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マギクラフト・マイスター  作者: 秋ぎつね
14 家族旅行篇
462/4299

14-13 我が儘公女

 時刻はおおよそ10時半、ステアリーナは仁たちを案内してゴゥアの街を歩いていた。アアルとエドガー、礼子が伴をして。ちょっと派手すぎるセレネは留守番である。

「ここは比較的新しい街なの。建物も新しいでしょう?」

 その言葉通り、使われている石材の表面は滑らか。風化していたレナード王国の建物とは雲泥の差がある。

「でも区画はきっちりしてないのよねえ。初めての人は迷ってしまうんじゃないかしら」

 新しい街の場合、碁盤の目のように縦横に道が作られているか、領主の城を中心に放射状に道が延び、同心円状に街が作られるか。この2つが多い。

 だがここゴゥアは大きい建物と小さい建物が雑然と並び、通りも真っ直ぐでなく、鍵状に曲がったかと思えば弧を描いたりと、非常にわかりづらいものとなっていた。

「領主……ユベール・ベルタン・ド・パーシャン公爵が、整いすぎた街並みは好きじゃないって言う理由からなのよ」

 独裁者的な領主なのだ、とステアリーナは最後に付け加えた。

「でも俺はこういう街並みの方が親しみやすくていいなあ」

 仁の素直な感想。雑然とした中に生活感が感じられる街並み。整ってはいてもどこか余所余所しい街並み。仁が好むのは前者である。

「……ジン兄の言うことわかる、気がする」

「うーん、ボクも雑多な雰囲気って好きだな」

 サキまでが同調するが、仁が突っ込みを入れた。

「はは、サキの部屋は雑然としているものな」

「うっ! ……ジ、ジン、今はそんな事無いよ! 何せアアルが毎日掃除してくれているんだから!」

「……サキ姉、威張れることじゃ、ない」

 和気藹々と、一行は大通りを進んでいく。若干人が増えてきたので、仁はハンナと手を繋いだ。

「迷子にならないようにな」

「うん、おにーちゃん、ありがと!」

 そんな仁の様子を横目で見たステアリーナはぽつりと呟く。

(……小さい子にはあれだけ気を使えるくせに、女の子にはさっぱりなのよね……)

