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マギクラフト・マイスター  作者: 秋ぎつね
15 魔族との出会い篇
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15-08 魔族の事情

 関連地図も更新しましたので参考にして下さい。

「そうですね、何からお話ししたらいいか……」

 小首を傾げてシオンはちょっと思案顔。やがて考えがまとまったらしく、再び口を開く。

「私たちの住むゴンドア大陸は、こちらに比べ遙かに寒いんです。ですから農作物があまり穫れません」

「うん、だろうね」

「人口は……済みませんが、それはまだ明かすわけにはいきません。種族の秘密なので」

「ああ、それも理解できる。気にしないでいいよ」

 正確に把握していないこともあるのだろうが、自分の所属する種族の人口などの情報は、仮に戦争になった場合には厳重に秘すべき事の一つである。

「対人類戦役で人口が激減したため、人口に対して農耕地が増えた形になり、暫くはまったく問題なかったらしいのですが」

 魔族も人口激減の影響があったようだ。

「ここ10年ほど、気温が下がってきて、満足に作物が穫れなくなってきたのです」

「冷害か」

「冷害? ……ああ、なるほど、こちらではそう呼ぶのですね。はい、冷害が起きたのです。それで食料が全体的に不足し始めたのです」

 ヴィヴィアンから聞いた昔話と同じように、魔族は農産物を欲しているらしい、と仁は思った。

 聞いてみればあっけないというか、わかりやすい理由である。

「氏族の長が集まって相談がなされました。これからどうすべきか。そして最終的に2つの意見に分かれたのです」

「何となく想像がつくよ」

「で、しょうね。……1つは人類と交易を行って食料を手に入れようとする一派。そしてもう1つは、人類を脅して食料を手に入れようとする一派、です」

「……だんだんわかってきた」

 仁は先を促した。

「私やこのルカスはもちろん穏健派です。しかし、過激派は違います。全面戦争までは考えていませんが、地方を制圧してそこを植民地にする事を画策しているようです」

 いかにも残念そうな顔でシオンが説明した。

「過激派は、下準備としていろいろな国に散らばり、現在の人類の情報をいろいろ集めています。ジン様が出会ったという5人はおそらくそういった者たちでしょう。アルシェルの名前は私も聞いたことがありますし」

 これで魔族側の背景について、おおよその事がわかった。いよいよ核心である。

「で、助けて欲しい、というのは具体的に何を期待しているんだ?」

「はい、一番は食料の提供、ですね。こちらからは魔獣の素材等を提供出来ると思いますので、交易が成り立つと思っています」

 その昔はそういった形で交易が行われていたのかもしれない、と仁は思った。

「で、あとは? 一番、ということは、まだあと最低でも1つ、何かあるんだろう?」

「はい。どうか、過激派を止めて下さい!」

「は?」

 それは一個人に頼むような内容なのだろうか。いや、交易にしてもそうなのだが。仁は少し驚いていた。

「で、でも、貴方は、『魔法工学師マギクラフト・マイスター』なのですよね? 言い伝えられています、魔法工学師マギクラフト・マイスターは考えもつかないような魔導具を作り出し、私たちの暮らしを変えてくれた、と!」

「何だって?」

 先代魔法工学師マギクラフト・マイスター、アドリアナ・バルボラ・ツェツィが何をしたのか、その足跡は残っていない。

 礼子ですら、覚えていない……と言うより、元々知らないのだろう。

「わたくしを作って下さったとき、お母さまはもうお歳を召していらっしゃいましたから」

 ちらと礼子を見た仁の視線の意味を正しく酌み取った礼子はそう答えた。

 だが、先代ならやりそうな事である。

「……わかった。この後、もっと詳しい話を聞かせてくれ。その結果次第で出来るだけのことはしてみよう。だが、あと一つ教えて欲しい」

「はい、なんでしょう?」

「魔族はどうしてそんな寒い地方に住むことになったのか、何か言い伝えられているのかな?」

 その質問はシオンの顔を引き攣らせた。不味いこと聞いたのかな、と仁は己の発言を悔いた、が。

「……人類に追いやられた、と聞いています」

 今までより一段低い声でシオンが答えたのである。

「……祖先は3000年以上前、人類から追われ、北の地へ移り住んだ、という言い伝えが残っているのです」

 それまでの明るい声と違い、暗く、絞り出すような声であった。

「……済まない。悪い事聞いたみたいだな」

 仁は即座に詫びた。シオンはふう、と深く溜め息をつくと、元の雰囲気に戻る。

「いえ、お気になさらないで下さい。あくまでも言い伝え、ですから。……でも、私たち魔族が人間を憎む原因となっているのも事実なんです」

「……わかった。ありがとう、聞かせてくれて。まだ身体は元に戻っていないだろう、少し休むといい。またさっきのジュースを持って来させようか? それとも食事がいいかな?」

