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マギクラフト・マイスター  作者: 秋ぎつね
14 家族旅行篇
450/4299

14-01 夏の少女+・・・

 イメージイラスト。時間が無くて3人しか描けませんでした……。


挿絵(By みてみん)

 小群国の一つ、クライン王国北部に位置する高地。

 そこにはカイナ村という名の小さな村がある。

 北部には氷河がかかる高山を擁し、東には深い森、その彼方には山脈が連なっている。

 村の西側から南側を回り込むようにして大きな川が流れており、その名をエルメ川という。

 そのエルメ川に歓声が響き渡っていた。


「おにーちゃーん!」

「おーい、ハンナ」

「きもちいーよ!」

 ハンナと呼ばれた少しくすんだ金髪をした少女は、ピンク色の水着を着てドーナツ型の浮き輪の中に入り、ぷかぷかと浮いている。

 そのハンナからおにーちゃんと呼ばれた黒髪の青年はゴムボートの上で寝そべっていた。

 青年の名は二堂仁。一般にはジンで通っている。泳げるとはいえ、それほど得意ではないので、こうしてゴムボートで遊んでいるのだ。

 そのゴムボートが流されたり転覆したりしないようにサポートしているのは10歳くらいの黒髪の少女。

 彼女の名前は礼子。仁が作り上げた世界最高の自動人形(オートマタ)なのである。


「気を付けろよー」

「うん!」

「ジン兄、私が見ているから、大丈夫」

「ああ、エルザ、頼むよ」

 プラチナブロンドをショートカットにした少女、エルザは泳ぎが上手い。ハンナの浮き輪を掴んで淵の方へと向かった。

「ハンナちゃん、もう少し向こうに行って、みようか」

「うん、エルザおねーちゃん」


 七月中旬。真夏の太陽が照りつけ、カイナ村付近の気温も日中は30度近くにまで上がる。

 子供たちを筆頭に、村に住む者達はエルメ川に涼を求めにやって来るのが常であった。


「ふふ、川で泳ぐというのもいいものだね」

「ええ、そうですわね。静かな湖もいいですが、流れのある川というのは面白いですわ」

 岸辺の大岩の上では2人の女性が甲羅干し、つまり腹這いで背中を日にさらしていた。エルメ川の水温はやや低いので、時折こうして日光浴をしないと身体が冷えすぎてしまうのである。