 そんな呟きが聞こえるはずもなく、仁とハンナは手を繋いだまま人混みを抜けていく。

「ジン君、ハンナちゃん、混み合ってきたから右へ曲がって」

 ステアリーナが声を掛け、一行は大通りから路地へと入った。そのまま少し進むと、別の通りに出た。

 喧噪から離れ、一転して静かな通り。

「ここは通称『素材通り』っていうのよ。食材から魔結晶(マギクリスタル)まで、いろいろなお店があるの」

「へえ、それは面白そうだね!」

 サキが興味を持ったようだ。

「ほら、そこのお店が、わたくしがいつも利用しているお店よ。ちょっと寄ってみましょう」

 周囲の店と比べると少し小さいが、中へ入ると、意外と奥行きが深い店である。

「これはステアリーナ様、いらっしゃいませ。何かお探しですか?」

 初老の店主が丁寧な挨拶をした。

「いいえ、今日はお友達を案内して回っているところなの。……彼女は錬金術師なのだけれど、珍しい素材は入っているかしら?」

 きょろきょろしながら足早に店内を見て回るサキを見て、ステアリーナは苦笑しながら店主に尋ねた。

「錬金術師ですか! それはお珍しい。そうですね、この前鉱山から掘り出したばかりのこんな物がありますが」

 まだ整理が付いていない荷物の中から、店主は黒くて平たい石を持ちだしてきた。

「面白いんですよ。薄く剥がせるんです」

「……黒雲母?」

 それは仁の言葉通り、黒雲母であった。カイナ村の北で採れる白雲母は白色〜透明であるが、黒雲母は黒色不透明。

 色以外の性質は極めて似通っている。

 この地方では、子供が薄く剥がして遊ぶ玩具のような鉱物である。

「あとはこんな物が」

「おお、これはすごいね!」

 オレンジ色、紫色などのカラフルな石。正八面体に近い形状をしている。

「これは蛍石だったね。ボクも好きで集めているよ」

 サキも、科学知識で蛍石と知っている。自らのコレクションにも沢山持っている。

 サキは記念にと、小さな紫水晶を買った。


「次は……そうね……あ、あそこはどうかしら?」

 ステアリーナが指差したのはアクセサリーを扱う店。店の外にも何点か展示されている。

「ねえおにーちゃん、のどがかわいた」

 珍しくハンナがそんなことを言い出した。先程ステアリーナ邸でジュースを飲んだが、遠慮して少ししか飲まなかったようだ。

 まして夏の日、地表に近いほど輻射熱が多く、暑く感じる。1番背の小さなハンナが暑がるのも無理はない。

「よし、どこかで飲み物買おう」

「ジン君、それなら、ちょっと遠いけど通りの先、突き当たりのお店がいいわ。わたくしたちはアクセサリー見に行ってるから」

「わかった。後から行く」

 仁とハンナ、そして礼子は、ステアリーナお薦めの店へと向かい、エルザ、エドガー、サキ、アアル、ステアリーナはアクセサリー店へ向かった。

 

 エルザは真っ先に店に入ろうとして、店から出てきた少女と鉢合わせした。

「きゃっ」

「あぅ」

 2人ともよろけはしたものの、転ばずに済んだ。

「気を付けなさい!」

「……ごめん、なさい」

 どちらが悪いわけでもないのだが、少女の剣幕に押されたエルザは軽く頭を下げた。

 エルザの足元に何かが落ちている。

「あ」

 それは以前仁がプレゼントした折り畳みナイフ。刃は軽銀、柄には疑似竜(シャムドラゴン)の角を薄く加工した物を貼って、細かい魔結晶(マギクリスタル)を散りばめてある。

 服の内ポケットに入れてあった物がぶつかった拍子に落ちてしまったようだ。慌てて拾い上げるエルザ。

「え? それって……」

 少女は、エルザが拾い上げたナイフをまじまじと見つめた。

「ちょ、ちょっと、それを見せなさい!」

「は? はい」

 半ばひったくるようにしてそのナイフを手に取った少女は、驚いた顔をした。

「……もしかして……同じ作者? ……いえ、そんな都合良く……でもこれは間違いなく……」

 ぶつぶつと呟いていたが、突然エルザに向き直ると、

「あなた! このナイフ、どこで手に入れたの!? 作者は誰? 早く教えなさい!」

 居丈高に命令口調で詰め寄った。

 少女の方がエルザよりも幾分小さいのだが何とも言えない勢いがあって、何が何だかわからないまま少女のペースに飲まれたエルザは言葉を発せずにいた。

「君、ちょっと落ち着こうか」

 サキが2人の間に割って入る。

「何なの、あなた?」

 少女はサキを睨み付ける。

「ボクはサキ。君、名前は? 何でそんなことを聞くんだい?」

「うるさいわね! サキって言ったわね? この私、ベアトリクスに命令する気? 私はとある短剣の作者を捜しているのよ。このナイフ、同じ作者が作った物じゃないの?」

 今度はサキに食ってかかる少女。これでも一応名乗っている、というのだろうか。サキは内心呆れ、焦りながら、表面上は冷静に対応する。

「ベアトリクスさん、とりあえず、そのナイフを返してあげてくれないか?」

「あんたの指図は受けないわ!」

 ベアトリクスと名乗った少女はエルザのナイフを抱え込んだ。


「……ベアトリクス? ……金髪、みどりの目……もしかして……『我が儘公女』!?」

 少女が名乗った時から考え込んでいたステアリーナは、その名に思い当たり、小さく叫んでしまった。

「へえ、『我が儘公女』、なんて呼ばれてるのね。まあ、否定はしないけどね」

 ベアトリクスはステアリーナの方を向いて睨み付けた。

「そうよ、私はベアトリクス・ベルタン・ド・エメロード。我が儘で悪かったわね。いい度胸じゃない。面と向かって聞こえよがしに言うなんて、ね」

「い、いえ、あの、その」

 睨まれたステアリーナはたじたじとなった。

 領主の娘であり、十何番目だか二十何番目だかになるとはいえ、この国の王位継承権も持つ少女である。そしてそれ以上に厄介な噂が多々あるのだ。あまり睨まれたくはない。

「ベアト、何やってるんだ」

 店の中から青年が出てきてベアトリクスに話しかけた。

「兄様、あの短剣の手がかりがあったのよ!」

「何?」

「ほら、これ見て」

 ベアトリクスはまだ持っていたナイフを青年に差し出した。

 セルロア王国の貴族名:名前・家名(姓)・ド・贈り名 です。


 お読みいただきありがとうございます。


 20140527 13時53分 表記修正

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