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マギクラフト・マイスター  作者: 秋ぎつね
15 魔族との出会い篇
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15-16 訪問

 仁の問いに対し、シオンは即答した。

「あたしは姉さまを助けたい。それが偽らざる本心」

「そう、か。……食糧援助を後回しにしてでも、かい?」

 魔族は全体よりも家族を大事にするのか、と思いつつ仁は尋ねた。

「ええ。食料も確かに必要だけれど、1日2日でどうかなってしまう問題じゃないわ。でも姉さまの方は違う。急がないと命が危ないかも知れない」

「なるほどな」

 それなりに考えていたようだ。

「わかった。それじゃあ明日、君の姉さんを助けに出発しよう。今日一日はゆっくり身体を養生するんだ。俺はいろいろ準備を進めておく」

「……わかったわ。お願いするわね」

 仁の言うことはもっともと、シオンははやる気持ちを抑えて承知したのである。


*   *   *


「フランツ王国、か……」

 蓬莱島で仁(本人)は考え込んでいた。礼子も戻ってきている。

「情報が少なすぎる国だな……ラインハルトに聞いてみるか」

 蓬莱島では午後6時過ぎであるが、まだショウロ皇国では正午を過ぎたばかり、せいぜい12時半くらいだ。ちょうど昼の休み時間だろうと、仁はラインハルト邸に転移する。


 ラインハルトは昼食を終え、ベルチェと共にお茶を飲んでいた。

「やあ、ジン。どうしたんだい?」

「うん、ラインハルトに聞きたいことがあってきたんだ」

「こちらへどうぞジン様。いま、お茶を淹れますね」

 ベルチェの自動人形(オートマタ)、ネオンが給仕してくれたお茶を飲みながら、仁はフランツ王国について聞きたい、と言った。

 同時に、『森羅』のシオン、その姉が捕らえられていることも伝えておく事を忘れない。

「うーん、フランツ王国か。あそこは何と言うか、王の権限が強い国だな。絶対君主制……に近いといえばわかるかい?」

 仁からもらった知識の中から適当な単語を探し出し、ラインハルトは説明をした。

「僕は前回の外交ではクライン王国とフランツ王国には行っていないから現状を正確に把握しているとは言えないが、あの国はセルロア王国の属国的な国だからな」

「ああ、それは聞いたな」

「王の名前は……ああ、そうだ。リジョウン・ド・バークリーだったかな」

 そこまで説明したラインハルトは、

「ジンならクライン王国の王女に聞いた方がもっと詳しい情報を得られると思うがな」

 との提案をしたのであるが、仁は首を振った。

「いや、まだ魔族……というか、シオンとルカスのことは公にはしないでおきたい。シオンの姉だというイスタリスを助け出してから判断したいと思っているんだ」

 だからラインハルトたちもまだ国に報告はしないでくれ、と仁は頭を下げた。

「わかったよ、それまでは黙っておく。普通の人間は魔族に対して偏見があるからな。いきなり仲良く、は無理でも、交易出来るくらいの付き合いがしていけたらいいと僕も思うよ」

 外交官だったラインハルトの意見は仁としても心強かった。

「だがいずれは報告することになるだろう」

「ああ、それはもちろんだ。でもしっかりと情勢を把握してからにしたいな」

「それと、フランツ王国が小群国だからといっても、ジン、油断するなよ?」

「うん、わかっている。無茶はしないさ」

「ジン、観光旅行なら何も言わない。レーコちゃんもいるし、隠密機動部隊(SP)だって付いているんだろうからな。でも、捕まった魔族を助けに行くんだろう?」

「う……」

 正論である。仁はぐうの音も出なかった。

「観光、様子見まではいいだろう。だが助け出すときにはジン、君は絶対手を出すな。できれば蓬莱島へ戻って来ているんだ」

 以前統一党(ユニファイラー)からラインハルトを救出した際、敵ゴーレムの一撃を受けた記憶がまだ脳裏に焼き付いているのである。ラインハルトは仁のことを心から心配していた。

