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マギクラフト・マイスター  作者: 秋ぎつね
14 家族旅行篇
470/4299

14-21 テイマー

虫の描写有り、苦手な方は注意してください。

 兵達がこっそりと剣を握り締め、鞘ごとグロリアに叩き付けるタイミングを見計らっていた時。

「あー、人間がいっぱいきたー」

 そんな声が響き渡った。

 それは間違いなく幼い少女の声。どう贔屓目に判断しても、成人には程遠い少女の声にしか聞こえなかった。

 大岩の陰からくすくす、と笑いながら現れた人影。身長は120センチくらい、間違いなく7〜8歳の少女だった。

 漆黒の髪を背中まで伸ばし、瞳は暗い赤。肌は病的なまでに白く、黒い袖無しのワンピースから覗く手脚は細く、華奢である。

 グロリアに襲いかかろうとしていた兵士たちは、毒気を抜かれたようにその少女を見つめていた。

「運がいいなあ。1時間も待たないで、こんなにたくさんの人間が来てくれたー」

 けたけた、と笑った少女の口の中は血のように赤かった。

「貴様……何者だ?」

 グロリアは腰のショートソードに手を掛けたまま少女を睨み付ける。

「あたしー? あたしはアルシェル。『傀儡くぐつ』のアルシェルよ」

 にこにこ、ではなくにたにた、と呼ぶに相応しい笑みを顔に浮かべ、アルシェルと名乗った少女は一歩一歩グロリアに近付いてきた。

「そこで止まれ!」

 言いようのない悪寒を感じたグロリアが叫ぶ。背中にはじっとりと脂汗が浮かんでいた。

「なあに? あたしが怖いの? ほら、何も持ってないよー?」

 立ち止まったアルシェルは両腕を広げ、ひらひらと振って見せた。

「名前は聞いた。アルシェル、ここで何をしている?」

「んー? 人間を待ってた」

「何のために人間を待っていた?」

「実験するためだよー?」

「実験?」

「そう。ほらー、これ見て! あたしのペットだよ!」

 アルシェルは右手を高々と差し上げた。すると、細長く巨大な何かが、岩の上から降ってきた。

 それはハサミムシに良く似ていたが、体長は2メートル以上あった。それが計4匹。

「う、うわあああ!」

「ま、魔物だああ!」

 グロリアの後ろにいた兵士たちは、それを見た瞬間悲鳴を上げて逃げ出した。

「馬鹿者! 踏みとどまれ!」

 その声に足を止めた者は6名。一番後方にいた3名は一旦立ち止まって振り向いたが、再度逃げ出してしまった。

「あははー、臆病な人間。でも、逃げられると思ってるのかなー?」

 アルシェルは甲高い音の口笛を吹いた。すると、3名が逃げた方角から、やはり4匹の巨大ハサミムシが現れたのである。

「ぎゃあっ!」

 先頭を切って逃げていた兵士は、怪物の尾の一振りで跳ね飛ばされた。残った2人は辛うじてその尾から距離を取る。

「戻れ! 円陣を組むんだ!」

 再度グロリアが叫ぶ。残った8名の兵士たちはグロリアに従った。

 峠の広場に、9名が円陣を組んだ。これで背後からの攻撃を受けることはない。

「全員、抜剣! 構え!」

 グロリアの号令に全員がショートソードを抜き、前に突き出すように構えた。

「うふふ、それで助かると思ってるのー? あさはかだね。この子たちの体は剣じゃ斬れないよー?」

「やってみなければわからん!」

 グロリアは目の前に迫った怪物の尾を、剣で弾いた。その巨大なハサミが地に落ちる。

「え?」

 アルシェルの目が驚愕に見開かれた。

「うそ。斬ったー? 何、その剣?」

 グロリアの手にした剣は仁がアダマンタイトで強化した剣。0.1ミリ厚、幅25ミリ、長さ約60センチというアダマンタイトの薄板を鋼でサンドイッチした構造。

 そのアダマンタイトに付けられた刃は巨大ハサミムシの体表よりも硬かったのである。

「ジン殿、感謝する!」

 グロリアは剣を作ってくれた仁に感謝の意を捧げた。


*   *   *


 仁とエルザはその日、エドガーの装備を完成させていた。

 巨大百足(ギガントピーダー)の甲殻は、アダマンタイトよりは劣るとはいえ、重さあたりの強度で言ったらアダマンタイトを凌ぐ。つまり、丈夫でしかも軽いのである。

「ナイフは10本。服の内側にしまっておけるようにしよう」

