02-10 ライター作製
翌日の朝、仁はリンゴもどきの実をカゴに入れてビーナの家を訪れた。礼子は今日も留守番である。というか家を建てている。
「ビーナ、いるかー?」
そう言ってドアをノックした途端、ドアが勢いよく開いた。
「ジン! 来てくれたのね!……あれ?」
「……」
仁はドアに弾きとばされていた。
「いてー……」
「ご、ごめんね」
仁の額にはコブが出来ており、それを見たビーナは申し訳なさそうな顔。
「ああ、大丈夫だよ。……治療」
自分に治癒魔法を掛ける仁。それを見たビーナの目が点になる。
「あああああんた、治癒魔法も使えたの!?」
「ん? 使えるっていってもこれだけだ。作っている最中の軽い怪我しか治せないぞ」
「それでもすごいわ……」
「で、なんであんなに慌てていたんだ?」
コブを治した仁がビーナに尋ねた。
「あ、そうそう。あの『ポップコーン』、すごい売れ行きでさ!」
ビーナによれば、最初は物珍しさで買っていく人だけだったそうだが、持ち帰って食べた人が、後を引く味わいにまた買いに来て、それを見た人が試しに買いに来て、というわけで午後には10キロのトウモロコシを全部使い切ってしまったそうだ。
「で、ジンにも分け前、というかお礼というか、これ渡したくて」
銀貨を3枚差し出すビーナ。約3000円といったところか。
「すごいな、随分儲かったんだな」
「ええ。それでね、横に置いておいた魔導ランプも4つ、売れたの」
「おお。計画通り」
仁としては、ポップコーンは客寄せで、魔導具を売る方がメインである。
「それで、店は昼からということにして、午前中は魔導具作ろうと思って」
「お、何かアイデアが浮かんだか?」
仁がそう尋ねると、
「ええ。今思いついてるのは2つ。1つは、携帯に便利な魔導ランプでしょ、もう1つは着火用の魔導具」
仁はそれを聞いて少し考えた後、
「着火用の魔導具、ってのは? 俺、あまり料理とかしないから使いどころがよくわからない」
「そうなの? あのね、魔法で火を熾せないのが普通なのよね、なのでそういう家は火種を保存しておくか、火熾し使うのよね」
火熾しは、木と木を擦り合わせて火を熾すための道具である。
「火を出す魔導具もあるけど、高いし、庶民が手を出せる物じゃないわ。だから、種火を付けるだけの火が出ればいいと思ったの」
仁は感心した。ビーナのいうのは要するにライターだ。
「うん、いいんじゃないか? もう構想は出来てるんだろ?」
「ええ、聞いてくれる? まず魔石を……」
そしてビーナの説明を聞いた仁は、
「いいと思うぜ。早速作ろうじゃないか」
「うん」
それで製作に入る。
「大きさは掌に乗るくらいで、握ると火が出るようにしたいと思うの」
「うーん、握るというのは曖昧だから、こうしたらどうだろう?」
仁は押しボタンを説明する。
「ああ、それいいわね。ここを押すと、魔石が魔導基板に接触して動作する……と」
こうしてライターが完成した。
「魔石は極々小さくていいからうんと安く出来そう」
手持ちの魔石を砕いて豆粒のようにしたもので100回くらいは使用可能である。
「1つ100トール、じゃ高いわよね。50トールってところかしら?」
約500円。100回使えるとして1回5円。いい線だろう。
「それに、火が出なくなったら持ってきてくれれば魔石を有料で補充してやったらどうだ?」
「ああ、それ賛成。そっちは20トールでいいかしら」
「そうだな。で、多分だけど、これはじきに真似されると思うから、それまでに出来るだけ売って稼いだ方がいいな」
「そうね、確かに、真似される可能性大よね」
ビーナも納得である。
「あ、それに、これからは全部の作品に、ビーナの物とわかるような刻印を入れておくといいと思うぞ」
「え? どうして?」
「類似品との区別が1つ。それと、名前を売っていくなら、今から始めた方がいい」
するとビーナは少し顔を赤くして、
「そ、そうかしら? あたし、そんなこと考えたこと無かったけど」
「いや、お世辞抜きに、ビーナはきっとこの先、有名になれると思うぞ」
真顔で仁がそう言ったものだから、ビーナはもっと顔を赤くして、
「あああ、あたしが、有名に? そ、そんなあ」
更にくねくねし始めたので、仁は苦笑しつつ、
「この先、だからな。刻印のデザイン、考えろよ?」
「わ、わかったわよ」
因みに仁はネーミングセンスと共にデザインの方も残念なのである。
刻印は、ビーナの好きな百合の花の中にビーナのB(この世界の文字はアルファベットに良く似ていた)をあしらったデザインに決定。
「よし、ライターに刻もう」
そう言った仁に、
「ライター?」
「あ、ああ。この魔導具、火を灯すに因んで、『ライター』って呼ぼうかと思ってさ」
「ライター、ね。うん、いいんじゃない? 冷蔵庫といい、ジン、センスいいわね!」
まったくの誤解なのだが、それを指摘する程仁も間抜けではなかった。
午前中にライターを20個ほど作った2人は、昼食としてパンと野菜スープ、それにアプルル(リンゴもどき)を食べた。因みにアプルルは割合一般的な果物だった。
「おかげで弟と妹も喜んでるわ」
仁がいろいろな果物を持ってきているので、2人とも食欲が出てきているそうだ。
「あ、でもアプルルはちょっと硬いかしら?」
歯茎から出血していたのでビーナは心配している。
「それなら、ジュースにするか、焼けばいいじゃないか」
仁がそう言うとビーナは目を丸くした。
「焼く? アプルルを?」
「ああ。芯をくり抜いて、砂糖とシナモンを入れ、フライパンで焼くんだけど」
仁の説明を聞いたビーナは、
「砂糖は高いから無理よ。それにシナモンって何?」
「あー、そうか、ごめん。俺の故郷での食べ方なんだ。それじゃあすり下ろしリンゴということで」
うっかりリンゴと言ってしまった仁だが、
「リンゴ? ジンのところではアプルルをそう呼ぶのね。うん、じゃあすり下ろしリンゴにしましょ」
そう言ってビーナはアプルルをすり下ろし、弟妹達の食事と一緒に運んでいくのだった。
焼きリンゴは芯をくり抜き、バターと砂糖、シナモンなどを入れてフランパンで炙ります。ハチミツ入れてもおいしそうですね。電子レンジで作ることも出来ます。
お読みいただきありがとうございます。
20160917 修正
(誤)午前中にライターを20個ほど作った2人は、パンと野菜スープ、それにアプルル(リンゴもどき)。
(正)午前中にライターを20個ほど作った2人は、昼食としてパンと野菜スープ、それにアプルル(リンゴもどき)を食べた。




