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マギクラフト・マイスター  作者: 秋ぎつね
15 魔族との出会い篇
510/4300

15-23 作戦どおり

ラスト近くに痛々しい描写がありますのでご注意下さい。

 8月9日、仁たちはオテル・ルノールを発った。

「それでジン、どうするの?」

 シオンは怪訝そうな顔。それはそうだろう、今いるロロオン町とゲンフ町は直線距離で70キロ以上離れているのだから。

 馬車で護送隊に追いつけるはずもない。

「ああ、そこは安心していいよ。どうやってかは秘密だ。君たちだって全部を話してくれたわけじゃないだろう? こっちにだって秘密はあるさ。そこはわかってくれ。でも君の姉さんはきっと助け出す」

「……う、わかったわ」

 今回、仁は手を出すつもりがない。万が一見咎められたらまずいこと、自身が危険を冒す必要がないこと。

 それでとりあえず仁はフランツ王国からクライン王国へ戻るつもりであった。


 来た時と逆のルートで関所に到着。

 同じような審査・確認の後、同じように袖の下を掴ませ、難なく通過。

 クライン王国側の関所は行きと同じように、仁の証明書で問題なく通過できた。

「証明書の効果がすごいのか、管理がルーズなのか悩ましいな」

 とは仁の感想である。


*   *   *


 同日13時、フランツ王国、サンフォゼ町とゲンフ町の中間点。

 周囲には人家はまったくなく、針葉樹の森が続いている。

 幅5メートルほどの街道がうねうねと南北へ延びていた。未舗装なので土埃が上がっている。

 幌付きの馬車を囲んで10名の兵士と2名の騎士が進んでいた。

「あと10キロもないから2時間もあれば着けるぞ」

「ああ、ようやくこの忌々しい魔族とおさらばできるな」

「ゲンフに着いたら娼館へ繰り出すか」

 護衛の兵士たちはそんな会話をしながら檻を乗せた馬車を囲んで歩いていた。

 と、そこに。

「待て!」

 前方に不審な人影が現れた。人数は5人。

「盗賊か?」

「馬鹿め。金目の物なんか無いぞ」

 だがその人影は盗賊ではなかった。

「魔族を運んでいる護送車と見た。魔族を引き渡してもらおう」

「何? 何だ貴様等は?」

「魔族と敵対する者とだけ言っておこう。おとなしく引き渡してくれないか」

 リーダーらしきものが進み出る。羽織ったローブのため顔が見えない。が、その下に着た胸当てがちらりと見えた。

「あの紋章は……? まさかセルロア王国の王家に連なる者……か?」

 紋章に疑問を持った騎士が前へ出た。

「我々は公務で護送している。引き渡すなどできない。これ以上邪魔をすると力ずくで排除することになる。速やかに引いてもらおう」

「面白れえ! やってもらおうじゃねえか!」

 魔族と敵対する者、と名乗った5人の1人が気勢を上げた。だがリーダーらしき先頭の男は冷静に言い放つ。

「仕方ない。引き渡してもらえなければこの場で断罪するのみ」

 その言葉が終わるか終わらないうちに、護送していた兵士10人、騎士2人は声も上げずにその場にくずおれたのである。

「『こちらレグルス41。処理対象気絶』」

「『こちらスカイ1。周囲2キロ以内に人影無きこと確認済み』」

『老君了解。保護対象確認せよ』

「『レグルス41了解』」

 レグルス41は自ら護送車に近付き、慎重に幌をめくった。

「『対象確認』」

 中に置かれた檻の中では、17、8歳に見える魔族が2名、気を失って倒れていた。

「『知識転写(トランスインフォ)』」

 レグルス41は仁から預かった魔導具を作動させる。

「……『知識転写(トランスインフォ)』機能不全。魔族と判断」

 そう、顔の確認をシオンたちに任せられないため、もう一つの魔族としての特性、『知識転写(トランスインフォ)』が効かない(意味のない内容しか読み取れない)、という確認をしたのである。

『スカイ1、予定通り降下せよ』

「『スカイ1了解。ファルコン1、降下します』」

 垂直離着陸機(VTOL)ファルコン1が降下してきた。

 レグルス41は倒れた騎士の身体を探って檻の鍵を見つけ出して檻を開ける。レグルス42と43が2名の魔族を運び出し、入れ替わりにあらかじめ用意したダミーの人形を44と45が運び込んだ。