 強化したエドガーの力なら、一般的な青銅鎧は楽々貫く事ができる。鋼鉄でも切り裂けるだろう。

 そして籠手。肘から先、拳までを覆う形状。うまく使えば魔法も弾き飛ばすことができる。

「よし、これでエドガーは更に強くなった。エルザを守ってくれるだろう」

「うん、ジン兄、ありがとう」

 その時、老君から緊急報告が入った。

御主人様(マイロード)、グロリアさんが襲われています。相手は魔族らしき少女。巨大なハサミムシを引き連れています。大きさは約2メートル、その数8匹』

「何だって?」

 グロリアが襲われるかもとは思っていたが、まさか魔族が出てくるとは思わなかった仁。

「マキナ名義でランド隊を10体送れ! 新装備のテストにもなる」

『わかりました』

 転送機を使い、老君はランド11から20を送り出した。ポジションマーカーはデネブ4が受け持ったので、誤差もほとんど無し。

『重傷者が1名いるようです』

「よし、ナース・アルファも送れ。……そろそろ量産も考えていいかもな」


 救護用のナース・アルファを送り出した後、仁は独りごちた。


*   *   *


「あはははっ、ギガントーアヴルム相手によくやるわー!」

 巨大ハサミムシをギガントーアヴルムと呼ぶアルシェルは、グロリアの立ち回りを楽しそうに眺めた。

「人間ってこれだけのことができるのねえ。参考になるわー」

「くそっ、舐めおって!」

 ギガントーアヴルムとまともにやり合えるのはグロリアの剣だけ。そして実力的にも、兵士たちでは歯が立たない。

 兵士たちは円陣を組み、集団の攻撃力を以てなんとか背後からの攻撃を防いでいる。そしてグロリアはその円陣の一部を受け持ち、ギガントーアヴルムから兵士を守り、同時に傷を付けて、を繰り返していた。

 だが、グロリアは一人、剣も一振り。

 当然、グロリアのいない側にいる兵士は脅威にさらされることになる。それをできるだけ防ぐため、組んだ円陣をゆっくり回転させ、常に動き続けるようにしていた。

「うふふ、そろそろ疲れてきたんじゃない?」

 グロリアよりも練度が落ち、行軍の疲れも残っている兵士たち。脚がもつれ、動きが鈍くなっていく。

 そして不意に訪れた破局。

 グロリアの右隣にいた兵士が、避け損ねてグロリアに脚を引っかけてしまった。

「うわっ!」

 グロリアと兵士はもつれるようにして倒れる。

「あはは、これでお終いねー! 楽しかったわよ!」

 倒れたグロリア目掛け、ギガントーアヴルムが襲いかかった。

「隊長!」

 兵士の誰かが叫んだ。グロリアは来たる衝撃と痛みに備え、目を閉じて歯を食いしばった。

「…………」

 だが、いくら待ってもギガントーアヴルムが襲いかかってくる気配がない。グロリアはそっと目を開け……。

「な!」

 光り輝く剣を振るう銀茶色のゴーレムと、斬り捨てられたギガントーアヴルムを目にしたのである。


「いきなり現れて、何なのよー、あんたたち!」

 アルシェルが悲鳴に近い声で叫んだ。

 これも一難去ってまた一難……と呼んでいいのでしょうか?


 お読みいただきありがとうございます。


 20140604 13時51分 誤記修正

(誤)拳までを多う形状

(正)拳までを覆う形状


 20140604 22時26分 表記追加

「大きさは約2メートル、その数8匹」

を、

「巨大なハサミムシを引き連れています」のあとに追加。


 20140605 07時34分 表記・誤記修正

(旧)ポジションデータはデネブ4が

(新)ポジションマーカーはデネブ4が


(誤)銀灰色のゴーレム

(正)銀茶色のゴーレム


 20150712 修正

(旧)この子たちの体表は剣じゃ斬れないよ

(新)この子たちの体は剣じゃ斬れないよ


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― 新着の感想 ―
[一言] 『何度目かの読み返しの最中です』 この話で登場したアルシェル……のコピー(ホムンクルス)って、連載の中では単発出演でいまだに行方不明のままでしたね。 未来編の時代でも世界を彷徨っているの…
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