 日焼けの心配は無いのかということになるが、この緯度になると紫外線が少ないのか、それほど酷い日焼けはしない。また、彼女たちも短時間に限定して日光浴をしているのだ。

「ベルチェも、ここのところ忙しかったのだろう?」

「ええ。それはもう。でも偶然でしたが、アドバーグを見つけ、なんとか秘書にできましたので、だいぶ楽になりましたわ」

「アドバーグ……ああ、確かエルザの爺やだった人か」

「サキさんもご存じでしたか。……ええ。解雇されて失意のうちに故郷のエキシに戻って隠居生活していたようですわ」


*   *   *


 アドバーグはエルザ付きの執事であり、爺やとしてエルザを大事に思っていた。格闘技の達人であり、事務能力も高い。

 ラインハルトもその事はよく知っているので是非自分に雇われてくれないか、と頼んだのだが、気力を無くしていた彼は首を縦に振らなかった。

 これは駄目だと一旦引き下がったラインハルトだったが、一計を案じ、エルザを伴ってもう一度勧誘に行ったのである。

 その時の彼の顔はかつて見たことの無いようなものだった。

「お、お嬢様あああああ!!」

 エルザの手を取り涙を流し、再会の喜びを口にする様は事情を知らない者には異様に映ったかもしれない。

 故郷に戻ってからずっと引きこもっていた彼は、技術博覧会の賑わいも知らず、従ってエルザの帰国も知らなかったのである。

「じい。……心配させて、ごめんなさい」

「いいえ、お元気でいてくださっただけでこのアドバーグ、生きていて良かったと思いますぞ!」

「……ありがとう」

 ミーネよりは後になるが、エルザが5歳になるかならずの頃からずっと付いていた爺やである。

 エルザが、ラインハルトのところにいて貰えると助かる、と言うと、二つ返事で引き受けてくれたのであった。

「……それにしても、旦那様がそんな事になってらしたとは思いませんでした」

 そう言いながら、仕度を調え、カルツ村へ。今はラインハルトの片腕としてばりばり働いている。


*   *   *


「でもそのせいであの人、今日はお一人でお仕事ですわ」

「くふふ、領主というのも楽じゃない、か」

「ええ。でも例外がお一人」

 笑いながら2人は視線を川面に向ける。そこにはゴムボートに乗った仁の姿が。

「まったく。ジンといると飽きないね」

「ゴムボート、って言いましたっけ。あれ、面白いですわね」

「うん。あんなボートがあるなんてね」

 船が発達しているショウロ皇国にも、さすがにゴムボートはなかった。ゴム自体が知られていなかったのだから無理はない。

「そろそろボクらも泳ごうか。すっかり身体も温まったしね」

「そうですわね」

 2人は立ち上がった。サキは身長158センチ、スレンダー。オレンジ色のワンピース水着。ベルチェは150センチ、スタイル抜群。白いワンピース水着。対照的な2人である。

「この水着、最初は着るのに少し抵抗がありましたけど、慣れるといいものですわね」

「うん、泳ぎやすいし、着心地もいい。何でもこれ、ジンがデザインして、エリアス王国ポトロックでお披露目したと言うじゃないか」

「ええ、ラインハルト様からも聞きましたわ。これからはこういう水着が流行るのでしょうね」

 地底蜘蛛(グランドスパイダー)の糸で織ったメリヤス地を使った水着である。裏地には魔絹(マギシルク)が使われており、肌触りも抜群だった。

 念のため書いておくと、一般に出回り始めた水着は決して地底蜘蛛(グランドスパイダー)の糸を素材としてはいない。


「あ、ベルチェさん、とサキ姉」

「おねーちゃーん!」

 若草色ワンピース水着のエルザが2人に手を振った。ハンナも手を振っている。

「うふふ、ハンナちゃん、可愛いですわ」

「そうだね。この村はなんというか……癒されるなあ」

「不思議な村ですわね」

 そう言いながら水に入る。

「冷たくて気持ちいいですわ」

「ベルチェ、向こう岸まで競争しようか」

「いいですわよ」

 2人は水を蹴立てて泳ぎだした。


「……いいなあ」

 競争する2人を見つめて羨ましがる少女が1人。村長の姪、バーバラである。彼女は金槌なのだ。なので浮き輪につかまってぷかぷか浮いている。黄色い水着がよく似合っていた。

 彼氏のエリックは商人なのでこの時間はまだ店にいる。だから今は1人でちょっと寂しい。だが。

「……泳ぎの上手い人が羨ましいですよね」

 もう一人、彼女の同士が隣で浮き輪につかまっていた。明るい青の水着を着ているのはリシア・ファールハイト。ついこの間トカ村の領主になった新貴族である。

 今日は仁に相談があるということでカイナ村を訪れているのだが、一番暑い時間帯ということで、昼食後みんなでエルメ川に泳ぎに行こうということになって今に至る。

 リシアも金槌だったので仁が作った浮き輪を借り、バーバラと並んで淵に浮かんでいるというわけである。水着ももちろん仁から支給された物だ。

「泳げるようになりたいなあ……」

 リシアとバーバラ、2人はどちらからともなくそんな呟きを口にしたのであった。


 そして最後の2人は二堂城の執事見習いと侍女見習い、バロウとベーレである。2人ともショウロ皇国出身であり、例に漏れず泳ぎは得意であった。

「おにいちゃんおねえちゃん、泳ぎ上手いね! 俺を捕まえられるかい?」

「よーし、捕まえてやろうじゃないか!」

「負けないわよ!」

「ここまでおいでー」

 今は子供たちと一緒になって水中鬼ごっこに興じている。


 カイナ村の昼下がり。

 雲一つない青空に太陽が輝き、季節は夏本番を迎えようとしていた。

 新章開始なので、登場人物紹介めいた地の文にしてみました。


 お読みいただきありがとうございます。


 20140515 13時26分 表記修正

(旧)エリックは商人なのでこの時間はまだ店にいる時間

(新)エリックは商人なのでこの時間はまだ店にいる


 20151023 修正

(誤)何でもこれ、仁がデザインして

(正)何でもこれ、ジンがデザインして


 20151225 修正

(旧)「あ、ベルチェ、とサキ姉」

(新)「あ、ベルチェさん、とサキ姉」


 20180929 修正

(旧)

 日焼けの心配は無いのかということになるが、紫外線が少ないのか、この世界ではそれほど酷い日焼けはしない。であるから彼女たちも安心して日光浴をしているのだ。

(新)

 日焼けの心配は無いのかということになるが、この緯度になると紫外線が少ないのか、それほど酷い日焼けはしない。また、彼女たちも短時間に限定して日光浴をしているのだ。

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