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マギクラフト・マイスター  作者: 秋ぎつね
16 魔族黒幕篇
525/4300

16-04 謎の氏族

 仁の乗るカプリコーン1を破壊する意志を秘めた集団がゆっくりと進んでいく。

「駄目よ、みんな!」

 そんなイスタリスの言葉に、誰も耳を貸さない。

「ネトロス、急いで戻ってジン様に撤退するよう伝えて!」

「しかし、イスタリス様が」

「私はいいから!」

 その時、礼子が不可視化(インビジブル)を解除して姿を現した。

「イスタリスさんは私が運びます。急いで戻りましょう」

「あ、あなた、いったいどこから……」

「今はそんな事を話している時ではないでしょう」

 そう言うが早いか、礼子はイスタリスを横抱きに抱きかかえ、カプリコーン1へ向けて走り出した。ネトロスもそれに続く。

「きゃ、きゃあああああああああああ!」

 時速200キロを生身で体感したイスタリスは絶叫したのであった。


「……と、いうわけです」

 退却中のカプリコーン1の中で仁(の身代わり人形(ダブル))に報告する礼子。実は、蓬莱島の司令室にいる仁はリアルタイムで聞いていたのだが。

「そんな……」

 だが、シオンとルカスには寝耳に水。信じられない、といった顔をしている。

「残念だけど本当なのよ。……ああ、どうして? なんで? お祖父様……」

「嘆くのは後だ。少し揺れるぞ」

「え?」

 追撃してくる森羅氏族を振り切るため、仁はランド1に命じ最高速度を出すよう命じた。

 時速70キロ。さすがに振動もかなり感じる。が、元々彼等の動きが緩慢なのもあって、森羅氏族の追撃を振り切るには十分であった。

 内陸方面へ疾走するカプリコーン1は、暗くなり始めた空と相まって、追跡者を完全に撒くことができたのである。


*   *   *


「……ぐすっ」

「姉さま、元気出して。きっと何か理由があるはずだから」

 ショックから立ち直れないイスタリスを慰めるシオン。

 氏族のために苦労して援助を取り付けてきたら、一転して裏切り者と決めつけられた衝撃は大きかったのだろう、イスタリスはずっとすすり泣いていた。

「……さて、どうするかな」

 行く手の暗闇を見つめて、仁(の身代わり人形(ダブル))は呟いた。

 今カプリコーン1がいるのは、小さな岩山の麓である。

「あ、あの、ジン?」

「うん?」

 シオンがおずおずと言った態度で仁に尋ねた。

「もしかして……帰ろうとか思ってる?」

「どうして……ああ、そうか」

 援助をしようと思ってはるばるやって来たところ、歓迎どころか攻撃されそうになったわけである。

 仁としてはこれ以上魔族領にいる理由はないわけだ。

「……もう少し、こっちにいるさ」

「本当?」

 シオンの顔がぱあっと明るいものになる。

「ああ。シオンたちから聞いた話とあの態度の落差はいくらなんでも不自然すぎるからな。原因がわからないうちは帰らないよ」

 何らかの企みが隠されているとしたら、尚更である。カイナ村の安全のため、少なくとも穏健派の意志を確認したいと仁は思っていた。

 もともとこちらに来ているのは身代わり人形(ダブル)であり、仁本人の身に危険は無いから、礼子も何も言わなかった。

「ありがと、ジン」

 シオンは素直に頭を下げた。だが仁は気にするな、という気持ちを込めて彼女の頭をぽん、と軽く叩き、

「氏族長……君たちのお祖父さんの態度は急変したと言っていいのかな?」

 と、話題を変えると共に、至急確認しなければならない議題を口にしたのである。

「魔族は精神操作にどのくらい耐性があるのでしょうか?」

 アンが口を開いた。

「『デビェーニ・アン・スキャーボ』。それがあたしたちの使う洗脳隷属魔法よ。これでなら、洗脳することができるわ。……前に聞かれた普通の隷属魔法は効かないけど。黙っていてごめんなさい」