「わかったよ。忠告ありがとう」

 ラインハルト夫妻に礼を言って、仁は蓬莱島へ帰った。

「お父さま、ラインハルトさんの助言どおり、リースヒェン王女に聞いてみるというのは?」

 礼子がそんな提案をしてきた。蓬莱島午後7時、クライン王国首都アルバンでは午後4時過ぎくらいか。

「うーん、そうか。せっかく自由に入出国できるようになったんだしな……」

 アルバン近郊にも転移門(ワープゲート)がある。仁は礼子の薦めに従い、リースヒェン王女に面会すべく、転移門(ワープゲート)をくぐった。


*   *   *


「いくらなんでも事前連絡無しでというのは問題あるよな……」

 まだ明るい夏空の元、アルバンの通りを歩きながら仁は独りごちた。

「お父さま、知り合いを捜しましょう」

 グロリア、ジェシカ、パスコー、ハインツなど、若干ではあるが知り合いがいる。騎士隊の者なら警邏をしている可能性もあり、それなら出会える可能性が少しはあるといえた。

 だがそうそう上手くいくはずもないのが現実、1時間を経ても知った顔に出会うことはなかった。

「城下で騒ぎを起こせば誰か出てくるかも」

 と、冗談なんだか本気なんだかわからないことを言い出す礼子を抑えて、仁は再び歩き出した。その時である。

「おや、ジンさんではないですか?」

 不意に人混みの中から声が掛かった。そちらを見やると見知った顔。

「ご無沙汰しております。息子はちゃんとやっておりますか?」

 エリックの父で行商人、いやラグラン商会専務のローランドであった。


「御挨拶に行こう行こうとは思っていたのですが、思った以上に商会の仕事が忙しくて」

「商売繁盛、結構じゃないですか」

 仁と礼子はローランドに乞われて、ラグラン商会本店へとやって来ていた。通されたのは豪華な応接室である。

「私の義父でエリックの祖父、そして商会長であるラグラン・イーストウッドです」

「仁です、よろしく。こっちは礼子です」

「ジン殿、お噂はかねがね。一度お会いしてみたいと思っておりましたよ」

 がっしりした体躯は60歳を過ぎているとは思えないほど力に溢れている。その一方でやや薄くなった頭髪はエリックと良く似た茶色をしていた。

「ポンプというあの便利な道具を見たときからお会いしたいと思っていたのですがようやく叶いましたよ!」

 一からラグラン商会を立ち上げ、仁の道具があったにせよ商会をここまで大きくしてきたその中心人物は、セルロア王国で出会ったエカルトとはまた違ったタイプの商人であった。

「ポンプ、コンロ、麦、ボール、ペンとペン先……ジン殿は商会の大恩人です! 感謝してもしきれませんな!」

 時刻はもう6時近い。ラグランは食事の仕度を部下に命じた。

「ところでアルバンには何かご用事でも? それとも観光ですか?」

 ここで仁ははっと思いつく。フランツ王国のことをよく知っているのは、王家だけではないことを。

「ええ、あの、実はフランツ王国のことを知りたくて」

「ふうむ、何か目的……ああ、いや、詮索は止めましょう。そうですな、やはりローランドが詳しいでしょう」

 ラグランの視線を受け、ローランドは話し出した。

「フランツ王国へは3年ほど前に行ったのが最後ですので、その時の話になります。かの国は独裁政治というのが相応しい政治形態でしたね」

 ラインハルトの情報とも一致する、と仁は黙ったまま頷いた。

「貧富の差も激しいですね。一部の貴族は贅沢三昧をしていますが、一般庶民は食べていくのがやっと、と言った状態です。ですので市場としてみてもあまりいい市場ではなかったですね」

「……」

 仁は顔を顰めた。

「当時、首都サンジェルトンの隣町……ええと、そうそう、ブブロまで行ったんですがね、貴族どもは金を持っているくせに支払いが渋く、商売にならないと見て引き返したのですよ」

 そう言って、ローランドは他にも気が付いた事を2、3、仁に教えてくれた。その中には、比較的ましと思われる貴族の名も含まれていた。

 加えて、もしもフランツ王国へ行くなら、という前提で、注意点もいくつか教えてくれたのである。

「ありがとうございました。助かります」

「いやいや、これまでジン殿から受けた恩恵の十分の一も返せはしませんが」

 ラグランもローランドもそう言って笑う。

「そうだ、もしよろしければ、お店の中を見せていただけますか」

 前回、エルザやハンナとここアルバンを訪れたとき、商会を訪問し損なっていたのを思い出したのである。

「ええ、どうぞ。ローランド、案内して差し上げてくれ」

 ラグランは笑ってローランドに指示を出した。

「それではジンさん、どうぞこちらへ」

 応接室を出、店の中へ。

「本店は主に小物を扱っております」

 まずは文房具。仁が卸しているペンとペン先が並んでいる。他にはインク、皮紙、ペン立て、ペン皿など。

 次は食器・台所用品。深皿、浅皿、小鉢、ボウル。スプーン、フォーク、ナイフ。包丁、トング、鍋、フライパン。

「ここでコンロを扱っております」

 仁が製法を教えた魔石砂(マギサンド)利用のコンロが置かれていた。

「職人を教育しまして、なんとか自家生産できるようになりましたよ」

 コンロを仁が確認してみたが、問題ない作りであった。

「こちらが日用品雑貨になります」

 魔導ランプ、獣除けの鈴、手鏡。ゴムボールはこの一角に並べられていた。

「エリックが数をまとめてくれているので助かっていますよ」

 エリックは月ごとに必要な数をまとめ、発注してくれているので仁やエルザがカイナ村に行った時にまとめて作っている。

 そのため供給が安定しているのだ。

「おや?」

 店の片隅に、仁の目を惹くものが置かれていた。

 いつもお読みいただきありがとうございます。


 20140707 13時49分 誤記・表記修正

(旧)仁ならクライン王国の王女に聞いた方がもっと詳しい情報得られると思うがな

(新)ジンならクライン王国の王女に聞いた方がもっと詳しい情報を得られると思うがな


(旧)だが、しっかりと情勢を把握してからにしたいな

(新)でもしっかりと情勢を把握してからにしたいな


(旧)だが、フランツ王国が小群国だからといって、ジン、気を付けろよ?

(新)それと、フランツ王国が小群国だからといっても、ジン、油断するなよ?


 20140707 20時20分 表記修正

(旧)まだショウロ皇国では午後12時半くらいだ。

(新)まだショウロ皇国では正午を過ぎたばかり、せいぜい12時半くらいだ。


(旧)同時に、『森羅』のシオン、その姉が捕らえられていることも。

(新)同時に、『森羅』のシオン、その姉が捕らえられていることも伝えておく事を忘れない。


(旧)0からラグラン商会を立ち上げ

(新)一からラグラン商会を立ち上げ


 20160410 修正

(誤)「ジン、観光旅行なら何も言わない。礼子ちゃんもいるし

(正)「ジン、観光旅行なら何も言わない。レーコちゃんもいるし

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