)豊富な資源と自由魔力素(エーテル)があり、それにより主人達は元気を取り戻した


 20150505 修正

(旧)吾は作られてから、この星の暦に換算して3000年以上経っている」「3000年!?」

(新)吾は作られてから、この星の暦に換算して5000年以上経っている」「5000年!?」


 20180317 修正

(旧)だが、この星には主人たちが必要とする何かが無かったらしく、不完全なものにしかならなかった」

(新)だが、この星には主人たちが必要とする何かが無かったらしく、不完全なものにしかならなかった。言うことを聞かなかったのだ」

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― 新着の感想 ―
目の前のょぅι゛ょのことは気にしなくて良いんでしょうか。 嫁レースに参加する可能性がなくもないわけで…猫と同じくらい気になる存在です。
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