 気絶した魔族は魔力妨害機(マギジャマー)をいつでも使えるように向けながら慎重に扱い、ファルコン1の転移門(ワープゲート)を用いて二堂城へと送り込んだ。

 二堂城では20体の陸軍(アーミー)ゴーレムが待ち構え、警備している中、2階客間に寝かせた。

『最終処理、開始』

 老君の指示により、馬車に油を掛けてから火が放たれた。

 木製の馬車はあっと言う間に燃え上がる。

 周囲で気絶している兵達は、火傷をしない程度の距離に移動させた。

 やがて火は消え、残ったのは灰と鉄製の檻だけ。檻の中には焼け焦げた死体らしきものが2つ。もちろん魔物素材で作ったダミーの燃えかすである。

 大半が灰と炭になっているため、偽物とはわからないだろう。

『いいでしょう。引き上げなさい』

 レグルスたちはファルコン1の転移門(ワープゲート)を使い、一旦蓬莱島へ戻った。あらためて赴任先へ転移する予定である。

 そしてファルコン1は不可視化(インビジブル)を展開したまま離陸、蓬莱島へのコースを取った。

『あの紋章にも気付いてくれたはずですね。これでセルロア王国王家に繋がる者が1枚噛んでいると思ってもらえれば更によし。そうでなくとも困りませんしね』

 レグルス41が身に着けた胸当てには、わざと誤解させるためにセルロア王国王家の紋章に良く似たものが刻まれていたのである。


*   *   *


 クライン王国国境の町、ストルスクから少し北へと馬車を走らせた仁は、スチュワードの管理する飛行船を見つけた。

「スチュワード、ご苦労。さて、カイナ村に帰るぞ」

「じ、ジン、ちょ、ちょっと! 何もしないで帰る気?」

 不満そうな顔のシオンが慌てて言った。

「え? 情報を得ただろう?」

「得ただろうって……得た『だけ』じゃないのよ!」

 だが仁は笑ってシオンを諭す。

「大丈夫だよ、とりあえずシオンの姉さんたちは助ける。任せておけ」

「う……。本当でしょうね?」

「ああ。だから急いで帰ろう」

「何が『だから』なのかわからないけど……」

 そんなやり取りを経て、仁たちは飛行船に乗り込んだ。

 往路と逆に進むだけ、帰りもまた2時間ほどで二堂城に着いたのである。時差は約1時間なので午後2時くらいである。

 そしてほぼ同時に、イスタリスとネトロスが城に着いていた。

「お帰りなさいませ、ジン様」

 バロウが出迎えた。

「先程、2階の客間へお客様がいらしたようですが、私どもは来なくていい、と言うジン様からの指示が出ている、とのことでしたので、様子は分かりません。よろしかったでしょうか?」

「お、そうか。ちょうどいい時間だったな。バロウ、ベーレもだが、いいと言うまで客間には来ちゃ駄目だぞ」

「はい、わかりました」

 会話の内容がわかっていないシオンとルカス。一方、エルザは仁の指示を元に老君が何を実行したのか見当が付いていたので驚くことはなかった。

「シオン、ルカス、とにかく行ってみればわかるさ」

 仁は礼子を伴って早足で歩いて行った。シオンとルカスも慌てて後を追う。


 2階客間。その扉を開けたのは礼子。仁は礼子の後ろ。仁を危険に曝したくない礼子の主張でこういうことになった。

「お帰りなさいませ、ご主人様」

 出迎えたのはランド1。布団に寝かせた2人の魔族に、看護という名の見張りをしていたのである。

「お姉さま!」

 横たわった魔族を見たシオンは大声で叫ぶと部屋に駆け込み、まだ目を覚まさない女の魔族にしがみついた。

「なんで!?」

 その言葉にはどれだけの疑問が含まれていたのか。シオンは仁を見つめた後、横たわった姉を見つめ、涙を零した。

「シオンによく似ているな」

 おそらくイスタリスと思われるその女魔族はシオンと同じ色の銀色の髪をしており、肌も抜けるように白く、もう一方の、ネトロスと思われる方の男は、ルカスと同じように焦茶色の髪で浅黒い肌をしていた。

「目を覚まさないのは薬のせいなのか、それとも……」

 麻痺銃(パラライザー)のせいなのか、というセリフを飲み込んだ仁。だがその言わんとすることを理解したランド1はすぐに答える。

「両方、だと思います」

 そうなるとエルザの出番である。

「それじゃあエルザ、診察と治療を頼むよ」

「うん、わかった」

 エルザは進み出て、イスタリスにしがみついているシオンをそっと引き離すと、診察のために布団をめくった。

「えっ!……」

「酷いな……」

「ね、姉さま……」

 イスタリスはぼろぼろの服とも言えないような布きれしか身に着けていなかった。そして露出した肌は、青黒く浮き出た痣と、血が乾いて固まった傷で一面覆われていたのである。

 拷問受けたんでしょうね……。


 いつもお読みいただきありがとうございます。


 20140714 12時34分 誤記修正

(誤)もう一つの魔族としての特製

(正)もう一つの魔族としての特性


 20140714 20時23分 表記修正

(旧)エルザは仁の指示を元に老君が何を指示したのか見当が付いていたので

(新)エルザは仁の指示を元に老君が何を実行したのか見当が付いていたので


 20140714 21時14分 誤記修正

(誤)血が渇いて固まった傷

(正)血が乾いて固まった傷


 20140717 21時02分 表記追加

(旧)『知識転写(トランスインフォ)』機能せず。魔族と判断

(新)『知識転写(トランスインフォ)』機能不全。魔族と判断


(旧)『知識転写(トランスインフォ)』が効かない、という確認をしたのである。

(新)『知識転写(トランスインフォ)』が効かない(意味のない内容しか読み取れない)、という確認をしたのである。


 20150712 修正

(旧)2階の客間へお客様がいらしたようですが、私どもには来るな、と言われたので様子はわかりません

(新)2階の客間へお客様がいらしたようですが、私どもは来なくていい、と言うジン様からの指示が出ている、とのことでしたので、様子は分かりません。よろしかったでしょうか?

(旧)お、そうか。ちょうどいい時間だったな

(新)お、そうか。それでいい。ちょうどいい時間だったな

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