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マギクラフト・マイスター  作者: 秋ぎつね
14 家族旅行篇
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14-31 そして、結末

「バリア」

 倒れ来る船を見た仁は、咄嗟にバリアを張る。目には見えていないが、仁とエルザを守る隠密機動部隊(SP)もバリアを展開し、仁たちに寄り添う。

 そして、まだポケットに入っていた軽量化の魔導具を仁は取り出し、発動させようとした、その矢先。

 どがあん、という轟音と共に、倒れかかってきていたはずの船が、反対側に向かって吹き飛んだ。

 木屑がぱらぱらとバリアに降りかかるが、何ほどのこともない。

「い、いったい何が……」

 青ざめたままのエカルトが呆気にとられた顔で口にした言葉。

 それもその筈で、全長40メートルの船は、見る陰もなく粉々になっていたのである。

「お父さま、大丈夫ですか?」

 もちろん、やったのは礼子である。仁たち、というよりも仁を守るため、倒れかかってきた船を蹴り飛ばしたのである。ほぼ全力で。

 その結果、50センチ角はある中央構造材を初めとした構造材は結合部からばらばらに吹き飛んでおり、片側だけ張られていた外板も飛び散っていた。

「ああ、大丈夫だ。しかし、派手にやったな……」

 船の形はもうどこにも無い。ただの瓦礫と化していた。礼子の一撃はそれだけの衝撃力を以て、建造中とはいえ40メートル級の船を吹き飛ばしたのである。

「犯人も捕まえました」

「何!?」

「船の台座に細工をした者がいたのです」

 礼子がそう告げるのと、気絶した男をネオンが引きずってやって来るのとが同時であった。

 その気絶した男を見たエカルトの顔が今度は怒りで赤くなった。

「こいつは! 現場主任!」

 エカルトは直ちに町の警備兵に伝えるよう指示を出した。


*   *   *


 警備兵に連絡すると、なんとクゥプの町を預かる代官自らがその兵達を連れてやって来て、事情聴取をしていった。それだけエカルトが重く見られている証である。

 その間、仁たちは帰るわけにもいかず、エカルトの懇請に応じて説明をすることとなったのである。

「ふむ、ヴィヴィアンの友人か。ステアリーナ・ベータ……ということは、あの!」

 セルロア王国において、ステアリーナは有名人である。そして彼女が亡命したとか貴族に逆らったなどという知らせはまだこの王国最南端の町には届いていなかった。

 後々面倒事が生じるかもしれないが、その頃にはもうこの地を離れている、とステアリーナは半ば開き直っていた。

「どのあのなのかは存じませんが、魔法工作士(マギクラフトマン)のステアリーナですわ」

 ステアリーナが代表で説明する。これこれこういうわけで、との説明を最後まで聞いた代官は納得のいった顔。

「貴殿たちが、所有するゴーレムと自動人形(オートマタ)で怪我人を救い出した、と、こういうわけだな」

 さすが有名人、ステアリーナの証言は概ね信用してもらえたようである。仁たちは名前も尋ねられなかったのでほっとする。

 気絶から覚めた男は、その場で行われた簡易尋問で、エカルトの商売敵が送り込んだと白状した。

 あとは司法の仕事であった。


「皆さん、お引き留めして申し訳ない。今日は是非お泊まり下さい」

 代官と兵達が犯人を引き立てて行くともう夕闇が迫っていた。

 仁たちも、エカルトの厚意に甘え、1泊をしていくこととなったのである。


 入浴後、夕食が出された。

 さっそく、出汁を使った味噌汁が出された。料理長は仁のやり方を見て覚えたのだろう、キャベツのような葉野菜を入れた味噌汁だが、今度は十分美味しく出来ていた。

 他には鹿肉のステーキ、焼いた干物、サラダ、フルーツ。

 夕食も華美ではないが、それなりに質の高い食材を使ったものであった。

「……味噌汁と合うのはやはり米だと思うなあ……」

 やはり仁は黙っていられなかった。

「ショウロ皇国南部で穫れる『禾』、あれとこの味噌汁はよく合います。是非研究してみて下さい」

 仁の助言にエカルトは歓喜する。

「それはそれは! これまた良い事をお教えいただいて、お礼の申し上げようもありませんな!」

 その様子に、昼間、建造中の船を壊してしまった仁は少しだけほっとした。事故は仁のせいではないが、最終的に船を壊したのは礼子だったから。

 だが、エカルトはそんな仁の心理を読んだのか、笑いながら声を掛ける。

「ジン様、どうかお気になさらず。あの場合、ああするより他に無かったと思いますよ。確かに船が壊れたのは残念ですが、壊れたならまた作ればいいだけのこと。それよりも、怪我人を治していただいたことや、死亡者が出ずに済んだことの方が重要です」