「あ、それでしたら……あの、食べる物、を」

 食事の催促をする事を恥ずかしがるように、頬を染めるシオン。仁は大きく頷いた。

「わかった。今すぐ用意させる。待っててくれ」

 そう言って仁は部屋を出た。礼子も続く。残されたのはシオンとルカス。


*   *   *


「……お嬢様、よろしかったのですか?」

「ええ、いいのよ。あのジンっていう人は、まず間違いなく魔法工学師マギクラフト・マイスターだわ」

「……あんな奴が……」

「侮っちゃ駄目。人間は私たちと違って、身体を魔力で強化する技術はつたない代わりに魔法技術を高めたのよ」

「技術でしたら我々の方が!」

「ええ、そうね。でもそれは祖先の遺産を引き継いだだけ。でも魔法工学師マギクラフト・マイスターは違う。新しい物、今まで無かった物を作り出せる。それこそが今の私たちを助けてくれるはず」

「……わかり、ました」

「あのレーコとかいう自動人形(オートマタ)、見た? 言い伝えの通りの黒髪。あのジンという人と同じだったわ」

「はい、確かに……」

「そう。なら、あとは待ちましょう。今は身体を治さないとね」

「はい」


*   *   *


 そんな主従の会話も、老君が全て聞いていたのは言うまでもない。

 仁は二堂城5階居室で老君と話していた。

「どう思う、老君?」

『話の内容はほぼ真実でしょう。今まで蓄えた情報と矛盾するところはないようですから』

「うーん、そうすると最後の、3000年以上前に追われた、という話もか?」

『はい、おそらくは。それこそ、そこのところで嘘を言うメリットがありません。ヴィヴィアンさんのお話に、人類も遙か以前に北を目指していた、とありましたが、そのことではないか、と』

「うーん、『追われた』というところが真実かどうか、というわけか」

『はい。迫害レベルでなくとも、仲違いして居づらくなって、という事も考えられます』

「うん、それが長い年月の間に『追われた』という表現になったというわけだな」

『あくまでも可能性、ですが』

「そうすると、俺の仮説……魔族と人類は起源が同じ、と言うことを裏付けるかもな」

『仮説ですか?』

 エルザが診察した結果、シオンもルカスも人間と変わりない、という結果を聞いて思いついた説。

「ああ。『魔族』の『魔』が悪魔や邪悪を意味するのではなく、『魔法』と同じく、『人知を超える力』を意味している、ということさ」

『悪魔の一族、ではなく魔法を使う一族、くらいの意味ですね』

「そういうことだ」

『そうしますと、人類との差はどうして生じたのでしょう』

「ああ、その辺はこれからおいおい調べていくとしよう」

『そうですね。……ところで御主人様(マイロード)、カイナ村北方、約50キロの山中に百手巨人(ヘカトンケイル)2体を発見、これを殲滅しました』

百手巨人(ヘカトンケイル)だって? 以前、北の山で礼子が倒したというあれか?」

『はい。南下中でしたので、カイナ村に達するおそれは十分にありましたし、付近にいた山鹿マウンテンディアー森熊ウッドベアーが食い尽くされる危険もありましたので』

「何でそんなところに……」

『シオンとルカスを追って来た可能性があります』

 彼等の従者である可能性は小さく、むしろ捕らえるためもしくは殺すため、という可能性が高いという。

「そう判断する根拠は?」

『従者であれば、彼等はあれほど消耗して遭難していないでしょう。百手巨人(ヘカトンケイル)ならあのあたりの積雪はまったく苦にならないのですから』

 例え5メートルの積雪でも、体長30メートル以上ある百手巨人(ヘカトンケイル)なら楽々歩行できるわけだ。

『過激派と穏健派は対立しているようですし、更に言えば魔物を操れる魔族もいるようですしね』

「『傀儡くぐつのアルシェル』か……」

 仁は、もしかしたら礼子が倒した百手巨人(ヘカトンケイル)も、魔族が送り込んだ魔物だったのかも、と思った。

「更に北方の警備は重要になりそうだな」

『はい、当面は空軍(エアフォース)に警戒させましょう』

「うん、頼むぞ」


*   *   *


 仁は昼食を1階の食堂で食べた。海苔と塩で握ったおにぎりである。

 クゥプから持って来た味噌はペリドたちが解析中。まあ発酵食品なので量産されるのは早くても来年だろう。

 と思っていたら、ワカメの味噌汁が出てきた。

「これは?」

「今朝習ったばかりのお味噌汁です」

 と答えるベーレ。

「うん、煮干しの出汁だな。うまい」

 習ったばかりにしてはなかなか美味くできている、と仁は喜んだ。

 むしろテクレス家で食べた物より味噌の風味がいい気がする。

 だが一方で、もらってきた味噌は一握りだったのに、と首を傾げる仁であった。

 後に、この味噌すなわちビンペイが、ショウロ皇国南部で少量作られていたことを知ったのである。

 つまりショウロ皇国に派遣されている第5列(クインタ)が手に入れたのであった。

 味噌、第5列(クインタ)がショウロ皇国南部で見つけてきたようです。

 味噌の風味がいいのは保存が良かったからです。


 いつもお読みいただきありがとうございます。


 20160731 修正

(誤)『魔法』と同じく、『人知を超える力』を意味している、ということさ』

(正)『魔法』と同じく、『人知を超える力』を意味している、ということさ」

 最後の閉じ括弧を修正。

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