 これはシオン。この期に及んでは、秘密だなんだと言っていられないと思ったのだろう、『なんでも話すわ』とさえ言い出したのである。

「でも、その魔法で隷属させたとしたらすぐわかるわ。自分の意志が無くなるというか、そう……感情が消えるからね」

 森羅氏族は感情を持っていた。少なくとも、『デビェーニ・アン・スキャーボ』の影響下ではない、と仁たちは結論した。

「そうなりますと、別種の隷属魔法か、あるいはまったく別の方法か、でしょうか」

 アンもそれ以上の推測はできないでいる。

 以前、マルコシアスが使った方法とも違うようだ。あれはある意味『憑依』に近いものらしい。

 考え込む一行。だが、そこに1つの光明が。

「そうだ、あいつがいる」

 捕虜にした『傀儡くぐつ』のベリアルス。何か知っているかもしれない。

「ふん、何か用か?」

 倉庫に押し込めておいたベリアルスを引っ張り出すと、相変わらずの悪態である。

「ちょっと聞きたいことがあってね。『知識転写(トランスインフォ)』」

「うお!?」

 魔族用の『知識転写(トランスインフォ)』。使うのは初めてだが、上手くいったようだ。

 転写した魔結晶(マギクリスタル)は、備え付けの転移門(ワープゲート)で蓬莱島に送られ、即座に老君が解析を行う。

 その結果は礼子を通じ、カプリコーン1の乗員に知らされることとなった。

「わかったことが一つあります。魔族には『始まりの地』という土地がありますね?」

「なっ! なぜそれを……いや、そういう魔法なのだな」

 その言葉を聞いて驚いたのはネトロス。いや、シオンとルカスも驚いた顔をしている。イスタリスはようやく泣き止み、赤く泣き腫らした目を仁に向けていた。

「『始まりの地』というのは、私たち魔族の遠い祖先が降り立った土地、という伝説のある場所よ」

 仁はヴィヴィアンに聞いた伝説を思い出していた。遠い昔、人類と魔族の祖先がそこにやって来たのかもしれない、と。

 仁がそんなことを考えている間に、礼子を通じて老君からの情報がもたらされていく。

「その『始まりの地』に最も近い氏族が『福音』というのですね?」

「その通りよ。でも『福音』の氏族は10人に満たないし、普段はほとんど他の氏族と交流しないんだけど」

 シオンが、それがどうしたの、と言わんばかりの顔で尋ねる。

「その『福音』の氏族が、人類に……まあ、要するにちょっかいをかけろと主張しているらしいです」

 実際はゲリラ戦を仕掛けろ、というようなニュアンスで主張しているらしいが。

「それで言うことを聞いた、っていうの?」

「……『福音』の氏族にそんな影響力があるなんて思えないんですけれど……」

 シオンに続いてイスタリスもようやく口を開くようになった。

 一方、それを聞いていたベリアルスは悔しげな顔をしている。

「くそっ……。俺の記憶を読んだというわけか。卑劣だな、人間という奴は」

「ふざけないで下さい。魔族のやり口だって決して褒められたものではないですよ。いえ、争いというのは得てしてそういうものです。自分たちの利益を追求し、相手のことなんてお構いなし」

 ベリアルスに反論したのはアンであった。

「ごしゅじんさまはそういう世の中がお嫌いなのです。本来なら静かに、平和に暮らしていたいのに、周りがどうにも騒がしいから、傍観していられないのです」

「ふん、詭弁だな」

「でも事実です」

「アン、もういい」

 これ以上続けても不毛だと判断した仁はアンを遮った。

「その『福音』の氏族の居住地は?」

「はい。ゴンドア大陸の内陸部だそうです」

 今現在、仁たちがいる場所よりもかなり北寄りだと礼子は説明した。

「会いに行ってみるか」

「え?」

「『始まりの地』、というのにも興味があるしな。原因を作りだしたらしい氏族と直接会って話ができたら、と思う」

「そう……ですね。他にどうしようもないですし」

「でも、きっと邪魔が入るわよ?」

 イスタリスは賛成し、シオンは道中の困難を指摘した。

「何を今更。邪魔されたら排除するだけだ」

「ジンの場合本当にできちゃうからすごいわ……」

 若干呆れ気味のシオン、だが、現状を変えられそうな唯一の道なのは承知している様だ。

「……ジン、お願いね」

 小声でそう言ったシオンの表情は、不安でいっぱいだった。

 いつもお読みいただきありがとうございます。


 20140730 07時45分 表記修正

(旧)いや、そういう魔法なのだからな

(新)いや、そういう魔法なのだな


 20150508 修正

(旧)それがあたしたちの使う隷属魔法よ。同族にも、ゴーレムにも効くはず

(新)それがあたしたちの使う洗脳隷属魔法よ。これでなら、洗脳することができるわ。……前に聞かれた普通の隷属魔法は効かないけど。黙っていてごめんなさい

 隷属魔法と魔族に関する矛盾を修正(の一部)。


 20160315 修正

(誤)その結果は礼子を通じ、カプリコーン1に乗員に知らされることとなった。

(正)その結果は礼子を通じ、カプリコーン1の乗員に知らされることとなった。


 20181015 修正

(旧)

「あ、あの、ジン?」

「あ?」

(新)

「あ、あの、ジン?」

「うん?」

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