02-09 蓬莱島、ただいま開発中
蓬莱島に戻った仁を待っていたのは報告の山だった。
「西側の荒れ地を調査した結果、御影石、大谷石他の石材が大量に取れそうです。鉱物資源は鉄鉱石が豊富でしたが、他の鉱物はほとんど採れません」
「鉄鉱石は質の良いものを採掘して貯蔵しておいてくれ」
「東側の草原地帯には柵を作り、牧場にする準備が整いました」
「あー、金が出来次第、牛とか羊とか買い付けないとな」
「タツミ湾に港の設置が終了、生け簀も試験的に2箇所設けました」
「魚の種類とかも引き続き調査してくれ」
「台地の果樹園が出来上がりました」
「この後冷蔵庫作るから、収穫した果実はそこへしまっておいてくれ」
「北側の樹林帯にある有用植物のリストが完成しています」
「ゴムの木があるのか。これはいいな」
等、等、等。結局、翌日まで報告は続き、ビーナの所へ行くのは1日お休みとなった。
「さすがに疲れた……」
ゴーレムメイド達の働きぶりは仁の予想以上であった。
「お父さまの方はいかがでしたか?」
報告を終え、礼子が聞いてきた。
「ああ。冷蔵庫の試作が完成した。それとポップコーン」
「ポップコーン?」
「このトウモロコシから作れる食べ物だ」
仁は持ってきたトウモロコシの袋を出して見せる。それを受け取ったのはトパズ。
「早速畑に播いてみます」
「ああ、頼む」
トパズは配下のゴーレムに渡し、指示を与えた。
「さて、それじゃあこっちでも冷蔵庫を作ろうか」
「お手伝いします」
礼子とともに工房へと向かう仁。
「うちでは魔石じゃなく魔結晶使えるからいいよな」
水属性の魔結晶を取り出した仁は、さっそく魔導式を刻み込んでいく。
魔結晶は魔石に比べて数十倍から数百倍長持ちするので直接魔導式を刻んで使える。一方、魔石は頻繁に交換する必要があるため、魔導基板を使うというわけだ。
「氷を作るんじゃなく、直接冷却する、と」
ビーナでは無理な方法だが、仁ならその魔導式もわけなく構成する事が出来た。
「お父さま、筐体が出来上がりました」
礼子は冷蔵庫本体を作っていた。
「よし。筐体には断熱の結界を施す、と。これでよし」
「完成ですね」
出来上がったのは高さ1メートル、幅70センチ、奥行き60センチくらいのもの。
「よし、果物とか入れておこう。冷やして食べると美味いんだ」
「わかりました、あとで入れておきます」
「よし、そうしたら、使っていない部屋を冷蔵庫、いや冷蔵室に改造しよう」
果物や木の実、穀物の貯蔵用の倉庫を作るわけだ。
「それでしたら1階の一番奥がいいと思います」
巨大冷蔵庫であるが、仁と礼子が協力すれば、大きさはあまりネックにならない。出来上がった冷蔵室にもさっそく果実が運び込まれていった。
同様にして、部屋をもう一つ使って冷凍室も作る仁。長期保存なら冷凍の方がいいからだ。氷も作れる。
そこにも果実や木の実を貯蔵した。
全て終わるともう夕暮れ。研究所内に設えたダイニングルームに足を運んだ仁だが、
「あー、今日も果物と木の実の食事か……」
ぼやきがこぼれる。それを聞いた礼子は、
「お父さま、少しですがパンと干し肉があります」
「本当か!?」
急き込んで尋ねる仁。
「はい。実は、先日、お父さまがビーナさんと工房に籠もっている間、露店で魔石を売ってお金を作ったんです。それで買っておきました。余計な事だったでしょうか?」
そう答えた礼子は心なしか心配そうに見える。が、仁は、
「そんなことないさ、良く気が付いたな礼子。うれしいよ」
そう言って、礼子が差し出したパンを焼き、干し肉を炙った。
「うん、うまい」
パンに干し肉を挟んで食べる仁。塩加減がちょうどいい。それを見た礼子は微笑み、
「よかったです」
だが、パンも干し肉もあと1食分。
「明日は食料を確保したほうがいいな」
食べながらそう考える仁であった。そして、あることを思いつく。
「そうだ、礼子、外にも家を建てたいな」
「家、ですか?」
「ああ。この研究所は極秘として、仮に誰かを連れてくる事があった場合は、外に建てた家に案内すれば最低限の秘密は守れるだろう」
すると礼子は少しだけ眉をひそめ、
「……それは、ビーナさんのことですか?」
「いや、別にビーナに限るわけじゃない。たまたま転移門があったのが家の近く、ということにすればいいと思っただけだ。なにしろ、どこからやってきたのかわからないというのはこの先、穀物とか家畜とかを買い付ける時に不利だろうしな」
「そういうことですか。わかりました。それでしたら、ソレイユとルーナに手伝わせて作りましょう」
「あまり大きい家でなくていいからな。こぢんまりしていてかまわない。そうだな、ビーナの家の倍くらいあればいいか。簡単な工房もダミーとして造っておくか」
「了解です、おまかせ下さい」
これで、ビーナに『どこからきた』のかの説明がし易くなったと安堵する仁であった。
ちょっと短めです。拠点も充実させないと。
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