「……ありがとうございます。……そう言っていただけると気が楽になります。俺も、不躾な事を口にして申し訳なかったと思ってます。お許しください」

「いえいえ、ミソに限ったことではありませんが、率直な意見というのは非常にありがたいものです。むしろミソの正しい使い方がわかって感謝しております」

 そんなエカルトに仁は好感を抱いた。それで、ちょっとだけ助力することにする。

「……もしよろしければ、あの船の設計図を見せてもらえませんか?」

 そんな仁の言葉にラインハルトも反応した。工作馬鹿の面目躍如である。

「お、ジン、やる気か? 僕にも手伝わせてくれ!」

 仁は笑って頷いた。


 夕食後、仁とラインハルトは別室に招かれ、設計図を見せてもらった。

 全長40メートル、全幅10メートル。船体部分の高さ6メートル、船室込みの全高12メートル。

「うーん、すごい」

 ラインハルトも唸る巨大船である。この世界にこれほど大きな船は……蓬莱島のもの以外には存在しない。

 一方仁は、昼間現物を見たときからの疑問を口にする。

「動力はなんですか? どうやって動かすのですか?」

 この設計図には駆動方法が書かれていなかったのである。

「……それは秘中の秘でして」

 エカルトが言った。

「当家お抱えの魔法工作士(マギクラフトマン)が考え出した、今までに無い画期的な方法なのです」

 なのでさすがにお教え出来ません、と言われては、仁たちもそれ以上無理に聞き出すことは出来なかった。

 辛うじて、船尾にある段差に何か推進装置を取り付けるのだろうと推測するに留まった。

 それで、この場では船体と内部構造について助言をしておくことにする。

 キール(竜骨)とかの工法については仁も詳しくないので口出しはしないが、一点、ものすごく気になることがあったのである。

 それは、これだけ大きな船にもかかわらず、船底が平らだったことである。

 確かに作り易いし、船内の区分けなどもしやすいが、40メートルの大きさとなると、強度的な問題が生じるのである。

 波のない水面であればいいが、海には必ず波が付きものである。と言うことは、船体は上下に揺さぶられることになる。

 仮に、大波に船首が持ち上げられたとしよう。次の瞬間、船首は重力によって落下し、水面に激突する。この時、平底だと、大きな衝撃が船底にかかる事になるのだ。

 故に、その衝撃を逃がすため、V底に作ることが一般的なのである。

 これは船の模型を作る過程で仁が得た船舶工学の初歩であった。もちろん強度が十分ならそんな心配は無い。

 だが、全て木材で作られるはずのこの船を見て、仁は心配になったのである。

「なるほど……」

 仁の説明を多少は理解したエカルト。何か考え込むような顔をした。

「ジンさんの仰ることは理解出来ます。そうしますと、強度を上げるか、底の形状を変えるかした方がいい、ということですな」

「そうです」

「ああ、僕からも一言。これだけ大きな船を作るなら、内部は仕切りを多くし、それぞれ密閉出来るようにするといいでしょうね」

 浸水した場合、一部の船室で食い止められれば沈没の可能性は低くなる。それ故の助言だ。

 それは船が好きだというだけあってエカルトはすぐに理解した。

「なるほど、いいお話を聞かせていただきました。お二方、お礼申し上げます」

「完成した暁には是非拝見したいものですね」

「はは、その時は是非乗船していただきたいものです」

 仁とラインハルトはそれで話を終え、宛がわれた客室へと引き上げたのである。


「……ジン、君の推測は?」

 部屋で、仁とラインハルトは推進装置について、予想しようと話をしていた。

「オールやパドルを横から突き出して漕ぐ方法かと思ったんだが違うみたいだな」

 哨戒艇など、10メートル級の船で使われている方法である。ガレー船のようなものと思えばいい。

「ああ。側板に穴がなかったしな。気になるのはあの段差だ」

「うん、スクリュー推進が無い以上、あの段差に何か外付けするんだと思う。となると、方法は限られてくるな」

「一つの可能性として、例えば、だよ? ローレライの下半身をあそこに取り付けたら?」

 ラインハルトが突拍子もないことを言い出した。だが、考えてみるとそれほどおかしなアイデアではないかもしれない、と仁は思うようになった。

「なるほど。魚の尾びれを真似る、ということか」

「そうさ。悪くはないと思う」

 科学技術ではなく魔法技術による駆動方式であるから、それもありかも、と仁たちは意見の一致を見たのであった。

 お読みいただきありがとうございます。


 20140615 20時09分 誤記修正

(誤)エカルトの好意に甘え

(正)エカルトの厚意に甘え

 ここは厚意の方がいいでしょうね。


 20151023 修正

 エカルトのセリフで、「味噌」漢字表記を「ミソ」に。

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